ターンスタイルは本物だ

バンド仲間のブレンダン・イェーツとフランツ・リヨンが、ハードコア、時空間を超越する『Time & Space』制作秘話を語る

  • インタビュー: Meredith Graves
  • 写真: Alexis Gross

Turnstile(ターンスタイル)が「Moon」のミュージック ビデオを撮影した映画館で、最後に映画の上映が行われたのは1980年代だった。「廃墟化していて、そこら中が釘だらけで、怪しい感じだった」とボーカルのブレンダン・イェーツ(Brendan Yates)は言う。「でも、中に入ると超カッコよかった。天井がめちゃくちゃ高くてさ。この場所を描きたいと思った」。そこで、バンドは友人のパウラに声をかけ、彼女が1800年代後期の建築特有の古風で格式張った映画館の雰囲気を和らげるような、懐かしさと未来感を兼ね備えた衣装をデザインした。

考えすぎだと思われるかもしれないが、私は、「Moon」のミュージック ビデオが、先日Roadrunner Recordsから出たターンススタイルの2枚目のフルアルバム、『Time & Space』で掘り下げられたアイデアを、視覚的に解釈したものなのではないかと考えていた。そのため、私の考えが当たらずとも遠からずだったと知り嬉しくなった。ビデオの撮影は超次元的な時間軸の中で行われた。すなわち、すべてが1日で行われたのだ。フランツはこれを完全に超自然的な雰囲気によるものだと考えていた。だが、ハードコアやパンクバンドによくあるように、Turnstileの場合も、世代と場所の交差するその場所で、魔法のようなことが実際に起きていた。

「俺はあの日は1日中、完全にぼーっとしてたんだ。なにしろ、これまでの活動の中で、初めて親父がブレンダンの親父さんに会った日だったからね。とにかく、そのせいでずっと夢みたいな気分だったんだ」とフランツは言う。

2人の父親はうまくいったのだろうか。

「すぐに意気投合して、俺とフランツのことで冗談を言ってたよ」とブレンダンは言う。「俺とフランツの50年後を見てるみたいで、シュールで奇妙だった」

そう、つまり「Moon」の最後に出ているのはフランツのお父さんなのだ。彼はとてもいい味を出している。

タイトルにある「時間(Time)」と「空間(Space)」は感情を表現する伝達手段でもある。それらが定義するものは膨大で無限だ。時間と空間は、ニュアンスを汲み取るのにすでに多くの時間をかけてきた人々の間で、あいまいな「言いたいことわかるよね」という身振りと共に使われるとき、最も大きな効果を発揮する。同じことがハードコアやパンクについても言えるだろう。これらのジャンルに精通している人たちにとっては、ちょっとした身振りだけで、その背後の重要なことまで伝わるのだ。

さらにメタファーを拡大して考えてみると、同じような無限の広がりは、Turnstileにも存在する。彼らのサウンドを定義するジャンルを挙げようとすると、典型的なハードコア - パンク - ラップ - ソウル - スラッシ ュメタル – サイケデリックなどきりがない。そしてジャンルを列挙しても、どういうファン層が彼らの音楽を聴いているかがわかるだけで、バンド自身については何もわからない。なので、こういう場合には、周りから文句を言われない範囲内で好きなように彼らを呼び、あとは音楽を楽しむのがいいだろう。

『Time & Space』の宣伝によりバンドが受けるであろう影響について、彼がどう考えているのかを尋ねると、「俺たちはいつも、何をするにも多様であろうとしてるんだ」とブレンダンは言う。これほど世間の目に触れるのは奇妙な感じだろうし、レビューの数々がDIYシーン出身のバンドのためのワームホールを作り出すかもしれない。だがTurnstileは、誰であろうが聴いてくれる人がいるだけで幸せなのだ。

「一緒に演奏するバンド、俺たちが演奏するライブ、俺たちが演奏するライブの規模、俺たちが身を置いている環境、どれも多様でありたい。音楽が聴きたいと思っている人なら誰にでも俺たちの音楽を聴かせられて、僕たちのいる世界に耳を傾けてもらうことができるって、すごく自然でいいと思う」

Daniel Fang 着用アイテム:トラウザーズ(Raw Research)

ハードコアにおいては痛々しいまでに稀な「来るものは拒まず」という姿勢によって、結果的に、彼らは多様であると同時に彼らを支えてくれる音楽シーンや都市に育てられている。実際、メンバー5人中4人がボルチモア周辺地域の出身だ。「フランツ以外はね。こいつはオハイオ出身だから」。ちなみに、これについてはインタビュー中に何度も聞かされたため、ある時点から、バンド経歴についてのギャグのようになっていた。

「フランツ以外は、ほとんどがボルチモアとワシントンDCの間の出身なんだ。俺たちにとって、若いの頃にライブに行くことは、ボルチモアとワシントンDCのふたつの街を行ったり来たりしながら、あれこれ試してみることだったと思う。これはフランツ以外の話ね、フランツはオハイオにいたから。ハードコアのライブをやらせてもらえる会場がどこにあるか、どこでみんなが新しいバンドを始めてるのか、みたいなことで左右されるんだけど。ざっと挙げるだけでも、Give(ギブ)やBig Mouth( ビッグ マウス)、Post Pin(ポスト ピン)、Next Step Up(ネクスト ステップ アップ)、Stout(スタウト)など、かっこよくて面白いバンドがいたからね。例えば、Trapped Under Ice(トラップト アンダー アイス)もそうだし」

