James Veloriaはビンテージのオアシス
チャイナタウンのデザイナー ブティックで話題のカップルが、自宅でバーチャル ドレスアップのすすめ
- インタビュー: Lynette Nylander
- 写真: Collin James、Brandon Veloria

1995年に話題をさらったJean-Paul Gaultierのメッシュ トップス、Vivienne Westwoodのコルセット、Tom Fordのジュエルトーンのシャツが復活した。出所を辿っていくと、コリン・ジェイムズ・ウィバー(Collin James Weber)とブランドン・ヴェロリア・ジョルダーノ(Brandon Veloria Giordano)に行き着く。このゲイ カップルの名前を組み合わせたショップ「James Veloria」で、デザイナー ビンテージのマーケットはすっかり様変わりした。
最初は、持ち前のセンスと鑑定眼、そしてeBay使いこなし術を駆使し、ブルックリンのブッシュウィック フリー マーケットで小さなテーブルに品物を並べるところから始まった。やがてInstagramで評判になり、ニューヨークのファッション人種がかつての名品を探しに来るようになった。商売が飛躍的に伸びたのは、東西両海岸で開催されて高い人気を誇るビンテージ フェア「A Current Affair」に出店してからだ。ついに、ニューヨークのチャイナタウンでショッピング センターの一角に小さなショップをオープンすると、そこはデザイナー ビンテージの宝庫になった。レアなJil Sander、Versace、Moschinoが所狭しと並ぶ一方で、多少の光りモノやキッチュも混じっている。つまり、ドレスアップに必要なものはすべて揃っているということだ。
都市封鎖で休業してからは、家具が商品棚代わりになって、家の中は「ギャルソンを着てふたりでワイン」がぴったりの、最高にお洒落な別世界だ。SoundCloudからJames Veloriaのプレイリスト「Stay in your House of Veloria— Veloriaの家にいる」を流せば、少しのあいだ、ドレスアップしても行けるところがない現実を忘れられる。「ビジネスを続けられて、僕たちふたりも健康で、とってもラッキーだ」とコリンは言う。「パンデミックが終わったあと、僕たちはもっと はっきりした強い意志を持ってると思う」と、ブランドン。
才能豊かなこのカップルには、大々的なカムバックが必至のブランドやアイテムを常に一歩先んじて見通せる、チャニ・ニコラス(Chani Nicholas)並みの予知能力もある。ふたりと話したのは、全米で都市封鎖が講じられる前夜だ。ニューヨークの有名ファッション ブティックが驚くべきスピードで次々と閉店するなか、James Veloriaがその伝統を引き継ぎ、記憶に値する過去の名品を詰め込んだ未来が来るとわかって、とても慰められた。

リネット・ナイランダー(Lynette Nylander)
コリン・ジェイムズ・ウィバー(Collin James Weber) & ブランドン・ヴェロリア・ジョルダーノ(Brandon Veloria Giordano)
リネット・ナイランダー(Lynette Nylander):子供のころからファッションに興味があったの?
CJW(コリン・ジェイムズ・ウィバー):僕は全然。ただ普通と違うものが欲しくて、いつも古着屋へ行ってたな。必ずしもカッコいい服でなくてもよかったんだけどね。なんせ僕が住んでた町じゃ、大型スーパーのK-Martがファッションの代名詞だったから。アートや手作りは熱心にやってた。
BVG(ブランドン・ヴェロリア・ジョルダーノ):コリンの名前をグーグル検索すると、今でも折り紙名人として出てくるよ! YouTubeでコリンのチュートリアルを見ながら折り紙を作ってる人が、今もいるんだ。そういう僕も、手作りに凝ってた。MTVの『House of Style』で、トッド・オールダム(Todd Oldham)のコーナーをよく見てた。手作りしたものをコーディネートして、素敵なスタイルに仕上げるんだから。
ビジネスはどうやって始まったの?
