ペルと辿る変わらぬ街、ニューオーリンズ
人気上昇中のラッパーが案内するお気に入りのスポット
- インタビュー: Rebecca Haithcoat
- 写真: Akasha Rabut


レストランのチェーン店、巨大ショッピングセンター、どこでも見かける同じコーヒーショップがアメリカ各地の都市を侵食している。家族経営の小さな店は一掃され、その魅力はかき消され、国全体がひとつのどこもかしこも似たり寄ったりの広大な郊外に姿を変えていく。この波は無論、ニューオーリンズにも押し寄せているが、それでもなお、この街は独特の場所であり続けている。モクレンの木から漂う香りから、空気に混ざる揚げたてのフライの匂い、セントチャールズ アベニューに点在する豪勢な古い邸宅の数々、フレンチ クオーターのバーボン ストリートの、酒場が立ち並ぶ騒がしい通りで演奏するブラスバンドまで、ニューオーリンズには紛れもない個性がある。蒸し暑い亜熱帯気候のせいもあるが、住民たちから手厚くもてなされれば、旅人は否応なくペースはスローダウンし、魔法にかかったように座り込んで、その気だるい魅力のすべてを吸収せざるをえない。
ニューオーリンズが醸し出す、こうしたある種独特のレトロな趣が、郷愁を誘い、今も旅行者、地元の住民を問わず魅了するのだとラッパーのペル(Pell)は言う。ペルはニューオーリンズ生まれで、子供の頃はリル・ウェイン(Lil Wayne)の曲で有名になったホリグローヴという地区に住む祖母の元に通って育った。
「俺がどこに住んでたかに関係なく、ニューオーリンズに戻ってくるたびに、懐かしい感じがする」と彼は言う。「グローバリゼーションのせいで、南部でさえ今はどの街も、どこもかしこも同じに見えるから。でもニューオーリンズに戻ってくると、ここにはまだニューオーリンズらしさが残ってるのがわかる。街の個性や伝統というのが何なのか、俺たちは知ってるんだ。ニューオーリンズの本質は歴史の中にある。この街は変わろうとしないんだ」
さらに、たとえ新しい高級ブティックやおしゃれなホテルが流入してきても、この街から生きる喜びが失われるような気配は微塵もない。ペルは言う。「格言にあるような『Let the good times roll(いい時間を過ごそう)』っていうのが、実際に、至るところで生きてるんだ。ニューオーリンズでは誰でもそうだけど、俺も、子どもの頃から楽しくて大胆な奴になるよう言われて育った」。ペルは言った通りに、私たちをニューオーリンズの気に入りのスポットのいくつかに案内した。


シティ パーク
「シティ パークは、中にアミューズメント パークやカフェもある公園なんだ。アミューズメント パークは子ども向けだけど、1年のうちに2日間、夜に大人向けのイベントをやる。これがまたスゴい。誰もが酒を飲んで酔っ払った状態で乗り物に乗るんだから。シティ パークが好きなのは、ここがコミュニティの場所だからだよ。住民が皆で集まる場所のひとつなんだ。俺がよく野球をした場所でもあって、子どもの頃はここで練習してた。いつもスパニッシュモスや木などの植物を思い出すんだけど、俺の記憶では、これらの木は街にあるものの中でも特にカッコいい。俺は、スパニッシュモスを見ると、ニューオーリンズの光景が目に浮かぶし、自然と子ども時代と故郷のことを思い出すよ」

