ポギーはスタイルで語る
未来に目を向けるUnited Arrows&Sonsのバイヤー & ディレクターは、ストリートスタイルのカリスマ
- インタビュー: Adam Wray
- 写真: Monika Mogi

スタイルが言語だとすれば、小木「ポギー」基史はさしずめ人間ロゼッタ ストーンだ。大胆かつ独特な「ポギー スタイル」は、一見不釣り合いなところから取り出したものを混ぜ合わせる。例えば、バスケットボール ジャージの上にかっちりしたスーツ、そしてつば広のフォーマルなハット。世界各地のファッション ウィークに集合するストリート フォトグラファーにとって、そんなスタイルはお気に入りの被写体だ。異なる服装流儀に隠された繋がりを結び付けるポギーの着こなしは、真摯に追究してきた文化の深い造詣をうかがわせる。ポギーは、過去20年にわたり、United Arrowsに勤めている。そしてバイヤーとして、本能とも言える直感を駆使してきた。United Arrows & Sonsは、日本でもっとも影響力のあるセレクトショップのひとつUnited Arrows傘下のメンズウェア部門である。ポギーがUnited Arrowsで働き始めた1997年は、折しも裏原宿ムーブメント、そしてA Bathing Ape、藤原ヒロシのGoodenough、Undercoverといったブランドの勃興によって、日本のストリートウェア界で最初の波が頂点に達した時期だった。以来、ポギーは、日本ファッション界を牽引する役割りを果たすまでに大きな存在になった。
アダム・レイ(Adam Wray)が原宿にあるUnited Arrows & Sonの近くでポギーと会い、人口知能が小売業にもたらしうる変化、優れたコラボレーション、音楽の好みがスタイルに与えた影響を尋ねた。



アダム・レイ(Adam Wray)
小木「ポギー」基史
仕事の旅行が多いですね。個人的に、そして仕事上で、旅行できることはとても重要ですか?
それぞれの国に、独自の考え方がありますよね。様々な意見を知ることは、自分の考えがすべてではないと肝に銘じる上で、とても大切です。 東京での自分の生活を考える助けになります。だから、仕事というより、コミュニケーションが大切なんです。そして、僕はファッションを通してコミュニケーションをしている、ということです。
今は携帯で、世界中のどこでもアクセスできますね。
間違いなく良いことですよね。僕が今着てるのはAdidasとやったコラボレーションのアイテムだけど、いくら僕たちが構想を気に入っていても、以前だったら海外の人たちとシェアするのはとても難しかっただろうと思います。日本マーケットを対象にした商品だったから。それが今は、インスタグラムに載せると、海外から反応がすぐにきます。一方で、敢えてウェブサイトも作らずに、とても小規模な店舗を開く人がいる。直接お客さんと触れ合うためです。インターネットがなければ、そういう反動もなかったでしょうね。
インターネット ショッピングが盛んになって、中間業者を通さず直接顧客に販売するブランドが増えています。United Arrowsのように複数のブランドを取り扱うセレクト ショップは、今後も重要でしょうか?
僕たちのビジネスは、もしかしたら縮小していくのかもしれません。今のまま人工知能が進化していけば、5年か10年のうちに、僕たちは仕事を失う可能性もあるでしょう。だけど同時に、人と直接会うことはとても大切です。人工知能のせいで僕たちが時代遅れになっても、自分の好きな仕事をしていれば幸せです。店に来る人がいたら、それは自分達に会いに来るのです。すごく嬉しいことじゃないですか。最終的には、誰かが僕の感性を人工知能に変えて、それを使って新しい店をオープンする。僕は自分の頭の中身を売って、もう仕事には行かなくてもいい(笑)。
Adidasとのコラボレーションの話が出ましたが、良いコラボレーションには何が必要だと思いますか?
日本の伝統では、結婚に「結ばれる」という言葉を使います。ほどけない結び目を作るという意味です。僕たち日本人にとっては、そのことに、非常に重要な文化的意味があるんです。日本の田舎に行くと、古い巨木のまわりに縄が結ばれていることがありますが、あれは、結び目に神様の魂が宿ると信じているからなんです。この例えはちょっと大袈裟かもしれないけど、これと同じ考え方をする友人同士でコラボレーションはやるべきかもしれません。最近は「ほら、コラボレーションしたよ」なんて言うけど、ただのビジネスだけのケースも多いですよね。

