深夜1時に始まるタコの時間
ネット上の喧嘩と思いやりの大切さを、Odd FutureのDJが語る
- インタビュー: Kevin Pires
- 映像: Renell Medrano

タコ(Taco)はいいヤツだ。ジ・インターネット(The Internet)のシド(Syd)は姉だが、その姉のパフォーマンスを見て涙する。タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)に教えられた、見せびらかさない方針を忠実に守る。友達の輪作りを好む。DJとしての知名度がもっとも高いタコだが、一緒にいたいと思わせるのは、人と人の繋がりに関して彼がきわめて21世紀的な強い関心を持っているからだ。

Taco着用アイテム:ジャケット(Heron Preston)
自分たちの生活からかけ離れているがゆえに人の心を捉える典型的な有名人と違って、タコやタコが参加しているヒップホップ集団Odd Futureの人気は、親近感の賜物だ。彼らは、僕たち自身を思い出させる。彼らの音楽を大音量で流せば、束の間、自分の中にある抑圧を解き放てる。彼らを愛するのは、彼らが「そんなこと知るか」と思ってる自分だから。ミレニアル世代に特有の、喧騒に満ちた表向きの生活と同程度に静かな私的な生活のあいだの揺らぎを、Odd Futureは表現する。何百万人ものフォロアーがいながら生身の友人がひとりもいない人のミームのように、僕たちはふたつの世界を行き来する。タコは、ふたつの世界をひとつに繋ぐ。
ケビン・ピレス(Kevin Pires)がマイアミからもっと湿度の高いロサンゼルスに降り立ったばかりのタコを訪ね、Odd Future、デッドマウス(Deadmau5)との喧嘩、リル・ウェイン(Lil Wayne)のプライベート コンサートについて語り合った。
ケビン・ピレス(Kevin Pires)
タコ(Taco)
ケビン・ピレス:君のことをトラヴィス(Travis)と呼ぶのは誰ですか?
タコ:親友や家族。実のところ、トラヴィスとタコがちょうど半々だな。
トラヴィスはもうひとりの自分で、その名前で呼ばれても返事をしない、というではわけではないんですね。
全然。だけど、歩いてるとき、誰かがタコって大声で呼んでも、トラヴィスと呼ばれたときほどは振り返らないね。タコと叫ぶやつは、関わりたくない人間かもしれないから。
職業をきかれたら、どう答えていますか?
大体いつも、DJだって答える。それがいちばん簡単だから。だけど、どの街にも必ず、何かを必要としてるやつがいるんだ。胡散臭く聞こえるかもしれないけど、例えばギタリストとか、誰かと一緒に曲をやりたいとか、好きなブランドがあるけど何の情報も持ってないやつとか...。俺ならコネがあるかもしれない。俺にはかなり大きいネットワークがあるから、そういうことで手助けするのは難しいことじゃない。だから、頼んできた人への愛情から手を貸してる。

