モリー・ゴダードは惜しみなく与える
けっして気まぐれではない、若きイギリス人デザイナーのデザイン
- インタビュー: Rebecca Storm
- 写真: Lukas Gansterer

「道を歩いてると、時々、惨めな気分になるの」。デザイナーのモリー・ゴダード(Molly Goddard)は言う。「だって、みんな、ブラックかネイビーかグレーの服なんだもの」。頂点に達したミニマリズムは私たちの生活のあらゆる面に浸透し、もはや歓迎されざる長居を続けつつある。モノクロ一辺倒や得体の知れないシルエットへの反論として、ゴダードの作品は大いに際立つ。無秩序に広がった無彩色の都市を背景に、フェリーニの初のカラー作品「魂のジュリエッタ」を観た観客が体験したであろうと同じ、衝撃を誘発する。ゴダードのデザインは、20世紀中頃のイタリア映画に捧げるオマージュとも言えるが、衣装と呼んではならない。ゴダードは、むしろ、ベーシックの再考を促す。彼女からの誘いを、私たちは受けるべきだろう。

レベッカ・ストーム(Rebecca Storm)
モリー・ゴダード(Molly Goddard)
レベッカ・ストーム:手仕事が多いですね。どこから手を付けるんですか?
モリー・ゴダード:コレクションを始めるにあたっては、先ず、私がとことんリサーチするの。図書館へ行って、画像をたくさん集める。ヴィンテージの服を買ってきて、解体する。色々なテクニックを調べて、面白そうな生地を買って、その生地で何ができるか、あれこれ実験する。ショーまで、何週間か、スタジオで実験しながら仕事が続くわ。その過程で出来上がるものが、たくさんあるの。スケッチを描いて、それを工場に送るってことはしない。ずっと作業を続けるのよ。
それぞれの作品に、個人的な愛着を感じるようになりますか?
それは間違いないわね。もう2度と作りたくないものもあるわ。
正式なトレーニングを受けたのですか? それとも、自分で色々と探りながら?
大学でファッションを勉強したけど、それ以上に自分で勉強したわ。スタジオで働いてるのは、衣装を勉強した人たちばかりなの。だから今は、衣装じゃなくてファッションの視点から考えるように、学習してるわ。そこまで完璧にやらなくてもいいのよ、って私が言うときもあるし、もうちょっと完璧にやってくださいって、私が言われることもある。いい具合にバランスがとれてる。

技術や生産に対する真剣なこだわりとは別に、ノスタルジアの精神もありますね。そういう要素のバランスをとるのに、苦慮することはありませんか?
そんなにないわ。「ノスタルジア」って、ちょっと良くない意味で使われるようになったと思うの。私は、必ずしも何もないところからものを作ってるわけじゃないわ。いつも何かしら、過去のものが参考になってる。記憶とか、若い頃に着てたドレスとか、刺激を受けたイメージとか。過去からインスピレーションを汲み取ることが、創造やアイデアと密接に関連してるのよ。
あなたの作品は、とてもフェミニンな部類に入るものが多いけれど、シースルーだったり、ジーンズやフーディの上にも着られる点で、いわゆる女らしさに抗っていますね。あなたはドレス アップの定義を変えようとしているのですか? それとも、拡大しようとしてるだけですか?
それには、まだ答えられないわ。服は、人を完全に変身させるんじゃなくて、その人が元来持っているものと混じり合える。この考え方が私は好きなの。将来ずっと同じかどうか分からないけど、さしあたって今は、そういう方向に興味がある。昼から夜に変わっていくような変化、だけど、いろんな点でもっと大きな意味があって…。あれ、何の話だったっけ? 分からなくなっちゃった。


えっと、あなたの洋服は衣装として受け取るべきでしょうか?
私としては、衣装として受け取られないほうが嬉しいわ。もちろん、普段着にして街を歩くわけにはいかないものもあるわよ。すごく大きかったりして。でも、衣装じゃない。そういうのはアイデアの表現であって、もっと着やすい服に転換すればいいのよ。

むしろ、ファッションのベーシック アイテムと位置付けたいですか?
私の服を着て、衣装を着てる気分にはなってほしくないわね。すごくいい気分になってほしいの。私たちが一生懸命に作ったコレクションに、何メートルも生地を使った大きな服があるんだけど、それを昼間に着ることだってできるのよ。そういう考え方が好き。夜はカジュアルで、昼間は思いっきりドレスっぽいドレス。そういう逆さまが、私、好きなの。
あなたの服が、ブラックやホワイトやグレーみたいな抑えた色使いだったとしても、今と同じように受け止められると思いますか?
全部のアイテムでブラックやホワイトやグレーのバージョンも、いつもやってるのよ。グレーは私の好きな色。お気入りの色のひとつ。でも、とにかく鮮やかな色に引かれるの。カラフルにできるんだったら、そうしたっていいじゃない? 道を歩いてると、時々、惨めな気分になるの。だって、みんな、ブラックかネイビーかグレーの服なんだもの。みんな明るい色を見ると驚くんだけど、その反対だったらいいのに。

