チャーリー・ポーター流「買わないという選択」

フィナンシャル・タイムズ紙のメンズウェア批評家がノスタルジーの循環や、多くのブランドにはなくComme Des Garçonsにあるものを語る

  • インタビュー: Adam Wray
  • 写真: Charlie Porter

ファッション批評家のチャーリー・ポーター(Charlie Porter)は、自らのブログにランウェイの画像を投稿する際、その写真の上下を反転させる。

Charlie Porter着用アイテム:ジャケット(Eckhaus Latta)スウェットシャツ(032c)パンツ(Gosha Rubchinskiy) 冒頭の画像 Charlie Porter(右)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)スウェットシャツ(032c) Richard Dodwell(左)着用アイテム:シャツ(Thom Browne)パンツ(Gosha Rubchinskiy)

これは、服の一点一点についての理解を再構築し、今いちど評価し直してもらうためのアイデアだ。

ちょっとした仕掛けではあるが、これは、彼がファッションについて書く際の姿勢を象徴的に表している。遊び心にあふれていながら、思慮に富んでいる。そして、服自体であれ、服に込められたアイデアや情熱であれ、常に、そこに隠れたものを引きずり出せるような新たな切り口を探している。

ポーターはロンドンの北に位置するピーターバラで育った。初めて彼の記事が掲載されたのは、地元紙『ピーターバラ イブニング テレグラフ』だった。若かりし頃は、モールをぶらぶらしたり、新しい雑誌やレコードを買いに行ったり、ロンドンまで出向いて、ケンジントン マーケットにあるブティックSign of the Timesで掘り出し物を探したりした。そして、TシャツやDJのミックステープ、寝室の壁に貼るためのクラブのフライヤーを袋いっぱいに詰め込んでピーターバラに戻ったものだった。「こうすることで、何かの一部になっている気がしたんだ」と彼は言う。

『ガーディアン』のような一般紙や『British GQ』や『Fantastic Man』といったファッション専門誌に数年間ファッション関連の記事を書いたのち、ポーターは忍びよる商業的な不安感を理由に、フルタイムのファッション雑誌編集者を辞めた。「どれほど個人的な考えとして記事を書こうとしても、最終的には人々に物を買わせようとするものになってしまうのは明白だった」とポーターは説明する。「服について書く際の、私の絶対的な黄金律として、何も買わない方が良いと言える余地を残しておくこと、というのがあるんだ」

今では、彼のファッションに対する様々な考えは、『フィナンシャル・タイムズ』で読むことができる。同紙において、ポーターはメンズウェア批評家という立場で、コレクションのレビューやトレンド レポート、デザイナー特集などを書いている。『フィナンシャル・タイムズ』に書くことは、新たに、より広い読者向けにファッション業界を解釈するきっかけとなった。取り上げるブランドからの広告収入に頼る出版社に向けて書いているというプレッシャーがないからだ。また、近々、雑誌『i-D』の最新号をゲスト編集者として編集する予定でもある。さらに、あまりに早い段階なのでまだ詳しくは話せないが、目下、Rizzoliと本のプロジェクトを進めているという。

今回、Skypeでポーターから話を聞き、本人と彼のパートナーで芸術家兼キュレーターのリチャード・ドッドウェル(Richard Dodwell)がショーディッチの自宅でガーデニングをしている様子をセルフィーで撮影した。

Charlie Porter(右)着用アイテム:フーディ(Martine Rose)パンツ(Gosha Rubchinskiy) Richard Dodwell(左)着用アイテム:ジャケット(Eckhaus Latta)

Charlie Porter(右)着用アイテム:フーディ(Martine Rose) Richard Dodwell(左)着用アイテム:ジャケット(Eckhaus Latta)