Taco (右) 着用アイテム:スニーカー(Converse)、Tシャツ(Loewe)、スウェットパンツ(Alyx)
17歳のとき、あなたがメイン キャストだったテレビ番組の「Loiter Squad」が始まった頃に、それが将来やりたいことか、と尋ねられていましたね。先の人生で何をしたいかなんて、普通の17歳に分かってるとは誰も思いませんよ。しかし、名声を得ると、奇妙な具合に年齢に作用します。ティーンエイジャーらしい時期を過ごせなかったと思いますか?
それはないね。子供の頃の俺は、いつも年上の中に混じってた。普通のティーンエイジャーのやることを、もう9歳でやってたよ。友達はかなり年上ばかりだったから、親はいつも「あんたの友達は一体どうなってるの? どうしてあんたは年上とばっかり付き合うの?」って言ってた。だけど、俺たちには共通の話題があったんだ。そうやっていろんなことを知ったから、実際に自分が大きくなって同じ状況になったときは、「あいつらはここで判断を誤ったんだな。俺は違うふうにやるぞ」
年上の失敗から学んだんですね。
見せびらかさないことを学んだよ。タイラーは、初めて会った日から、そのことを俺の頭に刷り込んでくれた。見せびらかすんじゃないぞ、って。「金をバラまいてるような写真を、Instagramで見せてくれるなよ。そういうことをするから強盗にあうんだ」。貯金しろ、これをやるな、あれをやるな、アパートじゃなくて家を買え...。俺が「ああ、よかった」と思う状況は、全部、年上の友達から学んだ結果さ。
見せびらかさないことを学んだ。タイラーは、初めて会った日から俺の頭に刷り込んでくれた。見せびらかすんじゃないぞって
嬉しいことがあると泣くそうですね。最近そういうふうに泣いたのは、いつですか?
この前泣いたのは、シドのパフォーマンスを見たとき。あの夜は、外で待ってる人がすごくたくさんいたから、2回目の公演を追加したんだ。そいで歌の途中でシドが「私の名前は?」って言うと、全員が「キド!」と叫ぶんだよ。いつもながら、それが滅茶苦茶おかしくて。最後は聞いたこともないほど大声になって、俺は大笑いしたけど、涙も流してた。笑ってごまかしたけど。
コービー(Kobe)に会ったときも泣いたし、ジェイ・Z(Jay-Z)の「Big Pimpin」は見るたびに泣くね。バードマン(Birdman)の「Still Fly」にも毎回泣かされる。リル・ウェインは、俺の20歳の誕生日に、アルバム全曲をやってくれたんだ。そのアルバムは結局リリースされなかったけど、最後に「これが最後の曲だ。これが終わったら、どこかのビーチでデブになることにする」って言うから、「ダメだよ、嫌だよ。そう言うんなら、この曲は演奏しちゃダメだ。俺、泣いちゃうよ」って言ったら、リル・ウェインに笑われた。で、とにかくその曲を始めたもんだから、俺は泣き顔を隠すのに部屋を出る羽目になった。

着用アイテム: セーター(Wacko Maria) 、ジーンズ(Acne Studios)


Taco着用アイテム:スニーカー(Vans)、シャツ(Gucci)、ジーンズ(Levis)
忘れられない出来事ですね。
だけど、ちょっとしたことが人を変えるんだ。子供が俺のことを知ってて近付いてくると、大物と会うよりもワクワクする。俺が子供の頃に住んでたところは、すごく人口が多かったんだ。パーティーともなるとものすごい大人数で、俺が近付いて行ったときに、その人がどう接してくれてたか、それが当時の俺に大きく影響したよ。9歳のとき、アンドレ・3000(Andre 3000)に近付いて、「あなたのことが大好きです」って言うと、「ありがとう」と言ってくれて、ちょっと話してくれたんだ。ケビン・ガーネット(Kevin Garnett)は、その逆の典型。すごく嫌なやつだったから、もう二度と前のようには思えないね。あいつのバスケットの試合は好きだけど、人間としてはクソ。その時俺は12歳だったな。本当に嫌なやつだったぜ。

着用アイテム: シャツ(Gucci)
そういう違いは何なんでしょうね?
俺が思うには、有名なほど良い人だ。世界でいちばん良い人間は、世界でいちばん有名な人間さ。
デッドマウスがあなたをブロックした理由は?
あのバカか! あいつがツイッターで何かの文句を言ってたから、「なんで文句言ってるんだ? まるきし13歳の女の子みたいだな」って書いたら、俺をブロックしやがった。顔を合わせると、いつだってすごくいい人ぶってるけど、内心じゃ俺のケツを蹴飛ばしたいと思ってるんだ。そういうこと。俺としちゃ、全くどうだっていい。
ディスに関しては、俺は本気になるぜ。特に、人よりも上の立場の人間がディスる場合。そいつが活動や今までやってきたことは評価するけど、人間としてはクソ。宇宙は公平にできているから、そういう人間は金で解決できない問題を抱えて、ずっと苦しむことになると思うね。俺は自信があるし、人生もいい感じだから、平気さ。実際、いい人生だ。

