体験レポート:
Khaiteの
Scarlet
カーディガンと
Eda ブラ
タヒラ・へアストンは、罪悪感を捨てて、柔らかなカシミアへ向かう
- 文: Tahirah Hairston
- アートワーク: Megan Tatem

罪悪感のある快感には戸惑ってしまう。どうして罪悪感を感じるのだろう? 快感を与えてくれるものを隠さなきゃいけないという思考回路は、恥じる気持ち、微妙な意味合いの否定、社会階級に基づいた差別に根差している。アトランタのヒップホップ界を描いたリアリティ番組について、あるディレクターが、ようやく「見ごたえのある黒人の番組ができた」と言ったのを思い出す。波乱に満ちた今年、私は大半の時期を隔離状態で過ごしたが、ひとり暮らしは初めてだったこともあって、さほど人の目を気にせず、自分にとって快いことをがむしゃらに求めるようになっていた。いつも人を喜ばせることばかりに気を使う私にとって、これは自分の内面へ目を向けること、これまでの習慣から解放されることだった。
毎週金曜日には、バスオイルと入浴剤をたっぷり入れたお風呂にゆっくり浸かる。1週間ぶっ通しで、色んなシリーズもののテレビ番組を見つくした。アパートのあちこちに花を飾るために、花屋で大金を使った。できるだけやることを減らすために、何日かは洗顔とシャワーを省略した。夜寝る前に毎晩、マリワナを吸った。ストリッパーが履くようなやたらプラットフォームの高いハイヒールを買って、それで家中を踊りまわった。Instagram ストーリーへの投稿を優先して、メッセージは読むだけで返信しなかった。元カレを見かけたけど、挨拶しないことにした。マッシュルーム、そう、あの類のマッシュルームに夢中になった。やる気がしないことは、パスした。トニ・モリスン(Toni Morrison)の言葉を拝借するなら、「彼女は毎日自分が考えることと感じることを探り、それらが湧き出るに任せた。自分を喜ばせることでない限り、誰かを喜ばせる義務は一切感じなかった」
Khaiteのカシミアのブラとセーターが届いた日、こんな生活にもっと拍車がかかるだろうと私は予想した。1か月分の家賃より高いセーターなんだから、魔法のセーターみたいな気がするに決まってる。何しろ、ケイティ・ホームズ(Katie Holmes)が着てバイラルになったセーターとブラなのだ。私の好奇心を煽ったのも、肩から滑り落ちたオーバーサイズなセーターとジーンズでニューヨーク シティの街に現れた彼女の写真だった。『Instyle』誌のインタビューで、Khaiteのアンサンブルを選んだのはセクシーに感じたかったからとケイティは言ってたけど、本当のところを言えば、あれは必ずしもお洒落には見えなかった。ただ、セーターもブラも、一切の気負いや心構えなしに着られる感じで、そこに魅かれた。その後、Fenty Beautyのビデオで、リアーナ(Rihanna)が同じKhaiteのカシミアのブラとセーターを着ているのを見た。こっちは、ゴールドやパールやダイアモンドのネックレスを山ほどつけてたけど。だから私も、Khaiteのアンサンブルを買うためにGoFundMeで資金集めを始めようかな、とツイートした。
カシミアを着た最初の何日かは、至福の夢心地だった。セーターはちょうどいい程度のオーバーサイズだったし、もう何年も着てるみたいに体に馴染んだ。ブラは暑い夏にはちょっと不向きだったけど、ソフトで、そのうえバストをしっかりサポートする。まるでナンシー・マイヤーズ(Nancy Meyers)のロマンス コメディの主人公になった気分だ。ソファでテレビ シリーズの『Girlfriends』を観ながら、そういえばトレイシー・エリス・ロス(Tracee Ellis Ross)が演じたジョーン・クレイトンのスタイルが大好きだったな、と思い出した。ジョーンは外出するときのドレープしたカウル ネックとカーゴパンツで有名だったかもしれないけど、私が憧れたのは、柔らかなニットのダスターカーディガン、Free Cityのスウェットスーツ、ソックスにBirkenstock、使い込んだBirkin バッグ等々、彼女の抑制された高級感とカジュアルなラウンジウェアだった。夜寝る時間になると、そのまま加重ブランケットの下へもぐりこんだ。友だちとディナーに出かけたときは、最初はジン マーティニを飲んで、その後は珍しくて面白そうなオレンジ ワインを注文した。もちろんセーターは肩から滑り落ちて、下はジーンズだ。Khaiteのアンサンブル姿をfinstaに載せると、友人から「黒人版ケイティ・ホームズだね」とコメントが付いた。Khaiteは、ニューヨークで活動するデザイナー、キャサリン・ホルスタイン(Catherine Holstein)が2016年に立ち上げたブランドだ。ありきたりな路線から外れて、贅沢な素材のベーシックに焦点を絞る。高価過ぎず、しかも気軽に着られる上質な服がウィメンズウェア市場にはないことにホルスタインは気付いたのだ。ギリシャ語の「Khaite」は「長い髪を風になびかせる」、つまり「自由な解放感」を意味する。「自由」、「解放感」、「ホワイト」はファッション界が常に高く掲げてきたコンセプトだけど、本気で取り組み始めたのはつい最近だ。黒人女性である私は、たとえ私向きにデザインされたスタイルではないにせよ、衣服の質を楽しむことへのわだかまりについて考えてきた。最近では、長持ちする服に投資して服の数を減らすことに関心が向いてきたから、The Row、Jil Sander、Khaiteなどに惹かれる。どれも、抑制を大切にするブランドだ。贅沢だけど、やり過ぎに感じたり、目立ちすぎることのないデザインは、ロゴの喧伝に溢れたパレットをきれいに洗い流してくれる。そもそもロゴ マニアは、さほど私の好みじゃなかったし。

