Noahと海を漂う

クリエイティブ ディレクター Brendon Babenzienが、ロングアイランドのルーツへ回帰する

  • インタビュー: Thom Bettridge
  • 撮影: Benedict Brink

生まれたばかりのブランドNoahの旗艦店は、マンハッタンのマルベリー・ストリートとデランシー・ストリートのかどにある。気取らないバンガローのような佇まいだ。内装は、ツリーハウスの居間を思わせる。ただし、骨董に目が利く、センスのいいキャンプ カウンセラーがデザインしたツリーハウス。座り心地のよさそうなレザーのソファーを、一風変わったディスプレイが取り囲む。この場所こそ、これまで全く異質のカテゴリーとされてきた「ストリートウェア」と「一生モノ」を融合させるべく、ブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)が秘かにに錬金術を操っている要塞だ。

店の奥に腰を下ろし、若いチームに囲まれながら、バベンジンが話を聞かせてくれた。背後では、グラフィック デザイナーが大砲を打ち上げる戦艦のイメージをひねっている。グラフィック デザインについて、Supremeのクリエイティブ ディレクター時代に何を学んだかバベンジンに尋ねると、彼はこう答えた。「難しい質問だな。作る端から、即売り切れるようになったから」。自然発生的に脱皮を遂げたNoahは、Supremeのスケーター ビジョンをはるかに広大で複雑な海の領域へと展開する。バベンジンにとって、海とは、 Noahブランドを理解する鍵に他ならない。「昨日のサーファーは今日のクリエイティブ ディレクター」の業界にあって、ビーチライフの平等主義的なDIY精神は、ひとつの共通言語となった。すなわち、 海は、持続可能な実践を標榜するNoahの倫理的基盤を指す存在なのだ。

バベンジン率いるNoahチームは、写真家のベレディクト・ブリンク(Benedict Brink)と連れ立って、こじんまりとした故郷の町ロングアイランドへ週末ドライブに出かけた。トム・ベットリッジ(Tom Bettridge)が、バベンジンのルーツ、意味あるデザインの方法論について話を聞いた。

トム・ベットリッジ(Tom Bettridge)

ブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)

トム・ベットリッジ:Noahは、とても幅広い顧客層を持っているようですね。ストリートウェアと言うこともできますが、プレッピー ブランドのVineyard Vinesが好きなbro(サーフィンやパーティーが好きな体育会系の白人男子)でも、シーホース ハットを選ぶんじゃないかと思います。

ブレンドン・バベンジン:まさに俺の人生そのものさ。俺は、ロングアイランドで、変わり者のキッズたちとスケートやサーフィンをして育ったんだ。でも、その後高校に行って、今や立派なVineyard Vines派といっしょにスポーツをした。俺は、そういうふたつの世界を、分けて考えたことがないんだ。不思議かもしれないけど、俺の中では全員が共存してるんだ。特に、海の近くに住んでる人間に関してはね。貝の漁師やフェリーの操縦士みたいな労働者階級と、自分のビーチハウスを持っているような金持ちの間に、奇妙な力学があるんだ。実際、好きなものやら、愛着を持っているものやら、文化やら、どっちも共有しているものがたくさんある。世界のどこへ行っても、海が好きな人間は、金持ちとか貧乏に関係なく、すごく共通点があるんだよ。

あなたは、サーフィンやスケートをして育ったんですか?

俺は1976年からスケートしてる。クレイジーな、昔風のスケート。Logan Earth Skiのボードに、Road Runnerのウィール、ACSのスケートボードトラック。スケートして、サーフィンして、スノーボードしてた。

いつの時代も、サーファーやスケーターは企業精神が旺盛ですね。あなたの世代でも、ブランドを始めている人が多い。

サーファーは完全なるカウンター カルチャーだったし、スケートはこの世にある最もクリエイティブなもののひとつだ。そういうキッズたちは、日常的に、面白いものを作っているんだ。ボードのデザインやアートは、その反映だ。全部、スケーターから生まれたんだ。外に注文したものじゃないんだ。

さらに言えば、どこへ行っても受け入れられるわけではないから、自分でものを作らなくちゃいけないということですね。自分が欲しいスタイルがあれば、自分でTシャツの会社を立ち上げないといけない。

そういうこと。超がつくDIY文化だし、とてつもなくクリエイティブなことだ。スケートやサーフのカルチャーのために何かを作ってくれる者はいなかった。だから、自分たちでやらなくちゃいけなかったんだ。

そのようなカルチャーを象徴するブランドを、自分でやりたいと思うようになったのは、どういうきっかけだったんですか?

