Mackintoshが見込んだ奇才、キコ・コスタディノフ

Mackintoshの見えざる機能

  • インタビュー: Edward Paginton

特色と歴史を誇るウェアの名前に象徴された、著名なブランドを改革する。そんな任務を託されたキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)は、周囲の予測を覆す。現在、Mackintosh 0001のデザイナーを務めるコスタディノフは、新たなシンプルの表現を探る。このブルガリア生まれの27歳のデザイナーは、セントラル・セント・マーチンズ卒業後の1年で、ブランド立ち上げまでの従来の王道を駆け抜けた。下積み期間を一足飛びにして、ロンドンの栄誉ある「NEWGEN Menswear」の支援デザイナーに選ばれた。

本質と装飾の二元的なデザインに対抗する構築表現的なアプローチは、鉄骨の巨大な枠組みを形成して内部を剥き出しに露出する建築家リチャード・ロジャース(Richard Rogers)やレンゾ・ピアノ(Renzo Piano)のポンピドゥー・センターを思わせる。反転を手法とする先端技術の謳歌だ。衣服の内側の構造を露出することで、機能性が明白になる。隠されたエレガンスも明らかになる。エドワード・パジントン(Edward Paginton)がロンドンのコスタディノフを訪問し、仕事を通して学びつつ同時に自分のデザイン言語を確立するパラダイムについて対話した。

エドワード・パジントン(Edward Paginton)

キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)

エドワード・パジントン:Mackintoshの0001コレクションと0002コレクションに関して、60年代後半にイタリアで起こった先端的な美術運動「アルテ ポーヴェラ」を引き合いに出していますね。なぜアルテ ポーヴェラなのですか?

キコ・コスタディノフ:アルテ ポーヴェラと関連付けてMackintoshのストーリーを展開しようと思ったのは、僕自身がクリエイトする過程で、ずっとあのムーブメントに惹かれていたから。同時に、僕はまだ、自分の作品にアイデンティティを見つけようとしてる段階だった。Mackintoshは、僕自身が本当に好きなものや好きなアーティストを真剣に探ってみる良い機会だと思ったんだ。従来の素材を繰り返し使うことでMackintoshの原則を引き継ぐ。一方で、デジタルやテクノロジーに頼り過ぎないで、もっとインダストリアルなアプローチを活かす。その粗さにとても興味があったから、素材を中心に据えてコレクションを組み立ててみた。最初の0001の素材はラバー。僕にとっては、Mackintoshを象徴する生地だからね。Mackintoshにはラバーとコットンを貼り合わせるボンディング技術があって、それを何世代にも渡って発展させてる。ほかにもラバー テープというものがあって、袖口の縁に使うと服がしっかりして、風の強い日でも安定するんだ。だから、そういうディテールに注目して、身体に適用して、特定の手法で追求していく手法を採ったんだ。ただの飾りや視覚的な応用じゃない。単にラバーのストライプを飾りに使うんじゃなくて、ちゃんと理にかなった根拠のあるデザインだよ。

あなたのデザインは、構造が露出していますね。

そう、構造を露出して、強調する。それで、袖や背中の部分が前よりしっかりした。

アルテ ポーヴェラは、従来の素材や手法の制約に束縛されない行動を目指していました。それと結び付くのが、あなたのデザインで進行している構築やインダストリアルなプロセスですが、それをもう少し説明してください。

あれは、ロンドンに越した直後、親父を手伝ってたことも関係してると思うね。小遣い稼ぎに、しょっちゅう父のそばをうろついて、建築作業を手伝ってたんだ。けっこうな時間、親父や親父の仲間と一緒にいたな。そのときに、空間の作り方や組み立て方を習ったから、今は素材を見るだけで自然に仕事に応用できる。それから、労働に対する道徳観も教え込まれた。「今日はこれをやる必要がある」となったら、怠けてる時間なんかない。クリエイティブな仕事じゃなかったけど、建設的で、すごく計画的だったね。

最近、「実用的」という言葉が乱暴に使われ過ぎて、共感を失っています。

今みんなが飛び付いてる、大きなトレンドに過ぎないさ。「インダストリアルな要素」って言葉を使う自称デザイナーがたくさんいるもんだから、すごく表面的になってしまったけど、Acronymのエロルソン・ヒュー(Errolson Hugh)みたいなデザイナーもいる。ああいうデザイナーの作る服は、機能を担ってるからすごく優秀だ。防水だったり、サイクリングやランニングで性能を発揮したり...。僕が作る服は、何よりもまずファッションで、パフォーマンスが目的じゃない。機能面では、実際に着てみて、「出歩くときに持ち歩くものは何だろう? これにポケットが必要で、これはもっと深いほうがいいし、内側に携帯を入れる場所が要るな」という具合に考える程度。重要なのは日常生活での機能性なんだ。着た人が不自然に感じない裁断や構造が目標だ。

キコ・コスタディノフ着用アイテム:Tシャツ(Mackintosh 0001)パンツ(Mackintosh 0001)

大事なのは、どう機能が目立たないようにデザインするか

山本耀司とか高橋盾とか、あなたに影響を及ぼしたデザイナー たちは、繊細でほとんど目立たない違いを大事にしますね。

何かを買って、それから1、2週間後に新しい機能を発見する。そんなことがどの程度あるかい? そういう消費者が姿を消しつつあるような気がするんだ。機能が目立たないように、どうデザインするか、大事なのはそこだ。僕の仕事は、「フラット デザイン」と逆方向。「フラット デザイン」っていうのは、パターンを送るとデジタル化されて戻って来るプロセスのことだけど、最近はこれが多い。僕は、素材や服を見直すことに時間をかける。

僕や僕の作品に関する印象は、Stüssyとやった仕事に影響されてると思う。ああいう非常にグラフィックな領域へ僕が進むだろうと予測してた人が多いけど、それは僕が好きなことでもないし、やりたかったことでもないんだ。僕の目標は、そういうものから離れて、自分のラインのために自分のデザイン言語を築くことだった。Mackintoshはそれを推し進める助けになる。

膨大なコレクションやアーカイブを持っているそうですね。

持ってる服が多過ぎるんで、ちょうど来週、初めて保管場所を借りる手続きをするところ。

服が溢れてるんですか?

