ナタリー・フランツが メイクで変える現実世界
メイクアップ アーティスト兼起業家が時差ぼけと変身を語る
- インタビュー: Bianca Heuser
- 写真: Karolina Wallace (Natalie Franz Portrait Images)
- 写真: Lado Alexi (Product Images)

顔を変貌させることにナタリー・フランツ(Natalie Franz)が取り付かれた始めた時期は、幼少期に遡る。フランツはウクライナで育ち、キエフの劇場の舞台裏にあった母親の衣裳部屋で、何時間も過ごした。母はバレー ダンサーで、様々な役を連日舞台上で演じており、フランツが幻想や魔法に魅了されるきっかけを作った。メイクアップ アーティストとして、フランツはラインや影を使って顔の輪郭を変えることで、なりたい顔を作るアートのプロフェッショナルだ。
フランツをはじめとする才能ある人材が開花したメイクアップ産業は、ケヴィン・オークイン(Kevyn Aucoin)によるメイクを収めた1999年発行の画期的な作品集「Making Faces」と共に、メインストリームに躍り出た。そして、それ以降、セレブリティや一般人を問わず、技術改良が可能にしたフェイス チューニングの流行へと変容してきた。
メイクアップ産業の技術進歩と共に歩んできたフランツは、音楽業界やモデル業界で15年以上のキャリアを積み、トキオ・ホテル(Tokio Hotel)やレディ・ガガ(Lady Gaga)といったパフォーマーたちのメイクを手がける一方で、業界をとりまく劇的変化に流されることなく研鑽を積んできた。彼女は今、自分のプロダクト ラインをもち、現実世界の自分の顔を修正できる小さなテープ状シリコンを売り出している。アプリをダウンロードする必要はない。しかし、商品名にも入っている「魔法」だけで、美しい肌が手に入るわけでもない。フランツは、美しい肌が丁寧なスキンケアによるものだということを知っている。もっとも優れたファンデーションは、水分補給だ。骨格にそってシャドーを入れるメイクで、何でも全て対応できるわけでないのだ。ビアンカ・ハウザー(Bianca Heuser)が、フランツにメイクアップ業界でキャリアをスタートさせた経緯や、昔ながらのフェイス マッサージがもたらす絶大な効果について聞いた。
ビアンカ・ハウザー(Bianca Heuser)
ナタリー・フランツ(Natalie Franz)
ビアンカ・ハウザー:なぜメイクアップ アーティストになろうと思ったのですか?
ナタリー・フランツ:私はキエフで育って、母は、バレー ダンサーだったの。彼女は、ほぼ一日おきに舞台に立っていたから、子供の頃はよく、母や他の出演者たちがメイクをして役柄に変身していく舞台準備の様子を見ていたわ。メイクアップそのものや、メイクが人を変えられる力の大きさは、小さい頃から私の生活の中に顕著に存在したの。17歳でドイツに来たとき、それが職業として存在するということを知ったわ。劇場だけでなく、ミュージシャンとか、広告とか、ビデオでもメイクが仕事として必要とされるってことを。俳優の友達が、あるメイク アップ アーティストに私を紹介してくれて、彼女のアシスタントになった。最初の仕事は21の時で、今年、40歳になるってところ。当初はメイク アップ アーティストが職業として出始めたばかりだったから、しょっちゅう自分の仕事が何かを人に説明しなきゃならなかった。
メイクアップという職業自体、まだ歴史が浅いですからね。
本当、そうね。それから、ジュニア アーティストとしてエージェンシーに採用されて、そこで小規模な仕事をたくさんやったわ。最初の仕事は、結構笑える話なのよ。私のエージェントが年配の人で、音楽業界をあまりよく知らなかったの。彼女が電話してきてこう言ったわ。「ナタリー、おめでとう。あなたの初仕事が決まったわ。あるバンドが、ケルンにくるんだけど、彼らのコンサートとインタビュー取材を受けるときのメイクをやってほしいの。バンド名を言うから、メモしてくれる?R、ドット、E、ドット、M」。私はそれをメモして、最初は何のことだかわかってなかったの。その後、車の中でラジオを聴いていたら、「明日、ケルン大聖堂で行われるR.E.Mのコンサートは300万人を動員する予定です」って言うから、「あれ? ちょっと待って」と思って。それでバッグの中からさっきのメモを取り出したら、もちろんR.E.Mって書いてあったわけ。それが私の最初の仕事よ。
メイクアップが
職業として始まった
ばかりだったから、
しょっちゅう
自分の仕事が何かを
人に説明しなきゃ
ならなかった