服を作りたいとハッキリ思う前に、俺は服が好きだということはわかっていた。センチメンタルに聞こえるかもしれないけど、俺はその頃、まだ13歳だったんだよ! 13歳にして、服はとても重要なものだった。自分が何者かを証明するものだったから。年齢的に、まだ自分の信念を理知的に語ることができないからね。まだ、ただの半人前、ピュアな感情だけの存在だから。当時の自分の服選びの基準は、何よりもまず個性を表現することだった。わざわざ、つるんでる友たちの格好と合わせるつもりなんかなかったよ。13歳の俺はピンクの花柄シャツを着るもんじゃないのか、なんてことは、本当にどうでもよかった。そんなことは気にしないで、ただ自分が着たいものを着てた。

なんていうか、別にパンクじゃない、と。

俺の友だちはパンクですらなかったよ。俺が付き合ってたスケーター キッズたちは、よそ者だったんだ。地元のヤツらは皆普通だった。わかるだろ? 野球やサッカーをやる普通の少年さ。俺はラクロスをやっていたんだ。でも、サーフィンをやっていたのは、全校生徒で俺だけだったと思うよ。いっしょにスケートやサーフィンをやっていたヤツらのほとんどは、他所から来てたんだ。

インターネット以前に、どうやって、そんなふうに人と知り合っていたんですか?

イースト・イスリップのサーフショップで働いてたから。Rick’s Surf Shopという店。だから、いろんな人に会ったんだ。

それは、あなたが育った場所ですか?

そう。街があるだろ? で、ハンプトンとモントークがあって、その間にいろんなものがあるんだ。俺は、そのいろんなものの中で暮らしてた。サンライズ ハイウェイから、俺の家が見えるんだ。俺は高速道路のサービスエリアの中古車売り場の裏で育った。前は、シェルのガソリンスタンドでスケートしてたよ。ペンキを塗った縁石があったから。そこであらゆることをやったよ。ラクロスを練習するのに、壁に向かってボールを投げたり、縁石を使ってスケートしたり。サンライズ ハイウェイに車が走っていない夜は、中央分離帯の壁を使ってスケートをしたね。壁の下に小さな土手があったから。

あなたのデザイン プロセスがどういうものなのか、興味があります。特にグラフィックに関して教えてください。

プロセスは本当にシンプルだよ。グラフィックよりも、自分の好きな素材にこだわってるんだ。まあ、Tシャツだと、カルチャー的な表現をするのはグラフィックの役目だからね。俺たちは、ユーモアがあって、賢くて、頭も良くないといけないから、目標はとても高く設定している。それに、俺たちは必ずしも攻撃的であろうとは思っていないから、俺たちとのあいだに相関性がないとだめだ。

スケートはこの世にある最もクリエイティブなもののひとつだ。そういうキッズたちは、日常的に、面白いものを作っているんだ。

それは、以前のものが発展したんでしょうか? それとも、何か、別のものなんでしょうか?

別物。でも、わかってきたのは、とにかく、他の誰も手をつけないものがたくさんあって、俺たちが自由にいじれるってことなんだ。例えば、このペリカンのTシャツを見てくれよ。これは、俺たちが見つけた変な古いシャツが元になってるんだ。これ、ペリカンだぜ。ペリカンがどれほどカッコよくなれると思う? でも、この赤い色を見ると、凶暴でクレイジーに見える。ペリカンには、もともとカッコ良さが備わっているんだ。そもそも海の鳥なんだから。

ペリカンを見ると、いつもギャング映画の金字塔である「スカーフェイス」の例のシーンを思い出します。ペリカンは、実は結構、獰猛なんですよね。

その通り。俺たちは、使えて、攻撃的で、それでいて自分たちらしいものを見つけたんだ。でも、それには、物の裏側を見て、そこに表面以外のものを見られるようじゃないと、ダメだ。裏側に何もありませんでした、ではダメなんだ。そういうのは、単純に見た目はいいかもしれないけど、必然性がない。

精神分析の父フロイトは、かつて、良いジョークは仲の悪いカップルを結婚させる僧侶のようなものだという言葉を残しました。いいTシャツは、相性の良くないものを結びつけて生まれるような気がします。

