イアン・イザイアと巡るブルックリン
歌手兼ファッション ミューズの地元を探検する
- インタビュー: TORSO
- 写真: TORSO

もしこの名前をまだ聞いたことがないのなら、ぜひ覚えておいてほしい。イアン・イザイア(Ian Isiah)、またの名をBIG SHUGGA。彼は、ブルックリンの少年聖歌隊から「スラムの母性」を体現するボーカリスト、官能的なR&Bの歌い手となった。今、注目度が急上昇中だ。彼の、印象的な剃り込みの入った眉毛や常に変化しているヘアスタイル、あるいは、独特のスタイルをうまく見せる不思議な感性は、どこかで目にしたことがあるかもしれない。数え切れないほどのソーシャルメディアの熱狂的ファンにとって、イアンはミューズでありインスピレーションの源だ。そして大ヒットとなった「24-7」、「10K」、「Sweat」とミックステープ『The Love Champion』に続く、待望のミニアルバム『Shugga Sextape Volume 1』の3月の発売開始を、皆が今かと待ちわびている。
Hood By Airにおけるコラボレーターやブランドのグローバル アンバサダーとしての極めて重要な役割の他にも、イアンは今シーズン、TELFAR 2018年秋冬コレクションのショーに出演し、 デヴ・ハインズ(Dev Hynes)やセラ・マーリー(Selah Marley)、ケレラ(Kelela)、 ケルシー・ルー(Kelsey Lu)など多数のミュージシャンらとともに音楽で盛り上げた。また、今月末に発売予定のブラッド・オレンジ(Blood Orange)のアルバムでもフィーチャーされており、最近ローンチされた動画ストリーミング サイトdis.artでも、哲学的なアバターの声としても登場している。
私たちは、煙をくゆらせながらイアンのブルックリンを巡るドライブに出発した。今の彼を形成した子ども時代に通った場所、今はまっている場所、そして至福の毎日の生活に不可欠な場所の数々を訪れる。
ブルックリンをブラブラ
イアンの車に乗り込み、出発する。車は友達だか、いとこだかから借りたらしい。ここから地元ブルックリンを色々と回るツアーが始まる。ただし、今回行く場所は、どうやら彼以外の人間にはまったく観光的価値がなさそうだ。現に、彼は他の人にこれらの場所が知られることを望んでいないので、住所はすべて非公開だ。とにかく、まずは車だ。イアンにとって、車とは移動手段というよりも車輪のついたアパートのようなものである。そして、これがイアン・イザイアの根幹を理解する最善の方法なのだ。
「そうよぉぉぉぉ、私はブルックリン ガール。ブルックリンのどこで車から降ろされても、自分がどこにいるか、人に教えられる。そうでなければ、どこにいても、いとこか誰かの母親の友達とかに出くわすわ…ぶっちゃけ、これは本当にうざいんだけど。

ヒールを履いていたせいで、最初の運転試験に落ちたの。靴が重すぎて、アクセルを強く踏み込み続けてたのよ。次の試験のときはペタンコ靴で臨んだわ。
私はちょうどこの辺りで育った。うちの祖母と、映画監督スパイク・リーの父親は、すごく親しくて、同じブロックに住んでた。私はフォート・グリーンっ子。でも、家族のほとんどはだいたいニューヨーク出身だから、ベッドスタイっ子でもある。まあ、親戚のおばさんが住んでる所ならどこでも地元よ」
ギターセンター

最初に車を停めたのは、当然、ギターセンターだった。イアンにとっては子どもの頃からの音楽の神殿だ。
「ギターセンターには月に一度は通ってて、キーボードを弾いて遊びながら、何か新しいものがないか、持ってるお金をはたいて買えるものがないか、チェックしてたわ。 ヤマハのMOTIFを2台買ったけど、本当に高かった。でも世界で一番いいキーボードのひとつだと思う。タンバリンもたくさん買った。子どもの頃、ここでミニ ドラムセットを買ってもらったことがあったな。
子どもの頃は、いわゆるダイヤの原石だったのよ。祖父母がブルックリンの中心街の音楽アカデミーに通わせてくれて、そこで音楽理論を学んだ。すっかり夢中になったんだけど、学校は私にフルートを演奏させたがっててね。私は、フルートには全然興味を持てなかった。うんざりしたの。わかるでしょ。だから、好きなことをさせてくれずに、フルートなんか吹かせようとしたブルックリンの音楽アカデミーなんてクソくらえよ。でもすべてのフルートには感謝。フルートは大好き!
すべての音楽はピアノから始まる。私は4歳の時からピアノを弾き始めた。音楽の理論というか、演奏することや楽譜を読むということが、どういうものなのか、わかるようになってきたのは7歳の頃。その時からずっと音楽をやってる。ただ歌手になりたかったから、演奏が誰よりも得意というわけじゃないけどね。でも、耳を鍛えるには演奏しないとダメ。
ずっと歌手になりたかったけど、思うに、それは私が怠け者だったからよ。自分に才能があるのはわかってたし、何もしなくていいって気づいたから。金管楽器を持つ必要なんてない、楽器なんていらないってね。ただ歌えばいいっていう事実に、得意になってたの。だから、『そうよ!私は歌手になりたい』って感じで。でも大人になって、歌手になるってことは、ただ口を開いて歌えばいいってわけじゃなくて、実際にはずっと奥が深いことがわかった」
ビューティ ショップ

