Tom Guinessとスタイルの強度

イギリス人スタイリストが、古典主義のラディカルな力を語る

  • インタビュー: Reva Ochuba
  • キャスティング: Ari Marcopoulos

恋に落ちるにせよ、美しき人生を歩むにせよ、スタイリストのTom Guinness(トム・ギネス)は、めくるめくようなあなた自身の可能性にあなたを沈潜させる。彼が編集したページは古典主義という名のルージュに染め上げられ、苦もなく時代を超越する洗練と共に、衝動的な欲望を明確に伝達する。スタイリストの役割が圧倒的に高まったファッション業界において、イギリス・コーンウォール州出身で元モデルのGuinnessが、ニューウェーブの最前線で活躍しているのは頷ける。何もかもが瞬く間に過去へと押し流される業界にあって、Guinnessは安定した美学の重要性を理念としている。イギリス発のメンズファッション マガジン「Arena HOMME+」のファッション エディター、また、デザイナーGrace Wales Bonner(グレイス・ウェールズ・ボナー)と頻繁にコラボレーションを行なうクリエイターとして、彼は「シーズン」の概念とは反対に、「歴史」に目を向けたビジョンを提示する。

トム・ギネスにとって初めてのインタビューとなる今回、Reva Ochuba(レヴァ・オチューバ)がニューヨークにある彼のアパートを訪れ、クリエイティブ・ダイレクション、ビジュアル、そしてアイデンティティについて話を聞いた。

Reva Ochuba

Tom Guinness

モデルからスタイリストになったきっかけは、何だったんですか?

衝動だったんだ。簡単じゃなかったけど、とても強い衝動だったから、そうするしかなかった。おそらく、何か他のことをする方が僕にとっては楽だっただろうけど。モデル時代に多くの素晴らしいスタイリストと接する機会があって、スタイリストという仕事の内容にとても興味を持っていたんだ。

例えば、どんなスタイリストですか?

Alister Mackie(アリスター・マッキー)とか、Panos Yiapanis(パノス・イアパニス)とか。彼らと一緒に仕事をした時に、これこそ僕のやりたいことだと思ったんだ。

それがはっきり分かってから、どうやって転身したんですか?

最初は給料なんてもらえないさ。自分のブックを作るには、無給でエディトリアルの仕事をこなして、それを積み上げていくしかない。だから、とにかく仕事を続けた。そのための資金作りには、少々頭が要る。僕は賢くはなかったけど、幸運だったんだ。いつも、ちょっとしたコマーシャルの仕事やスポーツウェアの仕事があったから、それで食いつなげたんだよ。仕事のやり方も、徹底して、基本に絞っていった。すごく時代に合った視点を持って、それで最高の仕事をすることができても、効率的にやらないとうまくいかないんだ。本当に雑多でハードな仕事だし、共同作業、コミュニケーション、長距離の移動、とにかくあらゆることをこなさなきゃいけない。今、9月後に自分が何をしているのか、見当もつかない。数年前だったら、そういうのが本当にストレスだった。「孤独で貧乏なまま死んでいくんだ」なんて考えてね。だけど、今はもうちょっと信念がある。単に、物事はそういう風に進んでいくんだってことが分かったから。

Blommers and Schumm. Arena HOMME+.

Blommers and Schumm. Arena HOMME+.

Blommers and Schumm. Arena HOMME+.

Blommers and Schumm. Arena HOMME+.

ソーシャルメディアは、スタイリングという仕事の人気アップに一役買ったと思いますか?

いや、そうは思わない。スタイリングの仕事が注目され始めたのは、ソーシャルメディアが普及する前のことだから。でも、インスタグラムは、まさに今、スタイリングが力を発揮しているツールだよね。スタイリングというのは、コミュニケーション、イメージ、アイデンティティを扱う仕事なんだ。現実を知らない人にしてみれば、気楽な仕事に見えるだろうね。現場に行って、スタッフに
指示して、さっさと帰る、みたいな。名の知れたスタイリストになると、もっと大変な仕事をこなしている。彼らは、イメージとアイデンティティを操るクリエイティブなダイレクターなんだよ。

「イメージとアイデンティティを扱うクリエイティブなダイレクター」。まさに言い得て妙ですね。

そう。皆それぞれのビジョンを持ってる。スタイリングは、そのビジョンにすごくたくさんの方法で近づけるんだ。高級感のあるグラマラスなスタイルから、荒っぽいラフなものまで、無数のコンセプトがある。とても豊かで、多彩で、変化に富んだ言語なんだ。作る人間のテイストや時代の進化や変化につれて、作品も進化して変化していくけど、根幹は確実に一貫している。永遠で崇高な美しさが好きだとしても、即物的で文化的なものが好きだとしてもね。表現の方法には、皆それぞれの意見を持っているもんなんだ。

あなたは、トルコの雑誌「Near East」のファッション エディターを務めていますね。自分がスタイリストとしてやりたいことと、どう関連すると思いましたか?

