ミスター・モートの
頭の中の声

モルデカイ・ルビンシュタインが
メンズウェアの狂騒を語る

  • インタビュー: Romany Williams
  • 撮影: Mordechai Rubenstein
  • スタイリング: Mordechai Rubenstein

モルデカイ・ルビンシュタイン(Mordechai Rubinstein)は、ユダヤ教の指導者になるはずだった。しかしイスラエルで勉学するうち、志半ばにして考えは変わった。理由のひとつは、ルビンシュタインがミスター・モート(Mister Mort)の名で知られる多作なストリート フォトグラファーであり、人と違う方向へ足を向けたがる性癖があることだ。最初はFlickrのページだった。次にブログを始め、それからInstagram、そしてニューヨークで超話題のインターネットラジオ「ノウ ウェイブ」で「Voices Inside My Head − 頭の中の声」という番組を持つに至った。自称「衣類学者」または「不本意な人類学者」は、今や、服に関するハッシュタグの王様だ。#BeautyInTheEverydayUniform (美しい普段着)、#BorrowedFromTheBoys(ボーイズ ファッションを拝借)、#HighNotWaisted(寸胴でハイウェスト)、#StopTheCrop (クロップ反対)、#FuckFashion (ファッションなんかクソ喰らえ)、などのタグを繰り返すルビンシュタインは、思いがけずも、虚飾のない本物の個性を主張する代弁者になった。ニューヨークの路上で、来る日も来る日も、通りがかりの人が着ている服の些細なディテールをキャッチしては、純粋な情熱をたぎらせて、大きな声で呼びかける。「『Voices Inside My Head』の狙いは、みんなが、もっと自分に自信を持てるようにすること」と、ルビンシュタインは言う。ほとんどトラブルに巻き込まれずに済んでいるのは、明らかに、そんな肯定思考のおかげだ。ファッションの偽善とストリート スタイルの狂騒について、ロマニー・ウィリアムズ(Romany Williams)がルビンシュタインと対話した。

画像のアイテム: スリッパ(Gucci)パンツ(Gucci)

ロマニー・ウィリアムズ(Romany Williams)

モルデカイ・ルビンシュタイン(Mordechai Rubinstein)

ロマニー・ウィリアムズ:ストリート スナップは、ちょっとしたハイ ファッションのコスプレといった様相を呈していますね。もう飽和の状態です。こうなる前に、この領域で活動を始めるようになった経緯は?

モルデカイ・ルビンシュタイン:Kate Spadeで婦人用の靴やハンドバッグの販売員をしながら、ゆくゆくはニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でアクセサリー デザインを勉強するつもりだった。その店へ、昔風の格好のままで、ソーホーから商品を届けに来る人たちがいてね。British Knightsのスニーカーを履いて、ネクタイの先をパンツの中に突っ込んで、すごくクールなんだ。だから、ちっぽけなキャノンIXYで写しては、写真を撮り溜めしてた。そしたらKate Spadeのクリエイティブ チームにいた女の子にブログをやったらいいって勧められて、何年か、手持ちの写真を片っ端からFlickrにアップした。Kate Spadeを辞めた後は「Men’s Vogue」がマーケティグ エディターに誘ってくれた。夢みたいな仕事だったよ。街へ出ては、新しいものを拾ってくる。雑誌用の撮影が終わったら、自分で撮影して、写真を取っておいた。そして最終的に、ミスター・モートを始めたんだ。僕は、展示会をレポートする一番最初の人間になりたかった。ファッションのあるとこなら、どこへでも行きたかったね。

ほとんどアンチ ファッションな美学を打ち出しているのに、ハイ ファッションの世界は早くからあなたを受け入れたようですね。

そう。ラッキーだったよ。ソーホーで仕事をして、ケイト・スペード(Kate Spade)やアンディ・スペード(Andy Spade)と知り合えたし。あの店には、デザイナーがたくさん来てたよ。トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)とアンディ・ヒルフィガー(Andy Hilfiger)もよく来てた。お客さんはみんな、ロックンローラーか音楽関係か作家。すごくクールだった。ソーホーはマリファナの匂いをプンプンさせながらお客さんが入って来る時代で、僕は匂いの正体さえ知らなかったんだよ。そういう人たちが履いてるパンツには穴が開いてあるんだけど、それがYohji Yamamoto。本物の絵具が付いてたら、それはその人が画家だから。「それどこで買ったの?」っていう世界じゃないんだよね。とにかくクールだった。だから、そういう具合で、ファッション ピープルは僕を受け入れてくれた。あ、ちょっと待ってくれる?

