Courrèges が語るファッションの未来

2016 年の秋冬ランウェイ ショーを間近に控えたデザイナー デュオをSSENSEが訪問

  • インタビュー: Elisabeta Tudor
  • 写真: Quentin Saunier

未来という目標は、常に我々の先を行きます。間もなく Courrèges でコレクションの第 2 弾を発表する 26 歳のデザイナー、Arnaud Vaillant と Sébastien Meyer は、常に変動するアバンギャルドの基準を反映するかのように、ユニークな立ち位置を占めています。パリのモダール・インターナショナル学院出身のスタイリスト兼デザイナーである Meyer と、ビジネスの学位を持つ Vaillant は、2013 年に協同でウィメンズウェアのブランド、Coperni Femme を立ち上げました。ミニマルでフェミニンなデザインを特徴とするこのレーベルは、繊細なジオメトリーのアクセントが清新な印象を与え、2014 年の栄誉ある ANDAM ファースト コレクションズ プライズを含む、数々の賞に輝きました。その後、2 人は再始動を目指す Courrèges にアーティスティック ディレクターとして迎えられることになります。

1960 年代のフューチャリズムにおける様式美は、André Courrèges によって生み出されました。ホワイトのビニール製ミニスカートやゴーゴー ブーツに代表される宇宙時代のデザインは、当時の人々に鮮烈な衝撃を与え、最先端技術を愛してやまない、自信に満ち溢れた、未来に突き進む若者世代のユニフォームとなりました。しかしその後、Courrèges は数十年にわたる休眠状態に入ります。そして今、Courrèges を休眠状態から解き放ち、ブランドの伝統であるフューチャリズムを現代に蘇らせる大役を、Vaillant と Meyer が担うことになりました。その大役に際して現実主義の 2 人が出した答えは、「過剰なコンセプトを廃し、作品数を増やす」です。
現在、2016 年の秋冬ランウェイ ショーのフィッティングが行われているパリのスタジオには、ブランドの再スタートに挑む 2 人が放つ強烈なエネルギーが満ちていました。Elisabeta Tudor は、スタジオで精力的に活動する Vaillant と Meyer のインタビューを行い、シンプリシティを追求する新しい Courrèges の現在と未来について質問しました。

Elisabeta Tudor

Arnaud Vaillant

お二人の過去についてお聞かせください。コラボレーションすることになったきっかけは?

Arnaud Vaillant: その質問を自分自身に問いかけたことは一度もありません。なぜなら、我々のコラボレーションに特定のルールは存在せず、すべてが実に自然に行われているからです。我々は 7 年前に出逢って以来、信頼関係を築く術を学んできました。当初は、お互いのプロジェクトを手伝い合ったりしていたのですが、やがて協同で独自のウィメンズウェア レーベル、Coperni Femme を立ち上げることにしました。最初のコレクションを発表してすぐ、いくつかのコンテストで優勝し、現在に至ります。我々が Courrèges のアーティスティック ディレクターになれるなんて、今でも夢を観ているような思いです。

自分たちが立ち上げたブランドを休止して Courrèges に専念することにした理由は?

Arnaud Vaillant: Courrèges にはそれだけの価値があるからです。我々は若く、まだ 26 歳なので、クリエイティブなアイデンティティが異なる 2 つのブランドに頭脳を分割して注ぎ込むのは困難です。Courrèges の CEO は、我々を見つける前に、何年もクリエイティブ ディレクターを探していました。我々は Courrèges の人たちと何回か面談し、彼らは最終的に我々を採用することに決めました。以後、やるべきことが山積していて、本当に大変な日々を過ごしています。Courrèges は素晴らしいブランドであり、我々の全身全霊を注ぎ込む価値があります。我々は Courrèges のコレクションだけでなく、クリエイティブの画像から店舗、ウェブサイトに至るまで、あらゆる要素を手掛けています。

Courrèges ほどのブランドを刷新するのは並大抵の挑戦ではないと思います。まず何から取り組んだのですか?

Sébastien Meyer: Courrèges は長い間、休眠状態にありました。60 年代のまま足踏みしていたのです。そこで、まずはブランドにクリエイティビティを取り戻すため、すべてを吹き飛ばしてドアを開け放つ必要がありました。我々が Courrèges で手掛けた最初のシーズンに対するメディアの注目度と商業的成功は、この挑戦が実を結んだ成果です。

Arnaud Vaillant: 我々はデザイン スタジオを持たなかったので、最初の挑戦は必要な人材を集め、アトリエを立ち上げ、自分たちのコレクションをデザインするための作業スタイルを確立することでした。なぜなら、ファッション デザインに対する我々のアプローチは、他のラグジュアリー ファッション ブランドとは少し異なっていたからです。我々は製品カテゴリを重視して作業を進めます。

おっしゃる通り、Courrèges はトータルなスタイルではなく、キーとなるアイテムをハイライトすることを重視しているようです。ファッションに対するお二人のアプローチは、業界の常識とは正反対のように見えます。

Arnaud Vaillant: そのとおりです。そして、我々のアプローチが異なるのには 3 つの理由があります。最初の理由としては、Courrèges がかつて伝説を打ち立てた象徴的なブランドなので、我々は真っ先に André Courrèges の主要アイテムの復活に取り組んだという点があります。ミニスカート、バイカー ジャケット、シフト ドレスなどです。Courrèges のワードローブ アイテムのアーカイブには、極めて優れた、希有な現代性を持つデザインが残されていました。我々をカテゴリ重視のシンプリシティへと導いたのは、Courrèges の遺産です。2 番目の理由は、市場には奇妙で、複雑で、大胆なファッションがすでに数え切れないほど存在しているため、我々は純粋なシンプリシティを追求することで、飽和した市場からファッションを解放したいという欲求があるという点です。そして最後の理由は非常にシンプルです。今の時代を生きる女性の欲求を満たしたいのです。ファッションを愛する現代の女性は、豊かな知識を備えており、ありとあらゆる最新情報を日々採り入れています。そうした女性は、ファッションをトータルなスタイルでは捉えません。自分の服装や都合に合わせて使い方を工夫できるアイテムを求めているのです。顧客にトータルなスタイルではなく、キーとなるアイテムを個別に提供するというアイデアは、ここに根差しています。

お二人にとってのシンプリシティとは何ですか?