Tahirah 着用アイテム:カーディガン(Khaite)、ブラ(Khaite) 冒頭の画像のアイテム:カーディガン(Khaite)
この前、私が住んでいるブルックリンの近所で、孤独な年の最初で唯一のパーティがあった。マスクを着用し、ソーシャル ディスタンスを守りながら、素敵な音楽に合わせて踊るパーティだ。Khaiteのカシミアのセーターとブラで初めて大勢の人前に出たこのとき、かつての頑固な快感と罪悪感が復活した。パーティに来ていた人たちに褒められると、私はまごついた。「噂の」セーターだと気付かれると、さらに人目が気になった。金持ちで、好きに使えるお金をたっぷり稼いでいるとか、パンデミックの最中に500ドルもするカシミアのブラみたいな軽薄なものに無駄遣いしてるとか、そんなふうに考える人がいるんじゃないかと不安になった。他人の考えを想像して罪の意識に苛まれる感覚は、特に金銭にまつわる場合、おそらく私たち自身の問題ではなく、最低限のニーズが保証されない国で生活していることに大きく関係しているのかもしれない。スリップ ドレスの上にカシミアのセーターを羽織って近所の花屋へ行ったとき、ブランドを尋ねられたり、いかにも高そうだと言われると、居心地が悪い。私が自分の頭の中で勝手に作り出す恥の感覚と、それとは正反対に、自由な快感を求める気持ちが私の中にある。
今年のもっと前、世界が炎上しているときに幸せを感じるのは間違っているような気がする、と私はセラピストに打ち明けた。セラピストには「その気持ちにもっと心を開いてご覧なさい」とアドバイスされた。だから私は自分に必要なものを自問し、自分の価値観を考え直してみた。本当に必要なものは何か? 何が成功なのか? 今でも私にはステータス シンボル以外の何物でもないものに憧れる気持ちがあって、嫌になる。「手の届かない贅沢」によって作り出された衝動だ。だが一方で、ファッションがアートのひとつであることは理解しているし、高品質な素材と倫理的な製造方法は往々にして高くつく、そして長持ちすることも知っている。

画像のアイテム:ブラ(Khaite)
世界が炎上しているときに幸せを感じるのは間違っているような気がすると打ち明けると、セラピストから「その気持ちにもっと心を開いてご覧なさい」とアドバイスされた
最近は、別のところでも快感を見つけている。マッシュルームのドキュメンタリーを制作する。15キロくらい、自転車で走る。友達をタロットカードで占う。ヘアスタイルを変える。下世話なゴシップを楽しむ。例のセーターとブラを着たいという衝動は感じない。両方ともソファの上から優雅に垂れ下がったままだ。かといって頭から離れることもない。2〜3日前にもう一度セーターを着てみたら、残り香と暖かさ、カシミアの重みに懐かしさが込み上げ、魂を奪われた。ヌトザケ・シャンゲ(Ntozke Shange)が書いたように、「何であれ手に入るものがあるのなら、手に入れて、いい気分を楽しめばいい」。罪悪感のない快感とは、手に入れたものより、それが感じさせる気分のことなのかもしれない。
Tahirah Hairstonは、『Teen Vogue』のファッション&美容記事ディレクター
- 文: Tahirah Hairston
- アートワーク: Megan Tatem
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: November 18, 2020