Blessアーカイブの内幕へ

包括的なライフスタイルと近未来への手引きを誕生させたブランドに迫る

  • 文: Isaac Penn
  • 撮影: Benjamin Alexander Huseby

Bless N°37 New Sheheit レッド グリーン サングラス 2009年 Bless N°09 Merchandising Bセーターとレス トラウザーズ 1999年 Bless N°16 Shoe Escorts エラム 2002年

Bless N°31 Ohyescoolgreat クロスショート 2007年 Bless N°28 Climate Confusion Assistance 毛皮のシグネチャー ピン「スタイルフリー」2006年 Bless N°01 Bootsocks 1997年

Bless N°37 New Sheheit レッド グリーン サングラス 2009年

Blessは、ありきたりのファッションブランドではない。いや、むしろ全くもってファッションブランドではなく、プロダクト デザイン、装飾アート、配送サービスをジャンル横断的に行なうスタジオが、たまたま服作りをしているとも言えるだろう。デジレー・ハイス(Desiree Heiss)とイネス・カーグ(Iness Kaag)が21年前に立ち上げたこの会社は、ライフスタイルとモノのあいだに密接な関係を作り出すことを目指している。ブランド創設者のふたりが従来のファッション業界には向いていないと自覚したことから始まったブランドだけに、小規模のまま、利益よりも情熱を優先して、ファッション業界につきまとう制約を回避してきた。Blessも大体年に2回のペースでコレクションを発表しているものの、コレクションに洋服が含まれる保証は一切ない(ちなみに、コレクションには通し番号が振られていて、現在、50を超えている)。この意味では、Blessのアプローチは伝統的なデザインショップのそれに近い。つまり、挑戦やいくつかの条件からスタートし、実用的で、愉しく、往々にしてヒネリの効いた解決策をモノの形で提示するのだ。

Bless N°19 Uncool グラデーションカラー ロング レッグウォーマー 2003年
Bless N°19 Uncool グラデーションカラー スカーフ 2003年
Bless N°19 Uncool グラデーションカラー ショート グローブ 2003年
Bless N°30 Intrarelevance 王冠のサングラス 2006年

Bless N°17 Design Relativators 革のラジオ 2002年

洋服に始まり、家具、そしてヘアブラシから車カバーに至る多様なアクセサリーまで、Blessの広範なレパートリーはキュレーションの領域に存在する。

学校を卒業した後、ふたりは休暇に出かける資金がなかった。そこで、その代わりに、一緒にモノを作ってみることにした。「売れ残った材料を買って来て、家で最初のプロダクトを作ったのよ」とカーグは言う。「その時、デジレーはウィーンに住んでいて、私はベルリンに引越してきたところだった。私たちはこの『子供』に付ける名前を探したわ。そこからこのブランドは始まったの。その後、デジレーはパリに引っ越したから、実を言うと、私たちふたりは一度も同じ都市で仕事をしたこともなければ、同じ都市に住んだこともないのよ」

以後、デジレーとイネスはデザインに対する鳥瞰的な視点から、モノ同士が互いに関連して成長していくプロダクトを展開してきた。洋服に始まり、家具、そしてヘアブラシから車カバーに至る多様なアクセサリーまで、Blessの広範なレパートリーはキュレーションの領域に存在する。今でこそ、ライフスタイル ブランドというコンセプトは広く浸透している。世界中のヒップなエリアには、同じような美的センスを共有する顧客をターゲットにした「ワン ストップ 」ブティックが点在し、スニーカーから、リュック、目覚まし時計、文房具、保湿剤、それなりのコルタード(エスプレッソに少量のミルクを入れたスペインの飲み物)まで、あらゆるものが一か所に集められている。Blessはこのトレンドを予期し、1990年代後半、機能ではなく本質の部分で関連する製品をシームレスに提供するコンセプトを導入した。その影響が直接的なものであろうとなかろうと、製品の考案には「何でもあり」とするデジレーとイネスの精神は、他の企業にも反響している。例えば、洋服を補完する形で、あるシーズンにはグラス、別のシーズンにはレンガと、独特のブランド製品を発売しているSupreme。ブティックで自社の雑誌や香水を売っているMonocleもまた然り。

イネスとデジレーは、ニット織りの技術を基本に、全く別々の目的を果たす製品を、様々な素材と様々な規模で世に送り出してきた。BlessのN°01コレクションで発表されたブーツソックスは、並太毛糸で編んだ靴下のようにフィットする靴だ。新たな靴の提案である。コレクションN°28のファット ニット ハンモックは、詰め物をした手編みの家具である。N°26のケーブルジュエリーは、電源コード、延長コード、アダプター、コンセント、携帯充電器のためのデコレーションであり、日常生活で「魅力を賛美される」モノが「装飾的にもつれた装飾」へと変貌する。

Blessにとって、実用主義は必要不可欠な特質のひとつである。「私たちは、空想したり希望的観測に浸って自分を見失ったりしないわ。日常で使うことを念頭に置いたビジョンから、少なくとも、今までなかった現実的なプロトタイプを作ることを目標にしているの」とふたりは言う。実用性へのこだわりは、伝統にとらわれないBlessの体制を理解するカギだ。ほとんどのブランドは、毎シーズン前とまったく異なるコレクションを発表し、シーズン中に販売し、シーズンが終われば引き上げる。それに対して、Blessのアイテムは、大きなアーカイブの中に収まる。旧作と新作と合体する。アイテムの多くは、リクエストすればいつでも買える。ただし、ブランドの気まぐれで変更されることはある。こんな運営方針は一見奇妙に思えるかもしれないが、Blessにとっては、自由と柔軟性を維持するための最も簡単な方法なのだ。

