YGの処世術
偽りの時代にホンモノであることをYGが語る
- インタビュー: Kevin Pires
- 写真: Daniel Regan

一体、リアリティはどうなってしまったのだろう? デジタル化した複製がまかり通る時代には、文化の歴史と遺物の流用が大衆的ペルソナを構成する要素になる。だが、デビュー アルバム『My Krazy Life』と2作目のスタジオ アルバム『Still Brazy』で込み入った人間臭いストーリーを語るYGは、経験を偽造することはできるが捏造はできない世界で、ホンモノが元手になることを熟知している。
高級ブランドをスポンサーにして、借り物の服を着てパーティーに行き、あちこちのオンライン コミュニティに出入りして、実際にはまだ手に入らない暮らしを、さもそれらしく装える時代に、真実の持つ価値は測り知れない。ラップから執筆、演技にいたるまで、YGは自分が暮らす世界に消し去ることのできない彼自身の精神を浸透させる。自分のストーリーを語ることが職業になった過程には、テクノロジー時代の吟遊詩人とも言うべき、ほとんど古典的な何かがある。
YGの実像は、韻を踏んだ「Young Gangsta - ヤング ギャングスタ」という名前に始まる。この名前が今年27歳の魚座アーティストを集約していると思う人もいるかもしれない。しかし、YGのアイデンティティは単純明快ではない。コンプトンで生まれ育った過去は、異質なるものに変化した。音楽界と映画界のインフルエンサーとなったのに加え、世界的なスターの座に着き、父親にもなった。YGがやることは、すべて、YGフィルターにかけられる。対話していると、YGにとってはそれがとても自然なことであり、彼は何かを創造せずにはいられないことを痛感する。
ケビン・ピレス(Kevin Pires)が、偽りの時代にホンモノであることを、YGと語った。
ケビン・ピレス(Kevin Pires)
YG
ケビン・ピレス:最近「一流かゲットーか、そのいずれかだ。それ以外は気に食わねぇ」とツイートしてたね。あれはどういう意味なのかな?
YG:オレは、自分の出身と自分が代表してるものが大切だって、わかってるんだ。世界中の人間に影響を及ぼしてるファッションのインフルエンサーとか業界人は、ゲットーやストリートからインスピレーションを受けてる。オレはそのゲットーとストリートから出てきた人間だから、そこらがどういう場所かを教えてるだけさ。オレはゲットーやストリートで何が起きてるか知ってる。ゲットーを知ってるんだ。

「フッド グラミー(Hood Grammy)賞」をやりたいと言ったのは、そういう反動だった?
オレがグラミー賞をやるとしたら、ヒップホップ カルチャーに関する限り、ふさわしい人間が受賞する。ふさわしいアーティスト、ふさわしい音楽。ふさわしいやつらに見返りを与える。スターだとかセレブだとかは関係ない。とにかく、実際に何かを動かしてるカルチャーと人間を表彰するんだ。そもそも、グラミー賞は音楽のためのはずだぜ。
『Blame It On the Streets』の脚本も書いたし、今年は『White Boy Rick』の封切りが予定されてるよね。音楽と同じように、映画も君の頭を占めてるの?
昔まだガキだった頃、オレとダチはしょっちゅう、映画や撮影や監督、若い世代の新しいLAを見せることを話してたんだ。だから、音楽が軌道に乗り始めて、ようやく話だけだったことを本当にやれるようになった。

撮影と録音の違うところは?
バイブが全然違う。アルバムを作るときは、自分のペースでやりゃいいんだ。映画だと、朝の5時55分にセット入りとか、まったく大違いさ。ミュージック ビデオの場合は同じことを何回も何回も繰り返すけど、映画の場合は、 たったひとつの撮影に丸半日かかったりする。
ミュージシャンとか俳優じゃなくて、アーティストと呼んでくれと念を押してるよね。どうして区別することが大切なのかな?
先ず何より、オレはキャリアにこだわる人間なんだ。オレは何かを創りたい、それだけのことだ。オレが活動を続けていられるのも、ひとつにはそれがあるから。「オレには本当にこれができるか?」って、自分に訊くんだ。カネを貰うからじゃなくてな。ま、カネを貰えるぶんには、ありがたく頂戴するけどよ。オレが何かをやるとしたら、それをやるのが好きだから。オレには、年をとるまでにやっておきたいことがあるんだ。それがオレを進ませ続ける。世界中にオレのやることを見せてやりたいね。
その目標のひとつは、君が知ってるLAを見せることだけど、それはどのLA?
オレのLAはホンモノのLAさ。LAのことを話すと「ああ、LAは好きだ」って言いながら、でも「LAは好きじゃない」と言い始めるやつがいる。「なんでLAが好きじゃないんだ?」って訊くと、LAのやつらは気取ってて、一体何様のつもりだって言うんだ。だから「それは本当のLAじゃないぜ。お前が言ってるのは、ハリウッドや金持ちが住んでるLAだ。オレが育ったところじゃ、お高くとまってるやつなんかいないからな」て言ってやるんだ。オレはもうひとつのLAの代表さ。ホンモノのLAの代表。ストリート、ゲットー、騒々しいパーティ カルチャー、そういうものすべての代表なんだ。そういう全部を、食って、寝て、喋って、呼吸して、クソをする。


