ハイムがいちばん

ツアー前の三姉妹と家で遊ぶ

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Sarah Bahbah

カリフォルニアのエンシノで、裏庭のプールに登場するなり、「超、ブギーナイツみたい」とハイム(HAIM)の三姉妹が揃って叫ぶ。その息がぴったりと合った様は、まるでこの場面をリハーサルをしてきたかのようだ。ここしばらくの間、彼女たちが『ブギーナイツ』を手掛けた映画監督のポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)と密に仕事をしてきたことを考えれば、彼女たちの口から「ブギーナイツ」という言葉が出てくるのも頷ける。素朴な50年代風の家に入る際も、姉妹は完璧にシンクロしたままで、穏やかな雰囲気で皆と抱き合って挨拶を交わす。

「ここは私の夢の家だわ」とエスティ(Este)は中に入りながら言う。のちにハイムという、ジャンルを超えたバンド仲間となる姉妹たちは、木々に囲まれた静かなサンフェルナンド バレーの郊外で育った。だからこの辺りの地域には馴染みが深い。エスティの言葉を繋いで、妹たちが畳みかけるようにそれぞれの「専門分野」でコメントをする。「絶対、ここに来たことあるわ。高校のパーティーで」とアラナ(Alana)が言うと、ダニエル(Danielle)が「典型的なサンフェルナンド バレーの家よね」と頷きながら同意する。

家の中は、暖かい色調のソファーやさまざまな小物で溢れている。 家の醸し出すビンテージな魅力が、ハイムの持つノスタルジックなパワーを反映しており、今日の撮影の雰囲気をうまく作り出している。「これ、この感じが私たちの育った場所。この世界が私が知っている全てだった」とアラナは言う。「この感じが大好きなのは、ここで同じように育った誰かを見つけたときにすぐに『友達になろう』という気持ちになれるから。世界中どこに行っても、このバレーの誰かを見つけることができる」。ヒット曲「Want You Back」のビデオの中で、姉妹は、ベントゥーラ大通りを自分たちの貸切のダンスフロアへと変え、ドラムを叩く振りをしながら、ビートに合わせて颯爽と歩いた。これを見れば、絆の深いコミュニティで育ったことが、このバンドの核となる重要な要素であるのは明らかだ。「ダイナーなら、Twain派それともDu-par’s派?みたいな?」とエスティが聞く。「で、あなたたちがパーティーの後に、よく行ったのはどっち?」

彼女たちは髪をセットしたりメイクアップしたりする最中も、携帯を回しあっては、ブルック・シールズ(Brooke Shields)やシンディ・クロフォード(Cindy Crawford)の懐かしい写真を一緒に見ている。姉妹はダニエルを「イェリー」と呼ぶことが多いのだが、そのダニエルによれば「90年代の大きく盛ったビッグヘアー」が最近では最高に魅力的なのだと言う。ちなみに、アラナとエスティはからかって、彼女がハイムのクリエイティブ・ディレクターなのだと言う。 美容関連のインスピレーションだけでなく、ハイムの音楽の大部分が、彼女たちが育った90年代に影響を受けているのは明らかだ。彼女たちが感銘を受けたのは、当時、次々と生まれたヒット曲や、MTVの『トータル・リクエスト・ライブ』全盛期の、デスティニーズ・チャイルド(Destiny’s Child)やブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)など、人気上昇中の女性アーティストによる歴史に残るミュージック・ビデオの数々だった。それから20年経っても、彼女たちの熱狂は変わっていない。「ブリトニーをかけるたびに、衝撃を受けるわ」とダニエルは言い、「今聞いてもまったく古びた感じがしない」とアラナも言い、ベガスで彼女のショーを観たことを思い出す。「エスティはいつも、プリンス(Prince)のライブを見たあと天にも昇る心地で会場を後にしたって言うんだけど、ブリトニーのライブを見たときに、その気持ちがよくわかったわ」

エスティは今日も夢見心地に見える。前日に32歳の誕生日を迎えた彼女は、彼氏からもらったお気に入りのプレゼントのプランターについて夢中で喋っている。事細かに話す彼女は有頂天になっているにも関わらず、ふくれっ面をする。「彼はすごくかわいいんだけど、そのせいで寂しくなるの」。音楽と違い、恋愛に関しては姉妹はかなり奥手で、必然的に、自分たちはあまり向いていないと考えている。「中学1年生のときのあのパーティーを絶対に忘れることはないわ」とアラナが思い出す。「友達の家の地下にいたんだけど、皆がカップルになっちゃったの。最後にそこに残ってた男の子は、私のことなんてこれっぽちも相手にしなかった。彼は学校でもいちばんモテてたんだけど、『俺、彼女いるから』って感じで無視されたの。周りでみんながイチャイチャしてる中、私は4時間くらい黙ってそこに座ってた。最高だったわ。私はそれはそれって、事実を受け入れて、前に進むの」。歯列矯正装置をつけて、冷めた性格で、今のZ世代の若者とは無縁に思える、痛々しいほどに不器用で恥ずかしい時期を経験した10代の頃を振り返って、ダニエルは、自分自身と姉妹を「遅咲き」なのだと表現する。とはいえ、彼女たちは一緒に経験を積んでいく心地よさにユーモアを見出していた。「私は今もまだ試行錯誤の途中よ」とエスティが言うと、アラナは冗談ぽく、「昨日の夜は実際にバーに行って、『私だってイチャイチャしてみたいと思って来たのに、どうして誰も私をナンパしないのよ!』って感じだったわ」と話す。

