ウィズ・カリファは今もひたむきに進む
ラッパーとして、父として、愛しきマリファナ愛用者として、ムエタイの練習と新作アルバムの発表を語る
- 文: Judnick Mayard
- 写真: Emman Montalvan

ウィズ・カリファ(Wiz Khalifa)は今、ドレッドのロックスをツイストしてもらっている。このプロセスでは、ふたりの熟練の黒人スタイリストが作業する間、1時間程度、椅子にじっと座っている必要がある。数年前の彼の髪の毛は、6割の若いラッパーがしているほど流行ったように、ディップダイで明るく金髪に染められていた。だが今は自然な茶色だ。この選択は無意識かもしれないが、見た目は、ライフスタイルに合わせて変わるとも言える。昨年の秋、この大物ラッパーは30歳を迎えた。私が30歳はどんな感じかと尋ねると、彼は、全ての物事に対するのと同じさりげなさで、こう答える。「俺にとっては、スムーズな移行期間という感じだな。[過去の]何もかも消せたらいいなって思うよ。新しい人生ってやつ。生まれ変わった気分だよ」
この7月、カリファはニュー アルバム『Rolling Papers 2』をリリースする予定だ。これは彼にとって2014年以来久々の、通算6枚目のLP盤となる。また今年は、彼が著名なラッパーとしての評価を得てから12年目でもある。かれこれ人生の半分は、自分の理想の仕事を続けているわけだ。2000年代初頭、名声を求めてピッツバーグを離れたキャメロン・トーマズ(Cameron Thomaz)は、痩せこけた大麻常習者だったが、ラップと持ち前の明るさで、スターへの道を上りつめてきた。だが、私の目の前に座っているウィズ・カリファは、ただ肉体的に以前より重さをまして見えるだけでない。最近、ムエタイのトレーニングによって増した体重について、「小柄でいるのに疲れたんだ」と言う。ついでに言えば、彼は離婚も経験し、息子セバスチャン(Sebastian)を元妻アンバー・ローズ(Amber Rose)と共に育てている。

Wiz Khalifa 着用アイテム:アンダーウェア(Gosha Rubchinskiy)、トラウザーズ(Y/Project)

着用アイテム:フーディ(Off-White)

着用アイテム:シャツ(Calvin Klein 205W39NYC)
では一体、彼の内面にどのような変化があったのだろうか。「俺は前よりきちんとするようになって、野蛮さがなくなったと思う。野蛮でなくなったっていうのは、ラップをやっていてツアーを回っていると、普通の生活なんてできないからな。俺がやってるようなことを仕事にしてる人間には、それを止めるのは難しい。俺は、普通に友だちと遊ぶような、まともな子ども時代を過ごしたことはないんだ。いつも働いて、成功を目指して、なんとかこれでやってけるよう頑張ってきた。今になって、ようやく普通の日常生活を送るようになった」。このようなライフ スタイルになったのは、家庭生活のためでもある。「俺の息子は今5歳なんだ。だからあいつと一緒に時間を過ごすことは、他のことよりよっぽど地に足がついた時間の過ごし方なんだ。野獣モードと品行方正モードの自分の間で、強制的にバランスをとってるってとこかな」

