彫り込まれたMargielaの白いレザーヒールから見る眺め

長らく表舞台から姿を消していた若者の定番を、クリエイティブ ディレクターのJohn Gallianoが甦らせる

  • 文: Reva Ochuba
  • 写真: Haw-lin Services

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

とある女性がショップに入り、大きく一息つく。そして問う。「わたしの足首を太く見せることなしに、性差別主義者の常識を打ち破る靴なんてないですよね?」

店員は、慎重にあたりを見まわし対応をする。「後ろを見てみて」女性はブーツ、ピンヒール、スニーカーの売り場を通り過ぎながら店内を探しまわっている。正確に言うならば、彼女は彼女ですら見たこともないものを探しているのだ。遥か後ろの角のあたりで、彼女は靴を見つけた。まさに脱構築主義的な形をしていて、フィット感、機能性、形状といった靴が持つべき基準をまったく無視している。 典型的な未来派のデザインで、白いレザーが使われており、「宇宙家族ジェットソン」の空飛ぶ車を連想させるヒールが後方に突き出ている。彼女はその靴を試着し、次に自分のホロスコープをチェックする。彼女は自分の発見に対する肯定で照らされた上に、よりによって今日、彼女は繁栄の第9ハウスに木星を手にするだろう。それが何を意味するか彼女は知らないが、彼女はそれを思い切って受け入れることにする。なぜなら「機会到来はほとんど二度とない」と彼女のホロスコープが言うからだ。

キトゥンヒールは、もともと1950年代にピンヒールの練習用靴としてファッション界にうぶ声を上げた。フラットシューズを卒業したものの、10センチのヒールにはまだ慣れないティーンエージャーのためにデザインされた靴だった。それから60年が経ち、厚底靴やスパイクヒールから得られる手頃な満足感のために、今やキトゥンヒールはユースカルチャーの中での定番の地位を失ってしまった。この忘れ去られた大人のスタイルに敬意を払って、Maison Margielaが手を加えることで、かつての重鎮はお母さんの靴という現在の汚名を返上するのだ。そのうえ、演劇的な作風で知られるJohn Gallianoしか成し遂げられない、これみよがしな「ワオッ!お嬢さん、なにそれ?」的な感覚をもまとっている。靴の後方にある丸く白いかかと部分の愛らしい型取りは、彼のロマンチシズムに対する強い思い入れがうかがえる。ハードな中にわずかな優雅さを加え、くっきりとした古典彫刻からの影響がざらついたレザーで表現されている。この二項対立の中にある繊細さは、青年期から大人への移行期に見える粘り強さと同じなのだ。Margielaのクリエイティブダイレクターとして4度目のシーズンを迎えるGallianoは、我々の期待を裏切る方法として伝統を重んじる手段をとる。こうした要素は、すでに二重になったシルクオーガンザのトレンチコートや肩を出したシャツと重ねられたポプリンのシャツに見てとることができるが、突き詰めると想像性に富んだ女性らしさこそがガリアーノのすべてなのだ。

2016年春夏コレクションで見せた画期的なシューズによって、Maison Margielaはたびかさなる不評にもかかわらず、キトゥンヒールと同じく、まだまだ死なないことを証明してみせた。Maison Margielaのアイロニーをまとった新たな冒険は、我々の考え方をひっくり返し、「練習用ヒール」だった靴を、突然、洗練という流行のもっとも広大な領域に投げ出したのだ。かつては安全だという理由で選ばれていたものが、今は大胆で型破りなものへの近道として崇拝されている。地上から8ミリだけしか離れていないにもかかわらず、これほど尖っている人は他にいない。

  • 文: Reva Ochuba
  • 写真: Haw-lin Services