着用アイテム:Tシャツ(Loewe)
コービーに会ったときも泣いたし、ジェイ・Zの「Big Pimpin」は見るたびに泣く。バードマンの「Still Fly」にも毎回泣かされる
今年の4月に「俺の子供たちに、今の俺の人生について話すのが待ちきれないよ」とツイートしていますが、どんなことを子供たちに話しますか?
タコって名前をもらったパーティーの話。俺たち、夜のロサンゼルスのど真ん中で雪合戦をしてたんだ。12月で雪なんかなかったけど、クリスマスが近づくと、子供たちのために、地元の人が氷を使って前庭を雪景色にするんだ。俺たちは雪を盗んで雪合戦をしてた。そしたら、パーティーの最中にヘリコプターが何台も飛んできて、見上げてたら、裏庭の真ん中がライトに照らされた。みんなが押し合いへし合いでそのライトの中に入っては、シャツをめくったり、叫び声をあげたり、中指を立てたり。俺たち6人は、ジャスパーが初めて手に入れた車に飛び乗ったんだ。「アーッ!」と叫び声が聞こえて後ろを振り返ったら、男が2匹の犬に追いかけられてた。
Twitterのタイムスタンプから判断するに、あなたはあまり寝ないみたいですね。寝ないで何をしているんですか?
夜は、思考がクリアになるんだ。日中は必ず、他のことに気をとられる。月曜の午前1時に起きるやつはいないから、とにかくやらなきゃいけないことをやる時間だ。ちゃんと座って、書いたり、勉強したり...。朝起きて、寝る前にしてたことを思い出すと頭に残るんだ。昼間は、友達がストリートで何をしてるか考えたりして気が散るから、何もかも日中に勉強しようと思っても無理。

着用アイテム: スニーカー(Converse)、Tシャツ(Loewe)、スウェットパンツ(Alyx)
では、その時間をタコ タイムと呼びましょう。
1時から5時の間がタコタイムだな。
生活の中で、あえてプライバシーを保とうとしている部分はありますか?
ママのことはInstagramにポストしないようにしてる。ガールフレンドたちも表に出さない。それくらい。
過去に熱を上げた女性たちを公にしていますが、現実世界で会うのは奇妙な感じですか?
それはない。だって、彼女たちが俺のポストを見てるかどうかすら分からないんだから、気にすることないだろ? 付き合ってる子がずっと昔の投稿を見て「一体何よ、これ? いつ投稿したの?」ってこともある。普通はみんな喜ぶよ。そういうことをポストするやつはあんまりいないから。大抵は、熱を上げてることを隠すだろ。俺は違う。その子の顔が好きだったら、実際に会ったときにそう言う。人に話しかけるのは不安なことさ。俺にもそういう不安はあるけど、自分で自分に喝を入れて、話しかけるんだ。最悪の場合は、頭がおかしいヤツみたいに俺を見て、行っちゃう。そしたら、くよくよ考えないで、俺の生き方を続けるだけさ。

みんな、人のことをもうほとんど人間じゃないみたいに思ってる。誰でもケツを拭く。誰でもみんな、普通の人間さ
Odd Futureが遺したレガシーは何でしょう?
NWAやウータン・クラン(Wu-Tang Clan)とは違うと思う。みんな、人のことを次のコービー・ブライアント(Kobe Bryant)だとか、次のマイケル・ジョーダン(Michael Jordan)だとか、次のレブロン・ジェームス(Lebron James)だとか呼ぶけど、俺たちみたいなタイプは前にいなかったんだ。とにかく好きなことを何でもやるってタイプね。馬鹿なヤツらは、ひとつのスタイルにばっかりこだわってた。俺たちは、みんなの目を開かせて、世界がちょっと違って見えるようにした。
俺たちの世代で、「俺たちは人とは違うけど、それで良いんだ」って最初に言った黒人のキッズが俺たちだ。俺たちは気にしないんだ。みんな「そんなこと気にしない」って言いたがるけど、本当のところは気にしてる。俺たちが何を気にすると思ってるか知らないけど、俺らはそんなことに時間を割く暇はない。俺たちにはいつだって内輪のジョークがあって、みんなが内輪に入りたい、みたいな感じだったな。
Odd Futureでの活動からケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)との友達付き合いまで、内輪で学んだことは何ですか? 人々が誤解していることは何ですか?
みんな、人のことをもうほとんど人間じゃないみたいに思ってる。誰でもケツを拭くんだ。誰でもみんな、普通の人間さ。
人を商品のように扱う、俺はそれが嫌だ。ヒドいことだぜ。人を商品なみに扱うなんて、すごくタチが悪い。馬鹿なヤツらだって涙を流すし、笑うし、怒るんだ。俺が他のやつらから勉強したのは、俺自身であること。それと、嫌な人間になるなってこと。それだけ。自分自身であれ、嫌なヤツにはなるな。あ、あと変人になるな。
- インタビュー: Kevin Pires
- 映像: Renell Medrano
- スタイリング: Rebecca Hearn
- 制作: Zach Macklovitch (Saintwoods)、Gina Panarello