マジッド・ ジョーダン ツアー同行記

トロント出身のデュオがSSENSEスタイルで見せるサマー フェスティバルの裏側

  • インタビュー: Romany Williams
  • スタイリング: Romany Williams
  • 写真: Norman Wong

Coachella

マジッド・ジョーダンの音楽は、ニュー ロマンティックに分類される。Airbnbで予約したパーム スプリングズの物件のプールサイドに腰を下ろしたふたりは、北米最大級の音楽フェスティバルで大観客を前に演奏する前にしては、不思議なくらい穏やかだ。「僕たちは、いつも仲間と一緒に移動してるんだ」とマジッドはいう。「みんな仕事仲間だし、どんな場所にいても助けてくれるサポート システムだ」。互いへの信頼と尊重があるからこそ、クルーとの調和や熱狂的なファンとの連帯が生まれる。前回このデュオと会ったのは、2016年。グループと同名のデビュー アルバム「Majid Jordan」をリリースしたばかりだった。今回は、メキシコからモントリオールまで続くサマー フェスティバル ツアーの真っ最中。ライブは、いつも直感的だ。互いからヒントを得ながら、演奏する音楽を絶えず探り、再解釈していく。そんな彼らをSSENSEがスタイリングし、ツアーに同行する。マジッド・ジョーダンの世界へ扉を開く最初の場所は、コチェラだ。

最高の気分。ついこの間までメキシコにいて、みんな見たことがないようなライブの構成や新しいアプローチを考えついたんだ。共有するのが、すごく楽しみだよ。
ジョーダン・ウルマン(Jordan Ullman)
どこに行っても、いろんなことをよく見るんだ。どんどんインスピレーションを感じて、新しいことを開拓したいから。
マジッド・アル・マスカティ(Majid Al Maskati)
今は、自分たちの限界を推し進めてるって感じだな。もっと色々と見てもらえるようにね。前よりもっといい。前進してるんだ。
ジョーダン
環境って、絶対、思考プロセスにインスピレーションや影響を与えるよね。メキシコシティからカリフォルニアにやってきて思ったんだけど、人も、カルチャーも、ライフスタイルも、全然違う。
マジッド
自分たちが作った曲を演奏する度に、もっともっと好きになっていく。ライブへのアプローチがそうさせるんだ。ステージでは、ほとんど即興。マジッドと僕が互いの気持ちを読んで、感じて、新しいものに変わっていくと、別な感情が湧いてくるんだ。
ジョーダン
いつも仲間と一緒に移動してるよ。仕事仲間だし、どんな場所にいても助けてくれるサポートシステムだ。それぞれ自分の役割がわかっているし、いろんな責任も共有している。なるべくフェアでいたいから、お互い助け合って、じっくり意見を聞くようにしてるよ。これは、最初からジョーダンと決めてたことなんだ。お互いを高めるためにね。そういう体験を共有することで、それがもっと大切になる。例えば、今はコチェラにいるけど、こうやって仲間とプールサイドでまったりしてるだろ。僕らがいる場所はここ以外のどこでもない。トロントだろうが、パームスプリングズだろうが、僕たちを取り巻く世界は変わらないんだ。
マジッド

Governors Ball

火曜日の夜遅く、フィッティングのために、マジッド・ジョーダンを訪れる。トロントの市街地を離れ、工業用の倉庫が立ち並ぶ中、得体の知れない迷路のような狭い通路をたどってようやくリハーサル会場に辿り着いた。マジッド・ジョーダンは一連のサマー フェスティバルの真っ最中。ニューヨークのガバナーズ ボールでの公演を間近に控えて、ふたりの集中はいやが上にも高まる。

最新の作品「Phases」で、マジッドは歌う。「All of these people and all of their names/ all of this love and all this disdain/ all of these seasons and all of this change/ dreaming of my paradise.(ここにいる全員と全員の名前 / このすべての愛とこのすべての軽蔑 / すべての季節とすべての移り変わり / 僕のパラダイスを夢見てる)」。フェスティバル中の生活は多忙を極める。だが、マジッドとジョーダンは、捉えどころのないパラダイスというイメージを抱いている。ふたりはまさに、リアリズムとロマンティシズムの二分を体現しているわけだ。その音楽で表現する現実と空想の対照的なニュアンスは、スタイルにも反映されている。SSENSEが用意したのは、 Rick Owensのレモン イエローのジャケット、Sacaiのブラック サテンのMA-1トラウザーズ、Raf Simonsのオズウィーゴ、Martine Roseの鮮やかなブルーのアノラック。こんなブランド ミックスから生まれるスタイルは、マジッド・ジョーダンの世界と同じように多元的だ。バズ・ラーマン(Baz Lurhmanns)がスクリーンに描いたロミオや「理由なき反抗」のジェームズ・ディーン(James Dean)を思い出して欲しい。着ているものがアロハシャツであろうと赤いハリントン ジャケットであろうと、どちらもタフな主人公だ。だが同時に、傷つきやすさも知っている。

