バディが見せる西海岸の新しい顔
デビュー アルバムをリリースし、パイを焼き、成長を続けるラッパー&シンガー
- 写真: Emman Montalvan
- 文: Stephanie Smith-Strickland

私たちが待ち合わせたロサンゼルスのスタジオにバディ(Buddy)がやって来たのは、月曜日のお昼頃。巻いて置いてある撮影用の背景やカメラ装置の入った箱の横を通り過ぎて、まず冷蔵庫の中身をチェックする。ジュースのほかに、ミネラウォーター「フィジー」のボトルが棚1段を占領している。ボトルの上には、「バディの水」と書いたポストイットが貼り付けてある。やがて、25歳のラッパーは着替えのために姿を消す。最初の撮影衣装の足もとは、ホイールが派手にライトアップするホワイトのローラースケートだ。人当たりの良さを消すことなく2018年を沸かせている地元コンプトン出身の若者が、同じく地元ブランドのLA Gearを履いている様子は、どういうわけか妙に説得力がある。バディは、現在、初のスタジオ アルバム『Harlan & Alondra』のプロモーションに取り組んでいる最中だ。タイトルには、子供時代を過ごした家の場所を示す、東西と南北の通りの名前を選んだ。「みんな、コンプトン出身のラッパーを1種類のサウンドで括りたがるんだよな」。100%ナチュラルというタバコの葉でマリファナを巻こうと苦労しながら、バディは言う。「赤か青のバンダナ、タトゥー、女とやる話 ── そればっかりだと思ってる。殺しとか、押し入り強盗とか、その他もろもろだ。俺はそんなことはやってないから、話題にすることもない。コンプトンにも色々あるんだってことに光を当てるのが、俺にとっては大切だったんだ」

Buddy 着用アイテム:ジャケット(Gucci)、シャツ(Prada)、ショーツ(Prada)、ソックス(Gucci)
アルバムはコンプトンで萌芽したとはいえ、サウンドでロサンゼルスの多様性を模索する試みというのは、2017年に発表した2枚のEPと通じるものがある。1枚は、カナダ出身のエネルギッシュなDJにしてレコード プロデューサーのケイトラナダ(Kaytranada)とコラボレーションした『Ocean & Montana』、もう1枚は『Magnolia』だ。今回のデビュー アルバムと同じく、どちらのEPにもバディがよく足を運ぶ通りの名前をタイトルに選んで、具体的な時と場所に繋ぎとめている。そんなテクニックのおかげで、バディは愛すべきツアー ガイドの役割を果たす。ホームタウンを愛する忠誠心はテレビへも進出し、ケーブルテレビ局HBOの『Insecure』シーズン3に『Harlan & Alondra』からシングル カットした「Trouble on Central」が使われた。ちなみに、『Insecure』もまた、観光都市ロサンゼルスの裏の顔、現実の生活を描写して評判が高い。「アルバムから、予想もしないことがたくさん起こってるんだ」と、バディは言う。
バディの音楽は、予測できない街へ捧げるラブ レターであり、またそれ以上に、おとなへと成長していく過程を何ひとつ隠し立てすることなく表現した物語だ。ロマンチックな関係の移ろいから、家庭内の力関係の変化、人としての成長まで、20代はじめの青年であることの恍惚と落とし穴をためらいがちな青写真に記録していく。「『Ocean & Montana』を作ったのはサンタモニカへ移ったばかりのころで、ビーチのそばに住んでたんだ。しょっちゅうベニス ビーチへ行っては、自転車を乗り回したり、スケートボードをしたりしてた。ベーキングや料理を始めたし、ディナー パーティへ行くようになったのもその頃」。サンタモニカへの引っ越しは、子供時代の終焉を告げる象徴的な変化でもあった。親許を離れて、初めての一人暮らしだった。「しょっちゅうトイレットペーパーを切らしちゃってさ」と、バディは打ち明ける。「おかげで、シャツが2~3枚犠牲になった」と、お笑い芸人デイブ・チャペル(Dave Chappelle)のとっておきの漫談を思わせる無表情で続ける。だが良かったことは、パイ作りが大好きになったこと。お得意は、チェリーパイだという。

