SALOMONと超機能的ファッションの隆盛

ライターのGary Warnettが、今最高にトレンドセッターなスニーカーを発表し続けるブランドの正体に迫る

  • 文: Gary Warnett
  • 画像提供: Salomon

1947-1977

Salomonは、François Salomon(フランソワ・サロモン)、彼の妻、息子Georges(ジョルジュ)によって、1947年にフランスのアヌシーで創業された。Françoisには金属加工の専門知識があったので、最初はノコギリ刃の製造からスタートした。その後、主要製品はスキー板のエッジとスキー靴を板に取り付けるビンディングへ移動し、10年もの歳月をかけて製造技術に磨きをかけていった。些細な転倒が足首の骨折を意味した時代、1955年に登場したつま先で脱着可能なビンディングは救世主と言えた。1957年頃に発表された踵部分の圧力で作動するケーブル式ビンディングは、ゲレンデでの安全をさらに高めた。その後、1965年までに、現在のスキーブーツに見られる完全着脱式ビンディングのコンセプトを確立し、「あなたのガーディアン エンジェル」としてスキーヤーに売り込んだ。

小さな工房を大拡張し、1970年代初頭には年間百万ものビンディングを売り上げたSalomonは、一躍業界のリーダーとなった。ビンディングと並行してブーツの開発に進出した同社は、本格的なブランドになり、「スキーブーツを履くのに要する時間」というもうひとつの課題を解消する成果を実現した。当時の甲と脛で固定するフロント バックル タイプのブーツは、今すぐゲレンデを攻めたいという人たちにとっては手間だった。しかし、Salomonは、早くも1970年代に業界に先駆けて特許を取得したコンセプトを基に、1980年代初頭にリアエントリー式ブーツのコンセプトを完成し、史上もっとも美しく魅力的なデザインを完成させるに至った。

1978-1990

デザイナーと手を組んだフットウェアのデザインは、現代になって生まれたやり方のように思えるが、先進的な考えの持ち主のクリエイティブなアドバイスや協力を取り入れてモノ作りを行うのは、昔からの由緒ある伝統だ。デザイナーのRoger Pitiot(ロジェ・ピティオ)がSalomonに参加したのは1976年。彼自身、優れたイノベーターとして高く評価されているが、斬新なニュールックをブランドに持ち込んだのは、老練のフランス人工業デザイナーRoger Tallon(ロジェ・タロン)との共同作業だった。Tallonは、汽車(内部に掲示されている路線図も含めて)をはじめ、バイク、時計、ランプ、カメラ、家具、その他様々なデザインを手がけていた。しかし、スキーヤーが記憶する彼の偉業は、Roger と共同で開発して1984年に発表されたSX91だろう。リアエントリー式ブーツSX90の後継モデルだ。

SXシリーズは、5年もの歳月を捧げた研究の賜物であり、SX91 Equipeに搭載されたスライド式前方フレックス コントロール機能は、雪の状況や地形に応じて変更可能なプログラム型アジャスターであった。Salomonが特許を所有するフィット システムと相まって、このブーツは大評判になった。まるで誰もが羨望の眼差しを向けるバスケットボール シューズやランニング シューズのように、ネットオークションでは高値で取引され、新製品に最大の価値を見出す「通」が履くようになった。1980年代のスキーウェアは繊細さとは無縁で、大胆な赤の色使いと斜体の文字を見れば一目でブランドがわかった。しかし、80年代特有の過剰な要素にも関わらず、(「私たちの中の競争者のために」というコピーで表現された)SX90のバランス感と躍動感が、このアイテムを不朽の名作にしている。

1991-1996

Integralのように新しいネオンカラーや柄を施した個性的なブーツと連携させるため、Salomonは1991年までにスキー板の販売へ業務を拡大した。トップダウン方式のフィット感を向上させた結果、リアエントリー方式は下火になったが、PitiotとTallonと彼らのチームが作り上げたSalomonのデザイン言語やデザイン基準は、現在なお健在だ。ハイキング市場に参入の余地があることを認識すると、同様に主張を持ったハイキング ブーツの開発に取りかかった。1992年に発売したAdventureブーツには、クロスカントリー スキー用ブーツSR911の影響が強く見られ、同様の履き心地と型破りな非対称のファスナーを合体させている。このような革新的アイデアが発展して、プラスチック製ヒンジを取り入れて足首をサポートするシリーズが誕生するに至った。1993年発売のスキーブーツProfil Countryでは、ハイキングブーツのアッパーとスキーブーツのソールが融合している。

