朝の始まりはコフィーで
レゲエ ポップの新星に乾杯
- インタビュー: Khalila Douze
- 写真: Daniel Regan

私たちが「時」を意識するとき、音楽はパワフルな影響を及ぼす。ラジオから流れるヒット曲は私たちの生活のサウンドトラックになるし、大好きな曲は思い出を刻む。そして毎年大衆に愛される数々の歌が生まれ、その年の「サマー ソング」や最優秀レコードに選ばれることを競う。だがそれ以上に、20歳のコフィー(Koffee)が歌った「Toast」は、人新世を生きる暗鬱な体験に明るい光を投げかける。レゲエとダンスホール ミュージックとポップスのミックスは、とにかく心地よい。耳にすると誰もが、微笑みを浮かべ、腰を振りたくなる。ジャマイカのスパニッシュ タウンで生まれ育った若きアーティストは、希望のレンズを通して、集団としての私たちが辿る歴史を見る。
2019年にイジービーツ(IzyBeats)がプロデュースし、同時に発表されたミュージック ビデオが今や1億回以上試聴されるに至って、コフィーことミカイラ・シンプソン(Mikayla Simpson)は一躍スポットライトの下へ躍り出た。業界は諸手を挙げて熱烈歓迎し、バラク・オバマ(Barack Obama)が選んだ2019年の夏と年末のプレイリストに名を連ね、中国軍楽隊の演奏曲目に選ばれた。コフィー自身、軍楽隊の動画は何度も見返したそうだ。いちばん新しいところでは、今年のグラミー賞最優秀レゲエ アルバム賞を受賞して、同賞で最年少かつ初の女性受賞者となった。ノミネートされただけで驚いた、とコフィーは言う。「思ってもみなかった。あんな名誉な賞を貰って、これからやることは大きな意味を持つわね」
「Toast」の軽快なリズムと恩恵に感謝する精神は、シンガーソングライターであるコフィーとまったく同じだ。初めてのリリースは2017年の「Legend」。人類史上最速のスプリンターと呼ばれたウサイン・ボルト(Usain Bolt)へのオマージュは、瞬く間にバイラルになり、業界メジャーの耳目を集めた。同時に、コフィーの情熱と生来の才能も広く知られるところとなった。その後もポジティブな視点はぶれることなく、2019年のデビューEP『Rapture』では、「Raggamuffin」や「Blazin」で、地に足の着いた正統レゲエ サウンドを聞かせる。叙情性が高く評価されるコフィーは、レゲエというルーツを深く理解し、世代の団結を生む歌を作る一方で、レゲエというジャンルの境界を押し広げ、世界の新しい聴衆と繋がる道を切り開く。
実際のコフィーは、その詩情豊かな歌詞と同じように、穏やかで友好的だ。上辺だけ見ると、控えめな態度は内気さ、ポジティブな視点は無邪気さと勘違いされるかもしれない。だが話しているうち、実に沈着冷静な女性であることがわかってくる。私がロサンゼルスのセットでコフィーと顔を合わせたのは、グラミー賞授賞式のわずか2日前。ゆっくりと電子タバコを吸い込みながら、彼女の自信の源は、自分の音楽が自分を超えた目的に貢献することを深い部分で知っていることだと教えてくれた。小柄で物静かな存在から放散する揺るぎないカリスマは、リーダーとなるべき人々に共通の資質であり、多くの人に愛される「Rapture」の光り輝くエッセンスでもある。ヒット チャートに顔を並べる同年代のミュージシャンの多くが虚無と冷笑の刃を突きつける一方で、コフィーが成功を収めた事実は、レゲエという音楽の時代を超越したパワーを示している。レゲエには、昔も今も、時代と関連しうるスピリチュアルな可能性がある。

Koffee 着用アイテム:タンク トップ(Mowalola)、タンク トップ(Mowalola)、ネックレス(Martine Ali)、ネックレス(Saskia Diez) 冒頭の画像のアイテム:ショート ドレス(Gucci)
カリラ・ドーズ (Khalila Douze)
コフィー(Koffee)
「コフィー」のニックネームがついたのは、どうして?
ジャマイカはとっても暑いところなのよ。12歳のとき、学校のランチの時間だったわ。9月でもまだすごく暑くて、クラスメイトや他の生徒たちはみんな、水や炭酸飲料やジュースを飲んでた。でも私はホット コーヒー。というのも、家では宗教のせいでコーヒーが禁止されてたから、学校へ行ったら「今こそチャンス」なわけ。ランチのメニューにコーヒーがあったから、試しに飲んでたら、あるクラスメイトが私を「コフィー」って呼ぶことに決めて、それ以来ずっと「コフィー」のまま。
あなたが成長する過程で、音楽はどんな役割を果たしたのかしら?
子供の頃から、私は毎週教会へ行ってたの。セブンスデー アドベンチスト教会なんだけど、あの宗派はとっても音楽的で、教会で信者が一緒に歌ったり、音楽を勉強したりする。そのおかげで、すごく小さい頃から音楽を大好きになれたわ。
スパニッシュ タウンで成長期を過ごすのは、どんな感じだった?
スパニッシュ タウンはこじんまり雰囲気の町よ。全体的に静かだし。ほとんどの人はお互いに顔見知りで、すごく素朴な、のんびりした暮らしだった。
友達とか、家族とか、仲間とか、故郷の人たちはあなたの成功をどう思ってる?
私が見聞きする限りでは、みんなすごく誇りにしてくれてる。私がポジティブな音楽を作って、音楽業界のポジティブなキャラクターでいるのは、そのことと大いに関係してると思うな。年配の人たちだけじゃなくて、若い人たちも、ポジティブであることを大切にしていると思う。