服装の選択に関係なく、マジッド・ジョーダンは進化を続ける。私たちは表現活動をする者と美学との複雑な関係を語り合った。ふたりの言葉に、耳を傾けてみよう。

スタイルを楽しめるのはディーテールの部分だね。服は重要だけど、着る人とコミュニケートする服でなきゃダメだ。
マジッド・アル・マスカティ(Majid Al Maskati)
僕とマジッドが全く同じ服をもらっても、違った着方をするだろう。
ジョーダン・ウルマン(Jordan Ullman)
今回の活動でジョーダンと僕が学んだのは、合理的な思考には限りがあるってこと。定義できることにも限りがある。科学的な方法に頼り始めると、フィーリング、アドリブ、物事の自然な流れを失い始めるんだ。
マジッド
観客はそこに敏感に反応すると思う。そういう要素をなくし始めたら、もうアーティストとして見なされなくなる。全部をもう一度見直すしかなくなるんだ。
ジョーダン
成長するにつれて、僕たちはスタイル、デザイン、アートの世界をもっともっと理解するようになる。学んで、研究して、リソースを積んだスタイリストを通じてね。僕たち自身が見つけようとしてるものを教えてくれる。感謝してるよ。
マジッド

Manifesto

ホームグラウンドでの公演には、他の場所とは異なるエネルギーを生み出す何かがある。「近さ」を何より大切にするマジッド・ジョーダンにとって、出身地トロントよりも、絆を強めるにふさわしい場所があるだろうか? マジッドとジョーダンは、絶えず、同郷の仲間に囲まれている。だがフェスティバルの警備態勢のせいで、全員をバックステージに入れるのはほぼ不可能に近い。そこで、ツアーも中盤を迎えた今回は、故郷トロントで参加するマニフェスト フェスティバルの舞台裏をご案内しよう。ゲスト出演もOVO サウンドのロイ・ウッズ(Roy Woods)、DVSN、40など、豪華な顔ぶれ。VIPパスは不要だ。

リハーサルでもライブのショーでも、マジッドと僕は瞬間を共有するんだ。互いに目を交わすと、もっと沢山の音楽が生まれることを実感する。
ジョーダン・ウルマン(Jordan Ullman)
ショーを制限することはできない。ショーはいつだって、自然に展開していく。
マジッド・アル・マスカティ(Majid Al Maskati)
予め結果を決めてから始めることはしない。オフの時間には、その時間に潜在している可能性を最大限に引き出すことだけを考える。音楽を選んだのは、僕たちは音楽が大好きだから。音楽のおかげで、人と出会って経験を共有できる。
マジッド
アートは制約を必要としない。日に日に、その感覚が強まっていく。自分の考えを分かち合って、自分の感じていることをストレートに聴衆に伝えることがすごく大切なんだ。
ジョーダン
結局のところ、僕たちが最初の1曲を世界に向けて放つとき、対象は特定の誰かじゃないんだ。この姿勢がすごく大切だと思う。その曲を耳にした人が僕たちに気付く、発見の瞬間があるんだ。僕たちは作品を差し出して、そうしたいと思った人が僕たちを探し出す。
マジッド
今の社会は人と人が遠過ぎるんだ。僕たちが音楽やアートで目指すのは、決して、人との距離を保つことじゃない。
ジョーダン

FYF Festival

パリで、「Gave Your Love Away」と共に、キム・ジョーンズ(Kim Jones)によるLouis Vuitton 2018年春夏メンズウェアのショーが幕を開けたとき、マジッド・ジョーダンはロサンゼルスで眠っていた。実のところ、その時点で、件の曲はまだ無題だった。タイトルが誕生した経緯は、マジッド・ジョーダンを熱烈に愛するファンたちの変わらぬ献身を証明している。さて、時を進めて、今回はFYFフェスティバルでの公演だ。今後の予定は、これから2週間で、3都市で、もう3回の追加フェスティバル。その合間に、ロスの典型的なアクティビティを体験する時間があった。そう、ハイキングだ。昼は丘稜を歩き、夜はパフォーマンスのマジッド・ジョーダンを、写真家ノーマン・ウォンが捉えた。さて、マジッド・ジョーダンが語った「Gave Your Love Away」というタイトルの誕生の経緯とは?

