SSENSE版: 2018年 贈る言葉
Gucci、Balenciaga、Comme des Garçonsのアイテムで綴る、ファッショナブルな激励の言葉
- 文: SSENSE エディトリアルチーム

卒業アルバムでよくある「将来一番成功しそうな人」に選ばれることほど、憂鬱で肩の荷が重いことはない。そういう人ほど、実は成功しないというジンクスのせいでもある。完全なるワナだ。あのトム・クルーズだって「将来一番成功しなさそうな人」にハイスクール時代に選ばれているのだから。はっきり言って、ハイスクール時の「一番 ~ しそうな人」の予想など全くあてにならない。プロムに一緒に行く相手を探すのすら難しいのに、ずっと先の将来の予測など到底無理なのは言うまでもない。だが、夏休みも目前に迫り、ラジオからVitamin Cの定番卒業ソング「Graduation Song」が流れるこの季節だからこそ、今回SSENSEのエディター陣が総力を集結してお贈りするのは、ちょっぴり懐かしく、「威風堂々」の曲が聞こえて来そうなエディトリアル。学園ドラマ『Bye Bye Hillridge Junior High』で一躍有名になったセリフ「あなたって最高。だからずっとそのままでいて」を地で行く、ずっと変わらぬことを願わずにはいられない人たちにぴったりのアイテムの数々を取り上げた。
ゴスにはまり、30代になってもそこから抜けられなさそうな人に
ゴス ファッションに身を包み、階段にたむろする。そんな同級生が、誰でも一人は思い浮かぶだろう。一人と言わず、数人思い浮かぶかもしれない。長きにわたり、こうしたゴス集団、もしくはゴスの群れ、いや、ゴスの大群は、さまざまな街、国、規模で、ハイスクールの校舎の階という階を占拠してきた。しかし、卒業して5年、10年経つにつれて、その大半はゴスを「卒業」していく。互いの湿った手と手をつなぐ感触。ショッピングモールでたむろしながら通行人に投げかける感じの悪い視線。半分に切ったハムサンドを食べ回しした思い出。それらのノスタルジー漂う記憶を、大脳皮質の奥深くにしまい込めなかった者は、ティーンエージャー御用達の雑貨店「ホット トピック」の煉獄でもがき続けるはめになる。反対に、ゴスから巣立ち、成功した者もいる。「変わり者のエミリー」として知られていた、かつての同級生は、当時していた歯の矯正もすっかり取れて、今をときめくUX デザイナーだ。一緒に飲みに行けば、ベルモット酒を何杯も奢ってくれるくらい羽振りが良い。アメフト部の花形クオーターバックだったチャドに言ってやりたい。どうだ、見たか!
菜食料理シェフになり、栄養インフルエンサーになりそうな人に
毎日買っているコールドプレスのグリーンジュースとサラダにかかる総額3000円弱という金額の正当性を考えた結果、そのジュースをライフスタイルと結びつけよう、あるいはどうせならキャリアにしてしおうと考えた人がいたとしても、2018年の今日なら不思議ではない。同じグリーンなら、いっそうのこと、インスタ映えするグリーンジュースで、緑色の米ドル札を稼いでみてはどうだろう。いまや『Modern Farmer』誌(いわゆる@modfarm)を読むことは、イケている証拠だ。要は、うまくパッケージ化さえすれば、何だってアリなのだ。この有害なものが溢れる世の中で「クリーン」に食べたり生活したいという憧れは、急に注目を集め始めたこうした職業への投資をあおる。人々がより健康的な生活を送るための手助けに従事するのは、有意義な行為であり、これ自体が崇高な行いであることは確かだ。そんな時は、CDGのハットをかぶって、マクロビ活動に勤しむのも良いかもしれない。既に記事で指摘されている通り、現代の消費者が求める健康的生活とは、見た目が健康であることと、それを実感できることの両方が必要条件なのだから。

画像のアイテム:時計(Gucci)
自分がソファで寝落ちしてしまった時に、そっと毛布をかけ、携帯を充電器に差し込んでおいてくれそうな人に
起きた瞬間、自分が置いたと思っている場所にその物がないとふと気がついた時の恐怖。寝る前に自分で毛布を用意したり、携帯を充電するなど、絶対にするわけがないのに、起きてみると全てが整った状態にある。誰かが、あなたの至らぬ所を、補ってくれた証拠だ。その誰かは、あなたが寝る姿を見て、毛布の端を体の下にはさみ込み、携帯のバッテリーが緑から赤に変わっているのに気づいてわざわざ充電しておいてくれたのだ。あなたが熟睡し、誰かに世話または観察されていることなど知らない間に…。そんな風に物事全てがうまく回るように秩序を保ってくれるのは、一体どんな存在だろう。そう、それは、あなたがちゃんとした生活を送るよう見張っていてくれる時計に他ならない。

モデル着用アイテム:フーディ(Balenciaga)
ブロック チェーンの会社を立ち上げ、意図せずして証券詐欺を起こしてしまいそうな人に
大学に進学せず、シリコンバレーにあるパロアルトに引っ越し、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)がかつて使っていた地下室から在宅で仕事をする働き方は、2000年代初頭に流行ったが、もはや時代遅れな話だ。2018年における真の起業家は、中3で学校を辞め、コーディングの短期集中講座に参加し、ラグジュアリーストリートウェアの転売価格と連動した暗号通貨を作る。そしてICO (Initial Coin Offering/新規仮想通貨公開)で調達した資金を全て人気ストリートブランドKAWSのフィギュアとThe Boring Company社の火炎放射器につぎ込み、トンズラしたあげく、投資家や中央銀行が気づくより先に、人工知能が人類の知性を越えるというシンギュラリティが実現し、我々の集合的意識がクラウド上にアップロードされないだろうかと願っている。

