OPNは電気羊の夢を見るか?

電子音楽の最高峰ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーと奇才ジム・ショーが、人工知能、不快な音域、映画『エルム街の悪夢 4』を語る

  • インタビュー: Jim Shaw
  • 写真: Heather Sten

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)──これまで数々の賞を受賞してきたミュージシャン、作曲家、プロデューサーのダニエル・ロパティンのことだ。彼にとってのOPNは、衝動的欲求を満たす実験の場であり、音に関する無数のアイデアを集めた宝庫だ。ロパティンを惹きつけてやまないのは、さまざまな事象と事象を結ぶ接点を見つけること。そして、そんな彼の探求欲求を体現しているのがOPNだ。絶え間なく変化を続けるこのプロジェクトにおいて、ロパティンは自在に点と点を結びつけていく。アニメ、人工知能、ロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)、地球と地球外生命、将来への恐れ、世界中に蔓延するインターネット中毒など、彼自身の解釈を通して蓄積された無数のレファレンスが、おのずと彼を駆り立てるのかもしれない。こうした一見無関係な事象を繋ぎ合わせるという、遠回りにも見えるプロセスを踏むところが、ロパティンの理想のコラボレーターたる所以であり、これまで一緒に仕事をしたアーティストには、ケルシー・ルー(Kelsey Lu)、デヴィッド・バーン(David Byrne)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)、FKAツイッグス(FKA Twigs)など、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。昨年は、ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟が監督脚本を手掛け、世界的に称賛された映画『グッドタイム』のサウンドトラックを制作した。また、今年の夏の頭にはWarp Recordsからアルバム『Age Of』をリリース。オペラを思わせる構成のこのアルバムは、ひとつのカテゴリーに当てはめることができない作品の典型だ。言うなれば、満足感を求めないことの良さを活かしているとでも言おうか。心穏やかでいられない居心地の悪さには、居心地悪いなりの素晴らしさがあり、『Age Of』はまさにその好例だ。良い意味で、聴く人の心を乱すのだ。 その音は、どこか斜に構えていて、感情をかき乱し、恐怖心を煽り、機械的で、ハープシコードが不穏な旋律を奏でる。5月にはニューヨークのパーク アベニュー アーモリーでマルチメディア コンサート「MYRIAD」を成功させ、ロンドンのバービカン センターでの公演は完売となる盛況ぶりだった。さらに10月には「MYRIAD」のロサンゼルスのウォルト・ディズニー コンサートホールでの公演が控えており、これが西海岸における『Age Of』のプレミア ライブとなる。

アルバムのデザインは奇才デヴィッド・ラドニック(David Rudnick)が担当した。デザインには、アメリカ現代美術シーンでカルト的人気を誇るアーティストのジム・ショー(Jim Shaw)の作品「The Great Whatsit」を取り入れている。奇妙で、肉体的で、退化していくこの世界とこの先に待ち受ける未来。ディストピアに魅せられたふたりのアーティスト、ロパティンとショーの組み合わせは、まさにうってつけだ。『Age Of』にも、「The Great Whatsit」というタイトルにも、同じような倦怠感が漂っている。人類がまっしぐらに向かう、言葉を失った世界と共通の閉塞感に満ちた喪失感。自らが作り上げた架空の宗教「O-ism」をテーマにした作品や、アーティストの故マイク・ケリーと活動を共にした「アンチ ロック」なデトロイト バンド、デストロイ・オール・モンスターズ(DESTROY ALL MONSTERS)のメンバーとしても知られるショーが、ロパティンと語り合う。会話はとりとめのない方向へと進み、奇妙な深みへと、はまっていく。しかし、それも悪くない。

カバーイメージ、ジム・ショー「The Great Whatsit (2017)」
アクリル 53 × 48 インチ (134.6 × 121.9 cm)

ダニエル・ロパティン(Dan Lopatin)

ジム・ショー(Jim Shaw)

あなたなら興味を持つだろうと思ってたことがあるんです。僕の友達にロニー・ブロンスタイン(Ronnie Bronstein)という作家がいて、ずっとロバート・クラム(Robert Crumb)の「夢日記」をまとめてるんですよ。この「夢日記」について聞いたことがありますか?

