アブラの魔法

ダークウェイブの
貴婦人アブラが、
愛、神、ドラッグを語る

  • インタビュー: Nazanin Shahnavaz
  • スタイリング: Nazanin Shahnavaz
  • 写真: Maria Ziegelboeck

ニューヨーク ハイランド教会の宣教師だったアブラ(Abra)の家族は、世界各地に赴いた。南インドのケララにいたとき、一家はアメリカ本土へ戻って、ニューヨークのクイーンズで女の子を出産することに決めた。ところが実際には、教会を立ち上げ信徒を育てるため、サウス ロンドンでその後8年の歳月を過ごすことになった。牧師を父に、賛美礼拝歌のリード シンガーを母に、アブラは歌と精神世界にどっぷり浸かって成長した。その後いくつかの任地を転々とした後、アブラはアトランタで思春期を迎えていた。常に他所からやってきた「新顔」だったアブラは音楽、愛、実験に癒しを探し求めたが、やがて教会から離れ、オンラインで新しいアイデンティティを築いた。ベッドルームで作られるコンテンツは、音楽による浄化作用の証しであり、キリスト教バプテスト派の背景を反映すると同時に、独自な自意識のすべてを表現している。シンガー ソングライターでありプロデューサーであるアブラが、愛、神、幻覚剤がもたらすスピリチュアルな力についての智恵を、私たちと共有する。

ナザニン・シャーナバズ(Nazanin Shahnavaz)

アブラ(Abra)

ナザニン・シャーナバズ:私たちが育ったのは、同じサウス ロンドンで、ほんの何本か通りを隔てた場所ですね。あの頃の懐かしい想い出はありますか?

アブラ:私の最初の記憶は、母の賛美礼拝を見てたことね。教会で楽隊といっしょに母がギターを弾いてるのを見て「何をやっているんだろう?」って思ったのを覚えてる。音楽にまつわる最初の記憶は、全部ロンドンのいたときのことだわ。

生い立ちから、その他にどんな影響を受けましたか?

キリスト教っていうのは、つまるところ、いかに私たちが地球に属さない存在であるかを説いているの。だから、私たち人間は、何事に対しても違和感を感じて当然というわけ。私は自分のセクシャリティを恥じていたし、自分の体も恥じていた。私はとても性的な人間なのよ。いつだってずっと、性的なことが頭にあったわ。セックスという意味じゃなくて、体の性的な感覚や性的な欲求について、考えが頭をよぎってた。そして、そういうことを無理矢理押しやってたの。そのせいで、私の人生はかなり窮屈だったわ。でも信仰は、大きな思いやりとか人間性も教えてくれた。キリスト教を信仰しなきゃ寛大な心を持てない、というわけじゃないわよ。だけど、他人の困難に目を向けられるようになった。気を配れるようになった。辛い経験をしてる人たちがいる。だから、ちゃんと周囲の人に気を配って、手助けするってこと。大切なことだわ。
それから、達成感。これは大きいわ。私のショーに来てくれた人たちには、私がゴスペル聖歌とか良い説話を体験したときと同じ気持ちを感じて欲しいの。孤独なんか感じなくていい。誇らかな気持ちになって帰ってほしい。本当にパワフルな音楽を聴いたときは、何かに包み込まれたような強烈な喜びを感じるわ。そういう教会の要素を、私の音楽に持ち込みたいの。魂にとって健全なことよ。あるがままのあなたで来てくれればいいの。今のままのあなたでいい。ただ音楽に耳を傾けて、メッセージを聞いて、それを頭に入れて、普段の生活に戻ればいい。そうすれば、人に対して不当な仕打ちをすることはないわ。自分自身に満足してるから。

私は使い捨てじゃないし、可愛いだけのアーティストでもないわ。私はここに存在して、自分のプライベートな部分を差し出してる

ええ、開放感がありますね。今でも教会に行きますか?

いいえ。でも、行きたいとは思ってる。教会はコミュニティを作ってくれるし、すごく孤独な人たちもいるから。正しい行ないを心がけてる人たちと出会ったり、同じような考えの人と集まれるのは、助けになるわ。コミュニティから生まれるあのエネルギーに接するためだけでも、教会に戻りたいわ。ポジティブで、人を思いやる。ぜひ戻りたいと思ってる。

その他の経験で、同じ喜びを与えるくれるものはありますか?

