ラジオ放送波からランウェイまで、ベンジー・Bと
BBCラジオ1のDJが描写する、未来のナイトライフ
- インタビュー: Zainab Jama
- 写真: Pascal Gambarte
- 写真: Flo Kohl

ロンドンで生まれ育ったベンジー・B(Benji B)は、「すべてを学んだ」場所として自分のホームタウンを賞賛する。未成年ながらもロンドンのクラブシーンに身を投じ、16歳でDJ活動を始め、ジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)の伝説的ラジオ番組「Worldwide」のプロデューサーとして経験を積んだ。今では、ヨーロッパ最大のラジオ局BBCのラジオ1で、毎週3時間、ベンジーを聴くことができる。ハウスやソウルを始め、デトロイト・テクノ、ダブステップ、その他「エレクトロニック・ミュージック」と呼ばれる音楽なら何でも、多彩にミックスするセットには定評がある。今月には、毎月主催しているクラブ パーティ「Deviation」が9周年を迎える。カニエ・ウェスト(Kanye West)のアルバム「Yeezu」や「The Life Of Pablo」のクリエイティブ プロデューサーにベンジーが起用された背景には、おそらく、このパーティで発揮したすばらしいキュレーションや才能を発掘する眼力の評判があったはずだ。最近では、ファッションの世界にも進出し、紳士服で有名なロンドンはサビル ロウに本店を置くGieves & HawkesやKatie Earyといったブランドのランウェイ ショーで音楽を手がけている。パリ ファッション ウェークのギグが終わった後、ザイナブ・ジャマー(Zainab Jama)がベンジーのスタジオを訪ね、ファッション業界人の音楽の趣味とクラブ カルチャーの未来について対話した。

ザイナブ・ジャマー(Zainab Jama)
ベンジー・B(Benji B)
ベンジー、パリはどうだった?
ベンジー・B:とても楽しかったよ。いくつか楽しいパーティでもプレイしたけど、ほとんど仕事してた。パリやファッション業界はけっこう面白いね。やり方が昔のままなんだ。ファッションって、まだまだ完全に内輪向けなんだね。
それに対して、どう感じますか?
特に何も。正直に言って、自分の世界じゃないから、きちんと判断できないし。でも、友達のヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)はとてもクールなことをしてるんだ。ヴァージルは自分のショーを公開して、誰でも参加できるようにしている。自分のショーを民主的にして、同時に、ファッション業界も少しだけそういう方向へ変化させた。ファッションが好きな人に対して開放的になるというのは、ファッションにとって、とても勇気がある健全な動きだと思うよ。
ファッション ショーの音楽の話を聞かせてください。
今までのところ、楽しんでやっているよ。フレッシュな挑戦だね。コレクションのトーンやテーマを音楽に反映させる。でも、音楽が主張し過ぎてはいけない。コレクションと音楽というふたつの要素を繋げるのが、この仕事のいちばん刺激的な部分だね。
あなたのパーティ「Deviation」は、もう9年も続いているんですね。始めた動機は何だったんですか?
このパーティを始めた当時の2007年は、ロンドンのクラブ界隈がちょっと沈んでたんだ。イースト・ロンドンのPlastic Peopleには時々いい感じのパーティがあったけど、それ以外はiPod DJなんていうくだらない流行りが出始めていた。別にそれはそれでいいけど、僕のタイプじゃない。で、ある時点で突然、何かを消費する側にいた自分が提供する側に回る番が来た、って感じたんだ。いつもいつもテイクばっかりじゃなくて、時にはギブしないと、という感じでね。当時、僕は自分が出かけたくなるようなパーティをやりたかったんだ。それで、ふと気付いた。「ちょっと待てよ。それやるのにいちばん相応しいのは自分じゃないの?」って。
あなたがDJをやり始めた頃のクラブカルチャーから現在までを見て、クラブ カルチャーの状況は良くなっていると思いますか?
音楽、レーベル、パーティ、DJの質ということなら、全部が前よりずっと良くなってる。ここ3〜4年は、90年代後半の黄金時代とあまり違わないくらい、ちょっとした黄金時代を楽しんでるよ。でも、クラブという話になると、状況は良くないね。ここ4年でロンドンのクラブの約半分が消えた。だから、矛盾しているよね。
イギリスのクラブ カルチャーは、次にどういう局面を迎えると予測しますか?
新しいクラビングは、僕たちが知っているものとは違ってるかもしれない。今だってもう、GoProをデッキに取り付けてクラビング、なんてことをやってるんじゃないかな。だから、分からないけど、確信はあるんだ。音楽やライフスタイルって、必ずサイクルがあるから。ひとつ心配なのは、ニューヨークを見てて、僕たちもああいう方向に行ってしまうかもしれないこと。何事も、変化して動き続けるのは健康的だと思う。でも、特にロンドンは、クラブ カルチャー最先端を続けられるといいね。



