話題のダンスの生みの親 ブロックボーイ
ラッパー兼プロデューサーのブロックボーイJBが、メンフィス訛りと世界中で流行ったダンスについて話す
- 文: Alex Russell
- 写真: Hannah Sider

ロウアー マンハッタンは今、大混乱だ。ブロックボーイJB(BlocBoy JB)と僕は 黒のSUVに避難して、車で街を回ることにした。イースト ブロードウェイとエセックスの角では、サイレンが鳴り響き、交通は大渋滞、歩道では歩行者同士が口論している。だが問題はそこではなかった。ブロックボーイの横で席に着き、どうしたのか彼に聞くと、彼はきっぱりと答える。「このマリファナ」
問題のマリファナは長らくお預けにされていた。長時間にわたる写真撮影の後の、がんばったご褒美だ。撮影場所のMission Chineseでは喫煙が認められていなかった。(残念ながら、彼らはケータリングも行なっていない)

BlocBoy JB 着用アイテム:シャツ(Balenciaga)
冒頭の画像 着用アイテム:クルーネック(Gucci)、ジーンズ(Gucci)
ブロックボーイが到着したとき、僕には、彼が新たに誕生したラップ界のスターに必要な巡業を行い、街から街へ動き回っているのがわかった。すでに高まりつつあった人気に拍車のかかったドレイク(Drake)とのコラボレーション曲「Look Alive」がリリースされて数ヶ月、彼は、鉄は熱いうちに打てとばかりに動いている。21サヴェージ(21 Savage)とのリミックス、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)の楽曲でのフィーチャリング、さらにはチャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)の第1級のシングル「This Is America」にまで彼のアドリブが挿入されている。そして、彼の「Shoot」のダンスに合わせて、リル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)からゲーム『Fortnite』のアバターまでが踊った。そこから間髪入れずに、ブロックボーイは人気が急上昇して以来初めての、自身のミックステープ『Simi』をリリースしたところだ。瞬時に彼とわかるメンフィス訛りの歌声で、ブロックボーイはメインストリームに乗り込んだ。
疲れているのかと聞くと、彼はきっぱりと否定する。そしてマリファナとりんごジュースを手にすると、少し元気を取り戻し始める。「あの痩せた犬、見てよ」と彼は目をやる。紐でつながれた華奢なイタリアン・グレイハウンドが走り出そうと格闘しているのに気づいたのだ。一瞬だけ大笑いすると金歯を見せてにっこりと微笑み、会話に戻る。僕たちは、彼のお気に入りの映画のひとつ『8 Mile』について話していたところだった。
「あいつはゲットーの黒人だったんだ」とブロックボーイは言うと、どれほど彼が映画の中のエミネム(Eminem)のキャラクターに親しみを感じるか説明する。「要はさ、肌の色を見なけりゃ、『ああ、白人だ』なんて風には見えないんだ。だから本当は、あいつはラップやってるただのゲットーの黒人なんだ。俺みたいにさ、基本的には」
彼がいちばん好きなのは、とりわけ、エミネムのキャラクターとイグジビット(Xzibit)のキャラクターが皆が働いている製造プラントのフードトラックの外でラップをしているシーンだ。昼食を食べようと列に並ぶ人たち数人に対してイグジビットがライムで威嚇したところに、エミネムがやって来て、手にオレンジジュースを持ったまま彼にひと泡ふかせるのだ。ブロックボーイと僕は、そのバトルの中でもいちばん思い出深い一節のひとつを思い出していた。_「You’ve worked at this plant so long, you’re a plant! (工場でこれほど長く働いている、今ではお前は工場の回し者!)」_これは、誰もが自分たちのためにラップをし、時間を潰すためにお互いちゃかし合っている、紛れもない瞬間だった。「こうやって、俺もラップするようになったんだ」とブロックボーイは言う。「ただ韻を踏みながら、皆をちゃかしたり、からかったりしてた」

着用アイテム:コート(Prada)、T シャツ(Raf Simons)
彼の練習場所は、メンフィスの学校の中の、寄せ集めた机の上だった。「教室の机を叩いて、仲間に聞かせてた。そうやって始まったんだ。教室で。先生がいなくなると、ただ机を叩いてた。すると誰もがラップを始めるんだ。みんなをネタにしてさ。クソ、あいつら俺をネタにしたな、じゃ、俺もやってやるって。それで、俺はその頃からずっとラップやってんだ」。ブロックボーイは、学校で生徒たちがラップバトルで反撃する様子を再現するかのように、SUVの横を叩き始める。服装をネタにしたラップを乗せるため握り拳で机を叩くバスドラムの、普遍的なリズムだ。
インタビューを行った時点でのブロックボーイの最新のヒット曲は、彼自身がプロデュースした楽曲だった。このことは、「Prod By Bloc」というタイトルから、間違えようもない。このビート自体が、同じように教室での間に合わせの机を使ってパーカッションにしていた頃の名残りということもあり、僕たちはこの曲について話し始めた。楽器の演奏もなし、メロディーもなし、ただシンプルなドラムだけ。一緒に公開された動画の中で、ブロックボーイは、友人たちと台所用品を使い、実際のトラックのリズムに合わせて鍋やフライパンを叩いてビートを刻んでいる。

