Alasdair McLellanが見せるPalace Skateboardsの素顔

Palaceの共同創業者Lev TanjuとMcLellanによる展示にみる、瞬く間にハイブロー カルチャーへ駆け上ったブランドの姿

  • 文: Gary Warnett
  • 画像提供: Institute of Contemporary Arts

イギリスのスケートカルチャー史を記録したWinstan Whitter制作のドキュメンタリー映画『Rollin’ Through the Decades』に、1984年頃のバギーパンツを履いたスケーターグループが登場する。

そして、ベテラン スケーターShane O’Brienが、懐古的なナレーションで、こう嘆く。「一体どんなふうに見えてたんだろうな。70年代の生き残りみたいだったのかも。とにかく、『お前のファッションはヒドいよ、まるでヒッピーみたいだ』なんて、誰も言ってくれなかったんだ」。

30年の月日を経た現在、当時のみすぼらしい格好とは打って変わって、スケーターたちはすっかりクールになった。『Vogue』は、先月のウェブサイトで、パロディ的な「スケート・ウィーク」特集(「モデルのように見せるスケーター スタイル」)を組んだ。そして、ロンドンを拠点とするスケートブランドPalaceがハイブランド並みの文化的名声を得て、ブランド初期のTシャツ用グラフィックの偽物が出回るという面白い現象が起きている。

Palaceブランドの成長は目覚しい。ロンドンのほんの小さなグループから、ロンドン名物の陰鬱な天候の下、服を買おうとするキッズたちが行列を作るほどの社会現象に発展した。ロンドンのICA(現代芸術複合センター)で開催されている「The Palace」展は、製品よりもむしろ背後の人々にフォーカスを当てた、ブランドの変遷の記録だ。展示では、著名な写真家Alasdair McLellanが捉えたPalaceトライブの写真だけでなく、ブランド創設者のひとりであり、初期からのメンバーでもあるLev Tanjuの映像作品が公開されている。

2009年にブランドの名前にする以前、Levと彼の友人たちは自分たちが住んでいる家を「パレス(宮殿)」と呼んでいた。ウォータールーにあったその家は、豪華な宮殿には程遠かったが、ちょっと滑れば有名なサウスバンク スケートパークに行くことができた。同居していた若者数名を、メンバーで兼スケーター兼ライターのStuart HammondはPalace Wayward Boys Choir(PWBC)と名付けた。ひび割れた窓枠、イギリスの至るところでお目にかかる安いミートパイの店Greggsの看板を見下ろすくすんだ茶色のレンガ壁。展示された写真は、パレスを誇りに思う心意気に満ちている。汚れた台所の流しとか、ふきこぼれがこびりついたコンロとか、McLellanは日常が滲み出たイギリスらしさにレンズを向けている。ミュージシャンの Drake(ドレイク)ならとうてい自分の名前を出さないだろう。

チームのもうひとつの家は、サウスバンク・アンダークロフト。クイーン・エリザベス・ホールの地下にあるコンクリート造りのプレイグラウンドだった。スケーターを追い出して再開発を図ろうとする試みにも関わらず、1970年代から、この場所はロンドンのスケーターたちの溜まり場だ。剥き出しのコンクリートは、とにかく手に入る物なら何でも利用するアティチュード、欠けた歯、脳震とう、折れた骨に象徴されるロンドンの荒削りなスケート文化の体質そのもの。ここは、姿を変え続ける世代と地域特有の自治精神(2014年の立ち退き騒動から住民を救ったのと同様の社会的な精神)が存在する領域なのだ。展示では、この地下のスケートパークは、人々のポートレートと同じぐらい大きな存在である。

フーディがスケーターの定番アイテムとなる一方で、サウスバンクでは、奇抜かつ機能的なスタイルも目立つようになった。あまりにも文化的に混ざり合っている土壌ゆえに、長い間、ロンドンのスケーターたちの服装はひとつのスタイルに押し込むことができなかった。その影響は無限に広がる。そして、それこそがPalaceの選択でもある。過去数年にわたってブランドのコンテンツを導いてきたのは、文化的多神教の崇拝なのだ。

今回の展示自体が、無謀にもPalaceが飛び越えようとしている高級文化、低級文化、ネット掲示板の気難しいスケートボード評論家たちが定義する「リアル」の認識のギャップを、明確に示している。越境性は、すでに、デジタル世界と現実世界で顕著だ。完璧なレイアウトと細心のデザインで大理石を敷き詰めたロンドン・ソーホー店舗は、愉快なことに、Palaceのウェブサイトとは全く相入れない。最近発表されたReebok Classicの説明がウェブサイトにある。「オレは南アフリカ人とよく遊ぶんだけど、あいつらはアイスソールって言うとき、アスホールみたいに発音するんだ。聞くたびに大笑いだ」

インスタグラム評論家の中には、Palaceの公式アカウント(@palaceskateboards)から、ロンドンのスラング混じりの陽気なリプライをもらったことがある者がいるかもしれない。一方で、実際の店舗に行った人の中には、そこが気取りを頑なに拒むスケートボード店であるということを忘れ、チェストバンプで挨拶しないことに当惑して立ち去る人もいることだろう。Palaceは、Kanye West(カニエ・ウェスト)とKim Kardashian(キム・カーダシアン)の愛娘North West(ノース・ウエスト)が小さくカスタマイズされたシャツを着ているブランドであると同時に、反骨精神剥き出しのニューヨークのスケーター、Shawn Powers( ショーン・パワーズ)と契約したブランドでもあるのだ。1991年のカルト的アクション映画『Point Break』から抜き出したPatrick Swayze(パトリック・スウェイジ)のイメージを加工してTシャツにプリントすることも、イギリスの画家John Martin(ジョン・マーティン)の「The Great Day of His Wrath(最後の審判三部作:神の大いなる怒りの日)」をテーマにして、3つ揃いのデッキをテートモダンで展示することだってできてしまうブランドなのだ。

脱線や溢れるほど大量の参照や矛盾を通して、Palaceはやりたいことをやる自由を確保してきた。PalaceとReebokのコラボレーションCMには、オスカー ノミネート俳優Jonah Hill(ジョナ・ヒル)が起用された。「The Palace」展は、そのCMが公開され、あっという間に広まったのと同じ週にオープンした。この事実は、Levとその友人たちがスタートした地点と彼らの現在地を示す重要なステートメントだ。

McLellanはPalaceの新参者ではない。彼のドキュメント手法は、PWBCの家族のような一面をよく捉えている。2009年に撮影された友人の写真家James Edsonの腕にはPWBCの文字がタトゥーで刻まれている。ありのままの瞬間であろうと、ルックブックのような洗練された瞬間であろうと、どの写真にも大きな愛情が込められている。中央エリアにはポートレート写真が密集している。この夏にはIdea Booksから本も出版予定であり、今回の展示がより大きなヴィジュアル史へと続く一片に過ぎないことがわかる。Blondey McCoy(ブロンディ・マッコイ)、Nugget(ナゲット)、Lucien Clarke(ルシアン・クラーク)、そして彼らの友達のフォジェニックな写真を見ていると、スケートボード業界の黎明期から現在に至るまで、本当に長い長い道のりがあったことが見てとれるのだった。

「The Palace」展は2016年7月24日まで ICAで公開中。

  • 文: Gary Warnett
  • 画像提供: Institute of Contemporary Arts