時を遡る幻覚薬、時を刻むRolex
収集し起業する アレハンドロ・アルコセールが、 時間と物の逃れ難い魅力を語る
- インタビュー: Zoma Crum-Tesfa
- 写真: Eric Chakeen

アレハンドロ・アルコセール(Alejandro Alcocer)は、いくつもの人生を、それも同時に生きてきたようだ。10代の始めには、スケートボードをメキシコへ輸入するビジネスをスタートし、成功させた。16歳で、マサチューセッツ工科大学、通称MITに合格。20代前半は、伝説的なバスク料理レストラン「Arzak」の料理人。2000年代初頭には、ニューヨークのローワー イーストサイドで「Green Brown Orange」を立ち上げた。グリーン、ブラウン、オレンジの色分けは、ケータリング体験、カフェ、サステナビリティ プロジェクトを象徴する。現在は、料理人そして希少品コレクターとして色々な活動に取り組み、貴重かつ膨大なコレクションのカスタマイズと販売に関わっている。内容は、Rolexの腕時計からHermèsのバッグ、Porsche、北欧家具、等々。
物の命とマンハッタンのゴミ危機について、アルコセールがゾマ・クルム−テスファ(Zoma Crum-Tesfa)に語った。

ゾマ・クルム−テスファ(Zoma Crum-Tesfa)
アレハンドロ・アルコセール(Alejandro Alcocer)
-
23歳のとき、レストランでコンサルタントの仕事をしてたら、いきなりキッチンのガス管が爆発したんだ。飛んで来たグリルの破片が頭蓋骨を直撃してね、その後3ヶ月昏睡が続いて、記憶を取り戻すのに長い時間がかかったよ。幸運だったのは、10年前、ピグミー族と一緒にガボンの薬を入手できたことなんだ。そのおかげで細胞記憶にアクセスできたんだけど、当時、西洋でその薬を試したのは僕が18番目だった。
細胞記憶へのアクセスって、どんな感じでしたか?
過去へ時間を遡って、時間は構成概念だということが分かった。36時間、体がずっと痙攣を続けて、その後、肉体離脱するんだ。
その経験で、どのように変わりましたか?
必要なサポート体制がなかったから、意識が戻ったときは気が狂いそうだったよ。その薬が実際に脳にどう作用するか、理解している人はほとんどいなかったんだ。それはともかく、人間の器官の中で、目だけは全く変化しない。だから、人の目を見れば、その人の時間の流れが見えるんだ。誰かの目を見ると、いつも記憶を招く引き金になる。そのおかげで、ニューヨークに住むのが大変になった。
人生の他の部分でも、そういう繋がりを経験しますか?
僕は常に直感的な人間なんだ。この仕事を世界中で14年もやっていると、文化が違っていても、シンボリズムは相互に関連していることが分かり始めるよ



それは収集とも関係するんでしょうね。収集を始めたのはいつですか?
16歳のとき、父から生まれて初めての腕時計をもらったんだ。エンジニアだった父は、人間は物に意識を集中して時間の概念を作り出す、それが腕時計の価値だと教えてくれた。人間だけが、時間に従って生きる唯一の生命体なんだ。良い時計の役目は、やりたいことをできる時間がX時間しかない、って僕たちに思い出させることだ。生活で最大の必需品である時間に気付かせる。
お父さんからもらった初めての時計は?
Rolexだったよ。
それはそれは!
その後、スケートボードのビジネスが軌道に乗ってから長い間Rolexを集め続けて、かなりの数のコレクションになった。Rolexは、1960年代に、南アフリカに基地があったイギリス海軍のために黒い時計を500本作ったことがあるんだ。ところが面白い会社でね、南アフリカのアパルトヘイトや人種差別を理由に、以来ずっとその時計のサポートを拒否してきた。僕のコレクションに欠けてるのはその時計だけだったから、僕は、ステンレススチールをブラックに変える方法を調べたり研究したりして、150本作った。SSENSEで取り扱っているものもそれだよ。全部製造年が違うし、モデルも違う。古艶も色々だし、価格もバラバラ。ひとつとして同じものはないんだ。そういう具合に、僕がコレクションをするのは、物を手に入れて由来を理解するプロセスに興味があるからなんだ。

