大地を踏みしめる
クレープ ソール

天然ラバーソールが持つ独特なスタイルの魅力に迫る

  • 文: Romany Williams

クレープ ソール。この常に新鮮なテクノロジーで作られたフットウェアは、硬くなったグミの上に立っているような履き心地だ。George Coxのクリーパーからadidasのガゼル、Nikeエアマックスまで、どのブランドも過去にクレープ ソールのシューズが作っている。クレープ ソールがセンス良く取り入れられると、ちょっと奇抜さの加わった、クラシックなスニーカーが出来上がる。

ここ何シーズンにもわたり、ファッション業界では、かつてダサいと考えられていたものの再利用がトレンドになっている。クレープ ソールはその独特の持ち味から、昨今のこのトレンドにぴったりとはまる。そこでは、Craig Greenが手がけたMoncler Geniusの誇張されたスノースーツのように、不格好なスタイルが伝統や実用性にインスパイアされたデザインと組み合わされるのだ。クレープ ソールは、Y/ProjectとUggのコラボレーションほど極端ではない、控えめなノスタルジー成分を提供する。

クレープ ラバーを取り入れたシューズは、オリジナルのデザインとはまったく違う、新しいスタイルを獲得する。そこに水でふやけてシワシワになった指のようなテクスチャが生まれる。多くの場合、染色されていないクレープ ラバーは、天然ゴムそのままのベージュに似た淡い茶色だが、自然のままでも実に味わい深い。スポーツウェアのレガシー ブランドのNikeReebokadidasが長年クレープ ソールを使ったデザインを開発してきただけではない。GucciMaison MargielaLemaireは、この素材を用いることで、揺るぎないクールさはそそのままに、ラグジュアリー特有の近寄りがたさを和らげている。

Supremeは長年Clarksとコラボレーションを続けており、今年はじめにはオリジナルのウィーバーが販売された。それに倣ってドレイク(Drake)のチームも、OVOとワラビーのコラボレーションという、より特別なエディションを販売している。どちらのコラボレーションもシルエットにClarksの定番である分厚いラテックスのクレープ ソールを取り入れている。2月には、カニエ・ウェスト(Kanye West)もYEEZY シーズン6の控えめなアイテムのひとつに、クレープ ソールのスニーカーを選んでいる。

そんなクレープ ソールは、モデルのパロマ・エルセッサー(Paloma Elsesser)からコートサイドのレブロン・ジェームズ(LeBron James)、あるいはセルマ・ブレア(Selma Blair)が近所でちょっとした用事を済ませる際に愛用するなど、幅広いセレブたちを魅了してきた。彼らにひとつ共通項があるとすれば、それは物怖じしないタイプの人のスタイルという点だ。現在最も影響力のあるブランドやセレブリティの多くが、今なおクレープシューズを選んでいる。この足元の波打ったベージュのラバーのスタイルに夢中なのは、私だけではないようだ。Clarksといえばワラビーやデザートブーツの代名詞ではあるが、ただそれだけではない。重要なのは、その底にある素材そのものなのだ。そこで今回は、クレープ ソールを中心に足元のファッション チェックをしてみたい。

ハイファッションとクレープ ソール

2018年秋冬シーズンのMargielaメンズコレクションのため、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)は、The North Faceのヌプシ ブーティーを彷彿とさせる、クレープ ラバーのソールがサイドにまで伸びたキルティング ダウンのスリッパをデザインした。そのソールは、ブランドが培ってきた伝統のイメージとアウトドア好きの精神性を思い出させる。両者の流行を考えれば、納得のデザインである。ローリン・ヒル(Lauryn Hill)と1830年創業のWoolrich、Raf Simonsと1952年創業のEastpakの組み合わせを想像してほしい。630カナダドルで販売されているこれらのスリッパは、私が今まで見た中では最も高額なクレープ ソールの靴だ。Clarksが1967にワラビーを発表したときは32ドルで販売されていたのだが、当時は、それでもかなりの高額だった。その分厚く特徴的なクレープ ソールは、天然ゴムの樹液を凝固させたものから作られており、現在でもその生産方法は変わらない。今日に至るまで、クレープ ソールはブランディングを必要としない、手頃なラグジュアリーの代表だ。ただしMargielaの場合を除いては。