Bless N°06 Customizable Footwear 1998年

Blessは、媒体にも技術にもとらわれず、常に予測できない新しい方向へ進む意欲がある。それには、コラボレーションが貢献する場合が多い。実際、初期に行ったMaison Margielaとのコラボレーションが、会社を軌道に乗せるために必要な推進力になったことを、デシレーとイネスは認めている。Margielaが1997~98年秋冬コレクションに採用したN°00のファー ウィッグである。「コラボレーションをすればするほど、私たちのブランドに注目する人が増えるし、製品の流通経路も多くなるわ。とても大切なのは、相手の会社が求めていることと並行して、いつも、コラボレーションが私たちのコミュニティに利益をもたらすように努力すること。それと、私たちの製品が色々な流通経路で買ってもらえることよ」と、ふたりは口をそろえる。

Bless N°09 Merchandising ステッチ スターカット T シャツ 1999年
Bless N°03 Set 1997年


1996年、ふたりで活動を始めたそもそもの最初に、私たちはマニフェストを作りました。公分母を見極め、追求していくために。

彼女は言いたいことをはっきり言う、成熟した女性です。
彼女は典型的な美人ではないけれど、必ず人目を引きます。
彼女は年齢不明で、20代半ばから40代のいずれかです。
彼女が付き合うのは特別なスタイルを持った男性です。
彼女は国籍を持たず、スポーツを愛好します。
彼女は常に誘惑に惹かれ、変化を愛します。
彼女は今この瞬間を生き、彼女の存在感で周囲を満たします。
彼女は未来を志向します。
Blessは雑誌に掲載され、個人的に電話でコンタクトできます。
リクエストに応じて、セックス以外なら何でもあります。
Blessは相互作用的で、積極的に参加する人はBlessワールドの恒久的な再生に関与できます。
Blessは早い段階であなたのニーズの認識を助けます。
Blessは大衆個性とその隠された危険、すなわち過剰ファッションに反対します。
Blessは、大衆向けの製品によって、理想と芸術的な価値を表現するプロジェクトです。
Blessは生きるに値する近未来の実現を目指した、明確なビジョンで活動します。


Bless N°28 Climate Confusion Assistant フラッグシャツ ロング/USA 2006年 Bless N°13 Basics カスタマイズ リーバイス 2001年

Bless Beauty ヘアブラシ 1999年

コラボレーションへの開かれた姿勢は、Blessの共同体的社風の表れのひとつに過ぎない。製品の中には、作品との積極的な関係性を促進したいという思いから、ユーザー参加型の相互作用を要するものがある。1998年発表のN°06コレクションでは、靴作りに必要な全要素を真空パックした「カスタマイズ フットウェア」が登場した。まるで赤ん坊に食べさせるようにあらゆる商品が消費者に届けられるこの世界で、ある程度の自由とカスタマイズの余地を消費者に提供することが狙いだった。「中にはかなり変わった製品もあるから、消費者にもある程度の自信がないとだめなの。参考にできるような経験がないから。クラシックで一見変わり映えのない商品もあるけど、それはそれで、消費者の自信が求められるの。究極的な目標は、控えめで時代に左右されないスタイルに、心地良さと質の良さを備えた洋服。消費者の個性には微妙に関連するけど、洋服それ自体が注目を集めることはない洋服よ」

「私たちは、空想したり希望的観測に浸って自分を見失ったりしないわ。日常で使うことを念頭に置いたビジョンから、少なくとも、今までなかった現実的なプロトタイプを作ることを目標にしているの」

Blessのスタジオでは、従業員同士が、同僚というより家族のように関わり合っている。ベルリンでは、インターンも従業員も、週に一度はみんなのために昼食を料理することが決まりになっている。これは、チームをひとつにまとめる包含的な手段のひとつ方法だ。食費の節約にもなるし、レシピを共有することもできる。パリの工房はもっと小規模で、周辺にカフェも多いから、この方法は必要ない。そこで、工房の壁に運動用のバーを設けて、従業員が喫煙以外の活動で休憩時間を過ごせるようになっている。

Bless + Nike Nike ナイキ タオルのジャーディガン Bless N°09 Merchandising ステッチ スターカット T シャツ 1999年

Bless N°22 Perpetual Home Motion Machines 帽子のマスク 2004年 Bless N°09 Merchandising ステッチ スターカット T シャツ 1999年

Bless N°00 Furwig(1996年)
Bless N°09 Merchandising 刺繍ジーンズ 1999年

Blessは常に「間」に存在する。デザリーとイネス、パリとベルリン、実用と奇抜、工芸とデザイン、販売と展示。この二元性によって、ふたりの創立者も従業員も人として進化できる。時には教え、時には導きを必要とする道連れであり、親子である。Blessは、ブランドを立ち上げたふたりの独特なキャラクターの延長だ。矛盾する要素が補完する要素と同様に重要なのだ。ふたりは言う。「私たちはひとりでもそれなりに上手くやれるけど、それ以上のことはできない。ふたりだと、全てになれるのよ」
テキス

  • 文: Isaac Penn
  • 撮影: Benjamin Alexander Huseby
  • スタイリング: Serhat Isik
  • ヘア&メイクアップ: Manu Kopp / Nina Klein
  • モデル: Erika Wall / Nisch Management, Marlon