初めての執筆

イギリスでは日曜の夜にラジオでヒットチャート番組があるんだ。僕にとってはとても重要な番組で、そのトップ40を全部書き出したものだった。このヒットチャートのリストが、初めて書いたものだったような気がする。日記はつけてなかった。でも、ずっとジャーナリストになりたかった。おかしいだろ?今度刊行される『i-D』を編集しているんだけど、変な感じだよ。実は、僕が15、6歳のとき、編集者に宛てて「あなたにはピーターバラで何が起きているかきっと想像もつかないでしょう」と書いたことがあるんだ。すると「ピーターバラでは何が起きているの?電話をください」と返事が返ってきた。実際に彼に電話したかどうかは覚えてないけど、その手紙を寝室の壁に貼ったのは覚えてる。「外の世界とコンタクトが取れたぞ!」って感じだった。作家か売店のオーナーになりたいと思ってたんだ。売店のオーナーになるっていうのは、当時の僕にとっては何よりも魅力的な考えだった。読みたい雑誌が全部あって、好きなときにそれが読めるんだからね。

Charlie Porter(右)着用アイテム:フーディ(Martine Rose)パンツ(Gosha Rubchinskiy) Richard Dodwell(左)着用アイテム:ジャケット(Eckhaus Latta)パンツ(Gosha Rubchinskiy)

ノスタルジー

個人的には特に思うところはないかな。僕は他の人がどんな感情を抱えているかなど、どうでもいいんだ。なぜ、時に人は存在しないものを切望するのかなんて、どう考えればいいのかわからないよ。80年代、僕が若い頃には、60年代は良かったという語り口があったことを覚えている。いつもすごく変だと思ってた。僕は何もかもが大好きだったから。だから、若い頃からこの手の語り口はでたらめだと考えてた。だけど、ファッションと音楽に関しては、循環して流行が戻ってくるのはすごくよくわかるし、それでいいとも思っているんだ。今は明らかに90年代がまたトレンドになっているけれど、それは今デザイナー ブランドで実際に働いている人たち、クリエイティブ ディレクターではなくスタジオにいる人たちが、1990年代に青春時代を過ごしたからなんだ。彼らの影響が表面化している。この循環のパターンはとても面白いと思う。さらに言えば、90年代がどんな時代だったかを見てみると、今、人々が話している90年代とはまったく似ても似つかないんだ。

Charlie Porter(左)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)セーター(Wales Bonner) Richard Dodwell(右)着用アイテム:アノラック(NAPA by Martine Rose)

Charlie Porter(左)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)セーター(Wales Bonner) Richard Dodwell(右)着用アイテム:パンツ(Gosha Rubchinskiy)

僕は、最近ますます、売買という行為が太古より続く営みだと理解しているかどうかでブランドやデザイナーを評価するようになっている

ティーンエイジャーの頃、モールへ行くことが意味したこと

人々のセンスを理解するのが目的だったんじゃないかな。こう言うと、当時は何もわからずにやってたことを今の僕が無理やりこじつけてるみたいけど。自分が大人だと感じるための手段だったんだと思う。

商取引

僕は、最近ますます、売買という行為が太古の昔より存在してきた基本的な営みである点を理解しているかどうかで、ブランドやデザイナーを評価するようになっている。Comme des Garçonsがこんなにも素晴らしい理由は、このブランドの物を購入するとき、それがとても基本的な行為だと感じるからなんだ。言ってる意味がわかるかな。多くのブランドはそのことを理解していないか、なぜ人間がこうやって交流するのかを感覚的に掴めていない。Comme des Garçonsにはそれがある。Rick Owensにもある。店舗を構えていない人でも、中にはそれがわかっている人はいる。Craig Greenは、その行為やそれが起きる理由を理解していると思う。そして思うに、多くのデザイナーは、すごく斜に構えたものの見方をする。でも、そうやってデザインされたものを買うのは楽しくない。『フィナンシャル・タイムズ』に出したPrada の最新レビューで、今のPradaの店舗のあり方に対する僕の不満について書いたんだけど、以前はもっと自分がPradaに関わっているという感じがしたのに、今はその対話部分が感じられない。

Charlie Porter(右)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)セーター(Wales Bonner) Richard Dodwell(左)着用アイテム:パンツ(Gosha Rubchinskiy)

Charlie Porter(右)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)セーター(Wales Bonner) Richard Dodwell(左)着用アイテム:アノラック(NAPA by Martine Rose)