Mordechai Rubenstein 着用アイテム: Tシャツ(Versace).

いいですよ。

(見ず知らずの通行人に大声で叫ぶ)

「イェール大の帽子をかぶってるそこの人、写真撮ってもいいかな? 時間は取らせないから。いや、かぶったまま、かぶったまま! 昔懐かしいイェールのグランパだ、なんてこった…。驚きだよ!」

オーケー、ごめんごめん。こういうことはやるまいと決心してたんだけど、ハイウェストのカーキパンツ、内側にボタンで留めるサスペンダーなんて、完璧にトラッドしてるもんだから。その上、イェールのグランパ ハットだもんな! ちゃんと正しい字体で「Yale」、その後に「Grandpa」って書いてあるんだ。どこかのおじいちゃんが、名門大学に行ってる孫が誇らしくてかぶってるんだろうな。すごく面白い。今は「Dad」って書いた父親用の帽子があるよね。しょっちゅう見かけるし、馬鹿馬鹿しいけど。この前、ニューヨーク大学の売店に行ったら、「NYU Dad」って書いた帽子を売ってた。どこの大学でもやってるんだろうけど、前より面白い。とにかく、インタビューのあいだは気を散らさないでいようと思って、ずっと我慢してたんだよ。写真に撮りたい人を、もう3人か4人は見送ったんだから。でも、右手にカメラ、左手に携帯だったから、つい携帯で撮影しちゃったけど、カメラを使うべきだったな。

残念な選択でしたね。大きなプロ用のカメラを使ってる写真家もいますが、あなたは携帯を使うことで、違うコンテンツを作れると思いますか?

そうとも言えるし、そうでないとも言える。昨日は僕、ファッション ウィーク会場の外にいたんだけど、信じられない出で立ちの男性が通りかかったんだ。ごく普通の男性だけど、本物のCartierじゃなくて、Cartierっぽいすごく大きなサングラスをかけてるんだ。ほかのカメラマンは揃いも揃って同じファッション馬鹿を撮影してたけど、その男性を目にしたとたん、僕は「モノにしなきゃ」って思ったんだ。誰も撮影してなかったから。もちろん、僕が撮影した途端、大勢がその男性の後を追っかけた。まったく頭に来るよ。人生って、そんなもんだけど。

Mordechai Rubenstein 着用アイテム: ジャケット(Adidas)ジーンズ(Balenciaga)

その写真、Instagramで見ました。男性が女性のサングラスをかけてるの、私は大好きなんです。

すごい大男にすごく女っぽいサングラス! 普通、大きい男性に「女物のサングラス」なんて言ったら殴られるよ。何を着てても、僕の10倍も体格がいいような人は呼び止めないようにしてるけど、あの人はすごくクールだった。

大多数の人は殻に閉じこもって生活しています。それなのに、あなたが自信を持って人に近づくのは、とても印象的です。知りもしない人に気軽に話しかけられるようになったのは、どうやって?

人との交流が好きなんだよ。唯一、僕が他のカメラマンより優れていると思うのは、僕は心から人に話しかけるってこと。世界でいちばん大規模なメンズ ファッション見本市の「Pitti Uomo」へ行ったとき、他の写真家連中は「ナショナル ジオグラフィック」の取材に使うようなばかでかいレンズを引っ張り出してさ。格好はいいけど、人に話しかけないんだ。撮影してる時間の半分は、自分が何を撮っているのかさえ分かってない。互いの後を追っかけて、なんでもいいから、他の人間が撮ってるものを撮る。僕は、他の誰も撮ってないものを撮るんだ。Vetementsだって、今のルックブックは「普通の人」ばっかりなんだから、おかしいよね。Instagramで年配の女性のすごくいい写真を見て、もうちょっとで「いいね!」しそうでも、実はVetementsだと分かったら、「いいね!」する気なんかなくなるよ。

Mordechai Rubenstein 着用アイテム: キャップ(Gucci)

最近の「Voices Inside My Head」で、ピンクとブルーみたいに、ジェンダーを区別するスタイルについて話していましたね。それが、いかに無意味で恣意的であるか...。次の世代は、これまでになかった流動性をスタイルに取り入れると思いますか?