クレップ チェック

ショーン・ポール(Sean Paul)は、昨年のインタビューで、ジャマイカン・パトワ語で「クレップ」という言葉がどのように「靴」を意味するようになったのかと尋ねられ、直接の起源はわからないが、彼は生まれてからずっとその言葉を使っていると答えている。1825年にイギリスでサイラスとジェームズのクラーク兄弟により創業されたClarksが、ジャマイカで浸透し始めたのは60年代後半になってからだ。そしてイギリスからの入植者に関連した多くのファッション アイテムと同じように、Clarksもまた富や名声の代名詞となった。60年代後半、ジャマイカの高校生だった私の父は、Clarksに初めて人気がで始めた頃を覚えていた。彼は「クレップ」という語の元になったのは、多くの記録が示す通りジャマイカ人のClarks好きとクレープ ソール好きに端を発する可能性が高いと信じている。思うに、父には思い当たる節があるのだろう。ストリートウェアがメインストリームとなった今、この「クレップ」という言葉も現代のスニーカーマニア用語として定着した。特にイギリスでは、人のスニーカーを品定めする行為である「クレップ チェック」が完全に習慣の一部になっている。上の写真は、父がカナダに移住した後の1985年にデパートのカタログの切り抜きだ。当時、北米においてはまだ、Clarksはイギリスのいいところのお坊ちゃんのスタイルを連想させるアイテムであり、ジャマイカの不良少年スタイルとは正反対だった。

メンテナンス とクレープ ソール

メソッド・マン(Method Man)の汚れたワラビーの靴底が見えるこの写真を見ると、クレープ ソールのエキセントリックさを思い出さずにはいられない。1928年、コヴィー伯爵という名の男が自分のタイヤをクレープ ラバーで包んだ初の冬用タイヤを発明し、これが雪や氷で驚くほどのグリップ力を発揮したという。だがこの逸話に、私はやや困惑している。冬場にクレープ ソールで歩くなど、路上でアイススケートをするようなものではないだろうか。柔らかく浸透性の素材に防水性はなく、濡れるとほとんどトラクションはかからない。一方、乾燥している場合は静電気を帯び、クレープ ソールの剥き出しの面には埃や糸くずや髪の毛などが集まってくる。また、厚底のクレープ ソールを履いていると足首をくじく可能性もある。ワラビーはその原因の最たるものだ。一方、底の薄いクレープ ソールは、そのうちにすり減って、履いていないときはソールが上の方に捲れ上がり、足跡もわからなくなってくる。クレープ ソールの使用感は洗練されたものではないが、かなり実用的で快適だ。ただし、扱い方を知る必要がある。「埃は歯ブラシで素早く除去すること」。ポップカーン(Popcaan)流のClarksのヒントは今も生きている。

ラップとクレープ ソール

私がアメリカのラッパーが80年代から90年代にかけてクレープ ソールを取り入れていたことを話すと、父は「Dem guy deh copy we (あいつらは俺たちの真似をしてる)」と皮肉を言う。不良少年たちはジャマイカでクレープ ソールを有名にした。そして、カリブ海のスタイルに影響を受けたラッパーたちが、それを北米で有名にしたのだ。クレープ ラバーは、他のフットウェア素材にはない方法で、ラップの思想やスタイルを体現している。クレープ ソールは、それを履く者にそれなりの自信を要求するようなところがあり、カッコよく履きこなせるかは、その人の力量にかかっている。ワラビーはすでに憧れの靴だったが、ラッパーたちはそれをさらに明るい色やカスタム染色によって一段上のアイテムへと引き上げた。もちろん、ラバーのソールは何ら修正を必要としない。クレープ ソール、特にワラビーを履くといつでも目立つことができるが、それを脱ぐ際にもある種の自信が必要だ。だからこそ、たとえワラビー好きの帝王ことゴーストフェイス・キラ(Ghostface Killah)本人が、Supremeと共同開発しようと、ワラビーはこれまで完全にメインストリームになることはなかったのだ。

至高のクレープ ソール

Lemaireが2017年の秋冬メンズコレクションで、Clarksの中でも最もレアなデザインのレッドランド ブーツでコラボレーションすることを選んだことは、多くを語っている。レッドランドはよりモカシンに近いスタイルのワラビーで、ソールをアクセントに使った、下のクレープ ラバーがつま先と踵部分まで巻き上がり、牛が鼻を舐めるようにスエードを包み込むデザインだ。Lemaireはシンプルで控えめなデザインで知られるブランドだが、クレープ ソールを使うことで、ちょっとした冒険をしている。これは異色の華麗さであり、ごく控えめな、究極のクレップ チェックといえるだろう。

Romany WilliamsはSSENSEのスタイリスト兼エディターである

  • 文: Romany Williams