SSENSE 2018年春夏トレンドレポート Part 1

次シーズンと未来のスタイル ガイド

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム

シーズンが巡ってくる都度、ファッションの新たな勢力がひとつひとつの変化として登場する。そして、業界でもっとも影響力のあるデザイナーたちの姿勢と手法が変化するにつれ、私たちは特定のトレンドに引き寄せられ、あるいは反発することになる。2018年春夏シーズンに向けてSSENSEのエディターたちが予想するトレンドを、Part 1と2の2回に分けてご紹介しよう。

画像のアイテム:FendiGucci 冒頭の画像:BalenciagaAshley WilliamsVersacePradaGucci

モノグラムはマントラ

Gucciでのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の仕事は、回帰と共に始まった。クリエイティブ ディレクターに就任後、初めて手がけたショーは、Gをふたつ並べたゴールドトーンのバックルのベルトで幕を開けたのである。前任者のもとでは鳴りを潜めていたGucciの古典的モノグラムの再登場だった。それから3年を経て、ダブルのGはなおかつ健在。ミケーレの広大なコレクション全般に、さまざまなデザインで出現する。Fendiを始めとするその他の高級ブランドも、改めて元祖のシンボルを強調し始めた。歴史と形式の継続である。GucciはGを、FendiはFを組合わせた自明のシンボルは、20世紀のルーツと、一周まわって原点へ戻ってきたことに対する穏やかな満足感の両方を想起させる。これらの文字は終わることのない復帰を約束し、Lil Pump(リル・パンプ)のヒット曲のごとく「Gucci Gang、Gucci Gang、Gucci Gang、Gucci Gang…」と呟きを繰り返す。


ウエスタン ワールド

小説『カウガール ブルース』で、「自分自身のリアリティの美しさのために生きよう」とトム・ロビンス(Tom Robbins)は書いた。いかにもカウボーイらしいせりふだが、運命は皮肉な展開をみせた。現在のフェイク リアリティの世界では、無常を象徴したはずのカウボーイの所属品(帽子、ブーツ、チャップス)が、インスタグラムに遍く存在する自撮り写真の小道具になったのだ。2018年、ウエスタンの影響は変異を続けるだろう。「イット ガール」の御用達ブランドKreistからCalvin KleinAcne Studiosに至るまで、パール光沢のボタン、尖った襟先、 カウボーイ ブーツ、フリンジがリミックスされて、今シーズンのコレクションに姿を見せている。私たちが皆、インスタ リアリティの濁った水域にますます深く潜るにつれ、リアルとフェイクを見分ける能力は失われるのかもしれない。多分、私たちは自分たちのウエスト ワールドのゲームの中に捕われ、そこでは、ありふれた背景の中に本物をよそおったインスタグラム ボットが潜んでいるのだ。このめまぐるしい時代において、インスタ カウボーイのスタイルのおかげで、私たちはかろうじて地に足を着けていられるのかもしれない。


画像のアイテム:Martine RoseGosha Rubchinskiy

熱き日々の名残り

大人になってしまうと、10代の頃に持っていたような強い執着を取り戻すことは、ほぼ不可能だ。まだ両親と同じ家で暮らしていた頃、ブックマークしたブログを残さず読めるように、地下の部屋でダイアルアップの接続を待ったものだ。まるでダイアモンドの鑑定士並みの精密さで、ウォーハンマーのフィギュアに慎重に色を塗ったものだ。ベッドに寝転びながら、同じ歌を何時間も繰り返し繰り返し聴いて、バインダーに歌詞を書き留めたものだ。新しいスニーカーの発売を、全身全霊で待ちわびたものだ。当時ミュージシャンやアルバムやアーティストやブランドに感じた繋がりは、疲れ果てた成人期に再現する術もない…成長することを拒否しない限り。そして今また、ミレニアル世代の郷愁が流行の兆しを見せている。厚底のシューズ、ロゴの入ったTシャツ、ノキアの2つ折り携帯電話。これらのモノを身に着け続けることで、もしかしたら、あの頃に感じた執着心を持ち続けることができるのかもしれない。


画像のアイテム:Calvin Klein

Calvin Kleinで迎えた2年目

アメリカを代表する高級ブランド(Ralph、君のブランドじゃなくて申し訳ないが)Calvin Kleinで、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が初めて手がけたのショーは、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の『This Is Not America』が流れる中、スターリング・ルビー(Sterling Ruby)のミュータント トーテムがそびえる下をモデルたちが闊歩した。あれは打ち砕かれた国家に対する意思表示だった。シモンズの主張はイベントの演出を超え、デザインそのものにまで浸透していた。コレクションでもっとも頻繁に登場したのは、シルバーのプレートでばっさりと爪先を切断されたのようなカウボーイ ブーツだった。Calvin Klein 2017年秋冬シーズンのテーマが国家の分断だったとするなら、2年目の続編で、ベルギー出身デザイナーは、切断された幻肢のスタイリングを試みた。2018年春夏コレクションのルック20に再登場した切断されたカウボーイ ブーツは、アンディ・ ウォーホル(Andy Warhol)の1964年作品『Pink Electric Chair』をスクリーン プリントした全身ホワイトのワークウェア スーツと組み合わされた。デニムのスーツが象徴する「国家のお仕着せ」と死刑が暗喩する「反復される残酷性」が、いかにして新たな美学を構成する要素となりうるか。ルック20は、それを雄弁に物語っている。なぜなら、アンダーグラウンドたるには、何かの下に存在しなければならないのだから。


