ゴールドリンクはホームタウンを離れない

ラッパーが、謙虚とD.C.への愛着を語る

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Hannah Sider

ダアンソニー・カルロス(D’Anthony Carlos)をつかまえたかったら、ジョージタウンにいるかもしれない。ジョージタウンは、石畳の通りやフェデラル様式の建築と同じくらい入り組んだ文化の歴史を持つ、ワシントンD.C.近郊の街だ。ゴールドリンク(GoldLink)として知られる24歳のラッパーは、近隣のメリーランド州とバージニア州を含むワシントン首都圏(DMV)ではちょっと知られた存在。最新アルバム「At What Cost」には地元の音楽シーンの個性が色濃く表現されている。

パーカッションを多用したゴーゴーのリズム、そしてワーレイ(Wale)やマイア(Mya)など、同じくDMVから熟慮して選んだミュージシャンの参加を得て、ゴールドリンクは完璧にD.C.サウンド特有の雰囲気を作り出す。ファッションの好みにも同じことが言える。テキストがあしらわれた鮮やかな色使いのウェアが多いが、それぞれのアイテムにまつわる様々なストーリーが魅力を引き立てる。今までで一番大掛かりなツアーの幕開けに際して、インスピレーションの源泉を後にすることにゴールドリンクは躊躇いを感じている。ツアーで各地を転々とする典型的なパフォーマーのタイプに、ゴールドリンクは当てはまらない。ツアーを目前に控えて、力説するのは本拠地への忠誠だ。秘密のプロジェクト(例えば、公開が限定されたウェブ ストア)を進行させつつある自称「大人しくて活動的な完璧主義者」は、「長きにわたってDMVが君臨するように」作品でメッセージを伝える技をマスターしてきた。

GoldLink着用アイテム:シャツ(Loewe)

着用アイテム:ジャケット(Kappa)

エリカ・フウル(Erika Houle)

ゴールドリンク(GoldLink)

エリカ・フウル:あなたはDMVで生まれて、今もDMVに深く根を下ろしていますね。子供時代の楽しい思い出はありますか?

ゴールドリンク:昨日の夜、運転してるとき、これこそD.C.だって感じたんだ。夏、静けな月曜の夜...。どれかひとつの思い出だけを取り出すなんて、無理だな。ここで成長するあいだに、すごくたくさん思い出が積み重なってるから。過去と結びついたものを目にしたら、それが引き金になって、感情や記憶が出てくる。

食事には、どこへ行きますか? なんとなくぶらぶらするには、どこがお薦めですか?

ジョージタウンはクールな街なんだ。他所とは違う雰囲気がある。Uストリートなんか、いいんじゃないか。オレ自身には合わないから、それほど好きじゃないけどさ。普通テイクアウトは貧乏な地区にあるもんだけど、ジョージタウンには至るところにある。D.C.は再開発が進んで、どんどん変わって、「食事するならここ」って言うのは難しいな。オレにもよく分からん。オレが食事をする場所はジョージタウンだけど、しばらくすると飽きる。だけど、見栄えは良くなくても美味いとこは、いっぱいあるから。

そういうD.C.の一番いい部分が「At What Cost」の中心になっていますね。どういう過程であのアルバムを制作しましたか?

うん。実家へ帰って、インナーシティで過ごした子供時代を思い出してみたんだ。周りにいたやつらも全員D.C.の出身で、ずっとそこにいた。どこへも行かなかった。リサーチしたんだ。外にいたオレ、あちこち動き回ってたオレ、人に見られてたオレ。至るところにオレがいた。なんて言うか、自分の中から感情を引き出して、確実に地に足をつけたんだ。それを分かってくれるやつが、たくさん集まった。全員D.C.で生まれて育った人間。それから10〜11カ月はひたすら突っ走って、サウンドというよりもエモーションを作っていった。アナログの音なんかを試して、今の音楽にない質感を色々作って、D.C.に独特のレイヤーを音で表現したんだ。今までにレコードで聴いたことがないようなものを、たくさん作ってみた。

パーティのビートに対して、あなた自身の生い立ちやD.C.の暗い部分といったリアルな世界を歌う歌詞。その二元性を感じさせる曲が多いですね。あなたが体験した葛藤で人が盛り上がるのは、奇妙に感じませんか?

いや、べつに奇妙じゃない。

このアルバムは、コラボレーションも多いですね。今の世代にとって、コラボレーションはやや幅広い意味を持ったコンセプトだと思いますが、あなたにとってコラボレーションとは?

ふたりの人間が一緒になって、ひとつのものを作る。それがコラボレーション。相手のベストなものを貰って、自分のベストを差し出す。そして両方をひとつにして、シンクロさせる。オレの場合、誰かとコラボレーションをするときは、これをしろとかあれはするなとか言いたくないね。「オマエに声をかけたのはそれなりに理由があるんだから、ベストを出してくれ。オレもベストを尽くす」って感じ。それで上手くいったらいいんだ。「Crew」はすごく上手くいった。

「Crew」のビデオはクレイジーですね。みんなのそれぞれのスタイルが最高。あなたのスタイルは?

