CHAIは
「かわいい」の
彼方へ

世界に解き放たれた日本の4人組オンナ バンド

  • インタビュー: Kanako Noda
  • 写真: Yuto Kudo

赤と黄色のスポットライトの下、CHAIの字が浮かぶショッキング ピンクのTシャツに赤のホットパンツ、スポーツ ソックス姿の4人が、満面の笑顔で歌って踊る。ボーカルでキーボードとギターの双子姉妹マナとカナ、ドラムのユナ、そしてベースのユウキ。見た目と裏腹に、響いてくる低音は太く力強い。突拍子もないビジュアルに最初は半笑いだった観客が、徐々に引き込まれていく。リズムに合わせて自然と体が動き出し、歓声が大きくなっていくのがわかる。 ムダ毛や薄毛、太い足や、細い目といった多くの人が抱えるコンプレックスを明るく歌い飛ばすCHAI。だが彼女たちは、従来のパンクのように社会通念や世間の美意識を否定して、「かわいい」に背を向けない。「こんな自分がかわいい」と言って、「かわいい」の境界を押し広げる。それが「NEOかわいい」だ。

そして、CHAIの魅力はボディポジティブなメッセージだけではない。J ポップからシティ ポップ、パワーポップ、エレクトロ スイング、オルタナティブロック、パンクロックまで、あらゆるサウンドを取り込んだ楽曲は非常に豊かだ。2019年にリリースしたセカンド アルバム『PUNK』がピッチフォークの「The 50 Best Albums of 2019」に選ばれるなど、世界中の音楽ファンがCHAIにはまるのは、多種多様な音楽を、最終的にはCHAIにしてしまう力技ゆえだろう。ホイットニー(Whitney)との北米ツアー終盤、氷点下20℃のモントリオールで、この「ニュー・エキサイト・オンナバンド」は、唯一無二の音楽を武器に、言葉の壁だけでなく、音楽の壁も越えていた。

CHAIは4人で語る。ひとりが口を開くと、別のひとりがその言葉を継ぎ、「そうだね」、「そうそう」と全員が頷きあう。そして互いの意見を確かめあいながら、自分たちについて語る言葉を探していく。世界中をツアーで飛び回るようになっても、その関係は変わらない。音楽も衣装も、みんなで決める。すべては、このメンバーだからできること。そして言う。この4人が集まったこと、それ自体が「奇跡」なのだと。

野田香奈子

CHAI (マナ、カナ、ユウキ、ユナ)

野田香奈子:「FAMILY MEMBER」を聴いて思ったのですが、皆さん、普段からすごく仲が良さそうですよね。昔からの友人や姉妹で、ずっと一緒に音楽をやるというのはどういう感じなのでしょう。

マナ:目標があるから一緒にいれるんだと思う。

全員:仲悪いとできない。

ユウキ:関係がない人とは音楽できない気がする。やる意味が—

マナ:ないよね。

ユウキ:感じあえないから—

マナ:一緒にもいられないし—

ユウキ:その場ではいいかもだけど。

ユナ:いいライブもできないよね。そういうの、ライブで出るんだと思う。

マナ:ライブしたくなくなっちゃう。感情が出ちゃう。

CHAIの音楽って、すごくいろんな要素、いろんな音楽が入っていますが、皆さん、似たような音楽が好きなんですか。

ユナ:共通してる部分もあるし—

マナ:共通してないところもあると思うけど、いいって思うタイミングは一緒だから、それがいいのかも。あと、悪いって思うタイミングも一緒。で、誰も音楽オタクじゃないし、機材オタクでもない。「何年代の」とかには興味なくて、いいとこ取りばっかり。

ユナ:好きな曲が好きっていう感じかな。

CHAIのアイデンティティがすごくはっきりある中で、CHAIというバンドに対して皆さんそれぞれにどういうつながり方をしてるんですか。

ユウキ:たぶん、違いをつけないことがCHAI。だから、そのままであるのがCHAIのいちばんのテーマというか…。
全員:そうそう。

ユウキ:自分が自分らしくあるというか。自分がCHAIとしてどうしよう、というより、私は私だからCHAIなんだって思う。皆、良いところがあって、それが素晴らしいと言いあって、それが自然とCHAIになってる。