Featured In This Image: Black Limited Edition watch.
Porscheを収集したのも、同じ理由から?
Porscheの収集を始めたのは、Porscheと共同で、914モデルの電気自動車を作るプロジェクトをやりたかったから。914はPorscheのいちばん象徴的な車なのに、どういうわけかマーケティングがまずくて、販売につながらなかった。フェルディナント・ポルシェ(Ferdinand Porsche)がデザインした最後の車だし、悲痛な思いで決定したデザインだったんだ。というのも、1960年代後半にPorscheは倒産寸前でね、「我々には世界でもっとも優れたレース カーがある。それなら、一般市民も優秀なデザインの車を運転できるようにしたらどうだろう?」と、考えたわけだ。でも自分たちの工場でそんな車を作る資金はなかったから、Volkswagenに話を持ちかけた。当時、Volkswagenのオープン カーは2人乗りのKarmann Ghiaだけで、914の設計の足元にも及ばない代物だった。だからKarmann Ghiaの製造を中止して、914をVolkswagen Porscheとして売り出した。だけど、ほとんど売れなかった。Porscheの人間にとってはVolkswagenの車だったし、Volkswagenの人間にとっては高過ぎた。どうしても上手くいかなかった。だけど車好きやレース ドライバーと話すと、914はPorscheが作った最高傑作のひとつなんだ。だから僕は、Teslaをプラットフォームにして、全部のバッテリーを914に搭載してみようと思った。ただ、Porscheと仕事をするのは、すごく骨が折れたよ。
あなたが収集する物の多くは、それを分解して、どう機能しているかを理解することに関わってるようですね。Hermèsのバッグには、それがどう当てはまりますか?
Hermèsの製品は、どれも伝説になるくらい有名だ。デザインも製造も非常に入念だし、そういう貴重な伝統を現在まで守り続けている。僕が刺激を受ける企業だ。

Featured In This Image: Black Limited Edition watch.
人間だけが、時間に従って生きる 唯一の生命体
Hermèsが新しく出した時計については、どう思いますか?
70年代に作った時計は、とても優れたムーブメントを使っていた。だけど、現在の時計は今ひとつだな。
毎日使っている腕時計は?
ヨットをやるから、今はHeuerのRegattaというモデル。60年代後半から70年代前半にかけて製造された時計で、ムーブメントはBreguet製。Breguetは、今でも、いくつか最高の自動巻き腕時計を作ってる。
あなたが興味を持つ物には、どんな魅力があるのでしょうか?
僕にとっては大切なのは、物が作られた意図だ。意図が無ければ、優れたデザインは作れない。とても崇高な志から出発したとき、不朽の物が生まれる。
What are some things you’d say to someone who is young and trying to develop their aesthetic and start collecting things?
I have two sons. One is 12 and one is 16. The 16-year-old is at this point where he’s going to be acquiring things of his own. But when I talk to him about it, I say that it has to be something that you like. And when you find something you like, you have to find out what it is that you like about it. Why do I like this? Who made it? Why did they make it? These are the questions that allow you to hone your taste.


マンハッタンはとても小さい島なのに、僕たちはもの凄い勢いでゴミを捨て続けてる
審美眼を鍛えてコレクターになろうとしている若い人への、アドバイスは?
僕には12歳と16歳の息子がいる。16歳の方は、そろそろ自分のものを手に入れる時期に差し掛かってる。でもそれについて話すときには、自分の好きなものを集めるように言ってるんだ。自分が好きなものが見つかったら、それの何が好きなのかを知ることだ。どうしてこれが好きなんだろう? 誰が作ったんだろう? なぜ作ったんだろう? そういう自問を続けることで、見る目が磨かれていく。
消費者製品の、それも低俗な部類で、魅力を感じる物はありますか?
僕が買うのはほとんどビンテージかリサイクルものだから、現代のブランドには詳しくないんだ。
「Green Brown Orange」のレストランとケータリング部門を、ゴミを出さない「ゼロ ウェイスト」の方針に変えましたね。どのくらいの期間、そのアイデアを温めていたのですか?
ああ、カフェの「L’Estudio」で再スタートしたばかりだ。カフェで使う皿やカップなんかも、隣に併設した陶磁器のスタジオで全部作ってる。最終的には、その粘土も含めて、あらゆるものを堆肥場に集めるつもりだ。僕はずっとサステナビリティや自然保護を支持してきた。今ニューヨークでは、都市としてのサステナビリティに対して、明らかにもっと切迫感を持つ必要がある。マンハッタンはとても小さい島なのに、僕たちはもの凄い勢いでゴミを捨て続けてる。
今日のラグジュアリーは、所有物より、サービスやレンタルする物へシフトしているように思えます。コレクターとして、新たに登場しつつある「経験経済」をどう考えますか?
正しい方向へ向かう、素晴らしい一歩だと思う。ヨーロッパでは、BMWが素晴らしいカーシェアリングのプログラムを提供してるよ。もう車を所有する必要はないんだ。しかも電気自動車だから、ガソリンも要らない。どこにでも乗り捨てられる。これからは、所有より共有の時代になるだろうね。
自分がコレクションしたものは、自分のものだと思いますか? あなたの手を離れた後のことを考えますか?
コレクションの中身は常に変化するんだ。ソファを手に入れると、そのソファがきっかけになって、別の物に興味が湧いてくる。それで結局、ソファは他のものと交換される。僕はまた、違う物に影響を受ける。いつも移り変わる。僕は何にも執着しない。どれもプロセスの一部だ。
- インタビュー: Zoma Crum-Tesfa
- 写真: Eric Chakeen