「オレはハンサムじゃない。セクシーなんだ」
LAラップを代弁する新しいオールド マン、Schoolboy Qと語る
- インタビュー: E.P. Licursi
- 写真: Alexvnder Blvck

まさにスクールボーイ・Q(Schoolboy Q)の夏が真っ盛りだ。7月、4枚目のスタジオ アルバム「Blank Face LP」をリリースした。ハイなギャング ラップを明確に凝縮した、21世紀の作品だ。先月、国内と世界を旅する今年いっぱいのツアーに乗り出した。ニューヨークでのショーの日は、ファッションウィークの真っ最中。Qは、Jane Hotelで、洋服モデルとして撮影中だった。大抵の若いパフォーマーは注目を浴びることを楽しむようだが、Qはホームシックみたいだった。なぜなら、スクールボーイ・Qは家族思いの男だからだ。間違いなく、7歳の娘が何より気がかりな存在なのだ。彼はヒップホップのスーパースターとして世界を駆け巡るより、サッカーパパの役割りの方を熱望しているかのようだ。
途切れることのないマリファナの煙の中で、Qは写真のポーズをとり、冗談を飛ばす。インタビュアーのヘアスタイルが「なってない」と言い、自分の格好に関してスタイリストに注文をつける。「オレはハンサムじゃないんだ。セクシーなんだ」。スタンキー レッグ(ヒップホップのダンス)をやってみせようと、ウエストストリートの地上6階にある屋根の出っ張りに飛びのった時は、彼の取り巻きも思わず息を飲んだ。彼の茶目っ気は、非凡な内的成熟とアーティストとしての忍耐を覆い隠してしまう。ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)、アブ・ソウル(Ab-Soul)、ジェイ・ロック(Jay Rock)らとともに、ブラック・ヒッピー( Black Hippy)を構成するメンバーとして、QはLAで復興したラップのアニキ分的な指導者なのである。
「みんなが同じ格好をしていたら、もうファッションじゃないよ」
E.P.リクージ(E.P. Licursi)
スクールボーイ・Q(Schoolboy Q)
E.P.リクージ: 新作の短編ビデオ三部作を見ました。とても良かったですね。
スクールボーイ・Q: 気に入った?
はい。素晴らしかった。演技に興味があるんですか? 演技の方面も続けるつもりですか?
そうだね。いつかはね。
あのストーリーは、あなたが書いたんですか?
というか、事実に基づいた話なんだ。
あなたの人生が基になっているということですか?
そう。オレは質屋を強盗してないけどね、実際は。オレは人の家に強盗に入ったんだ(笑)。
なるほど。
質屋の方がもっとクールだと思ったんだ。
ラップ界では、音楽以外のことをしている人がたくさんいますね。服のデザインだったり、俳優業だったり。あなたはラップ界の、いわゆる「多彩な才能人」になりたいと思いますか?
うん。そうだろ、人生のある期間、学校に行って、それが終わる。次は社会に出て、時期が来たら定年退職だ。引退した後は何をする? ただ死ぬのを黙って待つってか? オレは死ぬのを待つなんてヤだね。人生を全うして、動けなくなるまで毎日働きたいよ。自分の娘が母親になった姿を見たいね。わかるかな? オレは曾祖父さんになりたいよ。

ファッションやラグジュアリーをテーマにしてラップすることを、どう思いますか? みんな、高い服、高級車、高価なジュエリーについてラップしてますが、そうしたテーマについて、あなたはそれほど関心を持っているようには見えません。
誰もがいつでも同じことを自慢している。それも、ある程度続いたら、退屈になると思うよ。オレは、ああいうのとあまり関わりがないからな。オレのアルバムを全部聞いたら、どれひとつとして同じものがないことがわかるはずだ。今のアルバムの後は、これまでやってきたことと全くかけ離れたことをやるんだ。オレはもうクリップス(ロサンゼルスのストリート ギャング)のメンバーじゃない。自分の出自が変わるわけじゃないけど、もうギャングのメンバーとして活動しているわけじゃない。だから、何で、同じテーマで5枚もアルバムを作る必要があるんだ?