候補に上がってたのは別の曲だったけど、最終的にあの曲が選ばれたんだ。僕たちは「One I Want」が使われるだろうと思ってたのに、「Gave Your Love Away」が選ばれた。でも、「Gave Your Love Away」は、パリのショーが終わった後にファンが付けたタイトルなんだ。
マジッド・アル・マスカティ(Majid Al Maskati)
僕たちがショーのビデオを見たときには、もうファンがタイトルを決めてた。みんな僕たちの歌だって分かって、自然にそういう流れになったらしい。タイトルがあった方がみんなが探しやすい、という事で...。
マジッド
“そういう流れがまとまって形になる、そんなレベルの出来事に関わっているのは、現実離れした感じだったよ。
ジョーダン・ウルマン(Jordan Ullman)
ジョーダンは一晩中スタジオで、新しい録音のミキシングと仕上げをしてたんだ。僕は別のスタジオにいて、ふたりとも行ったり来たりしてた。よくあるクレージーな夜だよ。その後、家に帰ってバタンキュー。目が覚めたら、電話が鳴りっぱなしだった。
マジッド
今は、ファンが業界のあらゆることを決める。情報を探す場所とか、好きな音楽を探す場所とか。そうやって自分の音楽の幅を広げてる人が増えてるんだから、すごいことだよ。レコード会社もそういう存在を認識して、ミックスに取り入れてる。
ジョーダン
自然にうまくいって、本当に最高だった。ちょっとしたインスツルメンタルとかラジオで耳に挟んだ何かを探してて、ラジオからのリッピングしか見つからないんだけど、でもまだ頭に残ってるときみたいな感じ。その曲の体験全体が特別なものになるんだ。あの歌を聞いて、ファンは自分たちの絵を描いた。みんなが選んでくれたタイトルが、僕らはとっても気に入ってるよ。
ジョーダン

Osheaga & OVO

秋にリリースが予定されているマジッド・ジョーダンのニュー アルバム「The Space Between」は、小さな事柄がテーマだ。サマー フェスティバルを追ったこのツアー同行記は、ステージの華々しい瞬間を紹介してきたが、同時にマジッドとジョーダンの内面にも注目してきた。ツアーにまつわるあらゆる些細な局面で、人は真に成長する。マジッド・ジョーダンがグループとして初めて公式に登場したのは、ドレイク主催のOVOフェスティバル。その後5か月にわたり、6都市で7回の公演に参加した後、すべてが始まった場所で締めくくりを迎えるのは思いがけない幸運だ。オシェアガ ミュージック フェスティバルが開催されたモントリオールからOVOフェスティバルの会場となるトロントへ移動し、ツアーが終わった後は、短いながらもエネルギーを蓄えて思いを巡らせる機会が訪れる。 そして、スポットライトを浴びない場所で本当の仕事が始まる。

作りためた新曲には、とても満足してる。発表する準備もできてる。今まで使ったことがないスタジオでどんどん新しい装置を試してみると、僕たち自身もどんどんオープンになって、音楽が変わっていく。ライブ ショーのイントロは、まるまる、70年代のシンセサイザーを使って作ったんだ。何か好きなものを見つけたら、それが声になって、ライブの世界全体へ広がっていく。最終的に、それがアイデアを表現する器になるけど、それは全体の一部にすぎない。

ジョーダン・ウルマン(Jordan Ullman)
OVOは、スタッフがみんな個性的で、バックステージが楽しいんだ。一緒に成長して、それぞれのキャリアの経緯を知ってる連中ばかりだから、和気あいあい。いつもジョークが飛び交ってる。ステージを終わって引き上げても、みんな気持ちよく仕事をしてるんだ。みんながいてくれるショーが、僕はすごく好きだよ。

マジッド・アル・マスカティ(Majid Al Maskati)
ステージに上がったりステージから下りたり、音響を調節したり...クレージーなショーをうまく回転させるのは、実際のところ、バックステージなんだ。みんなが同じ街の出身で、その街が本拠地なのは、すごくいい感じだよ。

ジョーダン
すごくフリーなんだ。ステージに飛び入りしたかったら、飛び入りできる。アドリブできる。僕たちが初めてステージに上がったのはOVOフェスティバルだけど、そのとき通路でドレイクに出くわしたんだ。「『Hold On』をやるんだぞ、いいな」って言われて、「OK。レッツ ゴー」って感じで...。大きな観客の前に立ったのは、あれが初めてだった。

マジッド
ショーの合間に、いろいろなことを考えた。何もしない時間、次にやりたいことを考える時間があった。僕たちは、普通の生活、ショーやイベントの合間の時間、日常生活の些細なこと、そういうことにもすべて向き合ってるんだ。


マジッド
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