若者向きのテレビ局「バイスランド」で放映された『YGとセラピスト』は、君自身が抱える精神の問題を包み隠さず言葉にしたということで、とても評判が良かった。自分の闘いを公にすることが、どうして重要だった?
成功している今だからこそ、オレの人生をそのまま見せるべきだって言われたんだ。とにかくいろんなことが起きてた上に、アルバムが大ヒットしてスターみたいになったとき、「セラピーを受けて、それを記録して、発表すべきだ」と言われた。だから、そうすることに決めて、実行に移した。オレたちは誰でも、自分で自分の夢を決めなきゃいけないんだ。アルバムかオレの生活のどっちかでも、あの時あの状況じゃなかったら、セラピーにも行かなかったし、アルバムも作らなかったさ。だけど、あれがオレの生活だったし、あれが現実だった。オレは暗い場所にいて、そのことだけをアルバムで語った。関心を買うためにやったわけじゃない。
デフ ジャム(Def Jam)と契約を結ぶ前から、君にはフォロワー集団がついていたね。近頃は、先ず最初にデジタルの世界でセンセーションを作り出すことが、アーティストに欠かせないけど、どうやって早い時期からソーシャル メディアのフォローを作り出したんだい?
オレは人と違ってたから。オレの生活はまるっきりそのままがパーティーだった。ウェストコースト出身で、オレと同じ世代で、YGを知らないやつはいなかった。あれはオレたちがストリートでやってたこと、オレが音楽でやってたこと、オレたちのスタイル、オレたちの活動と関係があったんだ。今とまったく同じさ。 飲んだくれて、ずぼらで、ウィードを吸いまくって、クスリをやって...今の若い奴らがやってるのと同じことを、オレたちもその昔やってたわけだ。ただあの頃は、スナップチャットやインスタグラムはなかったけどな。マイスペースはあった。ユーチューブも始まったばっかり。オレのテーマはいつだって若さだ。オレは若いし、ほかの若い奴らと同じように生きてる。昔も、同じような歳の若い連中がやるようなことをやってたさ。ちゃらんぽらんで、吸って、飲んで。仲間でつるんで、バカ騒ぎして、無茶苦茶やって。誰とでも寝て、喧嘩して、ピストルをぶっ放して。ホンモノの金欠の若造の生活だ。
オレは人と違ってたから。ウェストコースト出身で、オレと同じ世代で、YGを知らないやつはいなかった
ファッションに関しては、どう考えてる? 自分のラインを立ち上げる気になった経緯は?
オレとオレのダチは、いつだって格好つけてたけど、よそのやつらとはスタイルが違ってたんだ。あの頃は05年、06年、07年当時のスタイルはクールじゃなかったけど、オレはそういうのばっかり着てた。オレが育った場所じゃ誰もスキニー ジーンズなんか履かんかったけど、オレは履いてた。あと、 Vansとかな。街中のやつらがクールだと思ってやり始める前に、もうやってたんだ。オレのお袋はゲットー風ゴージャスだったぜ。いつだってファッションに凝ってたから、オレにもその血が流れてるんだな。どいつもオレの後についてきて、真似したがる。だから、ほかのデザイナーが作る服に金をつぎこんで、そいつらを宣伝してやって、金儲けさせてやるよりも、自分のブランドとデザインにエネルギーを注ぎ込んで、それを売ろうと思った。

君自身が録音すればYGの作品になるけど、ほかのアーティストの歌の場合は、どうやってYGの足跡を残す? コラボレーションについては、どう考えてる?
オレたちはみんな一緒にひとつのことに取り組んでるアーティストだから、互いに学ぶところがある。相手のバイブをキャッチして、一緒に飲んで、ウィードをふかして、ガールズに電話する。一緒に楽しむのさ。今の瞬間を楽しんで過ごすんだ。共通の体験に飛び込んで、互いを感じる。オレたちだって、いつかは歳をとるんだからな。だから、コラボはフレンドリーだ。だけど、競争心もある。例えば、昨日の夜はタイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)が同じスタジオに入ってた。4曲か5曲やった後、あいつがフックとバースをやったんだけど、それが超よかった。オレはレコーディング ルームの外で聴いてて、「すげえな。見てろよ、オレの番になったら、もっとすごいのをぶちかましてやるからな」と思ったさ。そのとおり、その後の録音で、もっとすごいのを聞かせてやった。ダチ同士の競争だ。「そうくるんなら、オレだってやってやろうじゃないか」ってこと。そうやって上手くなっていくのさ。
YGの今後は?
蒔くべき種は蒔いたからな。あとは育つのを見るときだ。ここ1、2年は身の回りを片付けてんだ。業界に入って、いろいろゴタゴタに巻き込まれたけど、成功したら、ゴタゴタを片付けるしかないとわかった。何かが間違ってるとわかったら、やることをやって、間違いを正すしかにない。オレは、こうと決めたらやり通す。振り返ったりしない。

Kevin Piresはロサンゼルスを拠点に活動するライター兼クリエイティブ ストラテジストである
- インタビュー: Kevin Pires
- 写真: Daniel Regan
- スタイリング: Imogene Barron
- 制作: Rebecca Hearn