BVG:僕は、お金が要るときにeBayで売ってた。
CJW:僕は、実はサンフランシスコでは図書館の司書をしてたんだけど、本当はファッションの仕事がしたかったんだ。普通と違うものがどうしても欲しいとは思っても、ファッションの経験もないし、勉強もしてないし、ないものばっかり。だけど年齢を重ねるうちに、トライして結果を見ようと思うようになってね。
ふたりが出会った経緯は?
BVG:パーティーでジャクジーに入ってたときだから、僕は素っ裸。コリンはものすごく酔っぱらってた。
CJW:それぞれウィスコンシンとオハイオからカリフォルニアのオークランドへ出てきて、パンクの連中とつるんでたんだよ。ブランドンに声をかけるまでは1年がかり。彼、いつも人とは違ってるみたいで、そこに魅かれたんだと思う。
BVG:2011年だったよね。だけど僕はニューヨークへ引っ越すところだったから、しばらくは離ればなれ。そして僕は、180ドルとビンテージの洋服を詰めたバッグふたつだけでニューヨークへ来て、チャイナタウンで暮らし始めたんだ。大抵ソーホー地区へランチに行ってたせいで、街頭のスタイル写真が人気になった頃は、しょっちゅう写真を撮られてて、撮影の手伝いをするようになった。ビンテージの服を持ってたから、貸すこともあったし。そのうちだんだん生活が苦しくなって、服を売ったお金で家賃を払ったりしたけど、とうとう最後には一文無し。しかたないから、Narcisco Rodriguezの会社へ行って、インターンをやらせてくださいって頼んだんだ。そしたら、頭がおかしい奴だと思っただろうけど、ともかく「イエス」と言ってくれた。


年配の女性は、ほぼ例外なく、ワインのボトルを片手にレオタード姿でドアを開ける!
ブレイクしたのは?
CJW:上手くまわせるようになる前が、すごく大変だった。いつも金欠だから、ストレスでふたりとも帯状疱疹になったりね。それでも、eBayで買ってはコレクションを続けてた。そのうち、僕たちが服を持ってるのを知って、アパートへ人が訪ねて来るようになったんだ。
BVG:僕たちも本気でビジネスを考えるようになった。だからふたりのミドルネームを組み合わせたJames Veloriaを名乗って、ブルックリンのブッシュウィック フリー マーケットへ出店することにしたんだ。Uber代もないから、えっちらおっちらバッグを運んだもんだよ。マーケットではすごく大勢の人たちと出会ったけど、Eckhaus Lattaのマイク(Mike)とボビー(Bobby)なんかは、最初からのお客さん。
CJW:ウンベルト・レオン(Humberto Leon)と知り合ったのも、そのマーケット。当時彼はKenzoにいたけど、正直言うと、彼が誰なのかも僕は知らなかった。「ショールームはあるの?」って尋ねられて、とっさに「あります」って嘘ついてね。結局、彼はベッドスタイ地区にあったアパートの4階まで階段を上って来て、急遽ショールームに化けたリビングで、僕たちが並べたものを洗いざらい買っていった。
企業秘密は教えたくないでしょうけど、服はどこから入手するの?
CJW:あらゆるウェブサイトを覗いて、常にショッピング、ショッピング。店に持ち込んでくる人もいるよ。自分たちの足で探すときは、リサイクルを利用するようにしてる。
BVG:ニューヨーク暮らしン十年っていうゴージャスな女性たちの戸棚に眠っているものと言ったら、まるで夢が現実になったとしか思えないんだから。
これまででいちばん記憶に残っている女性たちは?
BVG:年配の女性って、ほぼ例外なく、ワインのボトルを片手にレオタード姿でドアを開けるんだ! アッパー イースト サイドに住んでた女性は、持ってるもの全部がFendiのファーかAlaïaかMoschino。行ってるあいだ中ずっと、ワインをすすめられて、ダンスの相手をさせられた。
CJW:僕たちが掘り出したなかでも、Margielaのコレクションはいちばんすごかった部類に入るな。「売りたいものがあるんだけどアパートまで見に来てくれるかしら?」って問い合せがあってね。行ってみたら、Margielaのいちばん最初のコレクションから始まって、なんとラック6本に新品同様の服がぎっしりぶら下がってた。もう買うものを選ぶような話じゃなくて、全部店へ運び込んだよ。それから隣のスペースを借りて、Margielaのポップアップ ストアにしたんだ。トム・フォード(Tom Ford)時代のGucciのポップアップをやったときも、同じような成り行きだった。
何がリバイバルするか、どうやって予想するの?