背景を説明すると、Trapped Under Iceはボルチモアのハードコア シーンにおける放蕩息子のようなもので、記録に残るような正真正銘のハードな奴らの集まりだ。要は、バンドマンたちから尊敬を集めるようなバンドである。Trapped Under Iceが活動を始めたばかりの頃から、ブレンダンは彼らと交友関係にあり、支えてもらってもいた。そのため、ブレンダンは後にドラムとしてバンドにTrapped Under Iceに入り、昨年、2015年の再結成後に初めてリリースされたアルバム『Heatwave』にも参加している。

「メンバー全員に会ったのは、俺がもっとずっと若かった頃、Trapped Under Iceがバンドになる前なんだ。彼らは僕より年上で、俺たちのことをよく面倒みてくれてた」とブレンダンは説明する。「多様性、それから受容性。このふたつがTurnstileがバンドとして存在し、俺が現に音楽と関わってる理由かな。俺に向かって自己紹介してくる人たちがいる。そしてライブの後も一緒につるんだり、ジャム セッションを一緒にやろうっていう人たちがいるから。何よりもスゴイと思うのは、今俺の人生でやってることのほとんどは、そうやって道が拓けたってことだ」

バンドの話だろうが、生まれつきの痣の話だろうが、「成長」や「変化」という言葉で表現されるとき、そこにはある種の恐怖感が漂う。アルバムのリリースの間、人にはそわそわして魔が差すことがあり、知らぬ間にオルタナティブ カントリーになってしまったりするものだ。だがアルバムとしての『Time & Space』は、サウンド自体は大きく変化しておらず、むしろかつてないほどにTurnstileらしい音になっている。「早い曲はより早く、ゆっくりな曲はよりスローに。このアルバムで、おそらく今までの中でいちばんゆっくりな曲をやった。それにメロディーも増えた。これまでの要素すべてを足がかりにして、何もかもが、とにかく拡がった感じ」

フランツはその点に同意し、さらに詳しく説明する。

「俺たちのバンドの進歩のもうひとつ重大な要因は、ぶっちゃけ、ディテールに対するこだわりだ。ブレンダンは自分では決して言わないけど、こいつはヤバイ天才なんだよ」と彼は言う。「こいつは、意識的であれ無意識であれ、常に自分のやりたいことの2歩先について考えてる。俺たちが演奏していること、演奏の仕方、ここの楽器の鳴らし方がどうなるか、どんなケーブルを使うかに至るまで、あらゆることすべてに注意を払ってるんだ」

こうした、音楽が集中や注意が必要なアクティブな実践であるという考えは、Turnstileと観客との関係にまで浸透している。人々が新しいアルバムにどう反応するかを仮定し、くよくよ悩んで時間を無駄にするよりも、バンドは、人々がライブで確実に気に入ってくれる音楽を作ることに集中する。これはすべて、強い共感という土台に基づいているように見える。彼らは自然な方法で歌詞を書き、100%以上の全力でライブ演奏をしたときに気持ちいい曲を作る。自分たちにとって気持ちのいい感情やサウンドのどれが、観客にとっても共感できるものなのか、彼らは知っている。

「曲に対して他の人がどう反応するかを知るのは難しい」とフランツは話す。「でも、俺が確実に、何よりもわかっているのは、怖いと思っていても、ギターをプラグに繋いだ瞬間に、その日の中でいちばん自分に自信が持てるようになるってこと。それに、俺たち6人全員がステージに出て行き、楽器をプラグにつないで、持てる限りの全力を出して演奏するってこともわかってる。観客が俺たちをすでに何百万回見たことがあろうが、新曲を聞かせるのであろうが、俺た120%の力を出し切って演奏をしてる俺たちの感情は、きっと観客に届く」

「正直に言うと」とフランツが口を開く。ちなみに正直なのが彼のいちばんの取り柄である。「俺は、いちばん気に入ってる5人の仲間と一緒にいて、新しいことを色々やるのが、ただ楽しいんだ。新曲を演奏して、俺のテクニックを磨いてさ。わかんないけど。俺、訳がわからないこと言ってるよな。ドキドキするのとワクワクする感情が混ざってて、でも、自分の横にいる全員、ひとりひとりを信じてるから自信もあるような。俺はただもっと上手くなりたいんだ。みんな一緒に上達して、進歩したい。これが、主に俺が期待してることなんだよ。仲間を熱狂させるのが重要なんだ。友達がみんないい気分にならないと、楽しむのなんて無理だろ。俺たちにあるのは自分たちだけなんだから」

Brady Ebert 着用アイテム:シャツ(AMI Alexandre Mattiussi)

Meredith Gravesはニューヨーク週北部で活躍するミュージシャン兼ジャーナリスト。元Perfect Pussyのボーカルで、現在MTV ニュースのホストを務める

  • インタビュー: Meredith Graves
  • 写真: Alexis Gross
  • スタイリング: Amanda Merten
  • セット デザイン: Rose Johansen
  • 動画: Rose Johansen
  • イラストレーション: Collin Fletcher
  • 制作アシスタント: Story Beeson