着用アイテム:フーディ(Off-White)
彼のアルバム発売日はInstagramで、彼がボーリングをしている動画と「俺は何をやらせてもうまいんだ!アルバムが7月13日に出るよ」というコメント付きの投稿で告知された。実際のウィズも、このような自信満々なところが魅力のひとつだ。彼は自分のアルバムの出来を「伝説的。でも俺がやることは何でも伝説的だけどな」と表現する。彼の自意識が揺るぎないものに見える一方で、そこに傲慢さは一切感じられない。彼にはフェイクだとか演じているという印象が全くないのだ。ウィズにとっては、最新のフルアルバムは、現在のマインドセットに適ったものだ。支持されて、保証もあるが、それでもなお新たなものを渇望している。私が聞いたトラックのいくつかはコンパクトで、彼の自信たっぷりなスタイルで溢れていたが、ディストーションをかけられた声は、時にそれが彼の声であることを忘れてしまいそうになる。グッチ・メイン(Gucci Mane)をフィーチャーした代表曲の「Real Rich」はたったの2分余りだ。ウィズの歌のテンポは、最近多用されすぎる「ミーゴズ(Migos)風」の三連符とは違う。自由なフロウで、その注意は語りやメロディーの質感の方に向けられている。彼はこれを形式への回帰だと主張する。「最初にラップを始めたとき、俺は自分のラップが何か本当に[サウンドとして]流行るものにしたかった。この世界の今この瞬間に、自分が何者なのかっていうのを確立したいと思ってたから」
20代に犯した過ちや障害は、その後、成熟していく中でGPSのような役割を果たす。それは単に、地雷を策定してくれるだけでなく、自分は地雷を生き延びて、次も生き延びるはずだということを思い出させてくれるのだ。ウィズの20代は、ロックスターのキャリアのすべてが詰まっていた。レコード会社2社との契約、5枚のアルバムのリリース、10回にわたりグラミー賞ノミネートされ、音楽史上最もゴールデングローブ賞にもノミネートされた。2015年に大ヒットした楽曲「See You Again」のパフォーマンスをいずれかの国で調べてみれば、私の意味することはわかるだろう。
ここ数年は、批評家たちは態度がおざなりだと言ってウィズを批判しているが、彼のファンは相変わらず、彼の曲になぞらえて言えば「テイラーギャングか死か」を貫いている。彼はどのようにして、土台となるファンの心を掴んでいるのだろうか。「皆が俺の音楽に魅力を感じて、俺の音楽を好きでいてくれるのはわかる。でも、あいつらは俺の人となりも同様に好きなだけだよ。そしてその点については、俺は本当にブレないんだ。俺はいつでもずっと俺自身。皆が求めるものが、車とかチェーンじゃなくて俺自身だという点は、本当に幸運だと思ってる。メッセージを伝え続けて、俺自身が向上していく限りは、皆それを喜んでくれるわけだから」
とはいえ、ラッパーの多くは、ますます「ただのアーティスト」という肩書きから離れつつあり、誰もが追加の肩書きを欲しがっている。そうでなくても、少なくとも、自分たちはただラップをするだけとは考えていない。ウィズは俳優業に進出し、ファッション業界でも注目を浴びてはいるが、一度もラッパーという職業名を変えたことはない。理由を尋ねると、彼はクスクスと笑う。「俺、本当にラップが好きなんだ。なんていうか、ラップ ファンなんだよ。ああいう奴らは、ラップ ファンじゃない。あいつらは、偉大なラップや伝説のラップを知らないんだ。ああいうスゴイのを聴くと、乗っ取られてしまうもんだから。俺は人生を丸ごと乗っ取られちまって、二度とラップから離れられなくなった。俺のペルソナが皆にウケてるのかもしれないし、俺にはロックスターのオーラがあるのかもしれないし、俺の態度もそう見えるかもしれない。でも俺が本当に気にかけてるのは、リリックとプロダクションとビートとアートワークと、要は本物のラップ音楽になるもの全部でしかない。それが俺たちのやってることだよ」
最近の彼の地に足のついたライフスタイルによって、ウィズは自身のラップに再び立ち返った。彼は常にノートを持ち運んでいる。「目が覚めたらラップを書くんだ」と言い、マリファナを吸うと、特に夢を覚えていられないのだと話す。そして、若返って集中力を取り戻したような気分で、自分が本当に好きな歌を書いているのだと言う。「俺は今インスピレーションに溢れてるんだ。何もかもが音楽の糧になるし、何も逃したくない。ただそこに座って、気分に浸って、ビートを聴いて、よし、このコンセプトは何だろうって考える。ただ『OK、これは難しいビートだから、練習するぞ』っていうのじゃなくてね」。彼はウータン・クラン(Wu-Tang Clan)から、スリー・6・マフィア(Three 6 Mafia)、ピンク・フロイド(Pink Floyd)、ジェームス・ブラウン(James Brown)まで、お気に入りのミュージシャンたちのドキュメンタリーや昔のインタビューを観ている。これらは彼にとっては新鮮なものではなく、もともと彼にインスピレーションを与えていたものの延長線上にあるにすぎない。
ウィズ・カリファは業界の愛しきマリファナ常習者だ。私は、自分の役割にうんざりすることはないかと尋ねる。「フィフティー フィフティーかな。本当に俺という人間を知るようになって、自分自身や自分がやってることの違った側面がわかってくることもある。俺の吸うたくさんのマリファナが、皆は本当に気になるみたいだけど、でもその皮を剥がして、俺の音楽を聴いて、俺の言うことを聞いて、俺の家族との向き合い方や、最初からずっと同じ仲間とやってきてることを見れば、マリファナだけじゃなく、それ以外のことにも関心を持つようになるよ」。彼はジョイントを巻きながら、父親のような口ぶりで話す。
ウィズは長年、大麻の合法化と非犯罪化を支持しており、彼が言うところの「娯楽化」を主張してきた。「皆にマリファナの良い面を見せてこられたし、俺にはプラスだよ。ヒッピーだけのものじゃなくて、もっとビジネスに関わる、広く受け入れられるものにするんだ。俺がマリファナを吸ってるのを知った上で、俺がちゃんとはっきりと発音できてるのを見たら、『おお、この野郎はちゃんと話せるのか』って、あらゆる先入観が自動的に取り払われるだろ」。マリファナの流行は、似たようなことをしたせいで不当に罰を受けてきた人たちにとっては、見ていて不安になるものかもしれない。だが、知識を共有することは、社会全体の利益に繋がるとウィズは指摘する。「俺が子どもを学校に迎えに行くと、他の親に『もうワインは飲む気がしないんだよね。寝る前にちょっとだけジョイントを吸いたいんだけど、どうすればいい?』って聞かれるんだ。俺は『 大丈夫、俺に任せとけ』って感じだよ。テレビとかでも見るだろ。お堅い奥様って感じの母親が、マリファナ吸いたさに、刺青のラッパーと出会うみたいなやつ。ああいうのが現実世界で起きてるし、しかも容認されてる。ますます多くの人がマリファナから逃げ出すんじゃなくて、逆にマリファナに向かって行ってるんだ」。彼は自分の息子の前でマリファナを吸うことに対してもオープンだ。「俺は息子には、『父さんはジョイント吸いに行ってくるからな』って言うよ」
見た目について言えば、この細身のラッパーはSaint Laurent の白いスーパー スキニー ジーンズにかなりの痩せ型として知られている。スリムなロックスター パンツにファーを合わせたアルバム『O.N.I.F.C.』のカバーは、誰もが覚えているはずだ。だが最近になって、彼は筋肉をつけた。「時がきた感じがしただけだよ」と彼は言う。64キロ弱だったウィズは、あっという間に14キロ近く体重を増やし、ムエタイを始めた。 彼は自分の新しい肉体を気に入っている。「前と違って、今は体の均整が取れてるから、服を着るときに体型を考えるようになった。太ももの辺りが緩すぎるパンツはダメとか。脚を見せたいからな。サイズも29から34になって選択肢が増えたよ」
前と違って、今は体の均整が取れてるから、服を着るときに体型を考えるようになった