あれは、全部本物だぜ。言いたかったのは、自分が着るものを押し付けられてるやつが多いってことさ。やつらはトレンドを追っかけてるんだ。オレはそんなことはしない。オレは反抗的だから、反抗的な格好をする(笑)。パンクって言葉は嫌いだ。 2017年現在のパンクがなんであれ、オレはパンクを地で行く。

実家へ帰って、インナーシティで過ごした子供時代を思い出してみたんだ。周りにいたやつらも全員D.C.の出身で、ずっとそこにいた。どこへも行かなかった

あなたの考えるパンクとは?

とにかく、体制に従ったり、妥協したり、同意したりせずに、着るもので反抗を示すこと。それが、オレのやってることだ。オレは本気でやってるんだ。

映画「American Pimp」を観ているときに、ゴールドリンクという名前を思いついたとか...。ああいう派手なスタイルが好きですか? あれも反抗の手段のような気がしますが。

そうかな。オレは、昔からああいうのが好きだったんだ。ドラッグ カルチャーの中で大きくなったからな。ドラッグをやってたわけじゃなくて、ドラッグがありふれた環境って意味ね。都会の知恵さ。ディーラーはすごく派手ななりをしてるんだ。オレは、それがクールだとずっと思ってたね。ミンクのコートを着て、帽子をかぶって、スゴいローファーなんかを履いてさ。最高にカッコ良かった。でも、オレには向いてない。オレはただ、ああいうのが好きなだけ。

お気に入りの服はありますか?

今は、いい服をたくさん持ってるな。特別好きってのはないけど。Undercoverのスカブはオリジナル。ダチのケルから手に入れた。Undercoverの、かぎ爪がプリントされたシャツは最高にイカしてる。黄色いのを持ってる。

Undercover以外で好きなブランドは?

いないね。オレは、気に入った服を買うタイプなんだ。好きだと思うアイテムを買う。ひとつのブランドにこだわらない。好きなものは色々あるけどな。例えば、Junya WatanabeComme des Garçonsのコラボレーションは、すごくいいぜ。 90年代の古いUndercoverも好きだな。90年代のComme des Garçonsも好きだ。昔のDiorも。服、特別見た目の面白い服が好きなんだ。決まったブランドを追いかける気にはならないね。

その方が面白いかもしれませんね。ヴィンテージや古着を買うことも多いですか?

ああ。でも、委託のショップの方が好きだね。1点ものに近いから。オレ、いろんなものの歴史を知るのが好きなんだ。最近、それにハマり始めてる。ダチのケルは「Horror Vacuo」って名前の委託ショップをやってるんだけど、そこで買うときはいっつも「おい、これはどういうものなんだ?」って聞くんだ。そしたら「ああ、これはRick Owens。92年のショーのものだ」って感じで教えてくれる。「500着しか売りに出なかったから、掘り出し物だぜ」とかね。そういうわけで、オレは気に入った服だけを買う。服のことを知るのが大好きなんだ。

あなたのウェブサイトには「ショップ」のリンクがありますが、パスワードがないとアクセスできない。一体、どういうことですか?

ああ、何でだろう?

なるほど(笑)。たぶん、近いうちに正体が明かされるんでしょうね?

うーん。

着用アイテム:ジャケット(Kappa)

間もなくツアーが始まりますが、楽しみですか?

イエスでもあり、ノーでもある。オレが自分のアルバムでどう表現したか、ぜひ世界のみんなに知ってほしいとは思う。でも家から離れるのが嫌なんだ。広い意味で、D.C.を離れることに気が進まない。まあ、オレにとってはいいことなんだけどな。

誰にとってもいい機会ですよ。あなたは、音楽や他のあらゆることでいろんなことができることを示して、コミュニティに希望の光を灯しています。今後もそうあり続けたいですか?

うん。助けを必要としている人を助けしたいし、いい手本でありたい。口先だけじゃなくて実行する人間、嘘ごまかしのない人間として、生きた手本になりたいね。

助けを必要としている人がいたら、どんなアドバイスをしますか?

誰も反対できないくらい、自分のやっていることを上達させて、自分の仕事に自信を持つこと。流行りに流されることは簡単なんだ。誰それはすごくファンがいるから、オレも誰それがやっていることをやらないと、って簡単に流されてしまう。だけど、自分のやっていることに嘘をつかないこと。そうすれば人は尊敬するようになるし、長く続く。急がば回れだ。急ぐな。それがオレからみんなに言いたいことだ。

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Hannah Sider
  • スタイリング: Ronald Burton
  • ヘア & メイク: Alana Wright