SSENSE 2019年秋冬 トレンドレポート PART 2
次シーズンと未来のスタイル ガイド
- アートワーク: Tobin Reid
- 文: SSENSE エディトリアルチーム

ファッション業界において、秋冬は重量級のシーズンだ。1年の中で、ファッション雑誌が最も大々的に報じ、デザイナーたちが早々と準備に着手するのが、このシーズン。ボリューム満点で、雑誌のコレクションにもってこいの、豪華写真も豊富な9月号には、あらゆるキャンペーンやエディトリアル、そして商品が所狭しと詰め込まれ、ファッション史に永遠にその名を刻む。秋になると、私たちもまた、より多くのアイテムを見せびらかし、気候が涼しくなることを心待ちにしながら、重ね着にお金をかけ始める。自分独自のスタイルに磨きをかけるつもりであれ、完全に新たな自分に生まれ変わろうとしているのであれ、このファッション トレンドとその背景を知っておいて損はない。そういうわけで、何を着込むか検討する際は、ぜひこのSSENSEの2019年秋冬トレンド レポートを便利な手引きとして使ってほしい。では、パート2もどうぞ。

ハンサムな彼女
誰にでも、「これぞフィービー・ファイロ」と言えるお気に入りの写真がある。すなわち、ファイロが生み出したシグネチャの数々や絶妙に肩の力が抜けたスタイルといったCéline時代の功績を体現するような、いかにも彼女らしいルックだ。ファイロは、自然体でありながら、小粋に見えること―つまり、存在感を放ちながらも、周りのことなど気にしない―という外見がいかに重要かを理解していた。彼女が提案する「Céline的な女性」とは、スポーティなテーラリング、遊び心のあるシャツ、ドラマチックなコートを組み合わせてクールに着こなす女性を意味した。一方で、ファイロは、簡単に取り入れられる着こなしも提案した。例えば、毛先をタートルネックに入れたままにしたり、Nikeを革のパンツに合わせる。あるいは、片手に持ったブレザーを肩から掛けたり、ポーチを小脇に抱えるなどいったスタイルだ。実は、こうしたシンプルな着こなしが、今シーズン、トレンドとして復活している…しかも、一段とグレードアップして。革は惜しみなくたっぷりと使われ、テーラリングは実用性とサブカルチャーを融合するかのように豪華で実験的になっている。そして、あらゆるアイテムが、時代を超えた魅力を放っている。職人技と統一感を感じさせる、愛着あるワードローブにふさわしい長く愛用できる服だ。ローレン・ハットン(Lauren Hutton)、グレイス・ジョーンズ(Grace Jones)、そして、とにもかくにもビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)…。あるは、映画『スライディング・ドア』でグウィネス・パルトロウ(Gwyneth Paltrow)が着た全ての衣装を思い浮かべれば、わかるだろう。
Jil Sanderの豪華なパジャマを彷彿とさせる光沢感のあるウェア、Maison Margielaのミリタリー風のディテールや、フェルトをあしらった袖、Helmut Langのタキシード パンツやオーバーコート、 The Rowの修道院に似合いそうなスーツや、カーテン風のドレープ使い―いずれのブランドも、昨今復活したこのハンサム路線をしっかりと根付かせている。一方、AmiやKassl Editionsといった定番アイテムが充実した新進のブランドは、 光沢のある素材を使い、かっちりとした雰囲気や遊び心、そして幅広いベージュの概念をコレクションに取り入れた。このトレンドの王道を行くLemaireは、ベルト付きコート、ハイウエストのトラウザーズ、誇張された尖った襟、そして様々な色調の生成り、チャコール、緑青色で2019秋冬コレクションを飾った。Lemaireの提案するジェントルウーマンは、さながらウェスタン ワークウェアとキャサリン・ヘップバーン(Katharine Hepburn)を足して2で割ったようなルックスだ。
ファイロがCélineを去った後、その系譜を受け継ぐ存在として称賛された、元Célineのデザイナーのダニエル・リー(Daniel Lee)が、新天地であるBottega Venetaのクリエイティブ ディレクター就任後初めて発表したランウェイは、彼独自の世界観に溢れるものだった。ブランドの代名詞であるイントレチャートには新しい風が吹き込まれた一方で、脈々と紡がれてきた歴史にも敬意が払われていた。リーの視点は、焦点が明確であり、知的で、物静かでもある。あたかも、服が防音装置をまとっているかのように。キルト加工されたレザー、深く開いたラウンドネックのセーター…。これは、まさに未来だけに賭けている人のための、フューチャー ウェアだ。

パーティー アニマル
私たちは、ヒョウ柄は、数あるプリントの中でも流行り廃れがないと考えている。だから、事あるごとに「今シーズン、ヒョウ柄のトレンドが復活!」などと喧伝するのは、ある意味、不要なのかもしれない。そもそも、ヒョウ柄が流行っていない時などあるのだろうか。2019年秋冬シーズン、Sacaiは、ヒョウ柄プリントを取り入れた3通りのスタイルを披露した。様々な素材をコラージュのように繋ぎ合わせたミリタリーテイストのジャケット、ヒョウ柄の豪華な雰囲気のショーツ、そしてお揃いのヒョウ柄のソックスだ。だが今シーズン、ヒョウに限らず、ありとあらゆるジャングル中の動物たちが、このお祭り騒ぎに参加しているようだ。Kwaidan Editionsのコレクションでは、着心地の良いニットと奇抜なエナメル コートにトラ柄があしらわれていた。また、Marniは、ブルーやピンクなど、自然界には存在しないであろう色のバリエーションのトラ柄を、合成繊維のファー アイテムでお披露目した。そしてさらに、フワフワのトラ柄は、Dior Hommeにも登場した。だが、この動物たちの群れの中で、頭一つ抜きん出ていたのは、シマウマだろう。Neil Barrettの、ワイルド感漂うゼブラ模様のシャツは、これぞまさしく、新たなスーツの装いにふさわしい。あるいは、Saint Laurentは、誇張されたディテールをあしらったミニドレスで、ゼブラ模様をレイブ風にアレンジすることで、バックライトに浮かび上がる斜めのシマシマ模様の魅力を存分に演出していた。だが、「本物そっくりさん」部門では、Vetementsに軍配があがる。なにせ、2019秋冬コレクションのライウェイの背景には、実物そっくりのシマウマのオブジェが置かれていたのだから。今シーズンは、まさに動物に変身する時だ。