そうですね。他の人生経験もあるわけですから。
その通り。人生は変わっていくもんだ。オレはオレのばあちゃんについて話したことなんて全くないし、母親のことだってそんなにない。100万ドル稼いだことも、100万ドル損したこともある。そして、その損を取り戻したことだってある。そういうことも話したいんだ。良いことばかりじゃなくて、落ちてた時のことだって話したいんだ。
みんなもそれを聞きたいと思います。
いっつも、ジュエリー、ジュエリー、あんな物、こんな物。でも、実際にやつらに会ったら、何もそんな物持ってないんだ。オレが付き合ってるいちばんの金持ち連中でさえ、車を持ってない。1台も持ってない。ささやかな家すら持ってないんだ。
テレビがMTV Cribs(セレブリティのお宅訪問番組)がやっていた2000年代、みんな車をレンタルしたり、家を借りたりしたのを覚えています。
あれは、ある意味で賢いやり方だったよ。今日1日人に見せるためだけに、車3台に80万ドル遣うなんて、オレはしないね。運転もしないのに。ちょうど、オレは新しい車を借りたばかりなんだ。ラッパーたちは、「これ、借りてんの?」って言うだろうけど、9ヶ月間しか必要ないんだから(笑)。

娘さんがいると、そういうことも考えないといけないですね。彼女の将来の財政とか、正しい価値観とか。
オレの立場にいるような人間が与えるものは、オレの娘には与えていないんだ。彼女は今もターゲット(アメリカのディスカウントチェーン)で買い物をしている。まぁ、ゲーム関係は全部手に入れるだろうけど、彼女が手にする恩恵はそれだけだ。それと、毎日、朝起きて父親の顔を見られること。それができない子供が多いわけだから
三部作の3番目のビデオ「Black Thoughts」の最後に、とても心が痛む場面があります。あなたが娘をスクールバスまで連れて行く時、自分が刑務所にいたことを思い出す部分です。あなたのお嬢さんは、あなたが音楽を作る原動力のようですね。
オレは、何ひとつ逃さないようにしているんだ。孫を見たい。娘が大学に行きたいなら、大学に行く姿を見たい。きちんと学校へ行って、サッカーをしているところを見たい。実は彼女がゴールを決めてまわりを見渡す時、最初に探すのはオレなんだ。コーチも見ないし、他の選手とハイファイブもしない。彼女がゴールを決めたら、まずやることはスタンドにいるオレの方を見ることなんだ。オレは娘をがっかりさせたくない。昔いた場所に戻って、バカなことはやりたくはない。全て自分の誇りのためなんだ。チャンスを見逃さないように努めているんだよ。
自分のエゴのために、家族を養うより自分の活動を優先しているアーティストがいますね。
人生に嘘偽りはないんだ。だからこそ、オレはずっとクリエイティブでいられるんだよ。初めてラップした日から、オレは頭の中でずっとラップをしている。たぶん、始めたのは9年ぐらい前だった。毎日、自分の歯でビートを刻んだり、何かについて考えながら、目を覚ますんだ。 ラップしているかもしれないし、何かボソボソ言っているだけかもしれない。だけど、止まることはないんだ。ほんとにオレは気が狂ったんだ。
「ラッパーには、自分の子供よりも音楽を優先するやつらが多い。オレには、1年に2枚、アルバムを出すなんてできない。4年で4枚だって無理だ。ずっとスタジオにこもって、家族とは離れ離れになるからな」

初めて入れたタトゥーを覚えてますか?
