ステラ・マッカートニーのメンズウェア コレクションでトリップ
サステナビリティとサイケデリックが融合したコレクションを、イギリスのデザイナーが語る
- 文: Adam Wray
- 写真: Rebecca Storm

くすんだバラ色、エメラルド グリーン、大仰な刺繍、専用のメガネをかけずに3Dイメージを見ているようにクラクラするフォント。ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)が初めて挑戦したメンズウェアの2017年春夏デビュー コレクションは、LSDバイブレーションの復活である。だから、有名な父親がインスピレーションの源であったことは、何も驚くにあたらない。つまるところ、イギリスで生まれ、ロンドンで修行したステラは、ビートルズが解散してポールの人気が陰り始めた時代に成長したのだ。そこから這い出すように、15歳でChristian Lacroixの見習いになって以来、彼女は懸命に努力を重ねてきた。しかし今、メンズウェアへの処女航海に向けて、かつて家を捨てた娘は60年代後半の幻覚剤と実験アートの世界へ戻った。
この新コレクションに表れているのは、ポールの影だけではない。万華鏡のような美学、中性的な色使い、ゆったりとしたシルエットは、サイケデリック文化に内在した強い政治意識へのオマージュとも思える。しかしステラは、純粋なノスタルジーに浸る誘惑に抗って、回顧の要素を90年代のブリットポップ グランジと混ぜ合わせ、合成サブカルチャーの斬新なビジュアルを誕生させた。ニューエイジの教祖でサイケデリック ライターのアラン・ワッツ(Alan Watts)は、かつて言った。「自分自身を定義しようとすることは、自分の歯を噛もうとするに等しい」。だがステラは、自由を愛する血筋を犠牲にすることなく、倫理的な商品作りによるブランド定義を実現している。ステラにとって、社会運動やサステナビリティは、単なる見せかけの行為ではなく、デザイン原理そのものだ。
アダム・レイ(Adam Wray)
ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)

アダム・レイ:ロンドンのサビル・ロウで修行された経歴ですから、メンズウェアには精通していますね。では、Stella McCartneyが新しくメンズウェア市場にもたらすのものは、何ですか?
ステラ・マッカートニー:私たちは、いつも自分の声を発信できるプラットフォームを探してるけど、メンズウェアは全く新しい機会を与えてくれたわ。メンズウェアの世界に入ってひとつ気付いたのは、サステナビリティがほとんど考慮されていないこと。だから、私のコレクションを徹底してサステイナブルにすることが大切だった。オーガニックな製品をふんだんに使ったし、もちろん革も毛皮もPVCも使ってない。そういう意味で、男性のために、今までになかったコレクションを作ったことになるわ。

メンズウェアのデザインで、もっとも難しい点は何ですか? ウィメンズではできなくて、メンズでできることはありますか?
私には、メンズの方がはるかに難しい。いろんな疑問が湧いてくるんだもの。ウィメンズなら、寝てたってデザインできるし、自分がやっていることがはっきり分かってる。でもメンズだと、まだそれほど自信が持てないわ。おかしな話だけど、「私が男だったら何が欲しいかしら?」って自問するくらいよ。そのこと自体、私にとって新しい経験だわ。女性に比べて、男性の服の着こなしはもっと気楽で無難だと思うの。だから、それを探りながら、それを反映した服を作るのがとても面白い。

コレクションには、ツバメを刺繍した作品がありますね。あなたが子供の頃にお父さんが着てたシャツにインスパイアされたそうですが、積極的にインスピレーションを探すタイプのデザイナーですか? どういう場所でインスピレーションを探しますか?
父はいつも私に大きな影響を与える人よ。それに、自分のまわりにいる人たちからも、絶えず刺激を受けてるわ。過去の人も今の人も含めて、ミュージシャン、アーティスト、フィルムメイカー、偉大な人たち。アートとか建築とか、いつも私の部屋に溢れてた音楽とか、自分が育ってきた環境のイメージや出来事も振り返る。もちろん、サビル・ロウでの経験はコレクションに直接的な影響を与えてるし、ロンドンそのものもインスピレーションだったわ。サブカルチャーや、ビートルズや、80年代のブリットポップ。

2017年春夏コレクションのタイトルは「Members And Non-Members Only (会員と非会員のみ)」ですが、その意味は?
すべてを含めるって意味。面白いでしょ。最近は、自分の仕事について話すことが多いの。発言することは大切だと思うし、今のところ、発言できるときだと思うから。「会員と非会員のみ」ってタイトルはユーモアがあって、ちょっと混乱するだろうと思ったけど、同時に受容的だし、今の時代に相応しい。以前イギリスにあった女性禁制のクラブも連想させるわ。コレクションの大半と同じように、イギリスに敬意を表したの。

サステナビリティの追求は、あなたのビジネスの基盤ですね。ファッション産業が環境への影響を軽減するには、どういった方法が可能でしょうか?利潤より地球を大切にすることを、どうやって大企業に納得させますか?
毎年、5千万頭以上の動物がファッションの名目で殺されてるのよ。当然、大きな影響があるはずだわ。毛皮や革の生産と環境への負荷は結び付いてるって、私は信じてる。ラグジュアリー ファッションに関わっているもっと多くの人たちに、この取り組みに参加して欲しい。サステイナブルになれる新しくてクリエティブな方法が、どんどん生まれてるのよ。私たちの商品や素材には30%余分なコストがかかってるけど、そのコストは、ブランドとして進んで引き受けるわ。

消費者に責任ある行動を促すことも、サステナビリティを推し進めるひとつの方法ですが、同時に、技術的な革新も必要不可欠ですね。
サステイナブルであるためには、物を購入するときもサステイナブルでなきゃいけない。カシミヤの生産はとても有害だと分かって、私たちは再生カシミヤだけを使い始めたの。サスティナブル ビスコースもそう。ビスコースが木から作られることを知らない人が多いけど、私のところで使うビスコースは、全部、サスティナブルな森で伐採した木材から作ってる。ファッションも食物と同じように考えるべきよ。先ず、原料を確かめること。私は何よりも先ずファッション デザイナーだから、楽に着れて魅力のある商品を作りたいの。今は、みんなが消費方法の意識を高めようとしてるわ。企業にとって、それは、1週間でゴミ処理場に行ってしまうものを作るより、多少多くの資金を長期的に投資して、もっと長持ちする製品を作ることを意味するのよ。
- 文: Adam Wray
- 写真: Rebecca Storm