ポスト デジタル世界で言語に何が起きているのか

自分でもその問題に関心があるかわからない。変かな。僕が解決するような問題でもないしね。どうせなら、言語がどうあるべきかを押し付ける側よりは、実験をする側でいたい。僕は幸運にも、好きなだけ長い文章を書かせてもらえる媒体が3つもある。新聞にも書いていて、ちゃんとしたアイデアであれば1ページを割いてもらえる。でも、Instagramのキャプションのような言語や、その限られた語数で何ができるかということには興味がある。クリス・クラウス(Chris Kraus)の書いたキャシー・アッカー(Kathy Acker)に関する本について友だちに話していたんだけど、キャシー・アッカーのメッセージというのは、ただ書いて、書いて、書いて、書いて、書き続けることだったようなんだ。でも、そのメッセージを伝えるには、形式が合ってなかったんじゃないかな。書くことは書くことでしかないし、思考は思考でしかないからね。

進化する衣服の機能

パンクの時代は、僕が若い頃もそうだったけど、衣服は自分についての情報を伝達する手段だった。自分が関心をもっていること、自分にとって大切なこと、自分が信じていることを衣服で伝えた。今ではもう、衣服にそういう行為遂行的な機能は必要がなくなった。イギリス中の16歳の男の子がPalaceを着てるんだ。もちろん、一般論としての話だよ。でも、クィアの子も、スケーターの子も、おしゃれな子も、貧しい子も、誰もがPalaceを着てる。異なる集団の人たちが一様にPalaceを着ていることをどう描写する?僕が若い頃のように、単純に集団ごとを区別するような方法では、もはや服が用いられないんだ。服の役割という点では、今はもっと複雑だ。その意味では、服は以前より洗練されたものになったと思う。レベルが下がったんじゃない。服を通じて伝達されるメッセージがさらに洗練されて、もっと奇妙になって、より複雑になった。

Charlie Porter(左)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)スウェットシャツ(032c) Richard Dodwell(右)着用アイテム:シャツ(Thom Browne)パンツ(Gosha Rubchinskiy)

Charlie Porter(左)着用アイテム:オーバーオール(NAPA by Martine Rose)スウェットシャツ(032c) Richard Dodwell(右)着用アイテム:シャツ(Thom Browne)パンツ(Gosha Rubchinskiy)

業界の多くの人が、ファッションをお金で手に入れるためには、高価な物を買わなければいけないと思い込んでいる。実際には、そんなことは全くないのに

キャリアの中で見るファッション ライティングの変化

僕がファッション業界で働き始めたのは、情報を提供するのがライターの仕事だった時代なんだ。ファッションショーについて知りたければ、新聞を読まなければならなかった。だけど、今はもうそうじゃない。情報は本当にたやすく入手できるし、ライターの仕事は完全に変わってしまった。これはすばらしいことだ。あの時代が懐かしいとは思わないよ。あの頃は悪夢のようだったから。ファッションショーが終わったらホテルに大急ぎで帰って、ダイアルアップのインターネットで、四苦八苦してDiorについての300字の記事を送るんだ。それか、普段はサッカーの試合結果くらいしか電話で受け取らない編集部に電話して、「じゃ言うよ、ガリアーノ、綴りはG、A、L、L、I、A、N、O。今から意味不明なことをたくさん言うので、もし理解できなかったら、そう言って。そしたら、言い直すから」みたいな。本当にこんなことをやってたんだよ。

ラグジュアリーとファッションを区別すること

ラグジュアリーの時代が実際に始まったのは、96年か97年にジョン・ガリアーノ(John Galliano)がGivenchyに行って、その後Diorに行き、さらにアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)がGivenchyに行った頃だ。あの頃からラグジュアリー ブランドは、若いデザイナーやクリエイティブ デザイナーを雇うようになって、ファッションを売ることに関心を持つようになったんだ。もう長い間、それこそがファッションだという状況が続いている。だけど以前は、ラグジュアリーは、ファッションと交差して、ファッションを利用するものであって、ファッションはその一部だったんだ。業界の多くの人が、ファッションをお金で手に入れるためには、高価な物を買わなければいけないと思い込んでいる。実際には、そんなことは全くないのに。ファッションはもっと違う存在だ。人がどんな方法で物を身につけようが、何を身につけようが、ファッションはとにかくそこに立ち現れる。そこにラグジュアリーは関係ない。

Adam WrayはSSENSEのシニア エディターであり、過去に「Vogue」「T Magazine」「The Fader」といった雑誌でも原稿を執筆している

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