覚えてるよ。オレのばあちゃんの顔だよ(笑)。ギャングの連中は、とんでもなくブサイクだって言うんだ。溶けたアイスのコーンだってね。ひどいよな! オレはばあちゃんを彫ったつもりなんだけどな。オレが15の時。
それは、なかなかいいアイデアでしたね。
やってみたのさ。
「Fuck LAPD(くたばれ、ロサンゼルス警察)」というタトゥーも入れているって聞きましたが。
そうだよ。LAPDはバツ印で消してある。
おそらく、当時はまだ若くて、ロドニー・キング事件やロサンゼルス暴動のことは覚えてないでしょうね。もしかして、何か覚えている?
覚えてないね。でも、車の後の座席にいて、酒屋が燃えているのを見た覚えはある。それだけだね。ほんのぼんやりした...。
イメージ。
そうそう。3歳とか4歳の頃でも、なんとなく記憶に残ってることがあるだろ。風呂に入ってたとか、そういうどうでもいいことを覚えてたりする。
大人になるにつれ、こうした記憶が警察の見方に影響を与えましたか?
いや、オレにはオレの経験があるからね。オレは警官になりたいと思ってたんだ。母さんは「そんな、警官なんてなれっこないだろ、何言ってんの」って感じだった。それで「Fuck LAPD」のタトゥーを入れたわけだ。犯罪歴もついた。重罪判決が2回。ギャングになったんだ。人生は変わっていくんだよ。毎日店へ行って友達とつるんでるだけで、人生をめちゃくちゃにしてしまった。でも同時に、連中とは絆があるんだ。今のオレを作ってくれたのはアイツらだ。だから、オレはこういう話をできるんだ。
「Black Thoughts」の中で、あなたは「誰の命も大切だ。両方ともだ」と言っています。黒人に対する警察の暴力を軽視しようとする人たちの発言とは、明らかに違いますね。
違うね。誰の命でも大切だと言った時、オレはまだ黒人の命のことを言ってたんだ。最後に「両方とも」と言った理由はそれだ。クリップスとブラッズ(ロサンゼルスの2大黒人ストリートギャング)のことなんだ。白人のヤツがオレたち黒人を殺したらオレたちは怒り狂うけど、先週いとこが知り合いの誰かに殺されたばかりでも、それに抗議するヤツは誰もいない。最近、まだ21歳にもなってない仲間が5人死んでいった。それでも抗議するヤツはいないんだ。みんなでいっしょに闘うなら、いっしょに闘おう。カメラがあって自分の手柄になる時だけいっしょになるんじゃないんだ。ラップ界の連中がデモ行進とか抗議活動にどう関わっているのか知らないけど、そういう時にオンナの写真をインスタグラムに上げているヤツらがいる。いったい誰のために闘っているんだ?って感じだよ。評判を取るためにやってるのか? それとも本心から気にかけているのか? オレにはそれが全てなんだ。オレは心から気にかけていることがある。かなり寄付もしているし、いろんな家族の世話もしてきた。それはインスタグラムに載せるためじゃないんだ。黒人の命が大切なら、なんでこの白人警官にあんなことさせるんだ? オマエは、その動画を撮っているだけだ。参加しないといけないんだ。恐ろしくても、もしそれが自分の息子だったら参加するだろう。息子のために立ち向かうだろう? 息子のためなら身代わりになって撃たれるよ。他の黒人の子だとなぜダメなんだ? 警察はオレたちのコミュニティでやりたい放題だ。「コイツは逮捕に抵抗した」とかなんとか。でも、銃は抜いてないぜ。逮捕には抵抗する人間は毎日いる。なんで黒人のヤツらだけが殺されるんだ?

そうですね。ビデオを見ると...。
そう。アイツは逮捕に抵抗したよ。クソったれの警官には、オレたちはそうするよ。逮捕には抵抗するもんだ。ムショになんか行きたくないからな。アイツらの仕事はオレらをムショに入れることだ。オレの仕事は、アイツらから逃げることだ。ただ、オレはアイツらを撃つために銃を抜いたりしないよ。なのになんでアイツらはオレを撃つんだ? 恐ろしい話さ。その前にスタンガンやら催涙スプレーやら、警棒だって持ってるのに、なんで最初に手を伸ばすのが銃なんだ? オレの脚を折るなりすればいいじゃないか!
