ゾーイ・ブルー・サイデルのデジタル バロック
女優兼スタイリストが、ポストインターネット時代へアンティークを呼び戻す
- インタビュー: Rebecca Storm
- 写真: James Chester

「1800年代か、1920年代か、1500年代に生まれたかった、ってつくづく思うの」。ゾーイ・ブルー・サイデル(Zoe Bleu Sidel)は言う。ハリウッドから姿を消すことなく、業界に確固たる基盤を築いてきたアークエット(Arquette)一族の出身であればこそ、サイデルがスポットライトから距離を置きたいと思うのも無理はない。しかし、注目すべき点がないわけではない。演技とデザインとスタイリングを往復する仕事は、新しい美学を生み出す上で、時代を経たディテールに関する鑑識眼が不可欠であることを証明している。エドワード朝時代のシルク ベルベットは、それによって永久の命を与えられた神話と同じくらい重要だ。近代以前の魅力は、デジタルの分野で再生しつつある。斬新に利用されて、不可思議で前衛的な表情さえ帯びつつある。ポストインターネット時代に古風なラグジュアリーを呼び戻すサイデルの手法を、単なるビンテージと分類することは難しい。むしろ、現実世界と幻想を隔てる境界線の綱渡りだ。これが私たちを翻弄している現象であり、サイデルが言うように「インターネットはとてもダーク場所になり得る」。強烈に折衷的な社会の風潮の中で、ゾーイ・ブルー・サイデルは自分の環境を神話に変える。

レベッカ・ストーム(Rebecca Storm)
ゾーイ・ブルー・サイデル(Zoe Bleu Sidel)
今どこにいるんですか? どの街?
ロンドンよ。今は、ここに住んでるの。
どこの街にいるかで、創作エネルギーの変化を感じますか? いちばん刺激のある場所はどこですか?
ああそれなら、ロンドンにいるのはとても素晴らしいわ。LAは、だだっ広くてどこへ行くにも車が必要なくせに、窮屈な感じなの。近所の人も知らないし、みんな警報機で武装してる。うわべだけに見える。ロンドンは、誰かが気に食わなかったら、はっきり分からせるの。口先だけの綺麗ごとは一切なしよ! それに歴史が素晴らしいわ。天候も好き。雨も霧も大好き。白鳥がいる池の側に座っていられるなんて、最高だわ。


洋服を着ることのいちばん好きな部分は、現実逃避
肩書きについて、質問させてください。必ずしも肩書きが必要なわけではないですが、あなたの仕事は簡単にカテゴリーに分けることができませんね。今やっていることを、どのように説明しますか?
スタイリングの仕事が多いわ。スタイリングが私のやりたいことだと思う。今22歳。いずれかの方向に傾く年齢よね。今年は2本映画に出て、そのうちの1本は来月に発表されるの。演技も楽しいんだけど、あの世界にはそれほど興味がない。あの業界にいられるほど、私は自分を愛してないもの。散々批判されるから、すごく強くないとダメ。外見、態度、発言、癖、あらゆることをとやかく言われるのよ。だから舞台裏の方がいいわ。スタイリングを始めたのもそれのせいね。
スタイリングはそれ自体パフォーマンス的ですから、演技にそれほど興味がないなら、ちょうど良い選択かもしれませんね。特徴のあるスタイルをお持ちですから、スタイリングは自然な成り行きのような気がします。
私は、舞台衣装的なスタイルが好きなの。コスチュームでドレスアップするのが大好き。アンティークの服も集めてるから、最近のお気に入りのほとんどは、1920年代のオペラハウスで使われてた服よ。あとは、古いサーカスの衣装とか、ルネッサンス時代の服のレプリカ。
日常生活は、洋服を選んでロール プレイしている気分ですか? それとも、空想の世界を現実にしてる感じですか?
もちろんそう! いつだって、服装で自分の世界へ逃げてる感じがするわ。そうすると、何が起きても、ずっといい気分でいられるの。それが、洋服を着ることのいちばん好きな部分よ。現実逃避。
ではおそらく、服装に関して、アメリカの大衆に迎合するプレッシャーを感じることはないんでしょうね?
全然ない。まったく気にしないわ。他の誰が何をしようと、私は気にならないの! それぞれ自分のやりたいことをやるように応援して、批判しないこと。どこでも同じものばかり見るのは、もううんざりよ。みんな殻を破って、自分が納得する服を着るようになったらいいわね。
あなたのスタイルは、神話からもヒントを得ていますね。興味があるんですか?
サラ・ローレンス大学で、ルネッサンス、バロック、中世の美術史を勉強したの。その時代の作品って、神話や魔術やオカルトがたくさん反映されてるの。
私たちの社会は、幻想と現実がほんとうに重なり合うレベルまで進化してきたと思います。それを押し進めることも挑戦することも、簡単だと思います。でも、社会は、多くの意味で後退しています。この進化の時代に生きていることを、どう感じますか?
今の時代は嫌いよ。とにかく服装に関しては、1800年代か1920年代か1500年代に生まれたかった。だけどそれじゃ、女性の権利どころか、人権すらないわね。それはそれで後戻りだけど、アートやあらゆるもののディテールであの時代のエッセンスが手にできるんだったら、戻ってもいいわ。今の時代も、ほんとにクールなところはあるわよ。あらゆる情報にアクセスできるし、インターネットを使って自分の世界を作れる。情報は豊富に供給される世界だわ。知りたいことは何でも知ることができる。でも、人生を破壊することもできるのよ。ほんと、恐ろしい時代だわ。インターネットはとてもダーク場所にだってなり得る。でも、全部バラバラになったら、必ずそこから何か良いものが生まれるはずなの。みんな、どん底まで落ちないと目が覚めないのよ。私たちはインターネットのおかげで幻想の世界に住むようになったから、現実の世界では何が大切なのかを見失ったのよ。だから、こんなクレイジーなことが起きてる。私たちには大きな警鐘が必要だし、それはゆっくり起こり始めてる。たぶん革命みたいなものが起きたら、一瞬でもスクリーンから目を離すようになるのかもしれない。
あなたのブランドNautaeについて、教えてください。
いいわ。Nautaeは今活動休止中。アリエル(Arielle)とダリウス(Darius)と私は親友だけど、今、別々の場所にいるの。だから、みんなで会って計画を立てるのが難しい。だけど、別に急いでるわけじゃない。準備してることはたくさんあるから、あるべき形で実行できるときが来たら実現するわ。それと、資金。かなりの資金が要るわ。大きな計画だし、私たちは学生だし。でも、Natuaeはコラボレーションみたいなものなの。実はね、何年か前、ある女性について3人が同じ夢を見たの。それが始まり。ちょっと面白い話でしょ。「あの女性を表現する何かを作らなきゃ」ってことになって、Nautaeというキャラクターを作ったわ。Nautaeのために、演劇を書いて、衣装もデザインしたけど、今は保留状態。長期のプロジェクトのつもりだから。アリエルとダリウスは私の永遠のベストフレンドだし、私たちの友情が形になったのがNautaeよ。
ということは、自分の神話を作っている感じですか?
まさに、そう!
3人はいっしょに育ったんですか?
そうよ。LAのウエストサイドでね。


