眠れぬ夜を
Rick Owensと過ごす

闇の力を手なずけるウィークエンダー バッグ

  • 文: Robert Grunenberg
  • 写真: Kenta Cobayashi
新たに登場した
アイコンが語る、
今シーズン
とりわけ注目すべき
アイテムの誕生秘話

昼間はなれる勇気がない誰かになれる夜。義務と決まりきった日常の束縛を断ち切り、加速する出世競争から抜け出る。休息し、方向を転換し、オフィスをクラブと置き換え、気晴らしに浸る。欲望の地へ赴く2泊3日の旅行には、Rick Owensのレザーのウェークエンダー ダッフル バッグが最適サイズ。星間空間のように黒く、真夜中の空気のように柔らかなバッグは、日常を脱する小旅行のセンシュアルかつ頑丈なチケットだ。週末の夜へ早送りすれば、5日間抑圧していたすべてが伸びやかに広がる。太陽が沈み、都会のあちこちに静寂が落ち、街路から人や車が消え、視覚が減じるにつれて感覚が増す。自分へ立ち戻るために、クラブの陶酔世界で忘我を味わう人もいる。感情は高まり、花火のように燃える。あるいは、自然へ向かって、雄大な永劫の銀河の下で謙虚を取り戻す。

どのシーズンも新しいコレクションでRick Owensが超越する闇は、邪悪なグランジと暗い魅惑の混合体だ。ゆったりしたバイアス カットとドレープを描く布は、人体構造を満足させ解放する。肉体を抑圧せず、精神を規制しない。1994年にロサンゼルスでブランドを立ち上げて以来、Owensはシグネチャのスタイルを提示し続けてきた。 すなわち、複雑な角度、レザー、そして大量のブラック。カルト的なダンスパフォーマンス(2014年春夏コレクション) の継承にせよ、あるいは社会的な肉体彫刻 (2016年春夏コレクション)の継承にせよ、今シーズンのメンズウェア コレクションでは、エッジのある禁欲的シルエットが柔らかく変化している。ほとんど肉感的なほどに華美な彫刻的フォルムは、夜空に浮かぶ彼方の星の軌道を周回しているように見える。

「僕のテーマは、ほんの少し野蛮であることの優美さ、 無頓着でいることのラグジュアリー」と、かつてOwensはインデペンデント紙に自身のファッション精神を語った。Rick OwensとDrkshdwという2つのラインのいずれも、もっと強烈な自分自身になれる力を授け、浪漫と魔術と享楽の場所へ旅する私たちへ変身させる。だから、バッグに旅支度を詰めるときは、必ず目覚まし時計は入れ忘れ、サングラスは忘れずに入れ、山ほどの自由奔放な夢想も放り込むこと。さあ、バッグのジッパーを閉めて、背筋を伸ばし、トム少佐のように月の裏側へと旅立とう。

  • 文: Robert Grunenberg
  • 写真: Kenta Cobayashi