だからコラボレーションは、やめられない
カルム・ゴードンが2017年の共同ブランドのカオスを読み解く
- 文: Calum Gordon


スニーカー(Supreme × DC Shoes)、1999
冒頭の画像 モデル(左):Tシャツ(Vetements) モデル(右):Tシャツ(Vetements)
1999年、当時まだそこまで知られていなかったニューヨークのブランドSupremeが、スニーカーを作ろうと考えた。彼らには自分たちだけでスニーカーを作るリソースはなかったので、実際にスニーカーを作っているブランドに話を持ちかけた。それがスケートシューズ ブランドのDC Shoesだ。
出来上がったシューズはラファイエット ストリートにあるSupremeの店舗で販売され、ほとんど話題にもならなかった。通りに延々と続く長蛇の列もなければ、ひっきりなしにネットで取り上げられることもなかった。これが以前のコラボレーションだった。今ではちょっとありえないことだが。
ブランドを超えたコラボレーションは、2017年のファッションを決定づける特徴のひとつになった。今年のシーズンだけでも、NikeとOff-Whiteと、Junya WatanabeとThe North Faceが提携し、SacaiとUndercoverは東京のファッションウィークにおいて共同でショーを行った。Balenciagaは、なんと2018年の春夏コレクションのショーのフットウェアを作るためにCrocsを選んだ。だが厳密には、どのような経緯でこのような事態になったのだろうか。
突出した地位を担うラップ音楽で育った新たな時代のデザイナーの登場により、ファッション業界は、ヒッポホップのクリエイティビティに対する由緒正しいアプローチを真似るようになった

Balenciaga × Crocs、2018年春夏コレクション
いつものことながら、コラボレーションに対する考え方とその消費の仕方の両面において、インターネットが重要な役割を果たしていた。これまで以上に、私たちはあらゆる文化的要素の組み合わせによって自分自身を定義づけるようになっている。オンラインで私たちが行っているのはブリコラージュのアプローチなのだ。Twitterのタイムラインへの投稿、誰をフォローするか、Instagramでタグ付けした場所、これら全てのことが自分のイメージを作り出す。これはオフラインの生活やワードローブにも浸透している。90年代のファッションは「Margielaを着る女性」やYohjiを着る女性」という考えに支えられていた。だが、ひとつのブランドやスタイルへの揺るぎない支持という考えは、今ではもう存在しない。地道に一つのスタイルを貫くことは、大抵、面白みに欠けるとみなされることが多い一方で、汚れたJordanとDries Van Notenを組み合わせるなど、対照的なスタイルを並べることは賞賛される。
ブランドにしてみれば、ビジュアル的にもカルチャー的にも複雑でとらえにくい消費者に対して訴求するには、コラボレーションが理想的な方法だ。また、コラボレーションにおいては、必ずしもブランドが掲げるビジョンにはそぐわない多種多様な要素でも、デザイナーは表現として用いることが許される。たとえば、デムナ・ヴァザリアのVetementsでの仕事の大部分は、コラボレーションがその特徴となっている。現在も継続中のLevi’sやAlpha Industriesなどとのパートナーシップもあれば、意外性のあるパートナーとしては、非公認のオマージュに端を発し、公式に2018年春夏カプアセルコレクションにまでなった運送業大手のDHLとのパートナーシップもある。
積極的にコラボレーションを行うというVetementsの企業精神は、もともとVetementsがとってきたデザイン手法に起因している。昨年1月のパリ コレクションで発表された2017年春夏コレクションは、SupremeによるDCのスニーカーへのアプローチに似た方法で作られたアイテムで、その全体が構成されていた。提携した18のブランドが最も得意とするアイテムに、Vetements流のひねりを利かせたのだ。VetementsのCEO、グラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)によれば、これは、各アイテムをそれぞれゼロから作り上げるのではなく、他社の専門技術を取り入れるというやり方なのだ。「初期のフライト ジャケットは、イタリアで自社で作ったのですが、あまりに技術的な欠陥が多く、飛行機に乗る際は誰にも使ってほしくないと思ったほどでした」と、ヴァザリアは今年の初めに『Vogue』のインタビューで話している。「Vetementsの目指すところは、その分野で可能な限り最高のものを作るというものだったので、[Alpha Industries’]の専門技術が絶対に必要なのは明らかでした」。この手のコラボレーションは、ファッション業界には常に存在していた。マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)率いるHermèsは、90年代にコートを作るのにMackintoshに協力を求めていたし、婦人用帽子ブランドのStephen JonesはAlexander McQueenに協力している。だが、かつてデザイナーのビジョンを表現するためのサポート的な役割でしかなかったのが、今では多くの点で、デザイナーのビジョンを決定づける役割を担っているのだ。
ここ1年で最も大きな反響を呼んだものといえば、間違いなくLouis VuittonとSupremeのコラボレーションだ。ショー ノートで、ダッパー・ダン(Dapper Dan)への敬意が表されていたのも、うってつけだった。ダッパー・ダンは80年代から90年代初期にかけて、非公認のロゴジャッキングと巧みな仕立てで、今日の主要なハイブランドの美学に影響を与えたテイラーだからだ。ダンはまた、ヒップホップ初期を代表するエリックB.(Eric B.)やラキム(Rakim)、LLクールJ(LL Cool J)などの衣装も手がけてきた。ハーレムを拠点としたテイラーの仕事と同様、ヒップホップ自体もまた、そのニッチな起源に打ち克ち、現代のポップカルチャーの主な立役者となった。ヒップホップの影響は、昨今の話し方や服装から、自分自身をいかにクリエイティブに表現するかという点にまで至る。突出した役割を担うラップ音楽で育った新時代のデザイナーの登場により、ファッション業界は、クリエイティビティに対するヒッポホップの由緒正しいアプローチを真似るようになった。

