Nasaseasonsとパリの少年時代

デザイン ディレクターのアレクサンドル・ダイヤンスが、子供時代を過ごしたパリを案内する

  • インタビュー: Tiffany Godoy
  • 写真: Christian Werner

Nasaseasonsの21歳のクリエティブ ディレクター、アレクサンドル・ダイヤンス(Alexandre Daillance)は、歴史にハマっている。彼は目下、アメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で、歴史学を専攻中だ。そんな彼が、生まれ育った街パリを案内し、フランスの歴史が彼のデザインにもたらした影響を紐解く。

Nasaseasonsがこれまで辿ってきた経緯をかいつまむと、こんな感じだ。パリの男子高校生グループが、次から次へとパーティーを開催。パーティーに来たカワイイ女の子にモテようと、ロゴ入りのキャップを作る。そのグループがデザイン集団になる。デザイン集団がブランドを立ち上げる。ブランドがカルト的な人気を博す。リアーナがブランドのキャップをかぶる。ブランドが爆発的な人気を得る、といったところだろうか。そもそも歴史とは、ある出来事によって引き起こされた、一連の物語によって形成される。その意味では、ブランドを育む過程で、同じような考えもった人びとと繋がったり、自分のファッションに対する他人の反応を試したり、アイデアを得たりするのに、パーティほど適した場所はない。ダイヤンスにとって、ファッションとはバーチュアルな言語であり、パーティーで酔いつぶれた人びとが呂律の回らない舌で発した言葉は、Nasaseasonsにとっての、コミュニケーション ツールとなる。「知ったこっちゃねえ」的な態度をファッションで体現するNasaseasonsのデザインは、まさに、こうしたパーティーで逆ナンパを目論みたものの失敗したニューヨーカーの会話に聞き耳をたてることから生まれたものだ。明らかにダイヤンスは、人や場所と同じくらい、言葉に対しても惹きつけられるようだ。彼が,最近のルック ブックで、若者を題材にした多くの作品を残し「若者文化の権威」として知られるフランスの詩人アルチュール・ランボーを引用したことにも納得がいく。いかにもパリジャンらしいアプローチだ。フランスにおけるストリートウェアは、アメリカやアジアに比べて歴史は浅いかもしれないが、他と大きく異なるのは、そのデザインがフランス独自のアート、ミュージック、文学の伝統によって培われてる点だ。

3:30 pm - ジム・モリソンの墓、ペール・ラシェーズ墓地、20区

ここに埋葬されている人は殆どフランス革命の最中に殺された人たちだから、この墓地は、プロレタリアートの象徴なんだ。ジム・モリソン(Jim Morrison)は、はるばるLAのベニス ビーチからここまでやってきた。僕の母さんもドアーズのファンだったよ。母さんはよく友達とここに来ては、タバコを吸っていたから、僕にとってのルーツでもあるんだ。夜にこの墓地に来てギターを弾いたり、寛いだりする人もいる。僕は日中にしか来たことがないけど。ジムの曲は、本当に神がかっていて、希望と悲しみの両方が漂っている。この場所は、ジム・モリソンの音楽とその人生にピッタリだと思う。5年も前になるけど、高校の時に、女の子たちがよくここに来ては、Facebookに載せるプロフィール写真を撮っていたな。アルチュール・ランボーもここに眠っている。ランボーは、ジム・モリソンの文学バージョンって感じ。ところでジム・モリソンってGoogle Mapsで検索したら出てくると思う?

4:30 pm - ギャラリー「ペロタン」、マレ地区

村上隆は、僕のお気に入りのアーティストの一人だけど、彼をヨーロッパに紹介したのが、フランスの現代美術ギャラリー「ペロタン」代表のエマニュエル・ペロタン(Emmanuel Perrotin)なんだ。ギャラリーっていいよね。美術館だとウォーホル、ロスコみたいに皆が知っている偉大なアーティストの作品が見られるけど、ギャラリーは新顔のアーティストの作品と出会える。ペロタンはすごくセンスがいいから、イカした新鋭アーティストの作品を目にすることができる。僕は世界中のギャラリーを巡る時間はないから、まずはペロタンのギャラリーに行くようにしている。それに、彼自身もカッコいい人だよ。彼が時々ギャラリーに顔を出しているときに、雑談をしたり、なぜこれがアートなのかを説明してもらったりするのは、とても素敵な時間の過ごし方だ。

5:00 pm - セーヌ川波止場、ルーブル美術館近く、1区

レストランでデートの食事をした後、ここに来れば間違いない。パリは、とにかく皆よく歩く街なんだ。ブラブラ歩いた後に、まったりと時間を過ごすなら、ここがおススメ。特に夏場だと、昼間でもピクニックみたいな感じで、みんなここで寛いでいる。ビールを買ってきて、好き勝手にギターを弾いたり、ミーゴス(Migos)の曲をガンガンにかけたりして。行く日によって、毎回違うんだ。

5:30pm - パレ ロワイヤル庭園、1区

セレクトショップ「コレット」には毎週末のように通ったもんだ。この庭園は、コレットのすぐ近くなんだ。多くの人が、ベンチに一人で、あるいは誰かと座って、物思いにふけったり、話したりしている。建築も本当に美しい。僕は歴史を専攻していて、フランス史が大好き。この庭園は確か、19世紀とか18世紀に、重要な場所だったと思う。たまにカワイイ子をここで見かける。

7:00pm - ホテル コスト、1区

僕のお気に入りの映画のひとつに、スタンリー・キューブリック監督の『アイズ ワイド シャット』がある。最初このホテルに来た時、特に、エントランスに入ったところで、なんだか変な音楽が流れていることに気づいたんだ。それから、ベルベットづくしの内装。ベルベットってなんだかセクシュアルな感じがするよね。特に、赤いベルベット。ファッション ウィークの最中、仲間たちと、ここに来たよ。一杯やって、それから部屋をとった。皆同じフロアで、それぞれの部屋のドアは開けっ放し。部屋から部屋へと、ほとんど素っ裸で行き来した。ファッション ウィーク期間中は、誰もがここへ来る。ハリウッドのセレブが集まるホテル、シャトー マーモントのようなものかな。食事をしていると、人生を変えるような相手と出会うこともある。それに食事もうまいし。美味しい食事を出すって、レストランとしては、重要だよね。

  • インタビュー: Tiffany Godoy
  • 写真: Christian Werner