着用アイテム:フーディ(Off-White)
数年前に私がウィズに会ったとき、彼は短いツアーの最中で、他のミュージシャンと一緒にヘッドライナーを務めていた。最初の出会いは、かなり意外なものだった。とはいえ、私が自己紹介する前から彼は私の名前を知っていたのだが。それは誠実で心温まる出会いだった。ハグもしたのを覚えている。いくつかのライブの後に、彼の親戚の女性たちにも会った。彼と同じように、背が高くて面白い、騒がしい叔母さんたちだった。そのとき私は、ウィズの自我が、この常に身近にいる一族に由来することに気づいた。彼は自分の住む世界から飛び出したのかもしれないが、そのときに、彼は自分の身内、そして自分の基準も、一緒に外に連れ出したのだ。ウィズは、自分はそのコミュニティの一員だと話す。そして今、彼はそのコミュニティーに対する思いやりを、自分の仕事にまで広げている。彼は、成功をつかむために必死になっていた頃と同じ真剣さで、これからも自分はこの考えを変えるつもりはないと言う。違うのは、そこにあらゆる高みを経験した人の持つ穏やかさがあることだ。
Judnick Mayardはロサンゼルス在住のシナリオライター兼プロデューサー
- 文: Judnick Mayard
- 写真: Emman Montalvan
- 制作: Rebecca Hearn
- スタイリング: Lauren Matos
- 動画: Lidia Nikinova
- ヘア: Tracy Love