Empathy Los Angelesの自然体トーク
ブランド ネームを体現する試練と苦痛
- インタビュー: Kevin Pires
- 写真: Christian Werner
- 画像提供: Henry Stambler

まるで色鮮やかな衣装をまとったダンサーたちがパーティー会場に入るのを待っているかのように、ロサンゼルスのファッション地区は布地に彩られている。9丁目とウォール ストリートにほど近い場所で、私はヘンリー・スタンブラー(Henry Stambler)と会った。キラキラのシルバーのシークインが歩道に光の筋を反射して、即席のミラー ボールが街角をクラブへ変える場所。ヘンリーはまだ若いが、年齢は大した問題ではない。なぜなら、彼のブランドEmpathy Los Angelesは、若さを暗示しつつも、その範疇をはるかに超えたビジョンを持っているからだ。過去の関係が上手くいかなかった理由を理解したい一心で、何年もそのことを反芻し見直し続けてきた結果、誕生したのがEmpathyである。スタンブラーは、痛みそのものではなく、熟考の中で見出した創作の可能性からひらめきを拾い出す。何が上手くいかなかったのか、それが分かれば、上手くいってればどうなったのか、それを想像することができる。
痛みから創作への転換、ラッシュを母親に説明すること、アイデアの源泉について、ヘンリー・スタンブラーに話を聞いた。

ケヴィン・ピレシュ(Kevin Pires)
ヘンリー・スタンブラー(Henry Stambler)
ケヴィン・ピレシュ :Empathyの歴史を教えてください。
ヘンリー・スタンブラー:僕は、最初から服を作ろうとしてたわけじゃないんだ。僕は、失恋ですごく傷付いて、絶望的に落ち込んでたんだ。嫌になるくらい長い間、「服を着る」ってことを考えて過ごしたよ。必ずしも服を作ることじゃなくて、自分であることについて、他の誰かになることについて、人間にとって服が意味するものについて。単に服を構成している素材以上に、服が体現する色々な性質のことで頭がいっぱいだった。で、結局僕にできることは服を作ることだけだ、と思う瞬間があった。それが、当時僕が抱えていた痛みを外へ出す方法だったんだ。
その痛みというのは?
失敗した関係の産物。自分が行為の主体なんだっていう感覚が強くなってきて、その感覚を説明するには、過去に失敗した関係を自分が作った服の文脈で考え始める必要があったんだ。何が起きて、どこで失敗したのか。思い出や関係の中で自分がとった行動を見つめて、服を通してその意味を理解しようとした。ある意味で、自分自身の新しい物語、もしくは関わった人たち新しい物語を作り出すことだった。
つまり、カタルシスのプロジェクトだったのですね?
プロジェクトの名前を思いついたとき、すごくたくさん抱えてたんだ。必ずしも僕がいつもいつも忠実に実行できるものじゃないけど、そうありたいとは思う。思いやりがあって寛大な世界だよ。
あなた自身の反映だと言明することに、躊躇いがあるみたいですね。そこが、やや理解に苦しみます。人は、ふつう、自分を反映した作品を作るのではないですか?
今僕は、納得がいくからという理由で服をデザインしているわけじゃないんだ。思い出から生まれるアイテムも沢山あるし、どこから来たのか、正確に指摘することはできないよ。でも、最初の頃僕が作ってたのは、失恋への反応として、何かを救い出すの試みだったんだ。今は、本当に生まれて初めて、すごく満ち足りた状態。満足っていう新しい状況で前へ進むために、何か指標を見つけないといけないね。

幸せなときは、クリエイトが難しいですか?
幸せだと、状況について色々と考えるのが難しい。僕は比較的に批判的な人間だから。いつだって、問題を解決して、その切迫感からクリエイトするんだ。気分が燃えてないときは、別の考え方が必要になる。今はその状態へ移行してるところだな。必ずしも悪いことじゃないけど、服にどんな変化が生まれるのか、楽しみだ。
タグは、少なくとも視覚的には、ジェニー・ホルツァー(Jenny Holzer)に影響を受けていますね。様々なところから引用している。あのコンセプトはどこから生まれたんですか?
服に本来備わっている価値という考え方や、個々のパーツの総和よりはるかに大きな価値が生まれる事実を思い出させてくれる、そこが好きなんだ。だから、スニーカー文化はものすごく魅力的だと思う。僕は大好きだな。夢中ってことが。 みんな、ラベルを見てエキサイトするんだ。Saint Laurentの値札を見た途端、「わあ、ボタンダウンシャツが$850。そりゃそうだよな!」ってなる。値札についてるのは、製造コストをはるかに超えた何かなんだ。だから、「タグに、なんだか長くて、支離滅裂で、過剰にロマンティックな文章が書いてある。ああ、Empathyだ」ってこと。タグを見て、自分よりも大きな何かに属してる一体感を感じて欲しいんだ。
どうやってテキストを選ぶんですか?
僕の地球上でいちばんの親友、すごく才能があるライターのエミリー バノン(Emily Bannon)と一緒に作ったのが多いよ。ふたりで文章を探すし、ふたりで考えたのが50~60種類あるな。今までの人生を通じてずっと守ってきた、お守りみたいなフレーズ。

ラッシュの綺麗なイメージが、急に人気になりましたね。あなたも、花を背景にしたイメージを作ってます。あれには、レトロであると同時に非常に現在的な、奇妙なノスタルジーのコンセプトがありますね。
ラッシュについて自分のおかしな理論を語りながらクラクラしてくるなんて、自分でも信じられないよ! ともかく、僕がラッシュを好きなのは、すごく記号化されてるから。ラベルと同じで、サブカルチャーに訴えるイメージなんだ。実際にやったことがある人や、怪しげなゲイ バーとか、特定のサブカルチャーと密接に結び付いた場所へ行ったことのある人だけに分かる。僕のお袋はこのイメージを見て、電話をかけてきたんだ。「あれは何なの?」って。だから、説明する羽目になった。もう勘弁して!だよ。母親と、電話で、噛み砕いてわかりやすく説明するなんてさ。「これはドラッグだよ。でも役に立つんだよ」って感じ。


とんでもなく
ゲイになる
必要がある!

