イット ガールのアドバイス
シンガー、女優、モデルをこなすキャロライン・ヴリーランドが、仕事、ワイン、リー・ダニエルズを語る
- 文: Erika Houle
- 写真: Caroline Vreeland、 Rebecca Hearn

午前10時のロサンゼルス。スウェットパンツ姿のキャロライン・ヴリーランド(Caroline Vreeland)は、歩道でグリーン ジュースを立ち飲みしながら、携帯越しに生活の知恵を授けている。「いつも、何か古典的な名作を持ち歩いてればいいのよ」。30歳の新進スターは言い切って、その理由を教える。「そしたら、絶対一人ぼっちになることもないし、どこにいてもお洒落な感じで腰を下して、別の世界に入っていけるから」
落ち着いた、だけど演劇のような口調だ。昨晩の遅いフライトでマイアミからロサンゼルスへ戻り、その後親友のお誕生日パーティがあったにもかかわらず、まったく疲れを見せず、とても快活だ。大麻成分を含んだCBDオイルを試しているというから、すごくリラックスしてクールなのは、そのせいかもしれない。それとも、あでやかな魅力と無頓着さを同時に発散するのは、生まれながらの才能なのだろうか?
キャロラインは、今は亡き曾祖母ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)が歩んだ道を踏襲しつつある。伝説のファッション エディターであり、メトロポリタン美術館のコンサルタントでもあったダイアナ・ヴリーランドは、奔放な想像力とファッションに対する型にはまらない視点で知られた女性だった。「私が好きなのは、ダイアナが『ヴォーグ』時代に秘書に渡したメモなの。『アシスタント全員に、子猫がつけるような鈴を首につけるように言って頂戴。そうすれば、誰かが来るときに音でわかるから』」。キャロラインは続ける。「聞いたこともないほど真剣なメモだってあるのよ、ソバカスについてね」。キャロライン自身の精神にも、果てしない創造性が渦巻いている。毎日欠かさないワインとパスタの写真をインスタグラムにアップロードしていようが(ちなみに、ワインには#carowine、パスタには#carocarboloadのハッシュタグが付けられている)、ファッション ウィークで最前列に坐っていようが(ちなみに、彼女はショー会場を遊び場だと思っている)、リー・ダニエルズ(Lee Daniels)が手掛けるヒット ドラマ『スター 夢の代償』の登場人物としてブルースを歌っていようが、自分の基準に合わせて大胆に生きる。「youth(若者)」と「earthquake(地震)」を掛け合わせた「ユースクエイク」とは曾祖母ダイアナが、60年代に生じた若者文化の台頭を指して使った造語だが、まさに現代のユースクエイクを象徴するキャロラインは、インフルエンサーの立場を享受し、女優として、ミュージシャンとして、キャリアを磨きつつある。どんなセルフィー写真も出し惜しみすることなく。
ダイアナが『ハーパーズ バザー』に執筆し、挑戦の精神を奨励したかの有名なコラム「Why Don’t You ~ どうしてしないの?」へ捧げるオマージュとして、SSENSEがキャロラインのアドバイスを尋ねた。
どうして...

Caroline Vreeland 着用アイテム:ドレス(Khaite)、イヤリング(Chloé) 冒頭の画像 着用アイテム:コート(Balenciaga)

着用アイテム:ドレス(Khaite)、イヤリング(Chloé)
...朝の日課のルーティンをやぶらないの?
「私の場合、いつ何時に起きるか、決まってないの。 アトランタのホテルで朝の4時に起こされてセットに行かなきゃいけない日もあるし、朝寝坊できる日もある。マイアミに行くのは、キューバ人のパパがマイアミに住んでるから。あっちに行くのは大抵仕事が休みのときだから、めいっぱい遅くまで寝てるわ。パパが料理を作ってくれるのよ。ブラックビーンとホウレン草とニンニクを使った、キューバ料理。大好物。私はいつも、さて朝ごはんに何を食べようか、って考える。スモークサーモンとか...。ヨーロッパにいるときは、カフェでコーヒーとクロワッサンかな。朝は活動的じゃないの。朝から近所をジョギングしたり、ヨガのクラスに行ったり、みたいなのは私の流儀じゃない」
…食べることを楽しまないの?