モデル着用アイテム:シャツ(HOPE)
隠れリッチになりそうな人に
性格がとりわけ興味をそそるわけでも面白いわけでもないが、とにかく、すごくいい人。欠点が無さすぎ、あるいは善意の塊と言ってもいい。責任感があって、頼りになる。隠れリッチのライフワークとは、コネクションを作ること。アッパーミドルクラスの倫理規範がDNAに組み込まれ、純粋に世の中のためになることをするように育てられてきている。人間版ゴールデンレトリバーとでも言おうか。 面白みには欠けるが、とても人懐っこい。クラスで唯一自分の車、いつも最新のiPhoneを持っている。そして、そのiPhoneで両親と礼儀正しく会話している。常に最新のスタイルに身を包み、すすんで皆に奢り、だからと言ってそのことを鼻にかけるわけでもなく、気前良くドラッグもシェアしてくれる。決断すること、週末のお出かけ、買い物、その全てにおいて肩の力が抜けている隠れリッチは、ファッションにセーフティネットをはることも忘れない。「これは、なかなかおもしろい柄だな」と隠れリッチは考える。「一度だけ着たら、誰かにあげてしまえばいいか」
Gucciアンバサダーになりそうな人に
ハイスクールの時に一目惚れした、ギターおたくの彼。首にはチョーカーをつけ、チェック柄を好んで着ていた。コーデュロイのシアリング ジャケットを着て、学校のロッカーや赤い愛車に寄り
かかっている。皆に言わせると、その寄りかかった姿が実にサマになっているという。まるで、人生に疲れて気だるいから真っ直ぐ立つことはできないとでも言っているかのように。さらに特筆すべきは、彼がスウェットシャツを脱ぐ様子。まさに90年代グランジ風の胸キュンものだ。彼は、下の名前ではなく、フルネームで呼ばれ、眉毛から髪の毛まで美しくブロンドに脱色し、どこかの激しいファイトクラブに属するものの、『アメリカン・サイコ』よろしくパトリック・ベイトマン(Patrick Bateman)のような同僚の嫉妬をかい、殺されてしまう…いや、違う、最近ロンドンに引っ越したんだったかもしれない。とにかく詳細は不明だが、何年も経ってから、何を思ったのか髪をコーンロウに編み上げ皆の前に現れたかと思うと、アップタウンのアパートメントに押し入り、ジョディ・フォスター(Jodie Foster)とクリステン・スチュワート(Kristen Stewart)をコンクリート製のパニックルームに閉じ込めた後に、20kg近く減量してマシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)と一緒に映画主演を務め、アカデミー賞を受賞…なんてことはないか。

モデル着用アイテム:トラウザーズ(Rag & Bone)、T シャツ(Amo)
オレンジワインについてひとこと言わずにはいられない、チーズの盛り合わせにイチジクを添えそうな人に
現代のキュレーターたるもの、ギンガムチェックのトラウザーズなしでは出かけられない。ブルーとホワイトのチェッカー柄のファッションに身を包み、颯爽と歩き回る姿は、コンテンツ制作を中心に24時間休むことなく回っていく生活にぴったりだ。授業をさぼっては、ファーマーズ マーケットやヴィンテージ ショップを物色し、次なる流行を見つけるのが日課。教室で授業を聞いているよりも旬のハーブや、一番かわいいバケツ型バッグやポプリンブラウスをどこで買えるのかを知る方がよっぽど役立つだと思っている。確かに、心の拠り所であるセラミック雑貨や生け花と同様、そういったモノがどこで手に入るかのを知るのは、有意義だ。Instagramだって、自動的に投稿がされてフォロワーが増えていくわけではないのだから。

モデル着用アイテム:帽子(Beautiful People)、ブラウス(Beautiful People)
映画『それでも恋するバルセロナ』を地で行くような恋愛劇を繰り広げたあげく、パーソンズ美術大学を3年次でドロップアウトし、ヨーロッパへ引っ越して20歳年上のビジュアルアーティストと付き合いそうな人に
小ぶりのパナマハットをかぶるということは、現代風に言えば「ああ、あの女ね」という反応を引き起こす。そんな帽子をかぶることでもしない限り、彼女は、自分の一族が植民地時代にやましい手段で成した巨万の富と距離を置いている証拠として隔月ごとに自分で家賃を払っている、というスタンスを保つことができない。大学1年生の時、彼女はパティオでイームズチェアを使い、1週間もの間、コルシカから空輸されてくる野菜のチャード以外口にしなかったことで既に有名だった。だが、今ではそんな浮世離れした生活はやめて、落ち着いているはずだ。だとすれば、子供の観ていたアニメ番組『Where on Earth Is Carmen Sandiego?』のタイトルのごとく、小ぶりのパナマハットをかぶったあのカルメン・サンディエゴは、一体どこへ行ってしまったのだろうか。きっと、スペインの海岸沿いの街のどこかで、小さすぎて何も入らなそうなバッグを片手でブラブラさせながら、もう一方の手で、焼きたてのバゲットとローズウォーターのボトルを抱えて歩いているのだろう。あるいは恋人の名前を、半ば意図的に間違って発音しながらセックスの最中だろうか。きっとその姿はあまりにも優雅だから、ポルノ映画にして、そのフィルムを焼き尽くし、燃え残った灰で、びっくりするくらいお高いアンチ エイジングのアイ クリームでも製造したくなるに違いない。
- 文: SSENSE エディトリアルチーム