たまに文字のグラフィックを出すんだ。例えば、ロングアイランドのグラフィック。基本的に、「俺はロングアイランド出身だ。悪口を言いたいヤツらは放っとけ。俺はロングアイランドが大好きだぜ、クソ野郎」って意味。これは、郊外出身のキッズたちへのメッセージなんだよ。俺たちが言いたいのは、自分の生まれ育った場所をよく見ろってこと。人生で何をするにせよ、生まれた場所が人を作るんだからね。生まれた場所も、立ち止まって見渡してみれば、多分たくさんクールなものがあるはずなんだ。いつも外ばっかり見ていたら、目の前のものを見逃してしまう。恰好のスケートのスポットとかね。目と鼻の先に、ガレージでアルバムをレコーディングしようとしているヤツがいるかもしれない。誰にも知られていないけど、最高のミュージシャンだったりね。まあ、そのTシャツっていうのは、そんなことを意味しているんだ。文字通りに説明すると、そうなる。

今日、「支配集団」と呼ばれる人は、皆、自分の生まれた場所とか、自分が何者か、ということを表現しているだけのように思います。それはRaf Simonsのような人にも見られる傾向で、彼も、ベルギーで過ごした十代をよく引き合いに出します。それは、けっして恥ずかしいことなんかじゃなく、十代の頃の経験を受け入れることだと思います。

例えば、ニューヨークとかロサンゼルスとか、世界の大都市で育ったキッズたちのことを考えてみろよ。そういうヤツらは、まず間違いなく、クールだ。都会で育ったら、自然にそれらしくなるんだ。でも、すごくクールだからこそ、怠惰なことも多い。そういうクールなアイデアに目をつけて、それを実際に広めるのは、郊外で生まれたキッズなんだ。郊外のキッズには、都市のキッズたちに必要のない衝動というものがあるからね。例えば、ハードコア ミュージックをやっているのは、皆地方のキッズたちだったり。郊外は、物事をより遠くまで運んでいくのさ。

メンズウェアは、長い間、単なるユニフォームでした。この仕事をしているから、この服を着る。ギャングの一員だからこの服を着る。

俺はスケートをする。だからこの服を着る、ってね。

それが今や、服を買う男性がファッション業界の成長の鍵になっているわけですが、まだ思春期の段階にとどまっています。私には、Noahが、この段階を乗り越えようとしているように思えるのですが。

ファッション業界っていうのは、だいたい、この流行はもう終わりました、って論法で新しいものを売る仕組みなんだ。タックの入ったズボンをバカにした時代もあった。でも、タック入りのズボンを着こなす方法なんて、数えきれないくらいたくさんある。80年代には流行っていたわけだしね。だから、何かがもう流行遅れだと言い切るなんて、馬鹿げてるんだよ。スタイルを選ぶときには、自分が着たいものを選ぶ自由があるべきなんだから。Noahはファッション業界には属さない。ファッション業界が何をしたって、俺たちは気にしていない。俺たちは、街角の小さな店に過ぎないから。

あなたたちが売っているものは、もっと民主的ですよね。

比べ物にならないくらい民主的さ。インターネットはあらゆることを民主的にした。ウェブサイトやオンライン販売がなかったら、オレたちが今やってことはできなかっただろうね。インターネットのおかげで、この場所から、世界中の誰にでも売ることができる。

面白いのは、あなたは、言わば過去に作られた大量生産のデザインをハッキングして、そこに新しいひねりを作り出しているという点です。

昔の大衆向けのデザインは、本当にすごくいいからね。でも、デザインに足りないのは、生地との組み合わせだと思うんだ。すごく偏ってると思ったんだ。皆、ほしがるのは見た目だけなんだ。機能や耐久性とか実用性には、それほど興味がない。俺にはそれが必要なんだ。

オンラインで購入する場合は、着心地すら関心がないんじゃないでしょうか。

このシャツがこの着心地じゃなかったとしたら、俺は嫌だな。

郊外は、物事をより遠くまで運んでいくのさ

この、「一生モノ」という考え方が、デザインによって歴史と必然的に結びつくのは面白いですね。例えば、40年ほど長持ちするものを、どう作ればいいのか。40年後を見る必要があるでしょうね。

面白いことに、俺はヴィンテージをたくさん買うんだけど、コレクター アイテムのようなヴィンテージは買わないんだ。意味がないから。1945年製のレザージャケットを買うのは、俺の趣味じゃない。そのかわり、70年代や80年代の変なものを買うんだ。80年代には、なかなかいいものを作ってたんだ。作られてから20年も30年も経ってるけど、布地も持ちこたえてるし、縫い目も緩んでない。20年後、俺が作ったシャツを見て、同じようなことを思ってくれる人がいたらいいね。店に来てくれるお客さんの中には、14年前にうちで買ったジャケットをいまだに持っていると言ってくれる人がいるんだ。

このバーシティ ジャケットは、何のチームを代表しているんですか?