着用アイテム:タンク トップ(Mowalola)、タンク トップ(Mowalola)、トラウザーズ(R13)、ネックレス(Martine Ali)、ネックレス(Saskia Diez)、ブーツ(Eytys)
以前、ハートで曲を作るって話してたわね。ハートで曲を作るって、どんな感じ?
曲を聴いたり、楽器のサウンドや自分のフィーリングを感じてるとき、それが私自身にとって自然に感じられなきゃいけない、ということ。私自身に合わせて、私にとっての真実を表現できる波に乗らなきゃいけない。
「Toast」をリリースする前の時点で、ヒット曲になるとわかってた?
実は、EPに入れた曲のなかで、いちばん自信がなかったのよ。最初は、レゲエ、レゲエ、いかにもレゲエって曲でスタートしたでしょ。最初のシングルの「Burning」は、ほとんどレゲエのルーツみたいな曲だった。「Toast」については、「いい曲だけど、私はカリブやジャマイカの人たちと同じ気持ちを感じていたいわ」とスタッフに言ったのを覚えてる。だって、ジャンルの垣根を超えたと言われたかと思ったら、邪道と言われるようになって、別のことを始めて、結局あれやこれやに手を出すようになるケースもあるじゃない?
作詞をするようになったきっかけは?
キングストンのハイスクールへ行くようになったのが、すごく大きな変化だった。学校でつきあい始めた仲間は、家庭環境も全然違ってたし、勉強には身が入らなかったの。しばらくは、授業をサボったりして、真面目な生徒じゃなかった。でも3年生になった頃に「もうちょっとマシなことをしなきゃ」と思ってね。それから、すごくポジティブな音楽を聴くようになった。シズラ(Sizzla)とか、プロトジェイ(Protoje)とか、クロニクス(Chronixx)、リラ・アイク(Lila Iké)、レノ・バントン(Leno Banton)、ランカス(Runkus)。そういう音楽を聴いたせいで、精神的に独り立ちできたわ。ギターで自分の歌を弾き始めたのは、プロトジェイに刺激されたからよ。最初は彼の歌を練習して、その後、彼の曲をベースにして自分で歌いたい歌詞を書くようになったの。

着用アイテム:ブラウス(Pushbutton)

着用アイテム:ブラウス(Pushbutton)、ジーンズ(Our Legacy)
ハイスクールの3年生で変わったのは、何のせい? どうして気持ちが入れ替わったの?
正直言って、私、かなりしっかりしてるし、自覚もあるの。あの頃は、母さんも私の生活に満足していなかったし、もちろん学校の先生たちもいい顔をしなかった。どう見ても、いい状況じゃなかったもの。
今、生活にいろいろな変化が起きてるでしょ? そういう大変な時期にポジティブであり続ける方法は?
ルーツから離れないこと。つまり、自分が成長してきた基盤を守り続けることね。スピリチュアリティもそのひとつよ。以前は教会へ行ってたけど、今は前ほど頻繁には通えないから、聖書を読むようにしてるの。母さんのそばで育ったから、母さんとの繋がりも無くさないようにしてる。家族の絆に目を向けて、ルーツから離れる方向に巻き込まれないようにする。
レゲエやダンスホール ミュージックには、ポジティブな要素が入れる余地がまだたくさんあると言ってたけど、あれはどういう意味?
レゲエは違うわ。レゲエは元々ポジティブが基本だから。ダンスホール ミュージックも大好きよ。でも例えば「銃をぶっぱなせ」って歌を聴いても、私は本当に銃を撃ったりはしない。だけど、もっと感化されやすくて、そういう類の音楽を本気で崇拝する若い人たちがいるわ。正直言って、何もかもポジティブだけじゃつまらない世界になると思う。ポジティブでなきゃいけないなんて、私は言ってない。現実的でありたいだけ。色々な人が魅力を感じる色々な種類のエンタテイメントが混ざり合っているべきだと思う。だって、世界には色々な人がいるんだもの。もうちょっとポジティブをとり入れて、バランスをとるほうがいいんじゃないかな。自分が馴染んだものや自分が好きな部分を捨てるんじゃなくて、人と人を繋ぐポジティブな曲を少し足していくの。

着用アイテム:ショート ドレス(Gucci)、スニーカー(Nike)
ガンナ(Gunna)と共演してる「W」、私は大好きだわ。ジェイ・ハス(J Hus)との新曲も昨日聴いたばかり。コラボのパートナーは、どうやって選ぶの?
その点に関しては、特に計算してないわ。
リアーナ(Rihanna)とはまだやってないのよね?
そう、早く実現するといいんだけど。2020年はいい年になりそうよ。みんなポジティブだし、楽観的だし。
次の目標は? アルバムに取りかかってる?
最初のアルバムを作ってるところ。ゆっくりだけど、思い通りに確実に進んでる。
Khalila Douzeは、ロサンゼルスを拠点とするフリーランス ライターであり、タロット カードの熱心な信奉者である。『The FADER』、『Pitchfork』、『Dazed』、『i-D』など、多数に執筆している
- インタビュー: Khalila Douze
- 写真: Daniel Regan
- 撮影アシスタント: Larry Burns
- スタイリング: Rita Zebdi
- スタイリング アシスタント: Michelle Torres
- ヘア&メイクアップ: Nadia Baraz、El'Leon Melendez
- セット デザイン: Kelly Fondry
- 制作: Carlye Burke
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: February 28, 2020