着用アイテム:T シャツ(Raf Simons)
ブロックボーイによると、そのビートは3分間程度で作ったのだが、まったく不完全には感じないと言う。「楽器の音が全部、今はあんまり好きじゃないんだ」と彼は言う。「行ったり来たりする感じのビートの方が好きだ。乗れるから。乗れる楽器の音は確かにあるけど、楽器がなかったら、もっと乗れるんだよ」。このようなミニマルな制作スタイルによって、メロディーとぶつかって邪魔されることなく、歌詞そのものがさらに輝く余地が生まれる。ブロックボーイのスタイルの特徴も、概してそんな感じだ。彼のフロウは骨子となる限られたリズムに沿ってジグザグに流れていく。
リリックの内容という点では、 彼は弱さよりも、遊び心に満ちた高慢さを売りにしている。「Coupe got the missing roof/Your boo, came up missing, too/Poof! (クーペのルーフを開けろ / 恋人もいなくなった / パッと消えちまった)」 こうした遊び心のある歌詞こそが、教室で机を叩いていた学生時代から、ほとんどの場合、彼のフリースタイルのラップの中心的要素だった。彼の歌を聴くと当時の様子が思い浮かぶ。そして彼がどれほど楽しんでいるか、とてもよく伝わってくる。

BlocBoy JB 着用アイテム:シャツ(Gucci)、トラウザーズ(Maison Margiela)
皮肉にも、最終的にブロックボーイをラッパーのキャリアへと導いたのは、その教室を抜け出すことだった。「マリファナ吸って、家に帰って、スタジオに行くために、学校は早めに抜けてたんだ」。彼が覚えている実際にレコーディングした最初の曲が「Goons Coming」で、幼馴染のテイ・キース(Tay Keith)と一緒に制作した。彼とはその後も、「Look Alive」、「 Rover」、「Shoot」など、彼の曲の中で最も知られるシングルの数々を作っている。
だがその当時は、マリファナを吸ってレコーディングするために学校をさぼるより、もっと危険な時間の過ごし方をしていたのだと、彼は説明する。「13〜14歳の頃、俺はストリートギャングのクリップスのメンバーだったんだ」。どのようにしてクリップスに若くして関わることになったのかを尋ねると、彼はただひと言、「シミ(Simi)だ」と答える。会話はそこで中断する。そして、そのあとの短い沈黙が、今も消えないその答えの意味を明確に表している
シミというのは、ブロックの最も古いファンのひとりでもある友人の名前だ。「初めて作った曲を公開したとき、あいつに聴かせたんだ」と彼は思い出す。「あいつは『マジか、誰だよこれ?』みたいな反応でさ。車に飛び乗って、その曲を大音量でかけ始めて、そのまま車を乗り回してた」
彼自身クリップスのメンバーだったにもかかわらず、シミはブロックに、ラップに集中してストリートの生活に転落しないようにしろと言って、励ました。彼は、ブロックに音楽を使って抜け出してもらいたかったのだ。「俺は何かヤバそうことがあれば、いつでも首を突っ込んでたから」とブロックは思い出す。「とにかくヤバイことに飛び込む気満々だった。クリップスとブラッズの抗争とかね。でもシミは、『いや、それじゃダメだ。お前はただラップやってろ」って。2016年、シミが亡くなったとき、ブロックは彼のこうしたアドバイスを胸に、ミュージシャンとしての道を追求することに決めた。彼の最新のミックステープは、その名前と精神の両方で、今は亡き相棒に捧げるものになっている。「俺たちが今まさにやっていることは、すべてあいつのためなんだ」
ブロックボーイにとって最も大切なものは何かと尋ねると、彼は、迷うことなくきっぱりと答える。「家族だ」。ではもし、ブロックボーイが恐れていることがあるとすれば何かと尋ねると、またしても迷うことなく「家族を失うこと」と答える。シミの死はまだ彼の記憶に新しく、その恐怖が生々しく当然のものとして残っている。
「俺は金がないことは気にならないんだ」と彼は続ける。「何かあれば、以前の生活に戻る気持ちの準備はできてる。俺、サイコロの賭けがうまかったんだ。服だってまだ昔と同じのを着てるしな…Gucciのは別だけど。いつかこんなのはやめて、ジョーダンを履くよ」
とはいえ、彼の知名度が上がるにつれ、ブロックボーイはこの先何年も彼の身近な人々を養 っていけそうだ。彼がほぼすべての歌の、おそらく彼の特徴が最もよく表れるアドリブで「母さんのせいだ〜!」と母親について言及しているのは偶然ではない。ちなみに、彼は最近お母さんに家を買ってあげたところだ。
Alex Russellはハリウッドを目指すフリーランス ライターである
- 文: Alex Russell
- 写真: Hannah Sider
- スタイリング: Taylor Okata
- ヘア: Quincy Gholar
- 写真アシスタント: Kendal Steensen
- スタイリング アシスタント: Aggie Tang
- 撮影場所: Mission Chinese