着用アイテム:コート(Loewe)

着用アイテム:シャツ(Gucci)

5曲を収録したEP盤には、ある種軽やかな音質、海辺で暮らす人たちに共通した、力みのないライフスタイルと並行するサウンドがある。「完璧な人間ぶって、人にああしろこうしろとか、どう生きるべきだとかゴタクを並べる、そういうふうには絶対したくないんだ。俺がやろうとしているのは、俺自身の体験を語って、俺がどんな人間かを感じてもらって、違う人生の見方もあるんだってわかってもらうこと。みんな、体験してるのは、大概同じことなんだから」。おそらく、バディが自分自身の葛藤や不安を誠実に語るからこそ、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)は関心を引かれ、自分のレコード レーベル「i am OTHER」で若干15歳だったバディと契約を結んだのだろう。だが、2014年のミックステープ『Idle Time』は、思ったほど簡単にバディをスーパースターの座に押し上げることはなかった。現実を理解すると、そこから大きな教訓が得られた。「『Idle Time』は独力でリリースして、キャンペーンもしなかった。その後、RCAレコードがバックについて、デビュー アルバムをリリースした。両方の体験から、どうすれば予算とスタジオでの時間を最大限に活かせるか、よくわかったよ」。インディー系のミュージシャンとしてやっていこうとした過去を振り返って、バディは言う。「BJ・ザ・シカゴ・キッド(BJ the Chicago Kid)がアルバムを作っているところを見ることができたんだ。それで、ニップシー・ハッスル(Nipsey Hussle)と俺は、全員のやり方がそれぞれ違うことに気がついた。プロデューサーのマイク&キーズ(Mike and Keys)と『Magnolia』に取りかかった頃には、音楽を作るかどうかに関係なく、とにかくスタジオに入った。ただ喋ったり、映画を見たりするだけの日もあったけど、スタジオにいることでやる気が続く。試してみてうまくいくものもあるし、いかないものもある。だけど、そういうプロセス、それとスタジオにいるってことが大切なんだ」

着用アイテム:シャツ(Gucci)
バディの粘りは、『Harlan & Alondra』で報われつつある。アルバム ジャケットにした光沢のある家族写真にはじまり、まだまだ成長の過程にあるアーティストの肖像が浮かび上がってくる歌詞まで、自らの価値観を守り続けるバディからは、素晴らしいこと以外に起こりようがない。「俺が生まれた場所や俺という人間を、俺はすごく誇りに思ってる。謙遜する必要は感じないし、誰だって謙遜なんかする必要はないと思う。俺がずっと伝えようとしてるのは、結局のところ、そのことだ」。牧師の息子として成長したバディの音楽は、教会で過ごした体験が詰まったタイム カプセルだ。黒人の教会は、宗教的な建物、信者が集う物理的空間である以上に、未来のエンターテイナーが技を磨き、「ソウル」という、しかとは説明できない要素を自分の音楽に染み込ませる鍛錬の場所として機能してきた。バディも例外ではない。バディは、牧師と密接に結びついた告解のスタイルと、何かもっと捉えどころのない直観的なものを、完璧にブレンドしてきた。そして、どの歌でも、巧みな言い回しや空想的なメロディーのどこかに、聴き手の解読に任せる経典のようなメッセージを潜ませるのだ。
- 制作: Becky Bunz
- 制作アシスタント: Jessica Druey
- 写真: Emman Montalvan
- 写真アシスタント: Patrick Molina、Fred Mitchel
- 動画: Eddie Orbrand
- スタイリング: Rita Zebdi
- スタイリング アシスタント: Mackenzie Grandquist
- 文: Stephanie Smith-Strickland