3人はいっしょに育ったんですか?
そうよ。LAのウエストサイドでね。
いくつもの表現手段やプロジェクトを抱えて、ファンもいる人としては、政治的な問題についてもっと発言するプレッシャーを感じますか?
ある種、暗黙のプレッシャーはあるわ。友達の中にはソーシャル メディアですごく政治に関わってる人がいて、すごいと思う。恥ずかしいけど、私はいつもニュースを読んでるわけじゃないの。ほんとに辛い気持ちになるから。知識が足らない私が、事実を十分に知らないで人前で意見を述べるなんて、やっちゃいけないと思うの。でも、意見を言えたら、とは思う。特に今起きていることについてはね。私にはイスラム教の友達がたくさんいるし、みんな今、大変な時期を過ごしてる。そのことについてよく知ってるわ。だから、私が投稿するとしなら、議論できるテーマについて。十分知らないことについては、何も言いたくないわ。
トランスジェンダーの権利を擁護していますね。明らかに、個人的に重要なものだと思います。
もちろん。今年亡くなった叔父はトランスジェンダーだったし、トランスジェンダーのコミュニティのために、すごく熱心に活動したわ。私には、ジェンダーのあいだで揺れてる友達やトランスジェンダーの友達がたくさんいるの。彼らのことが大好きだし、叔父のアレクシス(Alexis)に敬意を表す意味でも、サポートしたい。アレクシスは男性として息を引き取ることを選んだけど、私の人生ではずっと叔母だった。母が設立したアレクシス・アークエット財団で、私は理事をやってるの。トランスジェンダー コミュニティの必要性に応えられるように、いろいろな教室やワークショップや施設をオープンしてるわ。


全部バラバラになったら、必ずそこから何か良いものが生まれるはず。どん底まで落ちないと目が覚めない
ご家族とはよく仕事をしますか? 俳優一族の出身で、演技の道へ進むかどうかまだ分からないとなると…。
家族と私は、今の方がもっと親密になったわ。アレクシスが亡くなってから、家族のことをもっとよく知るようになって、みんな素晴らしい人たちだって分かったの。でも、映画界の仕事は、私の家族にも犠牲を強いてる。私が知っているあの世界の人たちは、みんなそう。とても残酷な仕事よ。私の家族はそれぞれに特別で 、信じられないほど素晴らしい人たち。家族の一員であることを、とても誇りに思ってるわ。演技も本当に楽しい。だからもちろん、良いチャンスがやってきたらやるけど、オーディションに出向いたりはしない。そういうことはしないの。
スタイリストとして、従来から魅力的とされて、今も進化し続けているものはありますか?
美しさのコンセプトは、良い方に変わってきてるわ。私が子供だった頃は、ヘロイン・シックで、鎖骨が見えて、ガリガリに痩せているのがクールだった。苦痛だったわ。肉付きがよくて、全然そんな体に作られていない人間なのに、そういう体を目指さないといけないってプレッシャーをかけられると、若いときには心が乱れるものよ。でも今は、そんなこと気にしない。今、美しさは、むしろ性格を反映してると思う。ファッション業界は、以前よりはるかにそういう考えを受け入れてる。進歩ね、まだ完璧じゃないけど。美というのは、そばにいて美しいと感じる人のこと。可愛いけど、そばにいると悪夢のような子というのが、いちばん醜いわ。人柄の問題よ。
クラシックで古風なものを現代的なものと組み合わせますね。それがタイムレスな雰囲気をかもし出しています。人間も時を超越できると思いますか? 年齢を重ねることについて、また加齢を否定する姿勢について、どう思いますか?
とんでもない、しわだらけのお婆さんほど美しいものはないと、私は思ってるわ。私の母は、おそらくハリウッドでただひとり、何も手を入れていない女性よ。もちろん若くはないけど、すごく立派だわ。女性が自分の年齢を誇りにして、あらゆる意味で栄誉に感じることが、ほんとに大切だと思う。時代で言えば、私はすべてを網羅したい。今も知りたいし、過去も知りたいわ。


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