Rouléの5曲

90年代に一世を風靡したフランスのハウス レーベルを再考する

  • 文: Adam Wray

Daft Punkの片割れとして知られるトーマ・バンガルテル(Thomas Bangalter)は、現在のようにロボットの中へ閉じこもってしまう前、フロアを沸かせるキラー チューンのセットやオリジナル トラックを駆使して、世界の目をフレンチ ハウスへ集めたDJだった。さらに、Rouléレーベルのオーナーとして、独創的なフォームの楽曲を揃えた一流コレクションを司るキュレーターでもあった。Rouléは、ギ=マニュエル・ド・オメン=クリスト(Guy-Manuel de Homem-Christo)と活動するDaft Punkに欠けた部分を補い、バンガルテル自身が商業性の低い音楽を発表する場、友人や仲間の作品をリリースする受け皿、評価の高い同業者と繋がる手段になった。Rouléは、また、史上最大のダンス チューンのひとつも生み出した。バンガルテル、同業プロデューサー兼Rouléの同僚アラン・ブレイクス(Alan Braxe)、ボーカリストのベンジャミン・ダイアモンド(Benjamin Diamond)がコラボレーションした「Music Sounds Better With You」である。90年代後半、この曲を耳にしないことは不可能だった。Rouléがリリースしなくなって、今や10年以上になる。今後も再開されそうにない。しかし、Rouléのカタログは、今なお、ハウス・ミュージックの最強ラインナップに数えられる。以下に、永遠の5曲を選んだ。

Together - So Much Love To Give youtube

Together「So Much Love To Give」

Rouléの最後から2番目のリリース「So Much Love To Give」は、ちょっとした我慢比べである。いきなりThe Real Thingの「Love’s Such a Wonderful Thing」から切り取ったボーカルで幕を開けると、ブンブン唸るシンセとドシドシ鳴るバスドラだけのトラック上で、それが延々10分間繰り返される。最大のインパクトを狙ったミニマルな構成だ。サンプリングされたボーカルは、耳に馴染みやすいかと思えば耳障りになり、その間を往復するうち、歌詞の意味は分解してやがて純粋な音になる。ギャラリーよりクラブのために作られた曲であるものの、凶暴なリピート使いは実験音楽の作曲家スティーブ・ライヒ(Steve Reich)やビデオ アーティストのダラ・バーンバウム(Dara Birnbaum)を思わせる。どちらも、耳障りな音をリピートさせて、心地良いドローンの世界を構築したアーティストだ。

Thomas Bangalter - Club Soda (A1) youtube

Thomas Bangalter「Club Soda」

90年代から2000年代初期にかけて、トーマスやギ=マニュエル、その仲間たちが流通させたハウス ミュージックは、ハイ パス フィルターとロー パス フィルターに依存したスタイルから「フィルター ハウス」と呼ばれることがあった。これらのフィルターには、特定の周波数をカットするエフェクトがある。例えば「Club Soda」の1分20秒あたり、水中に落とされた音のように聞こえるのはロー パス フィルターの仕業だ。DJはセットの間でフィルターの効果を操り、既存の曲に動的なレイヤーを付け加えて、オーディエンスの反応を煽る。例えば、曲の低音をカットすれば、カットされた低音が戻ることをオーディエンスは直ちに期待する。バンガルテルは「Club Soda」でこの躍動感とライブ感覚を取り入れた。

DJ Falcon - Honeymoon youtube

DJ Falcon「Honeymoon」

アーティストのソル・ルウィット(Sol LeWitt)は、「コンセプチュアル アートに関するセンテンス」の中で「良いアイデアを台無しにするのは難しい」と明言している。これは良いサンプルにも当てはまる。ピッタリとハマるループを見つければ、まず失敗することはない。DJ Falconことステファン・ケーム(Stéphane Quême)が、「Honeymoon」で、ナタリー・コール(Natalie Cole)の「Stand By」から上昇するホーン、Serious Intentionの「Serious」から暖かみのあるボーカルを盗用したのは正しい選択だった。

Thomas Bangalter - Ventura youtube

Thomas Bangalter「Ventura」

ギ=マニュエルは、ファンクやディスコへ捧げるDaft Punkの不変の愛を、Le Knight Clubのメンバーとして、自身のレーベルCrydamoureで示した。一方、バンガルテルがRouléで発表した初期作品は、デュオが受けたもうひとつの大きな影響に接近している。シカゴのDance Maniaのようなレーベルが90年代前半から半ばにかけてリリースした、とげとげしい猛烈な音楽がそれである。Daft Punkのフル アルバムより前にEPとしてリリースされた「Ventura」は、変化し続けるドラム ブレイク、フィルターのスイープ、けたたましいボーカル サンプルの上で、バンガルテルが8分以上もRoland 909ドラムマシーンを徹底的に使い倒す、容赦ない力作である。

THOMAS BANGALTER & ROY DAVIS JR. - Rock shock youtube

Roy Davis, Jr.「Rock Shock (Thomas Bangalter’s Start-Stop Mix)」

トーマとギ=マニュエルのふたりは、自分たちが受けた影響に敬意を捧げることを厭わない、熱心なコラボレーターである。フル デビューアルバム「Homework」に入っているトラック「Teachers」では、曲自体をパリス・ミッチェル(Parris Mitchell)とワックス・マスター(Wax Master)の「Ghetto Shout Out!!」に捧げ、曲の中で音楽界の彼らのアイドルの名前を列挙している。Daft Punkのレコードへ貢献した人物の名簿一覧は、ディープで、多様で、スターが勢揃いだ。バンガルテルは、Rouléの活動を通して、彼のヒーローたちと仕事をする新たな道も切り拓いた。ロマンソニー(Romanthony)やロイ・デイヴィス・ジュニア(Roy Davis Jr.)といったアメリカン ダンスミュージック界の大家の曲をリリースした。デイヴィス・ジュニアはRouléから独立した12インチをリリースした。バンガルテルがリミックスしたB面は、まさに至宝である。トーマは、一連のたどたどしいブレイクで曲の途中でターンテーブルがパワーを失ったような効果を演出しながら、オリジナルのトラックをもてあそぶ。こうしたおふざけやメカニカルなちょっかいのメタ的肯定は、Rouléのカタログに繰り返し登場するテーマである。

  • 文: Adam Wray