クラウド ファンディング: アレックス・デイリーの秘策

アイデアを実現するクラウドソースの達人が教える、ジョーン・ディディオンから学んだこと & 8つのヒント

  • インタビュー: Xerxes Cook
  • 写真: Eric Chakeen

アレックス・デイリー(Alex Daly)は、トライベッカのオフィスに戻ったばかりだ。新著「The Crowdsourceress: Get Smart, Get Funded, and Kickstart Your Next Big Idea」 (仮題:クラウドソースの達人 ビッグなアイデアを実現する資金調達成功の鍵)を宣伝するために、2週間かけて、アメリカ国内の各地を飛び回ってきた。過去数年、最大級の成功を実現したプロジェクトの資金調達によって公益法人「Kickstarter」に栄えある名声をもたらしたデイリーは、まだ30歳にもならない。だが、他人の夢を実現するために、額に汗して稼いだ金を手放そうという気を人々に起こさせる動機を、どうやら生まれながらに理解しているらしい。デイリーは、自身が経営するヴァン アレクサンドラ社を通じて、現在までに50件のプロジェクトに対して10万人以上の資金提供者から計2,000万ドルを集めてきた。例えば、2014年に制作されたジョーン・ディディオン(Joan Didion)のドキュメンタリー「私たちは生きるために、自分自身に物語を語り聞かせる」、ニール・ヤングの高音質ポータブル プレイヤー「Pono」、ピュアなデザイン オタクが骨抜きになるNASAとニューヨーク都市圏交通公社(MTA)のデザイン マニュアル復刻版。他にも、ロボット デスクトップ 3Dプリンター、既存のホイールと交換するだけで手持ちの自転車が電動アシスト自転車になる電動ホイール、TLC復帰アルバム、通話以外の機能を排除したシンプルな携帯電話など、枚挙にいとまがない。

デイリーの新著は、ユートピアとディストピアを分ける際どい稜線で歩を進める上での経済的な参加と集団意思決定の方法を解説した、初の明確なクラウド ファンディング指導書である。Kickstarterのようなプラットフォームが手段として存在しなければ、独創的なプロジェクトを世に送り出すことは不可能だ。一方で、病気にかかった人のために治療費を捻出する目的で立ち上げられたキャンペーンの数が急速に増加しつつある。GoFundMeによると、2010年の立ち上げから2016年までに調達した20億ドルのうち、9億3,000万ドルが医療費に使われたと言う。クラウド ファンディングの華々しい成功が何の前兆であれ、広く浸透しつつあることは事実だ。だが実際には、6桁のキャンペーンの資金調達がどれほど難しいか。デイリーは「カーテンを剥ぎ取って」、その現実を明らかにする。企業秘密を暴露することに関して彼女はこう指摘する。「世界で最高のシェフだってレシピ本を出してるけど、レストランに通う人がいなくなるわけじゃないわ」

トランプがパリ気候変動協定から米国離脱の意向を発表したのと時を同じくして、米国環境保護庁(EPA)の1977年度デザイン マニュアルの復刻に向けて着々とキャンペーンを準備中のデイリーが、ひらめきを実現するために必要な資金調達に欠かせない要素を説明してくれた。

アイデアの特許を取る

クラウドファンディングは、登場してから短期間で、ずいぶん様変わりしたわ。10年前ならクリエイター集団がプロジェクトのために数千ドルを集めたりしてたものだけど、今はフォーチュン500に名を連ねる大企業や著名人までクラウド ファンディングをしてるから、リスクがはるかに大きい。小規模なアート プロジェクトの立ち上げじゃなく、起業の手段としてクラウドファンディングを捉える必要があるわ。中国には、キャンペーン用の報道発表やティーザー映像からアイデアを横取りすることで知られている会社がいくつもあるの。自分の商品には特許を取ること。

プラットフォームを選ぶ

Kickstarter、Indiegogo、GoFundMe、RocketHub。この中で、良いプラットフォームは? いつも尋ねられる質問だけど、それは何が必要かによるわ。Kickstarterは、クリエイティブなプロジェクトしか資金調達の対象にならない。だから社会事業や慈善事業の場合は、他のプラットフォームを探すべきよね。もちろん、最大の決定的違いは、Kickstarterのような「オール オア ナッシング」のタイプを選ぶか、柔軟な資金調達を選ぶか。一か八かの方法に挑戦するのはヒヤヒヤものだけど、柔軟なタイプのプラットフォームにはない緊迫感や反応がある。というのも、もう少しで達成できそうなのに期限内に実現できそうにないと、みんながなんとか助けようとするからなの。言うなれば、クラウドファンディング コミュニティの善意ね。みんな何かに参加して、あなたといっしょに成功させたい、あなたにゴールを切らせたいという気持ちになる。

予算に15%の余裕を持たせる

ウェブサイトを見栄え良くしようと思ったら、映像作家やデザイナーを引っ張ってくる必要がある。私みたいな人を雇ったり、独立した宣伝担当が要るかもしれない。かなりの先行投資だけど、それをこなす方法はあるわ。前払いとか、歩合制とか、支払い方法に工夫を凝らすことね。絶対忘れちゃいけないのは、ビデオがすごく大切だってこと。ビデオが今でも、Kickstarterのサイトでデフォルトじゃなくてオプションだなんて、さっぱり理解できないわ。だって、キャンペーンをスワイプしてるとき、誰も長い文章を読んだりしないもの。みんな、いちばん強烈で、クールで、パワフルなキャンペーンを探してるのよ。ビデオでそういう要素を全部表現してたら、絶対に注目を引くことができるし、資金を提供する気を起こさせる。だからプロを雇うこと。中途半端なことは、もう通用しない。