3つあるわ。パフォーマンスとドラッグと恋。

そのうちの2つは、私も考えてました。私はパフォーマンスをしないから。

恋をしたり、セックスをしたり、誰かに愛情を示すこと。誰かに夢中になって、自分を忘れる感覚。私の初恋の人は、私の人生をすっかり変えてしまったわ。長い間、その人が私の信仰だったの。
初めてアシッドをやったときのことを覚えてるわ。アシッドって、自分の中から別の考え方が出てくる感じなの。いつもと違う考えなんだけど、やっぱり自分の考え。誰かが最高に強力な魔法をかけてるわけじゃない。あの体験で、私たち人間は互いに違うよりは似てるってことが分かって、私、変わったわ。私の音楽にもすごく影響した。お互いの共通点を見付けて、そこに注目しようってこと。お互いを隔てるものじゃなくてね。
それから、もちろんパフォーマンス。これは取り憑かれる感じで、説明できないわ。ステージを下りた私はおちゃらけた人間だけど、ステージに上がると別人になる。パワーを感じるの。自分の音楽が及ぼす作用を目にして、力強く変身するの。ステージにいるときの私は高次元の私。弱々しくて無力な存在から、群衆を楽しませる存在になる。そして、そのエネルギーが群衆のあいだを行き交う。まるでみんなが鏡を持ってるみたいなの。そこから私は自信をもらってるわ。

今、恋をしてますか?

ええ、恋してるわ。難しい関係だけど、難しくない関係なんて、何の役に立つ? 彼は私を成長させる。最高の自分になろうと思わせてくれる。遠距離恋愛だから、上手くいかせようと思ったら、我慢強さとか、思いやりとか、穏やかな気持ちと心が必要なの。もし上手くいかなくても、私は今よりもっと我慢強くて、思いやりがあって、理解のある人間になってると思うわ。恋は人を変えてしまう体験よね。いわば恍惚状態だわ。

アシッドの最初のトリップを覚えてますか?

ええ。前の彼といっしょにやったの。そのときまで、私はすごく敬虔だったわ。とっても自分に不安を感じてた時期でね、誰かに自分を認めてほしかった。ほとんど誰彼構わず、心を許してたわ。それで、あるとき、ビーチで流れ星を見たの。先ず心に浮かんだ願いは愛だった。「安っぽいな」って、自分でも悲しくなったわ。恋人がいるとか、自分を認めて人がいるとか、そんなこと以上のものが人生にはあるはずなのに、誰でもとにかく愛を欲しがる。そのとき、何かが「海の方に行きなさい」って言ってるような気がして、波打ち際へ近づいたの。でも夜だし、怖かったから、間際までは行けなかった。波が打ち寄せてるのが見えるところまで行って、立ったまま、思ったの。「波が寄せて、足に触れるまでここで待つ。私の立っているここまで、波が会いにやって来る」。15分立ってると、小高いところに立ってた私のところまで波が来て、私の足にキスをして戻って行ったわ。とってもポエティックな瞬間だった。愛を見付けるために求める水準を下げなくてもいいんだ、ってことの象徴だったから。自分のいる場所に立っていれば、誰かがあなたのところへ来てくれる。あなたはそれに値する人間だし、その価値があることを信じるのよ。たぶん、こっそり裏で糸を引いてる人なんていないのかもしれないけど、私はあの瞬間を忘れないし、いつまでも心に留めていくわ。

ファッションには興味がありましたか? それとも、ファッションは音楽やパフォーマンスの一面としての位置付けでしたか?