最近ではクィアが平凡な概念になりつつあるという考え方に、私は関心があります。あなたがクリエイトするイメージやブランドはクィアの関係にインスパイアされていますが、より大きなプロジェクトとして、ゲイであることは何を意味するのか、それを考慮することが含まれると思います。
同性愛がいかに正常とみなされるようになったか、僕はよく分かってるつもりでいたんだ。今回の政治の大混乱で雲行きが怪しくなるまではね。今現在ゲイであることは、もしかしたら去年までの話かもしれないけど、デートに結び付いたんだ。グラインダーとか、もっとローカルにゲイを公にできるその他のオンラインのプラットフォームとかね。いろんな方法で、ゲイでいることができるんだ。でも、事情は変わっていくだろうね。過激になって、公然と、目で見える形で、強烈にクィアにならなきゃいけない。とんでもなくゲイになる必要がある! 無視できないほど攻撃的なクィアのイメージがなかったら、どうやってマイク・ペンス(Mike Pence)みたいなアメリカ副大統領と渡り合えると思う?


送っていただいた参考資料はとても関連性がありましたね。2つか3つ、大きなテーマが登場してました。ひとつは、アラスデア・マクレラン(Alasdair McLellan)にせよ、ヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)やデレク・リジャーズ(Derek Ridgers)、イーウェン・スペンサー(Ewen Spencer)にせよ、若さにこだわったスタイル。これに対して、あなたの姿勢は?
僕と若さは、すごく奇妙な関係なんだ。視覚的には好きだけど、若さを中心にしたブランドを作りたいかどうかは、ちょっと疑問だな。僕は今20代の前半だし、もちろん、僕が関わる世界のほとんどは若さに関連してる。だけど、ユース カルチャーからアイデアをとるのは、安易なやり方だ。僕自身、ユース カルチャーはものすごく好きだけど、若さへの執着や崇拝はビジネスの手法なんだという事実を受け入れるしかないんだ。とにかく、売れるからね。みんな、若さとつながった幻想や欲望や現実逃避に共鳴するんだ。自分ではない何かになりたがる。15年若返って、クラブの奥の仲間内の部屋へ戻りたがる。例えばアラスデアの場合、被写体と誠実な関係を築くから、すごく共感を呼ぶんだ。自分が育った環境にいた種類の人間の、本質を捉えようとする。ピーター・ヒュージャー(Peter Hujar)の名前も挙げるべきだったな。彼も同じことをしたから。メイプルソープ(Mapplethorpe)と比べると、ふたりの写真のスタイルは比較的似てるけど、ヒュージャーは被写体に気を配って、ちゃんと大切にした。反対に、メイプルソープは、いっしょに仕事をする人間に対して、相手を疲労困憊させるくらいの、執着的な姿勢で接した。


HBOで放映されたメイプルソープのドキュメンタリーを見ましたか? 彼がいかに自分中心の関係を育んでいたか、明確に描いていました。
僕の対象とヒュージャーのような関係を作れたら、感激だな! それ以外に望みなんてないよ。だから、みんな、喜んでヒュージャーに写真を撮らせたんだ。どの写真にも、誠実さが溢れてるよ。


ユース カルチャーから
アイデアをとるのは、
安易なやり方
ウォレス・バーマン(Wallace Berman)のようなカリフォルニアのアーティストたちは、最新のアートとして、ジャンルに制限されないアプローチを提唱しています。誰もが写真家で、デザイナーで、俳優で、モデル。それは私たちの世代に特有な現象だと考えたりしますが、バーマンの作品集「Semina」をみたり、もっとルネッサンス期まで遡ると、芸術家はまったく違うところからインスピレーションを得ていたわけで、ひとつの狭いカテゴリーに創造の可能性を詰め込むようなことはしていなかった。ひとつのジャンルにとらわれないことは、制作にどんな影響を与えますか?
自分はそうできるんだ、そういう風に考えて仕事をしてもいいんだ、ってことを納得して初めて、僕はクリエーションを始められたんだ。とてもピュアな仕事のやり方だよ。いちばん効率のいい方法じゃないかもしれないし、人によっては手を広げ過ぎて商品が散漫になることもあるけど、僕には他のやり方は思い付かない。自分が本当に好きなものは何か、心に響くものを作る情熱は何から生まれるか、それを知ることが大切なんだ。自分がどうあるべきか、何を作るべきかに悩んで抱えていた自信喪失を捨てたとき、僕は作り始めることができた。


Empathyのインスタグラムには「世界を作る練習です。くだらないムードボードではありません」と書いてありますね。
あれは、Tシャツのブランドじゃないし、インスタグラムでもない。タンブラーで20,000件リアクションが付いたタグの写真でもない。僕はEmpathyを、対話の場所、僕が愛する人たちの仕事や情熱を称賛する場所にしたいんだ。デザイナーの名前は商品のタグに載せる。自分の下で働いているデザイナーって感覚で、ぞんざいに扱わない。今ある自分を作り上げてくれた人たちに感謝する気持ちを表す場所だ。
ヘンリー、あなたのいちばんの欠点は?
たぶん、絶対、自分のブランドの名前にふさわしい人間になれないってことかな。



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