ぜひ、そうなって欲しいね。恐い気もするけど。なんせ、僕はすごくトラッドだから。ずっと前にA.P.C.でサロングを買ったのに、一回も履かなかったんだ。処分して失敗したな。買ったその場で履くべきだった。

どうして履かなかったんですか?

すごくクールだと思うけど、あれはビーチ向けだし、僕は海の男じゃないから。ビーチには行くよ。でも、ビーチに行くんなら、そこで1日を過ごさないとね。ちょこっとだけ、なんてダメだよ。格好だけ一人前で、街を歩き回る気にはならないさ。Grateful Deadの曲をひとつも知らないくせに、Grateful Deadのサンダルを履いてるだけで、すでに最悪なんだから。僕は矛盾してるんだ。

ああ! そういうタイプ...。

そうなんだ! もうGrateful Deadは我慢できないって友達に言うと、「そんなこと言える筋合いじゃないだろ」って。確かに「そうだな、君が正しい」ってなる。そんなこと言える柄じゃないんだ。けど、本当なんだから仕方ないだろ!

Mordechai Rubenstein 着用アイテム: Tシャツ(Adidas)

ミスター・モートのアドバイス

デザイナー デニム

僕は、Levi'sやWranglerが好きな、本物に古い人間なんだ。好きなデザイナー デニムも、自分では着たことがない。オンラインショッピングだと、各サイズが1本ずつ必要だな。僕のサイズは31インチだけど、ちょっと大きめのつもりで32インチを注文しても、女性のSサイズ並みの32インチが届いたらどうしようもないからね。今日履いてるのは、Patagoniaのバギー ショーツの7インチ。ブルックリン近辺へ行ったり、地下鉄を利用するときは、5インチ。Lacosteと同じだよ。最初はサイズ5が欲しくて、次にサイズ6が欲しくなる。僕はテニスはしないけど、少しだけ大きくてゆったりしたものを着たい日があるもんさ。特別汗っかきじゃないけど、ゆったりしてるのが好きだね!

Mordechai Rubenstein 着用アイテム: ジャケット(Balenciaga)ジーンズ(Balenciaga)

ウールのセーター

厚手のニットだったら、バギーなパンツに合わせる。メリノみたいな細い糸のウールなら、ドレス シャツの下。ニットは、重ね着するのが好きだな。クルーネックの上にVネックとか、タートルネックの上に同色か同系色のVネックとか。タートルネックとデニムのジャケットを組み合わせたら、絶対間違いない。トラックスーツにタートルネックもクールだと思うよ。僕はウールとトラックスーツを合わせるのが好きだ。

Mordechai Rubenstein 着用アイテム: セーター(Givenchy)

Gucciのローファー

トラック パンツにGucciのスリッパって、クールな組み合わせだけど、もうインターネットに溢れてるからな。何年か前、Raf Simonsの光沢のあるDoc Martensを僕が欲しがったら、みんなに笑われた。僕のことを知りもしないくせに!って思ったね。僕はスカートが欲しいし、ドレスが欲しい。僕は人の神経を逆撫でするために生きてるんだ。

画像のアイテム:: スリッパ(Gucci)

クロップドパンツ

もともと裾が短いトラウザーズならいいけど、ジーンズやカーキ パンツの裾を切って、「僕の足首を見て見て」ってのはどうもね。僕は見せびらかすタイプじゃない。無視されるのはつまらないけど、これ見よがしなのストリート スタイルの連中と張り合う気はないよ。あの「見て見て」症候群は止めてほしい。男性は快適に装うべきだ。「装う」なんて言葉さえ使いたくないくらいだ。

画像のアイテム:: パンツ(Gucci)

Versaceのメドューサ

Versaceのメドューサが大好きなんだ。好きなロゴのひとつ。Versaceは今でも圧倒されるブランドのひとつだね。派手な品のないロゴだけど、クールだ。若い頃には縁がなかった。いかにも「俺はロシアのリッチなギャングだぜ」って感じだよね。友達がドレイク(Drake)のスタイリストで、ドレイクにVersaceのスウェットの上下を着せたんだ。以来、同じものが欲しいと僕は思い続けてる。隠すつもりはないよ。

画像のアイテム:: Tシャツ(Versace)

  • インタビュー: Romany Williams
  • 撮影: Mordechai Rubenstein
  • スタイリング: Mordechai Rubenstein