そうなんだ。僕自身の色々なコレクションと、Mackintoshコレクションがふたつ。それからに、ものすごく大量のデザイナー ブランドのアーカイブと、大量のミリタリーウェアとワークウェアのアーカイブ。その他にも色々。

コレクションを始めたのはいつですか?

5〜6年前かな。かなりの数になってる。

コレクションはあなたの仕事に影響を与えていますか?

それよりも、これまでに他のデザイナーがどんなことをしたか、何がすでに存在してるかを知って、同じことを繰り返さないことなんだ。このトラウザーズは持ってるなと思ったなら、もう同じものは作らない。いつもそういう風に考えてる。自分の好きな服を作り直すんじゃなくて、自分の好きな服と組み合わせられて、しかも衝突するものを作る。それが、今、僕がやるべきことだ。

キコ・コスタディノフ着用アイテム:ジャケット(Mackintosh 0001)

ブルガリアでの生い立ちは、とても役に立っていますか?

ブルガリア時代の経験から得たことはそんなにないね。15歳かそこからでロンドンへ来たんだ。ここにずっといる気なんか、まったくなかった。ブルガリアへ戻って、友達と遊んで、両親にロンドンから送金してもらう。それが夢だったけど、思うようにはいかなかったな。かなりレベルの低いITの仕事について、「このままコンピュータの前に座って、残りの人生を過ごすのは嫌だな」と思ってたよ。今そうなってるのは、皮肉だけど。ブルガリアにいた当時、「Lillywhites」っていうロンドンのサッカー ショップでUmbroの最新のサッカー ギアを買っては、サッカー少年だった僕に送ってくれる叔父さんがいたんだ。UmbroかNikeを持ってるっていうのは凄いことだった。もうそれだけでボス。ブルガリアでは、カルチャーにもアートにもそれほど縁がなかったね。

それはプラスでもありませんか? 知識は制約になることもありますから。

うん。そのせいで、自分なりのやり方で学習するようになったと思うな。何をするにしても、もっとやる気が必要になる。

確か、お父さんは建設関係で、お母さんは掃除婦だった?

そう。お袋は今、僕の仕事を手伝ってる。

キコ・コスタディノフ着用アイテム:ジャケット(Mackintosh 0001)

そうなんですか?

スタジオ マネージャーをやってくれてるんだ。僕は絶対的にお袋を信頼しているし、もっとそばにいて欲しかったから。学生時代から付き合いのあるパタンナーも、フリーランスとして手伝ってくれてる。70歳ぐらいかな。

高齢ですね。

80年代に、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)の最初の5つのコレクションを手がけた人物なんだ。マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)といっしょに仕事をしてた。17歳からずっと、パターン メイキングと裁断一筋。60年代、70年代、80年代を、全部経験してるんだ。筋金入りのかなりの伝統派だよ。彼やお袋みたいな人間が素晴らしいのは、とにかくきちんと仕事をするところ。エゴがない。リック・オウエンス(Rick Owens
)が言ってたけど、インターンを使わないのは、自分の仕事をわきまえてる人間と仕事をしたいからだって。面白いだろ。

非常に伝統のあるブランドと仕事をする上で、エキサイティングなことは?

特定の機能のために求められる製品が基盤であること、そこが好きだな。製造の水準には脱帽だ。コレクションを見に来たときは、僕は半信半疑だったんだ。ところが、機械生産されたゴム引き素材を手にした途端、「絶対これで何かを作れる」と思ったね。もっと発展させる可能性と熱意が理解できた。僕は今デザイナーとして仕事をしてるけど、Mackintoshにはこれまでそういう人がいなかった。これまでは、本質的に、製造業者だったんだ。今でも高級ブランドの製造を引き受けてるけど、そういうMackintoshの歴史に足跡を残せるチャンスは多いにあると思ってる。後から振り返ったとき、Hermèsとマルジェラ(Margiela)の関係と同じように「なるほど、コスタディノフはこういう風にデザインして、こういう風にブランドに敬意を表したんだな」って感じてもらえるようにするつもりだ。

イタリアの哲学者ステファノ・ボナガ(Stefano Bonaga)は、創造性と組織化のパラドックスを「甚大だが必然の葛藤」と表現しています。あなたはふたつをどのように均衡させていますか?

僕のレーベルもMackintoshも同じ成長段階だから、相互に学ぶことがある。例えば会社の設立とか、口座の開設とか、組織を作るために必要な細々したことも含めて...。システムにクリエイティブなプロセスを組み込む、アイデアをシステムとして組み立てる、そういうことじゃないかな。やりがいがあるよ。目標は、将来、もっとクリエイティブになれる体制を作ること。

パフォーマンスが目的じゃない。機能面は、実際に着てみて「出歩くときに持ち歩くものは何だろう?」と考える程度
  • インタビュー: Edward Paginton