人工知能のせいで僕たちが
時代遅れになっても、
自分の好きな仕事を
していれば幸せ
近頃のファッション界のコラボレーションは、昔のノスタルジックなスタイルを取り入れることが多いですね。VetementsとJuicy Coutureのコラボレーションとか...。ファッションの世界で、何か新しいことをしている人はいるんでしょうか?
その質問の答えにはならないかもしれないけど、今の若い世代は、安いビンテージを欲しがってる。一点もののユニークな服です。Gucciを買って、それが最新のGucciだと人にバレると恥ずかしい。かつてファッションの業界人が、新しいJil Sanderの服を買っても、今シーズンのJil Sanderだとバレないように、1年寝かせてから着ていたのと同じですよ。必ず、古いものと新しいものが交差するときがあります。だから僕は、この世代からどんなデザイナーが登場するのか、とても楽しみにしているんです。
西欧では、日本のスタイルと言えば、たいてい原宿を思い浮かべます。あなたがUnited Arrowsで働き始めてから、原宿はどのように変わりましたか?
リーマン ショックの後、原宿はForever21やH&Mみたいなファスト ファッションばかりになって、原宿ならではの感性は変わってしまいましたね。それから2011年に震災があって、「自分達は死んでしまうかもしれない」と実感させられた。それで、みんなの考え方が変わりましたね。半年毎に新しいものを楽しむのもいいけど、「自分の人生に本当に価値のあるのは何か」を考えるようになった。
あなたの人生にとって、ファッションは価値がありますか?
熱にうなされているときは、ファッションのことなんて考えませんよね。でも元気になったら、「Gosha Rubchinskiyの新しいスウェットを買いに行こうかな」って考え始める(笑)。元気になった途端にね! それが僕の本質です。



札幌の出身だそうですが、札幌で成長したことの影響はありますか?
T札幌にはPrecious Hallというクラブがあって、ニューヨークには「Body & Soul」っていう有名なハウス ミュジーックのパーティがあるんです。Precious Hallのサウンド システムをデザインしたのはデヴィッド・マンキューソ(David Mancuso)で、「Body & Soul」のDJがしょっちゅうPrecious Hallへ来ては、パーティをしてた。他の場所ではやらない。僕の先輩たちは、Precious Hallは東京のクラブより音がいいってよく言ってました。札幌はすごく寒くて、すごく乾燥してるから音の返りが良い。僕はそれほど音楽には詳しくないけど、影響は受けてます。自分が聴く音楽と僕のスタイルは、どれもコーディネートにリンクしてる。よくパンクロックを聴いていたので、Dr. Martensを履くのは、当然、パンクロック カルチャーの影響です。Timberlandに関しても同じ。Timberlandを履くのは、ヒップホップへの敬意の表れです。
先ほどコラボレーションの話をしましたが、ヒップホップが今ポピュラー カルチャーを席巻しているから、コラボレーションが盛んなんでしょうか。ヒップホップの性質自体が、とてもコラボレーション的ですよね。
そう、サンプリングね。
昔は夜中に
服を引っ張り出して、
色々ミックスしてみて...
MCは色々なプロデューサーと仕事をして、MC同士が互いの曲に参加する。ほぼ固定したバンドで活動するロックとは、根本的に違いますね。
ヒップホップ カルチャーのルーツやアフリカ・バンバータ(Afrika Bambaataa)を思い返すと、アフリカ・バンバータはブラック・スペーズというギャングのメンバーだったけど、喧嘩にうんざりして、音楽とダンスで人を繋げようとした。今では、多くのメゾンがアフリカンアメリカンのカルチャーに注目して、かなり多くのデザイナーがヒップホップアーティストをキャンペーンやビジュアルに登用していますよね。僕も当初はいいことだと思ってたけど、今はちょっとやり過ぎだと思う時もあります。初期のヒップホップカルチャーは、何を着るかじゃなくて、どう着るか、だった。エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)が偽物のFendiと本物のFendiを一緒に着たのは、興味を引かれました。
あなたは、仕事でもあなた自身のスタイルでも非常に目立つ存在です。注目されたり写真を撮られることに、嫌気が差すことはありますか? ただのTシャツにジーンズで、人の中に紛れたいと思うことはありますか?
そんなにないです。手持ちの服をあれこれ組み合わせるのは楽しいから。バスケットボールのジャージにかっちりしたスーツを合わせてみたり。今でもたまにやっているけど、昔は夜中に服を引っ張り出して、色々ミックスしてみて、何を着るか決めたりしてました。手持ちの服を組み合わせたスタイルがストリートフォトグラファーの目を引いて、世界中へ発信されるのは、嬉しいことですよ。ファッションを楽しんでいても、もちろん、たまに疲れるときもありますが。今の仕事をしていなかったら、多分UniqloのTシャツとジーンズで過ごしてただろうな。安いし、質もいいし。その方が、幸せだったりして(笑)。


- インタビュー: Adam Wray
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