CJW:予想なんかしてないよ。Margielaの1か月前にOpening CeremonyのストアでPradaのスポーツ コレクションをやったけど、そのときはまだ話題にはならなかったからね。ところが、1年後には、もうどこを探しても手に入らなくなった。
BVG:Opening CeremonyとはGaultierもやったし、その半年後にはSupremeとのコラボレーション、イギリス人デザイナーだけのポップアップもやった。アレキサンダー・マックイーン(AlexanderMcQueen)にジョン・ガリアーノ(John Galliano)にヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)。あれで、ヴィヴィアンのコルセットに火がついたんだ。それを僕らは200ドルで売ってたんだからね。


ニューヨークの小売店が少なくなってるけど、それについてはどう思う?
BVG:僕たちはすごくラッキーだと思ってる。お洒落なダウンタウンの人たちには素敵な服を着てほしいもの。コミュニティだよ。
CJW:だからOpening Ceremonyの閉店はすごく悲しいけど、あの精神は僕たちのやり方とも重なる部分が大きい。つまり、みんなが集まれる楽しい店。FiorucciのストアもPatricia Fieldのストアも、そういう場所だった。ウィッグとダンスとドラァグがいっぱいでね! 普通の人たちにセレブが混じってても、誰も気付かないのがすごくいいと思う。クロエ・セヴィニー(Chloe Sevigny)も来てたし、ソランジュ(Solange)なんか試着室の列に並んでたんだから。彼女が来てるなんて、全然知らなかった。それから、マイリー・サイラス(Miley Cyrus)。彼女は魔法を使って僕たちを引き立ててくれる妖精だよ!
BVG:マイリーのスタイリストが、僕たちのInstagramを見るだけで買っていくんだ。それも大量に。
本物はどうやって見分けるの? 偽物を掴まされる心配はないの?
CJW:どこか変、というのは一目見ただけでわかる。タグは本物らしくても、どうもデザイナーにそぐわないとか、ステッチがおかしいとかね。どのコレクションのものかを見極めることが大切なんだ。図書館で働いてた頃の経験が、今になってすごく役に立ってるよ!
リバイバルさせたいデザイナーやコラボしたいデザイナーはいる?
CJW:難しい質問だな。デザイナーによっては、昔やったことを安物に変えて出すことがあるから。
BVG:Fiorucciがそうだった。ほんと、あのカムバックは悲しかったよ。ロメオ・ジリ(Romeo Gigli)や松田光弘はいいかもね。ファブリックがすごく綺麗だから。僕たちの美学にいちばんしっくりするのは、何と言ってもトッド・オールダムだな。
この次のステップは? 自分たちがデザイナーになる?
CJW:アイデアが湧いたら限定数で作るよ。
BVG:今あるものを使うんだ。非営利の慈善団体がやってる店へ行ったら、ホワイトのボタンアップが500着くらいあったりする。そういうのを利用して、小手先じゃなくて、本物の手作りをする。
自分の服を買うときは、どんなものを探すの?
BVG:僕の場合、いつも最後はMargielaに行き着く。発想がすごく気儘で楽しいから。世界にとって、もう今ある以上のモノは必要ない! 僕たちがデザインを始めるとしたら、Margielaの影響から出発するだろうね。Gaultierの影響もあるだろうな。CJW:物事を真剣に考えすぎないのが、僕たちの感性の特徴だと思うよ。結局はファッションなんだから。そうじゃない?
Lynette Nylanderは、ニューヨーク在住のライター、コンサルタント。シンクタンク「imaginethat」およびOnomatopoeia Publishingの創設者でもある
- インタビュー: Lynette Nylander
- 写真: Collin James、Brandon Veloria
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: May 12, 2020