ないね。

実は、ロバート・クラムは何年にもわたって夢日記を付けていて、どういうわけか、ロニーは彼と知り合い、ふたりで夢日記を総ざらいして、本にまとめてるんです。僕は、あなたの心を読むのにふさわしい切り出し方を考えてたんですよ。

娘が学校に通っている間、私は夢を見ることをやめるしかなかったんだ。早起きしないといけなくて、夢についてじっくり考えて、それを思い出すような時間がなかったんだ。でもその娘もやっと学校を卒業するよ。

それはおめでとうございます。僕はまったく夢を見ないんです。体質なのかわからないけど、とにかく夢を覚えてないんです。だから、自分の夢を解明している人がうらやましい。そんなことを考えていて、あなたの作品とあなたが創った架空の宗教「O-ism」のことを思い浮かべました。「O-ism」についてはそこまで詳しくはないんですが。

私もだよ。まだ深めているところだ。

まず、あなたの作品では、説得術に非常に長けた人物というアイデアが繰り返し出てくることから考え始めました。クラムの物語にも、こういう大勢の人をコントロールしようとする、説得のプロみたいな人物が登場します。僕の場合、悲しいかな、どれほど多くの実現できそうな面白い考え方に興味があっても、結局いつも「まあでも、興味があるのはまた僕だけだからな」と思ってしまうんです。自分の夢と自分の肉体との間に目に見えない亀裂が生じてるというか。だから、あなたが個人的な面で、この点について、どう折り合いをつけているのか、すごく興味がある。

分裂について?私にとって分裂というのは身体と心の二元論なんだ。ある時、私は自分が統合失調症かアスペルガー症候群のどちらかだと気付いた。そのせいで、私には若干、人間らしさに欠けるところがある。私が敬愛するアーティストの多くもそうだと思う。彼らは猛烈に自分の芸術に打ち込むからね。私の場合、どうしても未来に未来に対して否定的な解釈をしてしまう。私には、娘がこの先生きていく世界を想像することが難しい。ドナルド・トランプ(Donald Trump)がやってきて、我々がアメリカ内部の殺戮を経験しているんだと宣言し、そう言うことで、殺戮を実際に存在させようとしたような感じだ。これからは、生活のために働くというような、昔からずっと人に人としての価値を与えてきたものが、どんどん置き換わっていくのを目にするようになるだろう。コンピューターの扱いを知らなければ、そういうものは存在しなくなってしまうんだ。

もしくは、なんらかの方法でそれぞれが自律的な形で非情なマザーボードに繋げられ、そこで楽しい夢を見ている間に、他の機械があなたの仕事を済ませてくれる世界。だけど、実際には、自分は家の中で退化していく。僕がたびたび考えるのはそんな感じです。国全体で、小さな部屋に置かれた身体が退化していく様子を想像してる。それは、トランプ後のアメリカの情景としては、素晴らしいホスピス版と言えるのかも。「確かに最悪な状況だけど、このホスピスケアに入れてあげるので、平穏に退化しながら、犬のように1日中夢を見ていられます。あなたの身体は惨めな状態になるけれど、あなたはそれを目にすることはないので問題ありません。あなたはこのカッコいいサングラスをかけることになっていますから」って。

『ウォーリー』に『マトリックス』が合わさったような感じかな? 機械はもうすでに人間を使っていると思うね。そして今は、我々が誰に投票するか、そして何を買うかを決めるのはアルゴリズムだ。

音楽の世界では特に、病的なことになっていますよ。人に聴いてもらえるかどうかもわからないプレイリストの中に、アルゴリズムが自分の曲を入れることを、僕たちは認めているんですから。しかも、例えその曲が誰かに聴いてもらえたとしても、自分とはまったく無関係な他のたくさんの曲と一緒に並べられてしまう。

私がインターネットに何かをアップできるくらい詳しい人間なら良かったんだけどね。それは極右グループが得意なことだから。60年代に狂った考えを広める地下新聞があったように、彼らは彼らの狂った考えを広めるためにウェブサイトを持っている。違うのは、あの人たちが実際にその考えに従って行動しているのと、銃をたくさん所有している点だけどね。

そうなるとやはり、人を説き伏せるという非常識な能力に話は戻るわけです。そこで説得に使われる画像や他愛のないアイデアは、次から次へと出てきて、結局は供給過剰になる。このままいけば、そういうことをするのが僕の人生になるのかもしれないと思うと、本当に怖いですよ。

