表現するイヤリング

New Icons:古代人の探求とジャマイカ生まれのサウンド システムを繋ぐAmbushのシルバーSSSレコード イヤリング

  • 文: Kevin Pires
  • 写真: Kenta Cobayashi

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

5千年以上も昔、エッツィ(Ötzi)と名付けられたアイスマンは徒歩で凍てつくアルプスの峰を横断中に殺害された。体には61のタトゥー、両耳には穴が開けられていた。現代のイランでは、ペルセポリスにある宮殿の壁にイヤリングを着けた男性の姿を見ることができる。エジプトでは、子供の頃に身に着けていたであろう一組のイヤリングと共に、ファラオが何千年も眠り続けていた。こうしてみると、自分が何者であるかを示すにあたって、どうやら私たちの体だけでは不十分らしい。もっと自己を表現する声が必要らしい。

イヤリングは、もともと、人間が互いを理解し合うために作り出された。釣りのルアーのごとく耳朶で揺れるイヤリングは、身分を伝えたり豊かさを示す役割を果たした。のみならず、自分がなりたいと思っている秘かな内心の願望もほのめかした。直火で金属を鋳造して耳を飾ったとき、人類の視線は外側へ転じ、自らの憧れと周囲の人間へ向かった。理解し合う目印として、価値の証として、自己表現の形として、Ambushのイヤリングは全地球規模の伝統と結び付いている。

ヒップホップ アーティストのバーバル(Verbal)とグラフィック デザイナーのユーン(Yoon)は、21世紀を迎えた最初の10年間を文化が衝突する時期と捉え、新世紀に深度を増すであろう繋がりを反映したジュエリーラインを作ろうと考えた。そして、2008年にAmbushを立ち上げた。最近ではSacaiとコラボレーションを行なったこのカップルは、サウンド システム文化を基にして2016年コレクションを制作した。1950年代のジャマイカで生まれたサウンド システム文化は耳をつんざくスピーカー群を中心に構成され、DJやMCを始め、エンジニアの一団が最新のダブやレゲエを披露するために使用した。西インド諸島の移民によってイギリスに持ち込まれたサウンド システム文化はパンクと融合して独自の進化を遂げ、90年代のジャングル、2000年代中期のダブステップという未来ジャンルにも影響を与えた。

音楽、一体感、新しいサウンドを生み出したこの文化は、身体的な繋がり求めていた内面の切望を外側の存在へと転換した。この音楽が揺れ動く群衆に向けて放たれたとき、言葉にできない刹那を形にしたいと熱望するコミュニティが誕生した。私たちが耳を傾けるもの、私たちが身に着けるものは、出生を超越する連帯で私たちを繋ぐ。血のつながらない人々への親近感をもたらす。バーバルとユーンのふたりがインスパイアされた音楽と同様に、Ambushのイヤリングは、一体感への関連とインスピレーションと切望から生まれた産物である。極端に大きなイヤリングは、クリエイターだけでなく、客体そのものとしてのイヤリングを特徴付けるハイブリッドな歴史を具体化しているのだ。

  • 文: Kevin Pires
  • 写真: Kenta Cobayashi