ある意味で、だからこそ色彩が崇拝されるのかもしれませんね。あなたのクリエイティブなプロセスで、色彩はどのぐらい重要ですか?
とっても大切。私は色々なものがぶつかり合うのが好きなの。それに、きちんと予測できないものや、きれい過ぎないものが好き。好きなのは、茶色の次に、強烈なピンク。あまり決まりに従わないの。仮に、決まりがあったとしてもね!
あなたのドレスが、全く予想していないふうに着られたり、あなたのほうがインスピレーションを感じるふうに着られてるのを、見たことがありますか?
たぶん、リアーナ。彼女って、すごく自信に溢れてるし、すごくきれいじゃない? だからとってもエキサイティングだわ。勇敢で、人の言うことなんて気にしない人よね。
知らない人では?
大きなアーミー ジャケットを羽織ってる人を見たことがある。グレーの服に、大きなグリーンのアーミー ジャケットに、トレーナー シューズ。自然でくだけた感じだったわ。下はジーンズだったと思う。

あなたの服を着崩すというのは、面白いですね。
私は何でもそうやって着るわよ。日中は大抵、ジーンズの上に私が作ったドレスを着て、トレーナー シューズ。
あなたは、ドレスをほぼ制覇しましたね。他に試してみたい服はありますか?
ニットウェアが大好きなんだけど、作ってくれるところを見つけるのがすごく難しいの。イギリスで、いっしょに楽しく仕事をできる本当に優秀な工場を見つけたいわ。今、それに取り組んでるところ。だから、新しくニットウェアをやるのがとても楽しみよ。
積極的に過去の要素を現代風に使うデザイナーとして、何が最高のインスピレーションですか?
私がリサーチをするときは、とにかく図書館へ行って、手当たり次第に本を取り出すの。建築の本を取り出して、中に出てる人の服を見ることもあるわ。素晴らしい家を持ってる人は、だいたい素晴らしい服を着てるの。

ピンクでフリルの付いたものを作ると、ほとんどそのままプリンセスやおとぎ話のカテゴリーへ直行。それが嫌
いちばん意外なインスピレーションの源は?
老人を見るのが好き。かれらが着てるものを見るの。イギリスのお年寄りは、変わった着こなしで趣味の良い服装をしてるわ。
2017秋冬のショーは、あらゆる年齢の人のパーティにしたいとおっしゃってましたね。幅広い年齢層を受け入れることは、あなたにとってどの程度重要ですか?
とっても大切。私たちは、これまでずっと、似たようなモデルたちと仕事をしてきたわ。それはすごく良いことよ。だけど、私は、もう少し年配のモデルと仕事をしたいって思ってきたの。コレクションをデザインするとき、20代だけを考えているわけじゃない。あらゆる年齢が念頭にある。今回のコレクションは、誰でも着られる服を考えたわ。だから、誰でも着られるはずよ。
年齢によって服が決まるとは考えないんですね?
そう。全く思わない。
私があなたのショーが好きなのは、それが理由でもあるんです。華奢な女性だけじゃなくて…。
私には、それが自然なの。スタイリングのときに私たちが使うのは、強くて、自信を持ってて、面白くて、平気で闊歩する子たちよ。細かいことにうるさ過ぎたり、気取り過ぎてない女の子たち。そういうのが私は好きなの。ショーにはインタラクティブな部分があるから、モデルたちの個性のそういう面が見られるわ。ピンクのフリルのドレスを着て、台の上に立ってるだけじゃなくてね。そんなのは、間違ったメッセージを伝えると思うから。


建築の本に出てる人の服を見ることもある。素晴らしい家を持ってる人は、だいたい素晴らしい服を着てる

「かわいい」の定義を変えたいと思いますか?
それは難しいわね。私が興味があるのは「フェミニン」という言葉。「プリティ」や「ガーリー」という言葉は、少しネガティブな響きがあると思う。ピンクでフリルの付いたものを作ると、ほとんどそのままプリンセスやおとぎ話のカテゴリーへ直行。それが嫌なの。フリルのついたピンクの服でも、すごく力強いし、かわいいとか風変わりというよりは大胆で愉快なの。私は自分が可愛くて風変わりだとは思わないから、いろいろ試してそれを覆したいの。ピンクの服だって、タフになれる。女の子らしいとは限らない。女の子らしいことに問題はないし、悪いことでもないわ。ただ、どちらか一方であることを押し付けられるのは嫌なの。

- インタビュー: Rebecca Storm
- 写真: Lukas Gansterer