Simone Rochaの反撃

New Icons:
ゴシック的執着を
透明樹脂の彫刻に閉じ込める

  • 文: Quynh Tran
  • 写真: Kenta Cobayashi

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)がロンドンのサウスワーク大聖堂で2017年春夏コレクションを発表したとき、彼女は単にアイルランドの素朴で逞しい娘たちを日曜日の教会に連れて来ただけではなかった。洗礼と埋葬の狭間のどこかを表現したビジュアルによって、ロシャはエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)風の病的なロマンを物語るアラベスクを、コレクションに織り込んだ。可愛いレースのドレスと敬虔な純潔に混じって、倒錯したディテールが微妙なエロチシズムを閃かせた。歯を模った透明アクリル樹脂「パースペクス」のヒールは不気味なゴシックの魅力を放散し、バレエ シューズを連想させる無垢なフォルムは恐ろしい歯の彫刻へと変化した。これこそ、ロシャの持ち味である少女趣味と最先端素材に対する強い嗜好の、独創的な混合である。

エグスが心を奪われたのは、婚約者の眩いばかりの美しさではなく、彼女の白く輝く歯だった。ポーのゴシック小説「ベレニス」の主人公にとって、歯は病的な執着の対象になった。自分のものにさえなれば、憂鬱な心に平安をもたらすはずの存在。汚れのない歯は儚さを象徴し、そんな歯への熱烈な渇望が、物語を暴力的な結末へと導く。恐怖に満ちた最終章で、偏執的なトランス状態から目を覚ましたエグスは、彼のもっとも欲望したものが、実際には解放ではなく破滅をもたらしたことを悟る。物へのフェティシズム、精神を苦しめる強烈な所有欲を描くポーの寓話は、過去に執筆されたにも関わらず、きわめて現代的だ。そこには、絶え間ない飢餓感と恐怖が駆り立てる悲劇が語られている。

ロシャは、厚い信仰を示す衣服と免れることのできない死、悲嘆、追憶にまつわる心理的なシンボルからインスピレーションを取り入れながら、非常に明快な方法で、現代の社会政治的感情を把握する。歯形のヒールを付けたパンプスは、主張やパロディとは言わないまでも、現代の心情を鮮やかに突きつける。あたかも福音であるかのように所有を崇拝し、失うことへの恐怖に突き動かされている、我々の時代精神である。きわめて資本主義的な偏執の対象物「靴」に閉じ込められた神話的な偏執の対象物「歯」を語る、非常に幻想的なビジュアル ストーリーだ。たとえば、抜けた乳歯を枕元に置いておくと、こっそり夜中にその歯を取りに来て、代わりにコインを置いていくという歯の妖精を考えてみよう。私たちの何かをわずかな小銭と交換する歯の妖精は、資本主義の輝ける旗頭ではないだろうか? シモーネ・ロシャは、今、その何かを取り返す。

  • 文: Quynh Tran
  • 写真: Kenta Cobayashi