どこかで読んだことがあるけど、人間が覚えていることというのは、トラウマになるようなことなんだ。例えば、私が60年代に見たコンサートやらについて言うと、イギー(Iggy)がやったことは何であれ覚えているんだけど、それは、彼がものすごく反抗精神にあふれていたからだ。当時起きていたことすべてに対して、抵抗しまくってた。

何度も聞かれていることだと思いますが、僕があなたの作品の価値を考える上でひとつの目安にしている点が、あなたの作品に見られるスタイルの変化です。このせいで僕は、あなたの作品が、胸に刺ささると同時に、暖かく迎え入れられる場所のようにも感じています。変化しないのはむしろ無責任だという意識があなたにはある。そうした外的な変化の引き金を、あなたは受け入れていますね。この点について、自分なりの考え方があるのでしょうか? どうやってそれを見つけたのでしょうか?

まだ私も若かった70年代、アートスクールを出たり入ったりしていた時に、同じ模様を繰り返すパターン ペインティングが流行っていた。私はそれには興味がなかった。そしてロスコ(Rothko)の回顧展を見たときに、彼の作品が進化していることに気がついたんだ。私は、ただ最終地点にたどり着いてそこにとどまるより、進化する方がずっと面白いと思った。自分が生まれつき趣味の良い人間ではないこともわかっていた。生まれつき趣味の良い友達がいたからね。私は今後も趣味は良くならないし、それを自分に押しつけることもできないとわかっていた。それに、注意欠陥障害(ADD)という言葉の意味を理解する前から、自分にそういう障害があることはわかっていた。自分が、既存のものやシンプルなエアー ブラシを使った表現主義を少し歪めるところから始め、そこからもっとグロテクスで極端な作品を作ってきたこともわかっていた。さらにそこから、他のものへと移っていった。なんとなく自分で気がついたんだよ。誰でもわかるような特徴のあるアーティストになろうとするなんてバカげた考えだって。でも、そういうアーティストたちが、金銭的に成功を収めるということもわかってる。

アルバム『Age Of』の中に「Toys 2」という曲があるのですが、過去数年の間、他の方法で生計を立てる道を探しながら仕事をしてきたので、これは厳密な意味では、僕の作った実証実験タイプの作品です。僕は音楽業界とそこで起きていることに完全にびびっていて、そこに自分が馴染めている気がしません。「やれやれ、子供映画の音楽ができればほんとにいいのにな」なんて思っています。子供向けの映画なんて見ることすらないのに。つまりそういうことなんです。現状に対する僕の考えは、そんな風に、変なんです。ニュースでロビン・ウィリアムズの遺言状のことがやってたんですが、彼は遺書の中に「私の肖像をCGIなどで使うことはできない」と言ってたんですよね。具体的に遺書にそんなことを書くなんて、僕が思ったのは…。

彼は予知していたんだ。

まさにそうです。そして、それによって彼は天才としての地位を確固たるものにした。単にコメディアンとしてだけでなくて、なんというか、わからないけど…。彼にはより一貫性があったように思います。早い話が、オマージュとして「Toys 2」という曲を作りました。僕には、ロビン・ウィリアムズが出ていた映画としての「Toys」の記憶がほとんどありませんが、「この曲は、彼の遺言に反して、死後のロビン・ウィリアムズがCGIで帰ってくるというコンセプトの証明となり、議論を呼ぶ作品となるだろう。そして文化における決定的瞬間になる。さっそく音楽を作ろう」って思いました。変わったカズーの音があって、それが、どういうわけかセリーヌ・ディオン(Céline Dion)から取ってきた音楽の上でララバイを奏でます。今僕たちは、和声の時代の終わりに差し掛かっていると思うんです。まだ発見されていない半音階主義の配列なんて、そう多くはないですからね。

そうだね。今まで使われてこなかったもののほとんどは、心地の良くないもの。いわば、度を越えているものだ。他の音域に飛び込むメロディーは、奇妙に聞こえるようにね。

僕はそれを不快な音域と呼んでいます。

つまり、繰り返されないもの。

あなたはデストロイ・オール・モンスターズで、それを得意としていましたよね。僕はいつもダメなんです。何に対しても、ちょっとディズニーの妖精の粉をふりかけてしまう。あなたがカリフォルニアへと引っ越した時、視覚効果や特殊効果の分野で仕事をしていたと思うんですが、『エルム街の悪夢4』に関わったというのは本当ですか?