自分なりのファッションに対する考えで、「Near East」に別の一面を作り出せたと思う。アート関連の出版物にあるファッション ページは、得てしてとても無難で、なおかつアート業界の人たちに受けが良い感じにまとめられていることが多い。ちょっとしたリスクを冒して、その内容を充実させることは、あまりないんだ。

Dazed, Spring/Summer 2016, Harley Weir

より規模の大きいイギリスの雑誌「Arena HOMME+」のファッション エディターでもあるわけですが、ファッション雑誌の領域に何らかの変化があったと思いますか?

時々、ファッション雑誌を見てるのは業界人だけじゃないか、って感じる。僕たちが思っているほど、読者層は広くないんじゃないかな。この間、友達の両親と一緒にいた時、「どういう仕事をしているの?」と聞かれたんだ。だから、自分が携わってきたプロジェクトをいくつか説明した。そしたら、それが僕の空想だと言わんばかりに、「Arena HOMME+」の発行部数を聞いてきたんだ。僕は、興味があるものなら、あらゆる雑誌を読み漁って育ってきた。例えばこの「Sidewalk」という雑誌は、素晴らしい投書コーナーがあったんだ。そのコーナーに投書している人には、すごく近親間を感じてたんだ。今の雑誌は、ニッチで、写真やアートのコレクション アイテムになっている。僕はただ、自分が興味のある文化の要素を捉えるるために、できることをするだけだよ。たぶん、社会との関連が以前よりも薄れてる要素だろうけど。

グレース・ウェールズ・ボナーとの仕事以外に、何か特別なプロジェクトのプロデュースをしていますか?

写真家Tyrone Lebon(タイローン・レボン)とやっているStussyのキャンペーンの仕事は最高だよ。このキャンペーンのマーケティング戦略は、インターネット以前のやり方を採用しているんだ。あらゆることが今よりもずっとゆっくり進んでいた時代のね。Shawn(シャウン)が35年前にブランドをスタートさせてから、ブランドと関わりを持ってきた世界中のあらゆる場所を巡っていくんだ。最初のキャンペーンはLA、次は東京。2016年の春夏はジャマイカ。それぞれの都市に10日間くらい滞在して、人をスカウトして、写真を撮っていく。イメージの一つ一つが、それ自体の物語を語るんだ。すごく好きな仕事だよ。

好きな理由わかりますよ! 写真はすごく美しいし、洋服を上手く落とし込んでいるように思います。

そうだね。やっていてすごく楽しいポジションだし、Tyroneもアイデアをまとめるために素晴らしい仕事をしてくれる。ブランドのアイデンティティや宣伝のためにビジュアルを作っているんだけど、イメージの役割は洋服を単に記録することではないんだ。

あなたのアイデアと写真家は、どういう関係なのでしょうか?

それぞれ違った任務や違った役割を担っているんだけど、同時ある意味で、みんな同じストーリーの中にいるんだ。僕が思うに、いろんな写真家がいることで、同じストーリーに新しい視点が生まれるんだよ。

Luncheon, Spring, 2016, Lord Snowden

Dazed, Spring/Summer 2016, Harley Weir

いつも物語があるんですか?

いや、あるのは僕に影響を与えたものだけかな。僕の母と、自分の人生は自分で変えることができると気がついた瞬間。自分自身の見せ方や自分自身の表現次第で、人はもっと美しくもっと自分らしい場所に行けるんだ。

それをお母さんから学んだということですか?

いや、違うけれど、自分の核にあるテイストの多くは、母から譲り受けたものだね。母はどこかヒッピーっぽくて、反骨精神のある人だったけれど、同時にとても古典的なものにも興味を持っていたんだ。彼女の好きな色はネイビーとレッド。よく乗馬服を着ていた。僕も同じように、曖昧なものや理解しにくいものにすごく惹かれることがあるよ。それは、ちょっと一筋縄ではないこともあるけど、元をたどればいつも古典主義に行き着くんだ。基本的に、最後にはクールという概念が剥がれ落ちて、とにかく最高度に洗練されているべきなんだ。

それは、従うべき基本的な心得みたいなものですね。

僕が作り出すイメージは、かなり突飛なものもあれば、抑制されたものもある。誰よりも大胆なスタイリストというわけではなくて、落ち着いた基本スタイルなんだ。 僕は実用的な服やスポーツウェアを、ロマンティックで特別な気分にしてくれる服と掛け合わせる。どちらも必要なんだよ。どちらかの比重が大きすぎると、最悪だと思う。重要なことは、バランス感覚と、その時の自分にしっくりくるって事なんだ。

Stussy, Tyrone Lebon AW15

  • インタビュー: Reva Ochuba
  • キャスティング: Ari Marcopoulos
  • 撮影場所: Tom Guinness