休祭日を避けて、火曜日に立ち上げる

私たちは、火曜日の朝にキャンペーンを立ち上げるのが好みよ。月曜日は受信箱にメールがたくさん溜まってて、週末分に追いつかなきゃいけない。でも火曜日は、1週間を丸々利用できる、本当に絶好の日なの。休祭日はダメ。先ず誰もコンピュータの前に坐ったりしてないし、次の日にすぐ届くものならまだしも、6ヶ月後の結果のためにお金を出そうなんて思わない。10月後半以降もクラウド ファンディングをしてないわ。感謝祭があるし、その後はホリデー シーズンに突入だから。1月も避ける。みんな休暇疲れだし、お金を使いすぎて後悔の念に駆られてる。キャンペーンの立ち上げには、2月の火曜日が最高。

ファンを増やす

私のところに来たクライアントに先ず最初に尋ねるのは、「あなたの商品に興味を持っているファンが、もういますか?」。私は内蔵ファンって呼んでるんだけど、クライアントのアイデアに関して、いちばんやる気があって、情熱的で、忠実な集団よ。そういう人たちは、メーリング リストに登録していたり、ソーシャル メディアの献身的で熱心なフォロワーだったりする。だから、そういうファンがいない人たちには、ファン集団を作るようにアドバイスするの。ファン集団がないと、キャンペーンは成功しない。ファンを作るには、いくつか方法があるわ。先ず、メール アドレスを集めること。すごく簡単に聞こえるけど、ファンを1箇所に集めるのはとても重要よ。それから、インフルエンサーやレポーターを明示する方法でソーシャル メディアでの存在感を強めると、商品が立ち上がったとき、そうした人たちが取り上げてくれる。ソーシャル メディアの広告やFacebookの広告に投資して、スプラッシュ ページへ誘導して、サインアップを促進する。景品を出すコンテストで刺激する。期間はほんの数ヶ月でもいいの。商品を獲得できる抽選をライブでやる。

見返りついてジョーン・ディディオンが教えてくれたこと

支援者の身になって、あなたが提供するものを本当に欲しがる人がいるのか、自問してみること。1枚の絵葉書に100ドルの値段は付けられないわ。人はお金を差し出す代償として、クールなものを期待する。基本的に、クラウド ファンディングのキャンペーンは先行予約が多いの。ジョーン・ディディオンのドキュメンタリー「We Tell Ourselves Stories In Order To Live」をやって、目から鱗の経験をしたわ。ジョーンはすごく料理が上手で、70年代にカリフォルニアで開いたディナー パーティのレシピとゲストを漏らさず記録してたの。だから、レシピをスキャンして、デジタル特典として提供したわ。それだけで3万ドルを超える資金が調達できた。実質的に、費用はゼロよ。だから、コストを抑えて、デジタルを利用すると同時に、資金提供者が欲しがるような貴重でユニークなものを考えること。

資金調達目的のパーティは開かない

ええ、直感と反対なのは知ってるわ。でもね、パーティに来て、ワインを飲んで、あなたのアイデアにすごく興奮したとしても、その場でクリックして献金できるわけじゃないでしょ。多分、そのうち忘れてしまう。だから大切なのは、コンピュータの前にいる人をビデオで刺激すること。オンライン上にあらゆる刺激を構築して、立ち上げの日に、みんながそのことを書くように仕向けるのよ。紙媒体は無視。アクセス量が多くて、Kickstarterをよく知ってるネット通が集まってるBuzzFeedに絞ること。

資金調達を達成。その次は?

クラウド ファンディングのキャンペーンが終了した後もアクセスが続くのは、すごく素晴らしいことよ。キャンペーンを見逃した人も、ソーシャル メディアで目にしたり、あちこちに拡散されてる記事を見たりして、「この商品を手に入れよう」とやって来る。だから、キャンペーンが成功しそうだったら、ECサイトのShopifyにキャンペーンと紐付けたスプラッシュページを作っておくといいわ。そうすれば、引き続き、誰でも購入できるから。Indiegogoには今、永遠に資金調達を続けられる「In Demand」ってプラットフォームがあるの。KickstarterやIndiegogoの利用者も、In Demandのプラットフォームにキャンペーンを丸ごと、文字通りクリックひとつで移動して、ビデオもそのまま同じものを使って資金調達を継続してる。それとは別に、全く新しいウェブサイトを一から制作したうえで、Kickstarterのサポーターをそっちへ移行することで、プロジェクトを発展させるクライアントもいるわ。既にメーリングリストはあるわけだし、ファン層もいるし、キャンペーンに注目して取り上げてくれるメディアもある。こうした、サポートをしてくれる人たちやメディアに再びアプローチすることで、同じプロジェクトであっても、新しいバージョンや改良バージョンとして、形を変えて資金調達しつづけることができる。

目標に達しなくても、
世の終わりじゃない

長い目で見ること。すぐ1ヶ月後に再開したりしないこと。皆で集まって、何が上手くいかなかったのか、よく考えてからもう一度やり直すこと。最初のキャンペーンの間違いから学んで、1年後に再挑戦するのもいいかもしれない。最初は失敗しても、結果的に大成功した挑戦者を何人も見てきたわ。

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  • 写真: Eric Chakeen