「食べることの味わいと楽しさはともかくとして、私が本当に好きなのは一連の行為なの。どこかへ出かけて、腰を下して、友達とパンを分け合って、気の合う人たちとワインのボトルを開ける。食事を中心にして展開する、そういうすべて。私はいつも食べることを考えてる」
...ワインに語らせないの?
「私、ワインには本当にうるさかったのよ。バーへ行くと、そこにあるレッド ワインをひとつ残らず試して、香りやフレーバーやトーンをバーテンダーに説明してもらってた。でも、詳しくなってくると、ワインと但し書きは関係ないってわかったわ。もちろんそういうことにはそれなりの意味があるけど、ワインで一番肝心なのは自分にとっての意味よ。例えば、ロス フェリスで、偶然、風変わりなDJと意気投合した。なんだか気味が悪くて、本当は好きでもないのに、向こうがすごく積極的だったからそういうことになった。朝目が覚めて、その男のことを思い出す。ベッドサイドに置き放しになってたワインのグラスに手を伸ばして、一口飲んで、神経を鎮める。するとそのワインは、あなたにとって、そういう意味を持つ。オークの樽で熟成されたかどうかなんて、考える必要ないの」

着用アイテム:コート(Balenciaga)
...遺されたレガシーを活かさないの?
「25歳頃までは、音楽のことしか頭になかった。ダイアナ・ヴリーランドの才能も偉大さもわかってなかった。絶対自分の力で成功したいと決め付けてたし、有名な祖先の七光りは嫌だったの。私自身を表現したかったのよ。つまり生意気なティーンエージャーってことだけど、それが一番大切だった。だけど、私の人生が本当に始まったのは、ダイアナとの関係がとても大きな光栄だと理解し始めたとき。私はずけずけものを言うところがあるから、リスクだかなんだか知らないけど、私と関わりたがらないブランドもあるけど、そういうときは、ダイアナならなんて言っただろうと考えてみるの。きっと笑い飛ばして、自分のやりたいようにやったはずだわ。いつも心に留めてるのは『とっても良い人生はひとつきり。自分が願う人生を自分で作ること』っていう言葉。私は自分の願う人生を自分で作り出してる。全部ダイアナのおかげ」
...名声を手に入れないの?
「私のプロデューサーと彼のガールフレンドと私の3人で、アイドルワイルドに行ってたの。ロサンゼルスの郊外にある、素晴らしい山。信じられないほど大量のワインを飲みながら、ちょっと3日間リラックスして、たった1曲だけ歌を完成するつもりだった。そこへリー・ダニエルズから電話がかかってきたの。「うそー!」って感じだったわね。オーディションというと、アリシア・キーズ(Alicia Keys)の歌を絶叫することしか考えてなかったけど、リーのボーイフレンドがインスタグラムで私をフォローしてて、フィオナ・アップル(Fiona Apple)の「Extraordinary Machine」を歌った動画を観てくれたらしいの。私、確か頭にタオルを巻いてベッドに横になってたけど、今でも覚えてるのは「今度新しいドラマ番組を作るんだ。君がぴったりじゃないかと思う役がある。オーディションをうけてくれるかな?」ってリーが言ったこと。 私はチャンスに飛びついたわ。1週間というもの、毎日1時間、リーはフェイスタイムを使って、私の台詞を繰り返し繰り返し指導してくれたのよ。それまで一度も会ったことのない人からそんな手ほどきをしてもらえるなんて、信じられなかった。ブルースを歌うときの私の声を土台にして、私の役を作ってくれたの。嬉しくて、圧倒されちゃった。本当につくり甲斐があった」
...有名人の仲間に入らないの?
「ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)にはまだ会ったことがないけど、面白い話があるわ。ドラマ シリーズが始まったとき、彼女の役はアルコール中毒で、私の役はヘロイン中毒だったの。台本を読んだらしい彼女が、リーに電話してきて『このヴリーランドなんとかって娘もアル中の役をやるんですって?』。リーは『心配しなくて大丈夫さ。君はアルコールで、彼女はヘロインだ。君の見せ場がなくなることはないから』って宥めたんだって。私は大抵の人には遠慮しないけど、彼女と張り合おうなんて、夢にも思わない」
...自分自身の不安を受け止めないの?
「フォトグラファーのミッシェル・コント(Michel Comte)とは、すごく気が合うの。今ではふたりの笑い話になってるけど、イタリア版『ヴォーグ』の撮影に行ったときのことよ。私にとっては初の大仕事だった。なのに、ミッシェルはわたしの胸を一目見るなり、『駄目だな。君の撮影はできない。どういうふうに撮ればいいのか、わからない』って言ったのよ。カリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld)は『キャロライン、あなたの胸、それこそあなたの真の姿を物語っているわ』って言ってくれた。きっとダイアナもそう言ったはずよ。人の欠点をいちばんエキサイティングな部分に変えた人だもの。本当のこと言うと、大手ブランドで嫌な体験をしたこともあるの。大きなバストに慣れてない人たちは、私の体を侮辱したわ。私と一緒にブランド アンバサダーに選ばれた女の子たちがが、お臍まで深くカットしたスクープネックのドレスを着れば『シック』、ところが私が同じものを着て乳房の谷間が見えると『卑猥』。でも私は、自分の大きなバストが不利だとは思ってない。同じような体形の女性がファッションの世界で居場所を獲得できるように、道を開拓する手段だと思ってる」
...世界に本当の自分を見せないの?
「私はすべてを見せるわ。ニキビ、唇にできたヘルペス、パスタで膨らんだお腹までね。泣き顔、ものすごく具合が悪いときの顔、写真写りがよくない角度から撮った写真、全部見せるのが好きなの。私がソーシャル メディアをするのは、そのためよ。いつも真実、本当のことを見せたいから。可愛く見えるかどうかは関係ない。そのほうがもっと面白いし、もっとセクシーだと思う」
...自分の影響力を享受しないの?
「もちろん、大勢の人に見られることは私の仕事の一部よ。だけど、私はこれまでずっと音楽をやってきたの。4枚アルバムを作ったけど、発売されたのは1枚もない。レコード会社と契約を結んだこともあるけど、見放された。ずっと悪戦苦闘。いくらかでも認められたのは、ファッションの仕事をやり始めたときだった。それは嬉しいけど、心の中では『誰もまだ本当の私を見てない』って気がしてる。ファッションは私のいちばん大きな情熱じゃないから。インフルエンサーからミュージシャンに移行するのが楽しみだわ。今シーズンのミラノ ファッション ウィークで、新しい曲を発表するの。ようやく、自信と経験を自分のものにしたと思う。もう子供じゃない。絶対に、今の立場を利用して、本当の私を見せていくつもり」
...あらゆるものを手に入れようとしないの?
「私が身につけるもの、私の活動、私が書く歌...どれもひとつ残らず、私自身がブランドという考え方に結び付いてるわ。そう聞くと『オエッ』って思うかもしれないけど、私は全部やりたいの。休暇で友達と一緒のときでも、『どうすれば、これを何かに関連させられるかしら?』って考えてる。映画スターにもなりたいし、新しいアルバムのツアーもしたいし。何であれ、どうすれば私の人生のアートにできるか…それを考えてないときは、まったくない」
- 文: Erika Houle
- スタイリング: Caroline Vreeland、Rebecca Hearn
- ポストプロダクション: Rebecca Hearn
- 写真: Caroline Vreeland、 Rebecca Hearn