同じような家族の絆が、バンドのサウンドの至るところで輝いている。子どもの頃からずっと、インスピレーションの源になるような重要な瞬間を、彼女たちは共有してきた。母親が持っていた胸を締め付けられるようなジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)のレコードを聴いたときも、できる限り多くのライブに忍び込んだときも、彼女たちは一緒だった。「エスティはよくリロ・カイリー(Rilo Kiley)みたいなバンドを見にEchoに連れていってくれたわ。行く前になるとよく私たちに活を入れて、ライブハウスの用心棒の注意を外らせたものよ」とアラナは言う。「自分の周囲に妹を置いておきたい姉がいるって、すごく心強かったわ」

今でも、エスティはバンドの制作活動において、自分の「生まれながらの友人たち」の助けを頼りにしている。「私はずっと、音楽では『エモ』がすごく好きなの」と彼女は言う。「でも今は、私の書く歌詞があまりにエモな感じになると、ダニエルとアラナが歌詞に手を入れることになってるわ」。姉妹は互いの包み隠さぬアドバイスを頼りにしており、作品を極めることと真面目になりすぎないことの間で、バランスを取っている。「お互いに信頼し合ってるわ。妹たちが私の感情を傷つけるためにダメだと言っているんじゃないって、私もわかってる」とエスティは言う。「私たちは、できる限り良い曲を書こうとしているの」。いみじくも「Sister, Sister, Sister Tour」と題したツアーは、前座にラッパーのリゾ(Lizzo)を迎える予定なのだが、チケットは信じられないほどの速さで完売した。もはやバンドが自分たちの憧れをも超えてしまったことは明らかだ。だが、自分たちのツアーグッズをデザインし、舞台装置を着想するなか、彼女たちはまだ(かなり細部にわたって)夢を見ている。

昨日の夜は実際にバーに行って、「私だってイチャイチャしてみたいと思って来たのに、どうして誰も私をナンパしないのよ!」って感じだった

エスティの夢のリスト
・ロト チケット
・宝くじのスクラッチ
・イングリッシュ ブルドッグの子犬 4匹
・ドリトス クール ランチの特大パック
・クリスピー・クリーム・ドーナツ
・ディッピンドッツの機械

ダニエルの夢のリスト
・52年製ブラックガード・テレ
・1982年のLinnDrum LM-2
・ソックス
・735シルバーフェイス プリンストン リバーブ
・イン・アンド・アウト・バーガー

アラナの夢のリスト
・子犬のレスキュー パーティー
・スウェディッシュ・ フィッシュのグミの大きな袋
・レーザー光線とミラーボールでいっぱいの部屋で踊る
・果てしない量の異なる種類のビール
・100足のソックス

バンド結成からの10年以上、ちょうど姉妹の青年期にまたがる歳月を振り返っても、彼女たちのビジョンは一度たりとも阻まれることはなかった。ジャンルを型にはめたり、「スクールガール」のポップスターというステレオタイプが決まっている業界で前進を続けるなかで、3人は、自分たちの結束の強みを認めるようになった。「私たちは3人だったから、やりやすかったんだと思う。でも他の女の子たちは、誰の言うことも聞く必要ないんだと知って、安心してもらいたいわ」とダニエルは言う。「スタジオに入って見ず知らずのエンジニアに頼る必要なんてない。自分自身が作りたいものを作ればいいのよ」。この手のアドバイスは、名声とロックスターの夢を前に、実行してみて初めてそれほど自明ではないことがわかるものなのだろう。そして、バンドはこの精神に忠実だったからこそ、サンフェルナンド バレーから世界に向けて飛び出したのだ。「自分たちが何者かがわかるまで、時間がかかったわ」とアラナは言う。「私たち姉妹は、いわば要塞なのよ」

Erika Houle はSSENSE のエディターである。モントリオール在住

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Sarah Bahbah
  • スタイリング: Rebecca Grice
  • スタイリング アシスタント: Kat Garner
  • ヘア: Candice Birns
  • メイクアップ: Miriam Nichterlein
  • 制作: Emily Hillgren
  • 制作アシスタント: Tyler Cunningham