画像のアイテム:BalenciagaFendiDolce & Gabbana

すべてを望みのままに

セルフィー文化は、私たちが思い描く理想の完璧さを生成し続ける。それにつれて、非実用がますます実用に転化される。存在しうるあらゆる欠点をたちまち修正する技を習得してしまえば、残されるのはただひとつ、外へと向かう構築、付属品による自己修正だ。自己主張する立体的なフォルムのイヤリングや果物を模したエキセントリックなキーチェーンは、もはや風変わりな物体ではなく、私たちの実生活にかけるスナップチャット フィルターだ。私たちをさまざまに変身させてくれるシェイプシフターは、今シーズンの必須アイテムだ。


画像のアイテム:PradaVersace

マイアミ風スポット&ストライプ

今シーズンはマイアミへ逃避しよう。ライアン・マーフィー(Ryan Murphy)が描いたマイアミではない。(有料テレビ局FXが放映した『アメリカ犯罪ストーリー:ジャンニ・ヴェルサーチの暗殺』を参照のこと。ちなみに、髪をプラチナ ブロンドに染めたペネロペ・クルス(Penélope Cruz)がドナテラを演じた)。それよりむしろ、『バードケージ』の世界へ向かおう。そう、1996年にマイク・ニコルズ(Mike Nichols)がミュージカル『ラ カージュ オ フォール』を映画化し、ロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)とネイサン・レイン(Nathan Lane)が出演していたのを覚えているだろう。あの、ストライプとアニマル プリントの世界だ。ボタンダウンと…ボタンを半分だけ留めた、あるいはまったく留めない世界だ。Versace、は当たり前すぎるけど、LoeweAttachmentAshley Williamsにもジグザグなシマウマ模様は登場する。Comme des Garçonsのネオン スリーブ × レオパード プリントもいいし、Junya Watanabeだっている。Pradaなら、ビジネスだろうがパーティだろうが分け隔てしない。


画像のアイテム:Molly Goddard

ベイカー=ミラー ピンクの効力

近年、ミレニアル世代はさまざまな非難の槍玉に挙げられてきた。結婚制度の崩壊、持ち家率の低下、米国内消費分野の低迷、等々。だが、責任をなすり合うことの不毛を論じる前に、ミレニアル世代が堕落させたとされる色彩についても、きちんと認識しておこう。その色とはピンク、ミレニアル ピンクだ。お気に入りのストリートウェアの定番が、突如として、(今や誰もが飽き飽きしている)独特の薄いピンクで登場したことを覚えているだろうか? ドレイク(Drake)が着ていた Stone Islandのパファー、然り。一方で、桜の花びら、マミー・アイゼンハワー(Mamie Eisenhower)時代のバスローブや、アマゾンに生息するイルカたちも、また然り。そう、何もピンクは新しい色ではないのだ。ミレニアル世代が搾取するはるか以前から存在していた。ピンク、特にベイカー=ミラー ピンクは心を穏やかにすることが、科学的に立証されている。PradaGoshaChika Kisadaに目を向けよう。あるいは、 わざわざ特別な名前をつけられた色の条件と表現を作り変えたプリンセス、レディ・ダイでもいい。今シーズン、飽和状態に達するピンクの鎮静効果をゆめゆめ見くびってはならない。私たちを待ち受ける不穏な日々では、ピンクが塗り薬と甲冑の役目を果たすのだ。


画像のアイテム:Calvin Klein

実在しなかった女性

『マトリックス リローデッド』で満たされない妻パーセフォニーを演じたモニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)が、真珠のような光沢を放つPVCのカクテル ドレスで現われたとき、ウォシャウスキー姉妹監督の三部作におけるファッション要素を大きく高めた。不貞な夫、ぺプラムのウエスト、ホルター ストラップ…そのシルエットは紛れもなく50年代のものだが、PVCという素材が雰囲気をがらりと変えている。いわばお決まりの様式に捻りが加えられている。同じように、従来ジェンダーを定義したスタイル、カット、ファブリックからの逸脱が、今シーズンには予測される。身につけることによって外見に先入観を与える象徴的な要素に対して、肉体が反撃に転じるからだ。肘までの長さのイブニング グローブも、不気味な医療用ラテックスで作れば、上品な装いからガス燈時代の防護服のように変身する。淑女らしいパールのピンは、自らの内側へ破裂して砕け散る。アメリカン ドリーム、核家族、中産階級を象徴した付属品がリメイクされ、根底の腐敗が表面へ浮上してくるとき、艶やかななめらかさに生じたひび割れは誇りを持って装われる。

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