オフロード用スニーカー
言うまでもなくスニーカーは、これまでもシューズの世界を牽引してきた。だが、今日、人々は以前にも増して、スニーカーのスタイルとしての功績や環境への影響に敏感になっていると言っても過言ではないだろう。通常、スニーカーで注目されるのはアッパー部分だけだが、いまやソール部分にも、同様に視線が注がれるようになった。2019秋冬シーズン、Salomonを履くにしろ、Hokaを履くにしろ、誰もがそのままハイキングに行けそうな着こなしをしている。そこのカフェまでブラブラ歩くのとは訳が違う。特定の目的の為に作られ、泥や植物の根っこ、ゴロゴロした岩を物ともしない全地形対応型のスニーカーは、新たな定番アイテムだ。これは、私たちが自然界とはますます隔絶した日常を送っていることを如実に物語っている。都会人たちがアウトドアギアを日常に取り入れるトレンドについて、環境ジャーナリストのゾーイ・シュランガー(Zoë Schlanger)は「確かにレトロだし、それももっともだ」と、書いている。曰く、「現実の世界では、野生はレトロなのだから」…。さあ、あの丘を目指して、Lanvin、Li-Ning、Off-White、Asicsを履いて走るのだ。

Moncler
Michelin社の主力商品であるタイヤが大小に積み重なった様子が人間に似ていたことから生まれたミシュランマンは、1世紀以上にもわたり、企業キャラクターとしてフランスのタイヤ業界に君臨してきた。だが今年に入り、この空気入りのフワフワに膨らんだペルソナは、ファッション界において、大物インフルエンサーという新たな役割を果たしつつある。Off-Whiteの2019秋冬ランウェイでOffsetが着用した、パステルピンクのミシュランマンかと見まごうごときオーバーサイズのパファーコートから、季節のアウターウェアというよりも歩く寝袋と表現した方がよさそうなMonclerのコラボレーションの数々まで、過剰なまでにパッドの入ったシルエットは、今やワードローブの定番となった。アウトドアの厳しい天候から着る人を守ることを目的としたデザインでありながら、家で布団にくるまれてぬくぬくと過ごす快適さをもたらすパファージャケットが、今シーズンの一番人気アイテムなのも驚くに当たらない。ミシュランマン自身もかつて言っていたように―ただし当時のキャッチコピーはゴム製の空気タイヤについてのものだったのだが―このモコモコは、「どんな障害物があろうとも、飲み込んでしまうことができる」のだ。

アートスタジオ
2019秋冬シーズン、ファッションは「クラフト - 手作業」へと回帰する。クラフトと言っても、撮影セットで軽食を提供するクラフト サービスのことではなく、いわゆる「美術さん」と呼ばれるスタッフ、あるいは、ちょっとした創意工夫で、そこら辺にあるものを、いかにもそれらしく変身させてしまうことのできる才能のことだ。このトレンドは、仕事に没頭するアーティストの絵具だらけの服、そしてそのクリエイティブな作業の思いがけない副産物の両方を含んでいる。ニューヨークやパリのランウェイでは、ラグジュアリーな画家のスモックを彷彿とさせるルックが多く見られた。Charles Jeffrey Loverboyのように色とりどりの色彩が散りばめられたものもあれば、Balenciagaの、スマイリーフェイスがスプレー ペイントされ、まるでカスタマイズされたような紙袋風バッグまで…。また、Collina StradaやASAIのコレクションでは、レインボーカラーの色彩やディップ ダイ技法で染色された模様が見られた。さらに、Ashishが、全身をおばあちゃんのかぎ針で編んだかのようなスタイルや手作り風のスパンコールのジーンズを発表したかと思えば、Craig Greenは、ひらひらで全身をすっぽりと覆うプラスチック素材を、豪華かつアバンギャルドにアレンジしてみせた。2019秋冬のファッションは、とにかく、腕まくりをして、手作業に勤しむことなのだ。

城
人間の手の届かない場所で、私たちを取り巻く環境を決定づける力が働いている。貴族や王族を守る役割を果たしていた城は、地位のある人間は内側、敵は外側という状態を保つための城塞だった。そして歴史は、着こなしという形で、これを繰り返す。今シーズンにおいては、主にしっかりしたフォルムと、グレーの色合いが、それを裏付けている。Off-WhiteからHelmut Lang、そしてDries Van NotenからAcne Studiosまで、いずれも歴史的な頑強な城からヒントを得たかのように、厳正な無彩色に角ばったシルエットを組み合わせている。そうすることで、自らが強化されるだけでなく、バスで隣に坐った他人からも保護されるし、目障りなくらい大胆な色使いのせいで不必要に注目を集めてしまうこともない。先行き不透明な未来に対してファッションが出した答えは、角々しいシルエットとグレーだ。2019秋冬は、とにもかくにも、城塞のように自分で自分の身を守ることに尽きる。
- アートワーク: Tobin Reid
- 文: SSENSE エディトリアルチーム
- Date: July 18, 2019