次に訪れたのは美容雑貨を売る地元の店。イアンにとってはこの広い世界で最も重要な店だ。
「世界の人々にとってのデュアン・リードやCVS、 ウォルグリーンのようなドラッグストアに当たるものが、黒人女性にとっての美容雑貨店よ。理由?それが私たちにとってのファッションへの架け橋だから。美容雑貨店はね、文字通り、スラム街のColetteみたいなものよ。だってここが、あらかじめ眉毛をピンセットで抜いたり、ワックスで下の毛を処理したり、ウィッグのためのインナーキャップの替えやつけ毛を買いに行ったりする場所だから。美容雑貨店でつけ毛を買うのは最後の手段よ。だって、他にやるべき美容法がたくさんあるからね。スラムに住むおしゃれな女性や男性にとって、この場所は本当に大切で、みんな通ってる。美容雑貨店なしではやっていけないわ。

私もどんなときでも美容雑貨店にお世話になってる。CFDAファッション アワードの時だって美容雑貨店にお世話になったし、デヴとのライブのとき美容雑貨店にお世話になった。どんな旅行に行くときも買いだめするために美容雑貨店に行く。まあ、ため込んでるだけなんだけど」
トラップハウス


ブルックリンのドライブを中断して、私たちは彼の行きつけのトラップハウスで、かなり長い間リラックスして休んだ。そこが誰の家なのかは明確にはわからず、どうやって中に入ったのかさえわからなかった。だが、一度そこに入った限りは知っておきたかった。トラップハウスのルールはどうなっているのか。
「ルールはないわ。それがトラップハウスよ。ここはドラッグを売買するためだけのトラップハウスじゃなくて、どの時間でもいつも人がいる。鍵があるんだけど、それがどこにあるのかは知らない。秘密の鍵よ。だけど、もし顔認証があったとしたら、きっとひどいことになるわね…トラップハウスに未来の技術が入ってきたところを想像してみなさいよ。
ここは通ってた高校の近くなの。ところで、一応言っておくと、ここはベッドスタイよ。ジェイ・Z(Jay Z)の自宅がすぐ近くにある。おーい!向こうにあるのが、私のよく通っていた公園。若い頃はあそこでライブをやってた。どこのスラム街でもそうだけど、スラム街には住人みんなが繋がっているオールスターズと呼ばれるものがある。タレントショーみたいなものね。あのスタジアムではよく踊ったわ。あの舞台に出るのはいつも女性ダンサーなんだけど、男も一人か二人、ちょっとオカマっぽい子は、その女だらけのダンスコンテストのグループに混ざってたのよ。私はいつもその『女の子』だった。私のために用意された枠みたいだった」
イアンのネイルサロン

最後に、イアンは伸びきって見栄えのしないマニキュアを何とかするべく、お気に入りのネイルサロンで1日を終えることにした。今夜のデヴ・ハインズとのレコーディング セッションと打ち上げパーティーに備えるのだ。
「これがこの街の私のネイルサロン。私のことをよくわかってくれる。私、死ぬまでに『Shugga Shop』というサロンを持つつもりなの。仕事ができるような場所が必要なだけなんだけど、何かをやるにはサロンが最適な場所なのよ。だから、もう予定には入ってる。サロンの中には美容雑貨店も併設した方がいいかもね。何よりも女性的な方法で、かつ女が表に出て私と一緒に仕事ができるような場所なら何でもいいわ。多数派のヘテロ セクシャルな男がいちばん来そうにない場所だけど、うちのお店では大歓迎。当然、旗艦店はブルックリンよ。

それに今は、ヨガの実践者になれるよう修行中だから、10年後を楽しみにしてて。時間はかかるだろうけど、計画は着々と進んでる。最終的にはそれで有名になりたいわ」
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