これはチーム用じゃないんだよ。「N」のロゴが前についているんだけど、ニセモノと闘っている俺としては、これは絶対ホンモノじゃないといけない。ホンモノだからこそ、このクロスカントリーの要素に意味がある。俺は、ほぼ毎日ランニングするからね。何度も繰り返し使う要素が幾つかある。例えば、チームの要素には聖人ミカエル(Saint Michael)を使うとかね。単にMichaelと書いてあるだけだけど。

誰でも、守護聖人が必要ですからね。

その通り。別にそんなに信心深くはないけど、聖人ミカエルは大好きなんだ。雲の中から現れるミカエルのタトゥーを彫ってるぐらい。

ストリートウェアが多くの人を魅了してきた理由は、それが根本的にアイデンティティを表現しているからだと思います。そして、あなたが操っている非ストリート的アイデアでも、このコンセプトを利用しているように思います。

俺たちは、ランニングを引き合いに出し、海を引き合いに出し、スケートボードを引き合いに出している。俺たちにできるのはそれだけだ。なぜなら、実際に俺たちがここでやっていることの一部だから。登山のコレクションなんか絶対にやらないのは、俺が山に登らないからだよ。

それに、登山者に遊びはないですしね。きちんとやらないと、死ぬこともあり得る。

登山は文化的だっていう見方もあるし。だから、ありとあらゆるクールなグラフィックやアイテムが作れるわけだ。俺たちは、そういうことはしない。俺たちのやることは、すべて、リアルなんだ。同時にバラエティも豊かだ。これはいいことだと思う。この店にキッズたちが来て、ぶらぶらして、何かを買って行く。格好を見る限り、同じグループのメンバーには見えない。店で売られている時は筋が通っているけど、個々の手に渡ると違ってくるんだ。例えば、あるヤツは「ロングアイランド」Tシャツを買って、他のヤツは「クルックド・ラブ」Tシャツを買って、もう1人は「ストレート・エッジ」Tシャツを買う。そいつらは、絶対、同じようには見えないさ。

全て、ポスト・サブカルチャーの領域に踏み込むものですね。

世代間の断絶は、絶対あるね。壁は消えつつあるけど。仕事のとき、毎日、俺は今着ているような服を着るけど、必要なときのために、一応タキシードも持ってる。おかしいけど、スーツを着るべき場所であれば、俺は喜んで着る。面白いしね。でも、ここんとこ、男が毎日きちんと身なりを整える風潮が目につくんだ。何というか、クレイジーなぐらい、めかし込んで。

例えば、ポケットチーフとか?

本当にやってるさ。面白いのは、それがカッコいいことなのかどうか、俺にはまだ判断がつきかねているってこと。まだ分からないんだ。確かに見た目はいいんだけど、全然実用的じゃないから。それって本当に自分自身なのか? その服は本当に自分なのか? それとも、お前は何かを投影しようとしているのか? そういう疑問があるわけよ。まだ俺の中では、ちゃんとした決断はできていない。判断なんてしないかもしれないけど。

海という、境界のない水の世界という考え方に戻るようですね。

Noahのオフィスは、予想できない個性や関心が混じり合ってる。予想だにしないようなことさ。奇妙なものを奨励している俺たちにとっては、それが完璧なんだよ。なんであれ、クールなんだ。そのままでいい。昆虫が好きなら、昆虫を勉強してみればいい。ビジネスという大きな枠組みでどういう意味を持つかは別にして、それが自然な成り行きというものだ。どういう服になるか、店の見た目や雰囲気はどうなのか、自分たちをどう表現するか、それをどう伝えるか。そういうことは、全部、今言ったような核の部分から派生する話なんだ。自分を変えようとするな、これが俺たちだ、そして、もし自分なりに参加してみたくなったら、大歓迎。

登山のコレクションなんか絶対にやらないのは、俺が山に登らないからだよ
  • インタビュー: Thom Bettridge
  • 撮影: Benedict Brink
  • モデル: Brendon Babenzien, Amir Abdellah, Corey Rubin, Auriel Rickard