1990年代になると、ハイキング ブーツの要素を加味した軽量のハイブリッド スニーカーがファッションアイテムとなった。GORE-TEXを使用した、安全だがかさばらないフットウェアを目指す手法として、1980年代の初期に始まった新ジャンルの進化系だった。靴底のアグレッシブなグリップとアーチを支えるシャンク(インソールに埋め込まれた芯材)、しかもランニングシューズの軽やかな快適性を備えたフットウェアには、すべての大手スポーツウェア ブランドが参入した。奇妙なことに、Adventure 7がしばらくの間スペインのクラブ界隈で人気を博した一方、従来型の茶色いローカットのハイキング ハイブリッドExitは数年後に大ヒットした。1997年には、ExentricのようなX-Hikingシリーズのロー カット モデルが「Vogue」にも掲載された。

1997-2005

1997年は、adidasがGeorges SalomonからSalomonブランドを買収した年でもある。Georgeが1984年に抜け目なく買収していたゴルフ ブランドTaylorMadeも、合わせて買収された。そして、トレイルに絞っていた同社の焦点は、インライン スケートやアパレル コレクションを含めて、アクション スポーツの分野へも拡大していった。1990年代の後半までにトレイル ランニングはひとつの独立したカテゴリーに成長し、1998年にリリースされたRaid RunnerやVapor Trailなどの商品は、性能の高さで評価された。2001〜2005年の間にSalomonグループはカナダの有名なアウトドアブランドArc’teryxを買収したが、その関係はSalomonがフィンランドのAmer Sports社に売却された頃に終わりを迎えた。

2006以降

Amer Sportsが所有権を握ると、Salomonはトレイル ランニングとファスト ハイキングの分野を強化させた。2010年10月、ランニングが二度目のブームを迎えた時期にGeorges Salomonは息を引き取った。タフ マダー(ぬかるみのコースで競う長距離の障害物レース)やスパルタン レースなど、苛酷なイベントに熱心な参加者が集まり、現代デジタル世界の煩わしさとオンライン状態からの逃避願望が高まる中、トレイル ランニングの人気も上昇した。フィットネス世界に向けられた注目と時期を同じくして、2013年、ニューヨークのトレンド予測集団K-HOLEが「Youth Mode」なるレポートを発表した。そして、誤解のままに、適応、脱野望、順応を賛美するノームコアという考えを世界に撒き散らかすに至った。そんな時代の流れの中で、おびただしい数の写真、コラム、論説は、派手に主張する靴やアパレルの代わりに、機能的な、多くの場合あり得ないような服装を掲載した。根本的には180度の転換に過ぎない。結果として、2014年にニューヨークのセレクトショップVFILESがSalomonのSpeedCrossを大量に仕入れたのも驚きではなかった。

現在、スキー、登山、ハイキング、スノーボード用の靴、衣類、道具類と並行して、Salomonはトレイル ラン用シューズを大きな注力分野としている。超長距離パフォーマンス用S-LABコレクションでは、スペイン人のスキー登山家兼ウルトラランナー兼トレイルランニングの伝説的人物Kílian Jornet Burgada(キリアン・ジョルネ・ブルガダ)との間で、コンサルタントとエンドースメントを契約している。XAシリーズは非常に頑丈で、2007年にSpeedCross 2でデビューしたSpeedCrossシリーズは今なお好評だ。Contagripの牽引力、LT Muscleの吸収性、Climashieldの防水性などの高性能機能は、インスタグラムの「いいね」を獲得する目的だけで靴を履くグループとは異なる集団によって立証されている。

多くの人は毎日の通勤以上にエクストリームな状況で靴を履くことはないが、突然、たまらなく50キロの距離を走りたくなったり、ダッシュで山を越えて目前の風景を変えたいと切望したとき、今履いている靴が十分に使用に耐えるという知識は嬉しい。究極的機能性の追求は、過去の偉業を拒絶することであり、破壊できないほど頑丈な製品と手を組んで、はかないファッションを陽気に否定する現象でもある。The North FaceやNike ACGが、ヒップホップのビデオやスケート カルチャーなど、外部からの影響に根ざしてジャンルの垣根を超えたのに対し、Salomonはプロダクトそのものに注目する。「アーバン モビリティ」などという骨抜きの無意味な評価ではない。今を好み、過去の遺産を拒絶する人が増えるにつれ、Salomonのようなブランドは普段着としての重要性を増す。結局のところ、今は2016年。今の時代にわれわれが望む姿が、スニーカーにも要求される。

  • 文: Gary Warnett
  • 画像提供: Salomon