SacaiとUndercoverの2018年春夏コレクションでのコラボレーション

SacaiとUndercoverの2018年春夏コレクションでのコラボレーション
サウスブロンクスで登場したばかりの時期からすでに、ヒップホップはコラボレーション的性質をもつアートの形態であり、パーティーの成功には、DJとMCと観客の相互作用が不可欠だった。インターネットが登場する以前のラップにも、他のラッパーやプロデューサーに協力を請い、新たな音の領域を探求しようという開かれた姿勢があった。Raf Simonsが、のマンチェスターのポストパンク シーンの妥協を許さないミニマリズムを喚起させるためピーター・サヴィル(Peter Saville)を頼ったように、ジェイ・Z(Jay-Z)は、1999年に大ヒットしたシングル「Big Pimpin」でヒューストンの伝説のラップデュオUGKを迎え、自らのサウンドに新たな一面を加えた。
だがそれ以上に、コラボレーションは、自分の人脈、あるいは知識、または実績を曲げる巧妙な方法でもあった。最もコラボレーションの上手い者がこれらを巧く使うことで、トレンドを牽引するカルチャーの立役者としてのポジションを築き、本物らしさを醸し出すことができる。ドレイク(Drake)が第一線で活躍し続ける理由のひとつもそこにある。ドレイクは、ミーゴズ (Migos)やスケプタ(Skepta)といった大スターたちがメインストリームになる以前から、彼らの仲間に加わり、関係を築く能力に長けていた。DJキャレド(DJ Khaled)は、どのミュージシャンと組めばうまくいくかを嗅ぎとる天性の臭覚をもってキャリアを作り上げた。それぞれにとって、コラボレーションとはクリエイティブな試みであるだけでなく、ブランド力を高める実践でもある。そして、多くの点で、ファッションもまたコラボレーションを同じような視点で見るようになってきたのだ。宝石をちりばめたCrocsの厚底シューズがパリのランウェイに登場? 人気ラッパーの2チェインズ(2 Chainz)をゲストヴァースに迎え入れてコラボレーションすることのファッション版とでも言おうか。意外性のある要素が、興味を引きつけ、観客を盛り上げる。