DNO
「Defend New Orleans」は服の店だけど、他にも街の中で色々なことをやってる。 例のハリケーン・カトリーナの後、ここは店というより、コミュニティに立ち返るための象徴みたいなものになった。自分たちの文化を守り、保存しようって。さっき話したような、ニューオーリンズは常にニューオーリンズであり続けようとするという意味で、以前の俺たちのあり方に戻ろうってメッセージなんだ。たとえ、技術が進歩して新しい店ができても、根っこが変わることなんて稀だ。このシンプルなDefend New Orleans(ニューオーリンズを守れ)というフレーズが、多くの人の心に響いたのは間違いないよ。
初めて音楽を本格的にリリースし始めた頃、この街で、俺のことをいつも面倒見てくれるカッコいいファッション ブランドが彼らだった。俺には他に面倒見てくれる人がいなかったんだ。当時の俺のスタイルは、良いとこの坊ちゃんって感じで、そこまでストリートウェアっぽくなかった。でもあそこの人たちは、そんな俺を支えてくれて、本当にクールだった。だからあの日も、撮影のためにあそこに顔を出したいって思ったんだ。ニューオーリンズで俺の知るあらゆる人に、自分の愛情を伝えたかったから。ミュージシャンとしての俺のゴールは、ただ自分が影響を受けたものについて語るだけじゃなく、その影響がどこに向かうのかを示すことだと思ってる」


ユニオン ストリート
「DNOの店は、今すごく注目されてるセントラル ビジネス ディストリクト(CBD)のユニオンストリートにある。あそこはいつも活気があるんだけど、これはナイトライフが盛んだからだよ。俺はよくHouse of Bluesに飲みに行く。今まで見たことないようなものを見るのが好きなんだ。これはちょっとニューオーリンズ特有なんだけど、ここでは皆が流行りの音楽に感銘を受けるわけじゃない。毎晩あちこちでライブがあるからね。でもニューオーリンズに観光で来るんだったら、Blue Nileがおすすめ。PJモートン(PJ Morton)に出くわしたりするかもよ。フレンチマン ストリートに行けば、本当にニューオーリンズらしい体験ができる」

FREE WATER
「彼らのキャッチフレーズは『The wave is always free.(波はいつでも無料)』というものなんだけど、すごくいいと思う。Free Waterは洋服のブランドであり、共同体みたいなものでもある。彼らは何でもやるんだよ。本当に、メディア企業みたいな感じで、素晴らしい。ふたりともフォトグラファーなんだけど、写真以外のこともたくさんやって、街でカッコいいイベントの企画をしてる。若者が足繁く通うパーティーをやってるっていう意味では、彼らの活動は本当に歴史に残ると思う。でもそれだけじゃなくて、ビジュアル面でもいい仕事をしてるし、すごくカッコいい服も販売してる。彼らはストリートウェアを中心にライフスタイルを作り上げている感じだね」

ACE HOTEL
「またCBDだ。ここ3年はずっとCBDにいる感じがするけど、それはCBDでは以前より盛んに色んなことが起きてるからだと思う。わかるだろ?この場所は今、その熱気が頂点に達しようとしてるところなんだ。Ace Hotelが好きなのは、ミュージシャンと組んでいい仕事をしてるから。ライブ公演した友達が何人かいるけど、いつもお客がよく入ってた。あの雰囲気は、間違いなく若い黒人の起業家精神に共通するものだ。それがいいんだ。お酒を飲みながら意気投合するのもいいだろ。これがニューオーリンズで皆やってることだよ。
Aceがキュレーションする音楽イベントは本当にいい。彼らは本物のニューオーリンズのミュージシャンが出演させるからね。友人のひとりに偉大なミュージシャンがいるんだけど、彼がライブをやっとき、彼みたいなミュージシャンに発表の場を提供しようとするAceの姿勢に本当に感動したんだ。俺にはすごく大事なことだった。俺はただニューオーリンズのために彼のライブをやりたいと思っていて、彼みたいな人を表舞台に出す必要がある。Aceはそういうことを十分に分かった上で、現に彼にライブをやらせたんだと思う。だから、俺の考えではAceはいいってことさ。

Rebecca Haithcoatは『LA Weekly』の音楽アシスタント エディターを経て、現在は『The New York Times』、『GQ』、『The Guardian』、『Playboy』、『Billboard』、『SPIN』、「Pitchfork」などで執筆している
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- 写真: Akasha Rabut