今、冷血動物が熱い
ファッションが鱗で覆われるとき
- 文: Erika Houle

2016年の映画『ザッツ・ファビュラス』の撮影中、カメオ出演していたケイト・モス(Kate Moss)が、魅惑的な海の怪物のようなJean Paul Gaultierのグリーンのスパンコール ドレスに身を包み、テムズ川から姿を現した。濡れてつややかな髪に、片手にシャンパン グラス、もう片方にはタバコを持ったモスは、相変わらず、あらゆるランウェイに忍び寄るファッション トレンドを予言していたのだった。Valentinoは、2019年のプレフォール キャンペーンで、これとほぼまったく同じイメージの、キラキラと輝くエメラルドのドレス姿のナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)をニューヨークの地下鉄に送り出した。思い出すのはまさに、下水に棲むワニの都市伝説だ (といっても非常にシックなワニなのだが)。
ここ数シーズン続くカウボーイのトレンドも、冷血動物化している。コーチェラでケレラ(Kelela)が見せたクロコ型押しのMartine Roseのミュールや、フィッシュネットのドレスが良い例だ。ペットのヘビは、今や「イット」ガールの7つ道具のひとつになっており、とりわけ、シュシュやチョーカーの形で取り入れるのが望ましい。さらにヘビは『プレイボーイ』誌のエディトリアルにも、再び登場している。デザイナーも、そのミューズたちも、鱗を第2の肌に変えようとしているのだ。
2019年秋冬コレクションのランウェイは、どこも鱗で覆われていた。クレア・ワイト・ケラー(Claire Waight Keller)はGivenchyで、反射性のある生地を使った、海綿を思わせるワインレッドのトレンチコーチを通して、メンズウェアの深淵に迫る世界を表現した。Paco Rabanneのコレクションに登場したのは、おとぎ話に出てくる魚の尾ヒレを持つ主人公のためにデザインされたような、パープルのスパンコール パンツや人魚のシルエットのスカートで、子どもの頃に読んだ絵本の『人魚姫』や『にじいろのさかな』を思い起こさせた。Sies Marjanは、天然色の水中世界のような幻想的な舞台セットを作り、300万個ものSwarovskiのクリスタルの装飾でキラキラと輝くランウェイを、光沢のある蛍光色の布に包まれたモデルたちが、漂うように歩いた。Craig Greenのメンズは、指の間を滑り落ちそうで、その輝きは、ファッションが及ぼすプラスチック汚染を思わせる悲劇の光沢でもあった。
鱗を持つ生き物は、いつだって私たちのクローゼットに存在した。それも、さまざまな形で。最近の『ニューヨークタイムズ』紙の記事で、アンドレ・レオン・タリー(Andre Leon Talley)は、「彼は、ファッション界や冷酷至極なビジネス界の大半に見られる、非情でヘビのように陰険な人物とは異なる」と言って、トム・フォード(Tom Ford)を称賛した。エマ・ストーン(Emma Stone)は、2019年のアカデミー賞レッド カーペットに、茶色の柄のLouis Vuittonのドレスを着て登場し、Instagramでは、焼き魚 —もっと正確には焼け焦げた魚— をのせた皿の横にこのドレスを並べたインターネット ミームが大流行した。『ザ・トゥナイト・ショー』のトーク出演の際、キム・カーダシアン(Kim Kardashian)は、Thierry Muglerの「パイソン」ドレスを着て登場した。『GQ』のスタイル ライター、レイチェル・タシジャン(Rachel Tashjian)は、これを次のようなツイートで的確にまとめている。「ヘビが大人気だ —美しい革、突拍子もないエネルギー、ワルっぽいが魅力的な見た目、奇妙にもセクシーで、これを身につければ常に痛い目にあうかあわないかの瀬戸際にいられる」。Kiko KostadinovとAsicsのコラボレーションで生まれた、メタリックなラバーのディテールをあしらった、グリーンのメッシュのロートップ スニーカーは、徹底してヘビのようなスタイルだ。爬虫類スタイルの人気が高まる中、スニーカーですら突然変異を起こしているのだ。

水玉やストライプはもう古い。これからは、鱗柄が新たなクラシックとなる。鱗柄を着るのは、先の予測がつかないまま高速で変化し続けるライフスタイルに、カメレオンのように適応したいという願望を満たすためだ。これは、パーティと屋内水族館の常連のような人たちのためのユニフォーム。多面的ではあるが、物儀を醸すことは不可避である。現にここのところファッション界では、大々的に本物のエキゾチック レザー離れが起きている。かわいいワニ革のハンドバックを持つことは、もはやラグジュアリーのしるしではない。むしろ、倫理に背く罪なのだ。「エキゾチック レザーと牛革は、どう違うというの?」とステラ・マッカートニー(Stella McCartney)は問いかける。「私には理解できない。だって同じことだと思うもの。本気でレザーの使用をやめる気があるなら、完全にやめるべき。そうすれば、ファッション業界が環境に与える影響に、本当に大きな変化が起きる」。ファスト ファッションのTopShopからラグジュアリーのChanelまで、他のファッション界でも同様の動きが見られる。「2019年秋のメインであるプレタポルテ コレクションを機に、私たちはエキゾチック レザーを今後一切使用しないことに決定しました」とヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)は話しており、「この決定は、ブランドとしての希望を反映しただけでなく、お客様の希望も反映したもの」だと言う。幸運にも、ちょうど良い具合に、鱗に類するスタイルが今や多く生産されている。Issey MiyakeやComme des Garçonsといったブランドは、幾何学的なプリントを使った服を作ることで、魅惑的な形態変化の片鱗をのぞかせている。
私が初めて自分の顔のお手入れにローズヒップ シード オイルを使ったとき、自分で自分に対して仕掛けたイタズラのような、サディスティックな感じがしたのを思い出す。商品を使ってみる前に読んだ、延々と続く輝かしいレビューでは、モイスチャー成分配合や豊富に含まれる抗酸化物質といった、肌の欠点を補う様々な特性が推奨されていた。オイルは着色ガラスの瓶で届いた。低温圧搾法で搾った100%オーガニックのオイルだ。だが、手のひらに取った、そのとろりとした物質は、予想以上に気持ち悪いものだった。花からできた副産物というより、もっと粘液っぽかったのだ。オレンジがかった茶色の見た目とナチュラルな魚の匂いをよそに、私はそのオイルを顔中にたっぷりと塗り、よくマッサージして毛穴のすみずみまで染み込ませた。するとすぐに、私の肌が露に濡れたように輝き始めるのを感じた。乾燥した薄片が私の肌から取り除かれ、新たな鱗が出てきたような感じだった。ある種、ヌルヌルとした輝きだ。この輝きが今、メインストリームにも浸透している。
Erika Houleはモントリオール在住のSSENSEのエディターである
- 文: Erika Houle
- 翻訳: Kanako Noda