マナ:個性はバラバラの方がいいと思う。

「NEOかわいい」や「コンプレックスはアートなり」といった、CHAIのコンセプトはどのようにして生まれたのですか。

マナ:4人とも完璧じゃない自分がコンプレックスだったの。例えば、私とカナだったら目が小さいことが悩みだし、二重じゃないしっていう、日本人に一番多いやつね。ミュージシャンは完璧な人が多いし、日本だと、ボーカルは絶対的にかわいい人がウケるし。でも、そうじゃないところが私たちの良さで、悩みを持って歌うことが、私たちだけに伝えられることだって思った。

実際に、スローガンにするというのは、誰かのアイデアとして出てきたものなのでしょうか。

マナ:「NEO」は、たまたま私のことを「NEOたち」って呼んでる人がいて、NEOっていいな、みたいなとこから始まった気がする。

ユウキ:マナが言ったみたいに、音楽が私たちのすべてで、それはあまり言葉で説明したくないの。音楽はアートだから、アートをやっているっていう意識がすごく強くて、そこに説明はいらない。でも、伝えるときのヒントとして、「コンプレックスはアートなり」とか、「NEOかわいい」というのがあるのは、すごくいいと思う。

CHAIにとってのアートとは?

ユナ:ありのまま?

カナ:音楽って言葉では表現できない。歌詞は言葉でわかるけど、1個1個の音を言葉で表現することはできない。私たちも音楽を聴いて、「あ、これすごい」って思うとき、わかんないから。全部、感覚。細かく計算されているかもしれないけど、聴く人が「これがいい」、「これが悪い」っていうのは、感覚だから。それってたぶん絵を見たときも一緒だと思う。自分の中で判断するしかない。その分からないことがいいんだと思う。それが、音楽がアートだってこと。

北米では昨今、ボディポジティブの動きが盛んですが、日本で言うブサイクやブスという言葉が持つ、じめっとした嫌な感じは、日本の外では伝わりにくい気がするんですよね。実際のところ、海外での「NEOかわいい」の反応はどうですか。

ユナ:ブスに限らず、コンプレックス自体は世界共通なんだなっていう感覚はある。

ユウキ:北米のポジティブな考え方は、ここにいてすごく感じる。でも私たち日本人にはない、意識もあるじゃない? 例えば、白とか黒とかいう言葉にすごく敏感だったり。日本にしかないマイナスの文化もあるけど、海外だけのマイナスの文化もあって、やっぱ、皆ネガティブなこと思ってるんだなー、だからどの国に行ってもCHAIの言葉が通じるんだな、と。

CHAIにとって、ネガティブはどういう位置づけにあるのですか。

マナ:ネガティブな部分がないと、音楽に共感しなかったかも。

ユウキ:コンプレックス、ネガティブっていう自覚そのものを愛することだから。それを撤廃しよう、なくそう、みたいな気持ちはまったくないかも。

CHAIのどういうところが海外で評価されている思いますか。

マナ:音楽かな。

ユウキ:海外で評価されるようになったきっかけは、ショーだよね。誰よりも小さくて、誰よりも年齢不詳で、ツインテールに赤のホットパンツ履いてるのに、曲がカッコいいから。

小さいというのは生まれつきのもので、ツインテールなどは作られたスタイルですが、CHAIの個性はどういうところから生まれてくるのでしょう?

カナ:わかりやすいのは音と声かな。歌い方とか。誰かの真似をして歌うことはないし、あれっぽいな、これっぽいな、なんて絶対に言われたくない。だから、好きなミュージシャンはいっぱいいるけど、真似をしようと思ったことは一切ない。

ユウキ:あとは、アイデンティティ。海外に進出した日本人だからこそ、私たちは日本人っていうのを忘れない。より海外になじむようにとか、海外で流行っているようにとかではなくて、音楽も、見た目も、心も中身も、全部忘れないようにするのが自然と個性になる。

そこで言う日本人らしさとは?