そう。私はアニメーション ディレクターだった。誰かが用意したものをアニメーションにするために指示を出していた。レニー・ハーリン(Renny Harlin)がアメリカで撮った最初の映画だったと思う。撮ったそばからプロダクションに入っていた。ハロウィンに公開するんじゃなくて、夏に間に合わせたかったから、撮りながら作っていったんだ。

ハリウッドの映画に見られる、飾り気のないエフェクトに心が痛みますか? 今は、ほんとに殺菌処理されたようなファンタジーです。マーベル映画なんて、どれも同じに見える。

私が子供の頃は、レイ・ハリーハウゼン(Ray Harryhausen)が手掛けた新しい映画が公開されるまで数年は待たないといけなかった。テープもDVDもインターネットもなかった時代だから、何度も繰り返し見ることができなかった。そうなると、物ごとが生き生きとしてくるんだ。ファンタジーがそこに、現実にあった。まるで夢が現実になったようにね。巨大なニワトリが走り回ってるとか、何でもいいけどさ。デジタルでそういうのものを作る技術ができた途端、何だって可能になった。でも結果として大抵のものが、どこかで既に見たような、均質なものになってしまったんだ。

Oneohtrix Point Never - We'll Take It youtube

まさに、そうですね。昨晩、僕は人工知能についてと、アルゴリズムがどう作用するのかについて考えていたんですがGoogleの人工知能、Deep Dreamが初めてマスコミの前に姿を現した時のことをよく覚えています。Deep Dreamの技術に関する非常に長い論文があり、初めて行った実験が披露されたのですが、僕が覚えている限り、とんでもなく奇妙な結果になりました。彼らはおおむねこういうことを言っていました。「私たちはこのアルゴリズムに、ウェイトが何であるかを教えてきました。身体を強くするためのウェイト リフティングで使う例のものです。私たちはストックした画像をもとに、ウェイトの見た目をこの機械に理解してもらおうと思っていました。要は、私たちの誰もが貢献しているGoogle 画像検索の画像です。それと、私たちが投稿するすべての画像をもとにします。私たちの提供する破片がすべて、このアルゴリズムにデータを供給しているのです」。そこから、ウェイトの見た目がどんなものであるかを学習し始めて、「計算中、計算中、計算中…、はい、これがウェイトです」と出してくる。そして現に、ウェイトがある。シルバーっぽいグレーの塊で、どことなくスチールのように見えるが、青白い腕、肉っぽいものがついていて、つまり、ウェイトに白い腕が付いてるんです。僕はそれがかなり面白いと思いました。だって、Deep Dreamはその作業中に、隈なく綿密に調べ上げて、「わかりました。私の持つ全てのインプットからウェイトはこんな風に見えると思います」と言ったわけでしょう。でもそれは、ネット上の情報が、かなり歪んだものであることも暴いてしまった。というのも、このスチールのバーを持ち上げているのが、すべて白い肉体だからです。こうやって崩壊していくのか。私たちが住むことになる現実はこれなんだ。これがディストピアなんだって思いましたよ。機械に生きたまま食べられるとか、何らかの形で恐ろしい戦争に巻き込まれるとか、単にそういう問題ではなく、私たち自身が積み重ねた全ての幻想、ある特定の幻想、そして特定の肉体、そういうものが問題なのです。それが、僕には腹立たしくなってきて、ファシズムのように感じ始めたんです。

ポルノとアルゴリズムが何を考え出すのか見極めるのは興味深いことだね。

Pornhubにデータを問い合わせみるといいですね。実際、Pornhubには、自分たちが何者なのかと、自分たちの活動に対して、クレイジーなユーモアのセンスがありますから。それに、実際のところ、かなり透明性が高いので、折に触れてこれらのデータ分析を公開することもあるでしょう。公開されたものの中にひとつすごいデータがあって、核攻撃があるという誤報メールからすぐにポルノ視聴活動が急激に増加したというものです。どうもテスト メッセージが誤送信されたようで、その直後から、ポルノの視聴数が狂ったように急上昇した。

ハワイの件? ハワイだったよね?

そうです。

そりゃ当然だね。核攻撃が起きるってなら、意義のあることをしないといけないよ。

そうですね。人類に生き残るチャンスを与えるべきですね。

  • インタビュー: Jim Shaw
  • 写真: Heather Sten
  • 画像提供: アーティスト本人、Drew Gurian、Katharine Hayden、Metro Pictures (New York)