画像のアイテム:コート(Junya Watanabe)
コラボレーションを行うのであれば、その根底で有意義な文化交流が起きることが必要不可欠だ。そうでなければ、無様にただ衝突するだけになってしまうからだ
昨今のデジタルメディアの状況により、このような姿勢はさらに加速している。特に、「HYPEBEAST」や「Highsnobiety」などコンテツ巨大企業は、クリックが即金を意味する世界での遅れを取り戻すべく、従来型の出版を離れてしまった。結果的に、ブランドやアーティストが、話題を提供して注目を集めることなく人々に気づいてもらうことは、今後ますます困難になっている。「現在のメディアのあり方では、ただコレクションを作って、半年後に人々が関心をもってくれることを祈るのではダメなのです。常に話題にのぼる必要があります。コラボレーションならこれが手軽に実現できます」と「Highsnobiety」のデジタル ファッション エディターのアレク・リーチ(Alec Leach)は話す。
とはいえ、パリのランウェイより、どちらかと言えばニューヨークのキャナル ストリートに自らの姿を重ねるラグジュアリーブランドは、一歩間違えれば大失敗に終わる、ギリギリの線を行っている。コラボレーションを行うのであれば、その根底で有意義な文化交流が起きることが必要不可欠だ。そうでなければ、無様にただ衝突するだけになってしまうからだ。
BurberryとGosha Rubchinskiyの最近のコラボレーションは、イギリスで論争の的になっている「チャヴ」のステレオタイプからインスピレーションを得ているとして批判を受けた。それは2000年代に、労働者階級の若者がイギリスのラグジュアリー ブランドの象徴であるノバチェック柄をこぞってに着るようになった際、Burberryが積極的に距離を置こうとしていた粗野なパロディそのものだった。とはいえ、ここでは新しいファン層に向けてより魅力的に作り変えられていた。ストリートウェアに詳しいゲーリー・ ウォーネット(Gary Warnett)は、これを「高級服を着るような人たちがあえて労働者階級のスタイルを真似して貧しいふりをして楽しんでいる」と表現した。

モデル(左):Tシャツ(Heron Preston)、スウェットパンツ(Heron Preston) モデル(中央):ジャケット(Heron Preston)、キャップ(Heron Preston) モデル(右):フーディ(Heron Preston)
ブランドのコラボレーションがファッションにおける新たな常識として定着する中、これがさらに進化をし始めるのは時間の問題だ。Heron Prestonがニューヨーク市衛生局とコラボレーションした最新作はこの進化の一形態である。2016年に発表されたユニフォームの再デザインは単発のシリーズとして始まったものだが、これは、ファッションが環境に及ぼす悪影響に対する業界の無関心を訴えるプレストン初の公式コレクションにも再登場している。ただ参考にしてコレクションに盛り込むのではなく、ニューヨーク衛生局と直に協働してプロジェクトを進めたことで、プレストンは自身のアイデアをより明確に表現することができ、さらに彼のブランドの背後にあるより大きな目的意識を伝えることに成功した。
マーケティング ツールとしては、共同ブランドによるコラボレーションの勢いはそのうち衰えるだろうが、この手法自体がなくなることはない。これは、数々の成熟したデザイナーたちのクリエイティブなプロセスの一部なのだ。無数に存在する基準を巧みに操り、さまざまな影響を融合して独自の世界観を表現するのに長けた者がファッションを制する。コラボレーションには驚かされることもあるだろうが、根底ではやはり道理にかなった戦略なのだ。

画像のアイテム:バックパック(Heron Preston)
Calum Gordonはベルリンを拠点とするファッション ライター。『Contemporary Menswear』の共著者であり、「Dazed」、「Another Man」、「Kaleidoscope」でも記事を執筆している
- 文: Calum Gordon