それが気の狂った白人相手だと、そうするんですよね。警察は、白人相手なら手間をかけますよ。5時間だって、ずっとにらみ合ったまま。
今は、ビーンガンを持ってるよ。白人のヤツらはそのビーンガンで撃つ。で、オレたちは銃弾を浴びているってわけだ。
あなたやケンドリック・ラマーのことを、LAラップ復興の代表だと考えている人が大勢います。ラップのスタイルで、LAには何か特徴はあるのでしょうか?
そうだな、完全に新しい音なんだ、LAの今の音楽は。LAのようには聞こえない。みんなオートチューンを使ってる。LAの音楽は、実際、ストリートの本質が中心なんだ。
もっと内容やテーマに特徴があるということですね。
オレはもう古い方のラッパーだよ。新しいLAのラッパーをたくさん聞くけど、「こいつはどこ出身?」って聞くと、「コンプトンだよ」とか「サウスセントラル出身だ」とか。なのに、なんでケンタッキーとかアトランタとか、そんなクソみたいな音しているんだってなるからね(笑)。でも、オレとケンドリックに関する限り、オレたちよりも前のアーティストから影響されたんだ。
特にLA出身のアーティストですか?
そうだよ。スヌープ・ドギー・ドッグ(Snoop)、トゥーパック(Pac)、イーフォーティ(E-40)、トゥー・ショート(Too Short)。まだまだ何日でも続けられるよ。キューティップ(Q)、ドクター・ドレ(Dre)、でもノトーリアス・B.I.G.(Biggie)、ジェイ・ジー(Jay-Z)、ナス(Nas)だって好きだよ。オレのいちばん好きなラッパーはナス。
あなたのお子さんと家族を別にすれば、旅行をしている時にLAの何が恋しくなりますか?
オレの犬。起きて、ゲームを始めて、1日中やっていられること。マリファナ。LAのマリファナ。起きて、何を着るか、暑いのか寒いのか考えなくていいこと。
それはいいに違いない。
最高だよ。あと、しゃぶしゃぶだな。

ファッションに対してはどう考えてますか? あまり流行を気にするようには見えませんが。
みんなが同じ格好をしていたら、もうファッションじゃないよ。オレは自分が着ている服の半分も何だかわからない。どう着たらいいのかを知ってるだけだ。「薄汚い格好」が流行れば、みんなそうする。髭でも何でもそうだ。オレはずっと髭をのばしてるけど、今はほんとにどいつもこいつも見苦しい!バケツハットがファッションになったなんて、オレには衝撃だよ。ランウェイを、バケツハットを被った野郎が歩いて来るんだ。オレがバケツハットをかぶっているのは、オレの顔に合うからなんだ。何でもかんでも一時の流行だよ。オレなんか、クローゼットから適当に引っ張り出して、結局1週間、同じジャケットを着てたり、同じジーンズを履いてたりする。
すると、あなたの洋服でもっとも顕著な特徴は、タイダイが多いことですね。どうしてそうなったんですか?
オレの地元は「グルーヴ」が合言葉なんだ。ブラッズの連中は「どう、ブラッド?」って言うし、クリプスは「どう、コズ?」って言う。オレの地元のフーバーは「どう、グルーヴ?」って言うんだ。どう、ノッてる? 調子はどう? って意味だな。ギャングのメンバーでなくても、そういう合言葉で自分の出自を表すんだよ。タイダイって見たり聞いたりしたら、だいたい70年代のヒッピーやグルーヴィを思い出すだろ。オレの頭の中では、地元とタイダイが結びついてるんだ。実際、オレがタイダイをクールにしてるんだ。クリップスがタイダイを着ているなんて、普通見ないだろ? でも、オレがそれを何とかカッコよくしてるんだ。
- インタビュー: E.P. Licursi
- 写真: Alexvnder Blvck
- スタイリング: Dianne Garcia