マナ:私たちは私たちのままでいようって思うことが大事かも。

バンドのコンセプトにも関連するのですが、ファッション スタイルや衣装で「これはCHAIだ」というのはありますか。

ユウキ:あんまり飾りはいらない。

マナ:シンプルがいいからね。

ユウキ:カッコよさは大事だと思う。女のカッコよさ。

マナ:女性らしすぎると違うかな。

ユウキ:でもすぐ飽きるから—

マナ:新しい曲作ると、すぐそっちに合わせに行きたくなっちゃう。

ユウキ:もっとこういう方が合うよね、とか、変わっていくからね。

全員:そうそう。飽きちゃう。

CHAIらしさを4人で追求していく中で、分からなくなったり、見失ったりすることはないんですか。

マナ:「CHAIらしさ」みたいなのを決めてないんだよね。決めてないから、見失うこともない(笑)。

全員:そうだね。

カナ:何でも好きだから、1つに絞れない。

以前から目標はグラミー賞と公言されていますが、なぜグラミー賞?

ユウキ:グラミーをとって初めて、世界を変えれる気がするから。証明になるから。

やっぱり、世界を変えたいっていうのが、根本にすごくある?

全員:でも全然、背負ってるわけじゃない。

マナ:この顔で有名になりたい。こういう顔がトップにいることって、想像ができないんだけど、CHAIみたいな顔が頂点に立てば、日本も変われる気がする。

ユウキ:日本が一番変われない国だから—

マナ:そうなの。やっぱ私たちは日本人だから。

では10年後、CHAIはどうなっている思いますか。

ユウキ:音楽に止まってないかも。やりたいことがいっぱいあるから。動物保護の何かしらをしたいとか。もちろん世界を巻き込んで、CHAI主催のフェスもしたい。

カナ:グラミー獲ったら叶うもんね、いろんなことが。

マナ:日本でいいフェスをやりたいのは絶対ある。それは、私たちにしかできないことだと思う。私たちが知り合った人たちを巻き込んでやれるのは、私たちが信頼されているからだと思うから。あと、服も大好きだから、ファッション的なことをしたいとか。でもそれは、音楽と同時にやれるかちょっと分かんないかな。遊園地も作りたいけど、それはもっと先でいい。

そういう将来に向けた次なるステップとしては、どんなことが待っているんでしょう?

ユウキ:今、曲作ってるね。次のアルバムに向けて。

マナ:そのアルバムで、ワンランク、ツーランク、スリーランク、何ランクでもいいから、上に行きたい。とにかく規模を大きくしていくことがまず大事だと思うから。

カナ:まだ全然広まっていないからね。

マナ:早く数千人規模になりたい。今はまだ数百人規模だから。確実に行かないと。

ユウキ:前座で何千人規模ができるだけであって、単独ではね—
カナ:CHAIだけだと、まだそこまで集まらない。
マナ:だからやっぱり音楽。言葉の壁もだけど、音楽の壁もあるから。でも確実に、支持されてるっていうのは、わかってる。

音楽の壁というのは、言葉の壁とはまた違う壁なんですか。

カナ:違うと思う。音楽自体がちょっと新しいから。

マナ:今の流行りのものとは、全然違うからさ。とにかく、いいもの作りたいなって。でも正直、わかんない。

カナ:そうだね、いいもの作りたいってだけかな。

CHAIにとって「いいもの」とは?

全員:自分が納得いくもの!

Kanako Nodaは、SSENSE日本語コンテンツのリード エディター。ライター兼翻訳者、ビジュアル アーティストである

  • インタビュー: Kanako Noda
  • 写真: Yuto Kudo
  • スタイリング: Shun Watanabe
  • ヘア&メイクアップ: Haruka Tazaki
  • 写真アシスタント: Miyu Takaki
  • スタイリング アシスタント: Leonard Arceo、Yohei Yamada
  • ヘア&メイクアップ アシスタント: Saki Tominaga
  • イラストレーション: Ibuki Sakai
  • 制作: Nanami Tashiro
  • Date: May 8, 2020