Sébastien Meyer: Courrèges にとってのシンプリシティとは、洋服の原点への回帰であり、ファッション デザインの核心への回帰です。製品カテゴリを確立する過程を楽しみ、洋服のデザインをどのように改善できるか追求する過程を楽しむことです。我々にとってシンプリシティとは、洋服が今ここに根差すものであり、発表と同時に理解して着こなせるものであることを意味します。さらにシンプリシティは、過剰に入り組んだコンセプトに囚われたくないという思いの表明でもあります。我々はファッションが熟考され、高度に仕立てられ、高品質であって欲しいと願っていますが、ファッションにとって最も重要なのは、万人に理解してもらえるかどうかです。それこそがファッションの最重要事項なのです。

2016 年の秋冬コレクションのテーマやインスピレーションは何ですか?

Arnaud Vaillant: 今期の最も大切な要素は、André Courrèges のアーカイブから着想を得ました。それは、彼がデザインしたダイアモンド ドレスの一つに用いられていた、特徴的なダイアモンド パターンです。我々はそのパターンをカットアウトしてシースルーにする形で、ドレスの上に同じパターンを再現しました。実際、André Courrèges が遺した言葉の数々からも、我々はインスピレーションを得ています。彼は「洋服のデザインに光を当てるのが夢だ」と語ったことがありました。我々はこのドレスで、彼の夢を正確に実現したいと考えています。

Courrèges の遺産がお二人にインスピレーションを与えているのですね。とはいえ、お二人は若者世代ならではのインスピレーションも数多くお持ちのように見えます

Arnaud Vaillant: 我々は自分たちの世代を形成し、社会を理解し、世界を満たすエネルギーを感じ、若さに向かい合い、ファッションの未来に目を向けようと努力しています。一つだけ確かなのは、Courrèges は未来的なブランドであり、それゆえに我々は Courrèges を愛しているということです。André Courrèges は彼の世代に大きな影響を与えました。その影響があまりにも大きすぎたため、Courrèges というブランドは 60 年代に囚われてしまいましたが、Courrèges は本来、アバンギャルド、モダニティ、イノベーションという DNA を備えています。我々は常にこの精神を念頭に置いています。また、最新コレクションの 1/3 がすでに販売されているのも、この革新への欲求があればこそです。

今日のファッション業界では、発表されたばかりのコレクションを直ちに消費する風潮の是非が議論されていますが、お二人にとってこの議論は無関係のようですね。

Sébastien Meyer: はい。我々にとり、発表されたコレクションを直ちに販売するのは自明の理です。コレクションを披露した後、店頭に並べるまで 6 か月も待たせるのは無意味です。我々の世代にとり、そうした古い慣習は馬鹿げており、理解できないものです。我々は快適性を追求しており、そのために出し惜しみはしません。我々がランウェイで発表したアイテムを直ちに販売するのは、それが理由です。

現在、Courrèges のアバンギャルドな理念以外に、インスピレーションを得ているものはありますか?

Arnaud Vaillant: 正直に言うと、我々はインスピレーションという概念には懐疑的です。インスピレーションは必ずしも悪いものではありませんが、我々のスタイルではありません。我々は休暇でインドを訪れ、インドのコレクションに身を包んで帰国するタイプではありません。我々が本当に求めているのは、地に足の付いた必須アイテムの着想であり、女性のワードローブのニーズすべてに応えるデザインなのです。

お二人の最新コレクションでは、ファッションとテクノロジーの関係性が極めて重要な役割を果たしているように見えます。

Arnaud Vaillant: はい。ファッションを未来に進化させようと考えたとき、テクノロジーとデザインの融合は不可欠であるとの結論に達しました。より快適で健康な人生を求めるためには、洋服の製作手法も進化する必要があります。そこで我々は、テイラーのウィンター コートに発熱システムを内蔵させました。このシステムは外観にも着心地にも影響を与えませんが、iPhone に接続してコートの背中、袖、ポケットを加熱できます。これが今日の現実的なニーズに対する我々の回答です。ただし、テクノロジーを採り入れることはあっても、夢を観ることは決して忘れませんよ。

夢と言えば、André Courrèges が未だに我々に夢を見せてくれる理由は何でしょうか?

Arnaud Vaillant: 彼の気骨、デザインに対するビジョン、リスクを恐れぬ勇気、そして彼のコレクションが放つ唯一無二の現代性が、我々を魅了するからです。当時の社会には、ファッションを再定義して既存のカルチャーに反旗を翻す、ビジョナリーという存在を受け入れる用意がありませんでした。着る者に快適で自由な感覚を与えたいという彼の欲求が、ファッションと既製服の世界に、まぎれもなく革命を起こしたのです。

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