子供の頃、父は、私が可愛く見えることより健全であることを気にかけていたわ。私自身は、自分が参加できないことを不快に感じるようになった。ファッションに目を向ける機会がなかったから、私はファッションを無視して、まったく注意を払わなかったの。でも成長してからは、ファッションを楽しむようになったわ。自分の着ているものに自信を持つことは大切よ。人にはそれが伝わるの。Art Rock Festivalのショーで選んだ衣装は、大好きだった。乳首にテープを貼ってステージに上ったときは、すごくスキャンダラスでセクシーな気分だったわ。服はフィーリングと大いに関連するし、パフォーマーとしては、カッコよくキメるのが大切なことよ。最高の気分だったら最高の力が出るし、自分が最高にカッコいいと思ったら最高の気分になるわ。

女性アーティストは、自信を持つことが特に大切なようですね。

私たち女性アーティストがやっていることは、過小評価される傾向があるわ。Field Dayで私がやったショーのレビューを読んだけど、DJのセットの音響を長々と論じてるの。DJがやることを非難するわけじゃないけど、私は何もないところからその曲を作ったのよ。それなのに、私については、私が聴衆を誘惑したってことだけ。たったそれだけ。女性は、ただポカンと見惚れるだけの、可愛い存在だと思われてる。努力して成し遂げた仕事は評価されない。女性はいくらでも代わりがいて、決められた役割りを果たすだけみたい。私たちが自力で作り上げたものに目を向けない。それで傷付くこともあるわ。6ヶ月のあいだ、私はひとりで部屋にこもって音楽を作って、45分間ステージを走り回って、何千人もの聴衆にエネルギーをぶつけてるのよ。その挙句、私が体で聴衆を誘惑したって言われるだけ? 誰も誘惑なんてしてないわ。性を武器にして、引き付けたわけじゃない。みんな、私の活動をよく知ってるから、見に来たのよ。私たちはただ見られるだけの性的な対象じゃない。仕事をしてるし、メッセージを持ってる。それがすごく見落とされてるから、腹が立つけど、どうしようもないわ。

本当にパワフルな音楽を聴いたときは、何かに包まれたような強烈な喜びを感じる。そういう教会の要素を私の音楽に持ち込みたい

どうすれば、そういう態度を変えられると思いますか?

女性が自分の仕事をもっと見せることね。どれほどの作業をしているか、私は分かってもらうようにしてるわ。見せびらかすんじゃなくて、「私はこれだけのことをしました。だから、私をどっか他の女の子と取り替えて、同じ結果を期待することはできません」って宣言するわ。女性アーティストがレーベルと契約すると、次の誰々みたいに変えようとする。音楽プロデューサーのL.A.リード(L.A. Reid)は、「君は次のホイットニーだ」って言ったのよ。だから「いいえ。私はアブラよ」って答えたわ。私は、誰かの次じゃない

ほとんど場合、それは業界の男性の態度ですか?

そう、男ね。自分たちが全部取り仕切っていると思ってるの。こっちに言わせれば「いいえ、それは違うわ」って感じ。他の人がどうかは知らないけど、Field Dayのレビューを書いた男のような人たちには、私は断固立ち向かうわ。どれだけ仕事に力を注いでいるか、見せるの。私のことをただ書き飛ばして、私が占めてる場所に誰かを置き換えるわけにはいかないのよ。私は使い捨てじゃないし、可愛いだけが取り柄のアーティストでもないわ。私はここに存在していて、自分のプライベートな部分を差し出してるのよ。

Twitterで発言し続けて、言いたいことを言って、「ノー!」と言える。生意気だと思われたって、怒れるフェミニストって言われたって、何だっていいわ!

その通りですね。

あなたたちは世界を股にかけて、世界を動かしてるかもしれないけど、私たちは目に見えない存在にあなたたちより近くにいる。目に見えない存在に耳を傾けている。あなたたちに見えないものが、私たちには見える。私たちには特別な感受性があって、あなたたちはその価値をきちんと評価する必要があるわ。世界は変わりつつあると思うの。特にインターネットが登場してからは、みんなが聴く音楽をコントロールすることはできないわ。Twitterを使って、発言し続けて、言いたいことを言って、「ノー!」と言える。生意気だと思われたって、怒れるフェミニストって言われたって、何だっていいわ! 他の女の子が、後々こんなバカげたことに関わらなくて済むかもしれないと思うから。「彼女は聴衆を誘惑してる」なんて、誰も言わなくなる。もし誘惑されたなら、それはあなたの勝手よ。

  • インタビュー: Nazanin Shahnavaz
  • スタイリング: Nazanin Shahnavaz
  • 写真: Maria Ziegelboeck
  • ヘア&メイクアップ: Hisano Komine