自分自身がファンだった人のメイクを手がけたことはありますか?
ほら、グウェン・ステファニー(Gwen Stefani)と結婚してたけど、浮気した人。彼の名前、何だっけ?
ギャビン・ロスデイル(Gavin Rossdale)。
そう、彼! ロックバンドBushの。彼はすごく格好良かったわ。私が24歳の時、メイクをしたの。それから、レディ・ガガとも一度仕事したことがあるけど、そこまでファンというわけではなかった。自分がもともと大ファンだった人のメイクをすることは、今、たまにあるわ。最近だと、ジェニファー・コネリー(Jennifer Connelly)。彼女は本当に素敵よ。そういう仕事は、喜んで受けるわ。メイクアップ アーティストとしての活力になるから。
自分のプロダクト ラインをやるというアイデアは、前から温めていたんですか。
唯一頭にあったのは、息子がだんだん大きくなってきて、もう以前のように仕事で家を空けることは減らしたいということだったの。2010年にトキオ・ホテルとジャパン ツアーで東京に滞在中、何か新しいものを発見できるかと思って香水のお店に立ち寄った時、例のテープ状の商品を見たのよ。以前から私の目は右よりも左が若干小さくて、少しだけ非対称という問題があったの。特に疲れている時とか、時差ぼけになると、なおさらそう。それで、その香水店の店員がそのテープを私の左目のまぶたに貼ってみたら、一瞬で左右の目の大きさが揃ったの。まるで別人になったみたいで、すごく興奮したわ。18年もメイクアップアーティストをやってきて、何でも知っていると思っていたけど、実はそうじゃなかったのね。在庫にあった全部のテープを買い取って、モデルから政治家から俳優にまで、あらゆる仕事の場面で使ったわ。時には彼らのアシスタントが後から追いかけてきて、「さっき使ったテープはどこで手に入りますか。すごく良い商品ですね」と言ってくることもあった。自分で色々と調べてみたら、それに特化したマーケットが特にないこと、誰もその存在すら知らないことがわかったの。信じられなかった。だってアジアではそのテープは脱脂綿くらい、普通に使われているものだったから。会社を立ち上げるのに、ライセンスや、調査や、皮膚テストやらで4、5年かかったけど、今では19カ国で販売しているわ。
近年、業界でおきていることで、何か気づいたことはありますか。テクノロジー革新は、あなたの仕事にどのような影響を与えているのでしょうか。
Retinaディスプレイやハイビジョン テレビの登場で、業界全体として、メイクの仕上がりに一段ときめ細かさを求めたり、色々なものを目立たなくさせるにはどうしたらいいかに重点を置くようになったわ。毛穴を最小限に小さくしたり、しわを目立たなくしたり。だから、もちろん色々な商品を試して、最新の情報を知ったうえで、自分が気に入った商品を使っているのよ。
こういった最近の流れには、わくわくしますか。
3Dプリンターもそうだけど、たいていの技術開発にはわくわくするわ。3Dプリンターを使って美容関連製品の製造に活用しようとしている会社もあるのよ。近い将来、誰でも自宅でメイクアップ用品をプリントできる日が来るかもしれない。自分にぴったりの、自分だけにカスタマイズされたアイシャドーが簡単に作れるってことね。


読者に何か「これは効く」という特別なものを教えていただけませんか。
それは人それぞれね。でも、顔マッサージは、どんな時でも効くわよ。肌つやが良くなるし、顔全体をリフトアップできるの。女性なら誰でもうれしいことだと思うわ。
例えば、気分がさえなかったり、ストレスを感じているときは、傍からみても一目瞭然です。髪の感じとか見れば、すぐわかりますよね。でも、リラックス効果のあるマッサージをすれば、見た目にすぐ表れるくらい肌の調子が良くなるというのはいいですね。
その通りよ。上から下へ、顔から首の横を通っているリンパ液を流してあげるのも重要なの。その流れに沿ってマッサージすることで、手軽に顔にデトックス効果を与えることができるし、むくみもとれて効果抜群よ。肌を強く押したり、ゴシゴシこする必要もないの。ただ正しい場所を押してあげるだけ。
往々にして、人は外見と精神的健康が連動していることを忘れがちです。
私もそう思う。でも、それは国によりけりね。多くのロシア人女性は、確実にそのことを意識しているわ。私の祖母は95歳だけど、毎晩顔のタッピング マッサージを欠かさないの。おかげで全然95歳には見えないくらい、若々しいわよ。彼女は昔ながらのやり方を続けているけど、多くのアジア人女性は、朝晩やっている彼女たちなりのお手入れのコツがあると思う。実際、少しずつでも、肌のマッサージをして、ナイト クリームを使って、しかもそれを一生のうち毎晩やったら、肌には絶大な効果があるわ。肌がたるまず、ハリが保てるの。文化的な違いも大きいけど、その国にはその国の女性に合ったお肌の手入れのコツがあるものよ。
以前から私の目は
右よりも左が
若干小さくて、
少しだけ非対称
という問題があったの



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- 写真: Karolina Wallace (Natalie Franz Portrait Images)
- 写真: Lado Alexi (Product Images)