新しいクラビングは、僕たちが知っているものとは違ってるかもしれない
理想的な世界があるとすれば、ナイトライフはどのようになって欲しいですか?
当たり前のことが定着して欲しいし、次の若いクラブキッズ世代には、自分たち独自のクラビングを作り出して欲しい。「作り出す」というのは、フォーマットを変えるという意味じゃない。今まですべての世代が持っていたエネルギーを持って欲しいってこと。新しいジャンルや新しいシーンを生むかもしれない何かに参加することなんだ。DJやプロデューサーやレーベルのオーナーが生まれる場所は、ベッドルームじゃない。人が行き交うクラブのダンスフロアなんだ。「それがやりたい。曲を作りたい、DJをしたい」。そういうことを上手くやれるようになるには、体験しかないんだ。試して、聴いて、観察して、その時その場にいるしかないんだ。
あなたは、ファッション ウィークに欠かせないDJになりましたね。こういう仕事は、いつもクラブでやる環境と、どこが違いますか?
僕にはシリアスな「DJギグ」がある。ファッションの仕事はシリアスじゃないというんじゃなくて、楽しむつもりでやってるんだ。ファッション ウィークのアフターパーティでプレイするのは、ナイトクラブでギグした後、アフターパーティで楽しい音楽をかけるのと同じだよ。モデルってやたら煙草を吸う子が多いけど、その中でアトランタのラップが新しいポップスになってるんだから、面白いよね。昔はローリング・ストーンズしか聞かなかったような女の子の、共通の話題になってるんだから。僕はいつも、音楽にはふたつのタイプがあるって言っているんだ。腰の音楽と肩の音楽。ファッション業界の人たちはみんな、肩の音楽が好きだね。これは間違いない。僕たちは、その図式にもっと腰の音楽を持ち込もうとしてるんだ。
ファッション業界は、音楽を以前よりシリアスに捉えていると思いますか?
音楽が重要なものとしてファッション界に受け入れられているのは、ほんとに良いことだと思う。ファッションについて、僕がいつも混乱してたのは、アーティストやデザイナーはキチガイじみた大騒ぎに取り囲まれているけど、その中心にいるのは物凄い人たちだってことなんだ。最高レベルのディレクター、写真家、美術家、ミュージシャン、プロデューサー。みんな、アーティストなんだ。アートや知識や献身や経験への取り組み方は、何にも比べられないほどだし、本物だ。彼らがやってることは、世界にとっても創造的な価値がある。皮肉なのは、それだけの才能があって、素晴らしいアートの趣味を持っているのに、音楽の趣味だけはとてもヒドいんだ。アフターパーティに行くと、ほんとにもう、どうしようもない音楽が流れている。考えられない矛盾だよ。もしかしたら、今パーティでクールな音楽が流行ってるのは、自分もクールになりたいからで、パーティでいい音楽を聞きたいからじゃないかもしれないけど。僕たちDJにしてみれば、いい音楽をプレイできるんだから、まあどうでもいいことだけどね。



やたら煙草を吸う子が多いモデルの中で、アトランタのラップが新しいポップスになってるんだから、面白いよね
服の話をしましょう。誰の服を着るのが好きですか?
Raf Simonsは僕の神様。Acneはとにかく機能的だから、素晴らしいユニフォームだね。言うまでもなくSaint Laurent、それからVisvim。Visvimは本当のラグジュアリー ブランドだ。4着か5着ぐらい持っているけど、それだけでたぶん、僕が持ってるデザイナーもの全部より高くついてるし、ずっとずっと長持ちもしてる。それから、Dries Van Notenは特筆に値するね。僕のファッションのワイルドな一面だよ。Driesには、派手なんだけど、自信が持てて、これ見よがしにならない完璧なバランスがある。人物としても只者じゃないし、洋服にもそれが反映されてるよ。
スタイルをどのように定義しますか?
スタイルというのは、服で表現する自分のアイデンティティ。なんて決まり文句だけど、本当だよね。僕はずっと、スタイルには興味があるけど、ファッションはあまり気にしない。ファッションっていうのは、今何がイケてて、何がクールで、今シーズンはどのデザイナーがクールだとか。僕はそういう話には興味がないんだ。僕のドレスコードは、昔からずっと、コンテンポラリーなメンズウェアとストリートウェアの組み合わせなんだ。Supremeには、10代の後半からお世話になった。18歳の僕と今の僕、どちらも満足させるとんでもないバランスを、Supremeは維持しているんだ。
あなたのキャリアにとって、ラジオは欠くことのできない存在です。2016年現在、ラジオの重要度は?
ラジオは今、僕のDNAの一部みたいなもんだ。16歳の頃からずっと、毎週毎週やり続けていることだから、ラジオがないなんて考えられない。自分が進む方向感覚ってだいたい子供の頃に決まると思うけど、僕にとっては、音楽を知る手段としてラジオがいちばん重要だったんだ。ずっとラジオをやりたいと思ってた。第一、BBCのラジオ1はヨーロッパで最大のラジオ局だしね。もちろん、昔と違って、ラジオはもう以前のように聴かれてないし、中心的な情報源だとも思われてない。でも僕にとってはまだまだ信頼できるフォーマットだし、それに自分の人生を捧げて来たから。僕はラジオの司会者じゃない。ラジオで番組を持っているDJ。ラジオ用にDJセットを組み立てるのは、クラブでプレイするより、ずっと腕が試されるんだ。僕は今でもラジオをつけて、2時間のミックスを丸々聞くよ。今はラジオを聴く人がそれほど多くないってことは認めるけど、僕にとっては、今も大切なアートの表現手段なんだ。

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