SSENSE ウィメンズウェア・レポート: 2016年秋冬
今シーズン以降に注目のアイテムを公開
- 文: Emily Friedman and Mary Tramdack
- 写真: SSENSE Buying Team

ポワゾン
1985年に発売されたChristian DiorのPoisonは、パワードレッシングや動物的欲望に満ちた贅沢三昧の時代を代表する女性用の香水だった。映画『虚栄のかがり火』の雰囲気を漂わせるようなブティックやディスコの内装とマッチし、伝統的なパウダーフレグランスに対する新しい見解を示したのがPoisonだった。しかし2016年の今日、絢爛豪華であることは、手段ではなくより遊びに近くなってきた。過剰を表現する方法は、遠慮がちに、そして賢明に行われることでいっそう影響力を持つのだ。目を見張るほど尖ったジャケット、威厳のある色、ゴールドのひらめき、まさにこれらのように。

ブーツ指数
1926年、経済学者のGeorge Taylorが提唱したヘムライン指数なる理論では、株式市場が上昇トレンドになると女性のスカートの丈もじょじょに上昇し、経済が低迷すると下降すると言う。われわれが、それをアップデートするならば、ブーツ指数ということになる。今シーズン、サイハイ・ブーツのセレクションが豊富なのは、われわれが飛躍的な経済成長と楽観的な考えの時代に生きているからだ。大胆さやセクシュアリティーが、まさに大流行していると言える。


Rei Kawakuboのバーチャルな戦士たち
花柄のジャカード織によるパウダーピンクのルック。それを作ることができるのはComme des Garçonsの美しき狂気だけだ。Rei Kawakuboによる18世紀パンクのユニフォーム。今年の革命家たちは台形スカートを履いているだろう。これ以上の幸せなんてあるだろうか

変わり続ける形
現在は、流動的で不定形である。地に足をつけておくには、形が変わることに対してオープンでいることが一番の得策のようだ。矛盾はウソではない。柔軟なのである。そして、より重要なことに、それは複雑なのだ。今シーズン、不調和であることの美しさを取り入れるテーラリングが大幅に増えている。スカートの裾のラインが交わらなかったり、アクシデントが称賛されていたり。複雑であることをお互い存分に楽しもうじゃないか。

ジーンズの1000年
「ラグジャリーなジーンズ」って矛盾している? 「高級ジーンズ」なんて必要ない? それが何か問題でも? フランス革命によって半ズボンが排除されて以来、人間が好むパンツと言えばずっとジーンズが主導権を握ってきた。ファッションの必需品の中で、姿を変えずに生き残っているアイテムはそれほど多くない。それも長さやウエストラインが進化しただけで、それほど大きな変化ではない。ここからまた次の500年へ向けて乾杯しよう。

バッグの上にバッグの上にバッグ
雑誌の表紙を飾るモデルが雑誌を抱えている。彼女が持つ雑誌をじっくり見てみると、あなたが手にしている雑誌と同じなのである。Loeweのジェットセット・クラシック、Amazonaトートの最新作において、デザイナーのJonathan Andersonはそのようなミザナビーム(入れ子構造)による目の錯覚を再現している。小型版のトートを飾り付け、貴重品を持ち運べるようにデザインされていている。まさに、旅の幻覚的な特徴を体現しているバッグなのである。

すでに作られた物を新たに作り出す
シンプルが支配しているときには、職人技が新しい金字塔を打ち建てる。まもなくSSENSEに入荷する日本のカルト・シューズブランド、Hender Schemeは、伝統的な靴作りが持つ職人的な生産手法を、最新でミニマルなデザインに当てはめている。彼らはありきたりな物を新しく作るよりも、スニーカーが受けるにふさわしい待遇を与えるのだ。

ベルベット
ベトナムの水上マーケットからロックスターのチェルシーブーツまで、ベルベットは至るところまで旅をする。時代に左右されることなく人を誘惑するその特性は、ベルベットの気まぐれな姿勢に起因する。ベルベットのことを逆なですると、たちまちあなたの情熱的な恋人になるだろう。見られるよりも直接手に触れられることが多い生地なんてないのだから。官能的だと、時代遅れにはならないのだ。


絵文字の黄色
オックスフォード英語辞典が選ぶ2015年の今年の言葉は、[crying face emoji]である。現代社会において、瞬間的に、感情的に、いかなる言語でも理解ができることがもっとも効果的なメッセージであることは、いつの時代よりも明らかだ。絵文字で描写される世界では、鮮やかな黄色のスマイリーフェイスがグローバルな結合組織の役割を果たしてくれている。つまり、われわれの絆を深めてくれるのだ。絵文字を賞賛しよう。そして、それを身に着けてみんなの誇りにしよう。

新たなユニセックス
人間が作ったジェンダー間の制約をデザイナーたちが取り払うとき、われわれの関心事は機能性へと向かう。ロンドン在住のメンズウェア・デザイナー、Craig Greenのブランドを代表するパーカーは、ほとんど変更を加えずに、彼の初めてのレディース・コレクションにも適用された。これによって彼は、他に例のないしなやかな着こなしを私たちに教えてくれる。見るからに繊細なワークウェアである。場所もシチュエーションも問わないユニフォームである。これが、両性具有の新しい現実の一面なのだ。

スキーのあとで
冬は苦痛であってはならない。遊び心にあふれているべきだ。陽気で用意周到な人たちなら、冬は夏に取って代わることができる。ホットヨガをスキーのダウンヒルかスラロームに取り替えてみよう。トレーニングの後のクールダウン用ユニフォームを楽しく順応性のある冬の服装に変えよう。次に行くディナーパーティーでは、ダウンコートを入り口で預ける必要があるなんて誰が言った? スキー用のサングラスを、ガラス張りの高層ビルからのかすかな光に合わせてはいけない? 今年、都市こそがわれわれにとっての山なのだ。


デジタルノマド
モバイル技術の日々の進歩により、われわれはポケットの中に都市を収め、身体を自然の中へ解放する。「デジタル世界に接続」していることで、そのどちらも可能なのである。さらなる調査を進めると、自然界の回路はコンクリートの世界で目にする物よりも未来的であることが証明されている。ハイキングブーツにへばり付いた土のかけらは地球の歴史のSnapchatなのだ。沈みゆく太陽のあらゆる角度から、新たなインスピレーションを得ることができる。ここはあなたの世界なのだ。この世界の中で、あなたは偉大に見える。


カーボンは新しいブラックだ
ミニマルなデザインはいつも引き算である必要はない。カーボンはそれを証明している。4つの面がある原子として、カーボンの構造はわれわれのコンピュータと身体を結び付ける。そこでは、遥か遠くの宇宙空間と奥深いジャングルが出合い、石炭がダイヤモンドになるのだ。カーボンを取り出して見ると、その表面は光るグレーの鏡のようだ。まるで何かを作り出したり破壊したりするわれわれの潜在能力を反映しているように。カーボンは、われわれの文化と、そのテクノバイオロジーの中心にある。そして、それはプレッシャーの下でよく作用するのだ。
Lurex
戦後のイギリスで開発されたLurexは、初めて科学技術が使われた生地のひとつである。錬金術のように、メタリックなゴールドやシルバーから伸縮する糸へと姿を変える。Pope John Paul II(ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世)をはじめ、Madonna、数多くの国際的フェンシングチーム、そしてVetementsの最新コレクションでも目にすることができる。素材は矛盾をはらんでいるときがいちばんいい。Lurexはそう証明している。
- 文: Emily Friedman and Mary Tramdack
- 写真: SSENSE Buying Team